作品タイトル不明
大聖堂内を調査せよ!
引率がいない区画の仕事でよかった。
私を気にする者はいないようなので、ひとまず人が少ないところまで移動する。
メルヴ・ウィザードに魔法の気配について話を聞こうとしたら、その瞬間に人がやってきた。
隠れるようにして慌てて入った先は薄暗い部屋で、たくさんの光る目が射るように私達を見てくる。
「きゃあ!」
『ポッ、ポッ、ポッポッ』
『ポポポポポ』
『ポーーー!』
「……」
何かと思えば、 聖鳩(せいきゅう) が籠の中に囚われている部屋だった。
聖鳩は神の遣いとされており、おめでたい場に現れる存在だと言われていた。
これまでも国王陛下の結婚式や、立太子の儀式のさいに聖鳩が現れ、奇跡だなんて話題になっていたのだが……。
まさか大聖堂で飼育されていたなんて。
どうやらこれまで聖鳩が登場したのは奇跡でもなんでもなく、ただの仕込みだったようだ。
『可哀想……』
『自由ないの~』
誰かと契約した状態であれば、このように捕らえる必要なんてないだろう。
聖鳩は精霊なので、契約時には聖力が必要となる。数が多ければ、それだけ契約者の負担が大きい。
聖力を消費したくないので、このように捕らえているに違いない。
私達がやってきてから、籠の中で激しく暴れる聖鳩がいた。
「どうしたのでしょう?」
覗き込むと、翼の動きが不自然だった。
「まあ、風切羽が切られていますわ!」
この子だけではない。他の聖鳩も風切羽が切られていた。
おそらく逃げださないよう、このような処置を施していたのだろう。
契約を結ばず、物理的に飛べないようにするなど酷いとしか言いようがない。
「みなさん、治してさしあげますからね」
聖鳩の奇跡の伝承を利用するために、こんな酷いことをするなんて見逃せるものではない。
回復術を施し、逃がしてあげなくては。
この狭い部屋だったらいっきに治せるだろう。
「――再生せよ、 回復(ヒール) 」
室内が温かな光に包まれる。
『ポウ?』
『ポッ!?』
『ポ……!』
聖鳩達の戸惑うような鳴き声が聞こえたかと思いきや、次に瞬間には喜びに満ちたような鳴き声が聞こえてきた。
『ポウ!? ポウ!?』
『ポーーウ!』
『ポッポウ!!』
籠から出してあげようかと思っていたら、聖鳩達は自力で扉をこじ開けていた。
「まあ、器用な」
この部屋は窓がないので、どうしたものかと思っていたら、聖鳩達は天井を蹴り上げ、空いた穴から逃げていった。
天井からひゅうひゅうと風の流れを感じるので、おそらく外と繋がっているのだろう。
メルヴ・ウィザード曰く、聖鳩の風切羽は切られると、力が発揮できなくなってしまうらしい。
私の回復術で治ったらしく、皆、脱出できたようだ。
『ポウ!』
最後の一羽が、羽根を咥えて差しだしてくる。
それは銀色に輝く美しい羽根。
「もしかして、お礼ですの?」
『ポウ!』
返事をするように鳴いたあと、最後の一羽もいなくなった。
なんだかいいことをしたー! と思っている場合ではなかった。
私は聖鳩の救助にやってきたわけではない。
大聖堂の魔法について調べにやってきたのだ。
「メルヴさん、魔法の気配について、探ってもらえますか?」
『イイヨ』
メルヴ・ウィザードは杖を召喚すると、高く掲げる。
すると、杖の先端に生えていた芽がするする伸びていった。
メルヴ・ウィザードが右に、左にと振り始める。おそらくだが、ダウジングロッドのような仕組みで反応するのかもしれない。
廊下に人の気配がないのを確認してから出る。
メルヴ・ウィザードを先頭にし、あとに続いた。
杖から伸びた芽はしばらく反応がなかったが、急にゆらゆらと揺れ始める。
『見ツケタカモ!』
メルヴ・ウィザードがテテテと走って行くのを追いかける。
行き着いた先は――管理職の聖職者が休憩を行う場所だ。
なぜここから魔法の反応があったのか。
中には誰かいるようだ。扉がきれいに閉まっていなかったのでそっと覗き込むと、見知った人物を発見する。
「いやはや、春だというのに暑くて、今日ほど魔導冷房機を導入してよかったと思う日はないですよ」
「さすが、ドルー司祭! 最先端の魔道具にお詳しい!」
ドルー司祭――彼は大聖堂にやってきたさい、案内をしてくれた人だ。
扉の近くには、ひんやりとした風がそよそよ流れている。
中で話していたとおり、大聖堂内は窓が少なく、熱がこもりやすいので季節を問わず暑いのだ。
まさか聖教会では禁忌とされている、魔法を使った魔導具を使っていたなんて。
「快適ですねえ……と、なんだか暑くなってきましたが」
「ああ、魔力切れみたいですね」
「聖力を付与しているわけではないんですよね?」
「何を言っているのですか、これは魔導具ですよ。動力源は魔力がこもった魔石です」
「ああ、そうでしたか」
「待っていてくださいね、魔石を交換するので」
覗き込んだ先にいるドルー司祭の手には、魔石が握られていた。
ということは、ここにある魔法は魔力を吸収するものではないようだ。
きっと他に魔法が存在するのだろう。
メルヴ・ウィザードと目を合わせ、次なる場所を探しに行こうと示し合わせる。
そっと気配を殺し、この場をあとにしたのだった。