軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

寝室での会話

見間違えるわけがない。

そこにいるのは、ロイス司教とシモンの愛人イゾルテだった。

「なっ、どうして二人が!?」

口にした瞬間、イゾルテの後援者がロイス司教だったのだろうと気付く。

というか、今も付き合いがあるようだ。シモンは二人の関係を知っているのだろうか。いいや、把握していないに違いない。

シモンはプライドが高いので、他に男性がいると知ったら別れさせていただろう。

たとえその人物が、イゾルテの女優活動を支える重要人物であったとしても。

「ここに存在する魔法はいったいなんなのでしょう?」

ガラス越しなので、会話は聞き取れない。

『ふわりんに、任せて~』

ここでふわりんが鞄から元の形状に戻ると、扉の隙間に糸を放った。

すると、糸を伝って中の会話が聞こえてくる。

「ふっ、まさか私のもとに出戻ってくるとは、意外でしたね」

「だって、シモンったら思いのほかお金を持っていないんですもの!」

「メクレンブルク大公家は金がないのですか?」

「いいえ、違うわ。メクレンブルク大公のジジイが管理していて、シモンはぜんぜん使えないの」

メクレンブルク大公をジジイ呼ばわりするなんて、失礼にもほどがある。

「ねえ、来年なんだけれど、すっごく大きな公演があるの。私、絶対に主役がしたいわ」

そんな発言を聞いたロイス司教は、イゾルテのお腹を撫でながら問いかける。

「私達の子よ、あなたの母親は強欲ですねえ」

「――!?」

叫ばなかった私を誰か褒めてほしい。

イゾルテのお腹の子の父親はシモンのはず。どうしてロイス司教が父親だと言っているのか。

まさか複数の男性と関係を持つあまり、誰が本当の父親かわからない、ということなのか。

シモンが知ったらどう思うのか……。

「それはそうと、劇団に寄付しろと言うのです?」

「そうよ! 国王一家もいらっしゃる公演なの。もしもそこで王太子殿下に見初められたら、未来の王妃になれるかもしれないわ!」

会話からして、ロイス司教がイゾルテの後援者であることは確実だろう。

まさか役までお金で買っているとは。

それにしても、イゾルテが王妃の座を狙っていることに関しても驚く。

「ははは、未来の王妃ですか! また大きく出ましたねえ」

「そうよ、私、舞台で王妃役を何度もしているんだから、絶対に務まるわ。そのためには、王都で一番きれいじゃなければいけないの」

「王都で一番きれい、ですか」

ロイス司教が遠い目をしたのを、イゾルテは見逃さなかった。

「ねえ、誰を思い出したの!?」

「いいや、誰も」

「嘘よ! 言いなさい!」

そう言ってイゾルテはロイス司教の頬を抓ると、諦めて打ち明けた。

「わかった、わかりましたから。思い浮かべたのはその、あれです、メクレンブルク大公家の聖嫁なんです」

「やっぱり!! みんな、あの人がきれいだって言うのよね!! あんな人、化粧で誤魔化している雰囲気美人だわ!! みんな騙されているのよ!! すっぴんなんか、どブスなんだから」

イゾルテに素顔を見せたことなどないのだが、酷い言われようである。

「あの人、シモンと結婚する前から気に食わなかったのよ。自分は薄幸です、みたいな顔をして! 貴族に生まれただけでも、十分恵まれているというのに! 子どもの頃の私なんて、痩せてガリガリで、毎日お腹を空かせていたのよ!」

イゾルテは下町出身だという噂を聞いている。

物言いから、食べるのにも苦労するような環境で育ったのかもしれない。

「あの人みたいな、この世の不幸を一気に背負っていますみたいな顔をして生きる人なんて、絶対に許せないの! いつか蹴落としてやろうって思っているわ」

「そのためには、未来の王妃をも狙っていると」

「ええ、そうよ!」

イゾルテはその苛烈なまでの勝ち気で厳しい女優人生を歩んできたのだろう。

「ただ、王太子を狙うのは止めたほうがいいです。第二王子がマシかと」

「どうして?」

「王太子陣営は泥船状態なんです」

王太子殿下というのは、エーリク様の師匠であり、恩師でもあるお方だろう。

泥船状態というのはいったいどういうことなのか。

「第二王子は女好きっぽいから嫌! それに、舞台女優を見下ろしているのよ、失礼しちゃう!」

「ならば、メクレンブルク大公の愛人の座に納まったほうがまだいい思いができるでしょう」

「あの人も、私を毛嫌いしているのに」

「あのお方はああ見えて、情に厚い。懐に入り込んでしまえば、かわいがってくれるかと」

王太子殿下の現状について聞きたいのに、話の方向が別に流れてしまう。

歯がゆい気持ちになったものの、そもそもの目的は魔法であった。

それからというもの、ロイス司教とイゾルテはだらだらと野心めいた会話を重ねていた。

魔法に関する話題になったのは、しばらく経ってからだった。

「それはそうと、例の魔法薬は用意できたの?」

「もちろん」

ロイス司教が細長い小瓶をイゾルテに差しだした。

メルヴ・ウィザードはすぐさま鑑定魔法を使って、それが何か調べてくれたようだ。

『アレハ、痩身薬ミタイ』

「そ、そうでしたのね」

イゾルテは嬉しそうに受け取ると、頬ずりしながらお礼を言っていた。

「ありがとう! 最近、生活環境が荒れて、太ってしまったのよね!」

「今の体型のほうが魅力的ですが」

「おじさん受けは狙っていないの!」

どうやらここから発していた魔法反応は、ロイス司教が持っていた魔法薬のようだった。

それにしても、ごくごく普通に魔法薬を所持しているなんて……。

聖職者は神への祈りで病を治すのが基本、と言われているのに。

その後、ロイス司教とイゾルテはどこかへいなくなる。

話を聞いていただけだが、どっと疲れが溜まった気がした。