作品タイトル不明
修道服を手に入れたい
まさか修道服を借りることができないなんて。
魔導眼鏡は自分自身の年齢や容姿を変えるだけのアイテムで、服装はどうにもできない。
しょんぼりしながら下町を歩いていると、ふわりんがまさかの提案をしてくれた。
『ふわりん、修道服、作れるよ~』
「本当ですか!?」
『うん! でも、布と糸が必要なの~』
なんでもふわりんは布や糸を食べることによって、服を作る特殊能力があるらしい。
デザインについても、一度目にしたものであれば再現可能だという。
「では、裁縫店に行って、布と糸を購入しましょう!」
エーリク様から、何かあったときのために使うよう、お金を借りていたのだ。
もしも使ったときは給料から天引きしてくれるというので、遠慮なく使わせていただこう。
下町にも裁縫店があったものの、修道服を仕立てるような上等な布地は置いていなかった。そのため中央街まで歩いた先にある、貴族も利用する裁縫店で購入することにした。
「いらっしゃいませ、何をお求めでしょうか?」
話しかけられて驚く。
買い物は基本的に商人が屋敷に通ってきていたので、こういう商店に行くのは初めてだった。
「その、わたくしは――」
修道服を偽造したいので、それに使えるような上等な布地をください、などと言ったら騎士隊に通報され、そのまま連行されてしまうだろう。
「すみません、あまり布地に詳しくてわからないのですが、上等な服を仕立てるさいに使う布を教えていただけますか?」
「ドレスでしたら、こちらの 絹布(シルク) が人気ですよ」
店員が運んできたのは、てらってらの照りがある絹だった。
こんなもので修道服を作ったら悪目立ちしてしまうだろう。
「いえ、こういう布ではなくて――そう、騎士様の制服を仕立てるような布がいいのですが」
「でしたらこちらの 羊毛(ウール) ですね!」
続いて出された布を見て、これだ! と思う。
「こちらにします。一着分と、髪を覆うベールみたいな物を作りたいのですが、どれくらい必要でしょうか?」
「ベールですか? イメージ的には、修道服みたいなものでしょうか?」
「まあ、そう、ですね」
「なるほど」
イメージとして伝える分であれば問題ないだろう。
ドキドキしながら話を進める。
「これくらいあれば、十分足りると思います」
「では、そちらをいただけますか?」
「ありがとうございます」
縫製に必要になるであろう糸も購入し、合計で金貨一枚くらいの金額になる。
シスター・リリーに修道服を借りられたら無償だったのに、と切ない気持ちになりながら支払いを行ったのだった。
お店を出たあと、次なる問題にぶつかる。
どこで修道服を偽造し、どこで着替えるか、である。
個室の喫茶店などあるものの、誰が覗いているかもわからないのだ。
一度お屋敷に戻ったほうが安全かもしれない。
移動による魔力の消費を申し訳なく思いながら、一度オルデンブルク大公家の屋敷へ戻る。
帰宅後、すぐにふわりんに修道服の製作に取りかかってもらった。
ふわりんは買ってきた 羊毛(ウール) 製の布と糸をぱくぱく頬張り、あっという間に飲み込んでしまった。
それからどうやって作るのか見守っていると、魔法陣が浮かんでそこから修道服がじわじわ出てきた。
五分と立たずに、修道服が完成する。
「まあ、すばらしい魔法ですわ」
メルヴ・ウィザードも、『スゴイ、スゴイ!』と絶賛していた。
完成した修道服を手に取ってみると、私が神学校時代に見習いシスターをしていたときに着ていた物よりもずっと上等だった。
着てみると、着心地がよくて動きやすい。
「ふわりん、こちらの修道服は最高の一着のようです」
『よかった~』
姿見で確認するも、どこからどうみても、シスターにしか見えない。
「これで潜入できます」
改めて大聖堂へと出発した。
ミサが終わったあとのようで、信者達は帰路に就いているようだ。
私達は建物をくるりと回って裏口を目指す。そこには奉仕活動を希望する者達を受け入れる、入り口があるのだ。
王都の大聖堂といえば、シスターやブラザーが一度は奉仕活動をしたいと望む場所で、毎日のように各地から押し寄せる。
今日も行列を成していた。
百名くらい並んでいるだろうか。対応するシスターやブラザーはヒヨコの雄雌を選別するように、流れ作業でやってきた者達を中へ案内する。
「あなたは厨房、あなたは中庭! 奥にいるシスターについていきなさい!」
一人でも多く捌きたいからか、身分証など確認せずに入れている。
十分と待たずに私の番がやってきた。
「あなたは、名前と出身を言いなさい」
「ゼラ・ミーヤ、ピーヤ村出身です」
偽名には本名をほんの少し混ぜて、出身は神学校時代に奉仕活動で行ったことのある場所だった。
「あなたはリネン室で整理整頓をするように。場所はこのまままっすぐ行った先にある階段を上って、右に曲がったあとにある白い扉の部屋だ。先にシスターがいるから、その者に詳しい話を聞くように」
「はい、承知しました!」
なんともあっさり大聖堂の中へ入ることができた。