軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第971話 礼服と正装

ドラリシオの群生地での諸々を終えた翌日。

この日もライト達は朝から出かける支度をしていた。

ラグナロッツァの屋敷での朝食時に、今日はアイギスでのお勤めで出かけられないマキシが兄達に声をかける。

「フギン兄様、レイヴン兄様、今日は最後までお見送りできずに申し訳ありません」

「いや、マキシが謝ることなどない。お前にはお前のすべきことがあるのだからな」

「そうそう!兄ちゃん達はもう後は八咫烏の里に帰るだけだけど、マキシはこれからも毎日アイギスでの修行があるんだろ? だったらマキシはそっちで頑張らなくちゃな!」

「はい……ありがとうございます!」

朝食を摂り終えて、出勤時間真近になったマキシが席を立ち食卓を離れる。

そして食堂の入口で振り返りながら、マキシは兄達に明るく元気な声で挨拶をした。

「兄様方も、どうぞお元気で!またお会いしましょう!」

「ああ、マキシも壮健で過ごせよ」

「兄ちゃん達もまた、ここに遊びに来るからな!」

「はい!では、いってきます!」

晴れやかな笑顔で兄達との別れの挨拶を交わしたマキシ。

パタパタパタ……という軽やかな足音とともに食堂を離れゆく末弟を、フギンとレイヴンは満足そうな顔で見送っていた。

八咫烏兄弟は食堂の入口を見つめたまま、レイヴンがぽつりと呟く。

「……マキシのやつ、本当に頼もしくなったなぁ」

「ああ……マキシが外の世界、しかも人里で暮らすと言い出した時には本当に気を揉んだものだったが……全くの杞憂であったな」

「ホントですよねー。しかも会う度にどんどん大きくなって、顔もとても生き生きとしていて……マキシが選んだ道は、大正解だったんですねぇ」

「だな。我らもマキシに負けてはいられん。マキシに尊敬される兄であれるよう、これからも研鑽を積んでいかねばな」

「ですね!」

成長著しい末弟の姿に、フギンとレイヴンは弥が上にも触発される。

そうした八咫烏兄弟達の心温まるやり取りを、ライトやレオニス、ラウルもまた微笑みつつ見守っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

出かける支度が整ったライト達一行。

まずはラキを迎えに行くためにカタポレンの家に移動した。

そこからオーガの里に向かって走っていくライト達。

程なくしてオーガの里に到着した。

オーガの里に入り、一直線にラキ宅に向かう。

今回はフギンとレイヴンにも【加護の勾玉】を事前に貸し出して首にかけてあるので、全員すんなりと里に入ることができた。

ライト達はもう素通りで慣れっこだが、これまでナヌス製の結界に二度も惨敗してきたフギンとレイヴンには未だに素通りできるのは感動ものらしい。

「あの強靭な膜が、まるで存在していないかのようだな……」

「でも、この【加護の勾玉】?っていう飾りがないと、あのすんげー強い膜に阻まれて一歩も入れないんですよねぇ……ホンット、不思議だー」

「我が里にも、是非とも取り入れたいものだ」

「ですね!」

人里見学ならぬ鬼人の里見学でも大いに触発される八咫烏兄弟。

勤勉で学習意欲が旺盛なのは、とても良いことである。

そうしてライト達一行がラキ宅に向かって歩いていると、何やら人集りができているのが見える。

それはライト達が向かう目的地のラキ宅前でできていて、そのざわついた様子にライト達は『一体何事が起きたのだろう?』と訝しがる。

人集りの一番外側にいるオーガに、レオニスが声をかけた。

「よう。ここ、ラキんちだよな? 何かあったんか?」

「……お? レオニスじゃねぇか!おーい、皆ー、レオニス達が来たぞー!」

「「「?????」」」

レオニスに声をかけられたオーガが、何を思ったのか突然他のオーガ達にライト達が現れたことを大声で知らせたではないか。

それを受けて、ラキ宅前で人集りを作っていたオーガ達が一斉に後ろを振り向き、ライト達をガン見してくる。

ライト達はただラキを迎えに来ただけなのに、何故にここまで自分達が注目を浴びるのかがさっぱり分からない。

ライト達が訳も分からずきょとんとしている間に、人集りが自然と左右に分かれていきライト達の前に道ができていく。

モーゼの海割りの如き道を、ライトが先頭を歩きつつ前に進んでいく。

すると、ライト達が進んでいった先にはラキ達族長一家がいた。

「うわぁ……ラキさん、すっごくカッコいいー!」

「おお……ラキ、お前もそんな格好をすることがあんのか」

「ほう、これは……一族を代表する者に相応しい、豪華で素晴らしい出で立ちだな」

家の玄関の前に立っていたラキの姿を見て、ライト達は思わず感嘆の声を上げる。

髪を後ろでひとまとめにしてキツめに縛り、前髪も横の髪も後ろに流してちょっとしたオールバック風にしている。いつものラフな格好のラキからは、想像もつかない凛々しさだ。

そして額に生えている大きな一本角には、腕輪のような繊細な模様が美しい装飾品で飾られている。金属製と思われるそれは、眩いばかりの黄金色を放ち、まるで王冠のようにも見える。

そしてライト達が最も驚いたのは、その衣装だ。

上半身は普段と同じ半裸状態なのだが、立派なズボンを穿いて外套まで身にまとっているではないか。

オフホワイト色のズボンはニッカボッカーズ様式で、脛の中間より少し下で裾を絞ってあり、長く垂れる前垂とふんわりと広がる裾のコラボは何とも優美に映る。

その裾下にはロングブーツのような靴を履いていて、足の素肌が見えないように配慮されている。

そして、最も目を引くのがやはり外套だ。

黒い光沢を放つベルベットのような生地のマントで、その丈はラキのくるぶしまでありそうだ。

肩から軽く羽織った外套は、ラキの襟元で装飾品で留められている。

その豪奢な出で立ちは、人族で言うところの近衛騎士団や王侯貴族の礼服に勝るとも劣らない姿だった。

着飾ったラキの姿に、驚きを隠せないライト達。

レオニスは大きく目を見張り、ラウルは感心しきりといった眼差しをラキに向ける。そしてライトはキラッキラに輝く瞳でラキを見つめていた。

そんな眼差しを向けるライト達に、ラキはバツが悪いような照れ臭いような、複雑な顔で状況を説明する。

「ぃゃ……昨日レオニス達が、明日大神樹のもとを訪れる、と伝えに来てくれただろう? その後、それはもうすごい大騒ぎになってな……」

「それで、そんなおめかししたって訳か?」

「ああ、特にリーネとニル爺がものすごく張り切ってな……おかげでこんなことになってしまった」

レオニスとラキがそんなことを話していると、ラキの右横にいたリーネが当然!とばかりに話に入る。

「だって、大神樹様に会いに行くというんですもの。きちんと正装していくのが礼儀というものでしょ?」

「そ、それはそうだが……」

「それに、あなたがこの正装を着る機会なんて、族長就任の儀式以来ですもの!たまにはカッコいいところを見せてもらわなくちゃね!」

「ぐぬぬぬぬ」

リーネの話によると、この出で立ちはオーガ族族長だけが身に着けることのできる正装なのだそうだ。

しかもラキが今までにこれを着たのは、族長就任の儀式の時だけ。それ以来一度も着る機会がないまま、日々を過ごしてきたという。

そんなリーネの言葉に、ラキの左横にいたルゥやレンが大喜びでラキに話しかける。

「今日のパパ、すっごくカッコいい!」

「……そ、そうか?」

「うん!パパはいつもカッコいいけど、今日は特別カッコいい!」

「ルゥやレンにそう言ってもらえるなら、パパもこれを着た甲斐があったというものだ」

先程のライト以上に、キラッキラに目を輝かせて 父(ラキ) を見上げる 娘(ルゥ) と 息子(レン) 。

そしてルゥとレンの横で、三番目の弟ラニも嬉しそうに「ワフン!」と鳴き声を上げている。赤ん坊の次男ロイも、リーネの腕の中でラキに向かって「ぁー、あー♪」と手を伸ばしている。

子供達からの熱い視線を一身に浴びたラキ。満更でもないようで、先程までのバツの悪そうな顔から和やかな表情に変わっている。

そこに、ラキの斜め前にいたニルがラキに声をかけた。

「ラキよ。この衣装は我らオーガ一族の長が代々受け継ぎしもの。当然儂も着たし、儂の前も、その前も、前の前の族長も大事な場面で着用してきた」

「ああ……それは我も重々承知している」

「そして今日、お前はこのオーガの里に生きる者として初めて大神樹にお目通りする栄誉を得た。まさにこの装束を着るに相応しい千載一遇の時。……しっかりと役目を果たしてこい」

「……ああ。オーガ族の名にかけて、大神樹の御前でもその名に恥じぬ振る舞いをすると誓おう」

ニルの励ましに、ラキも小さく微笑みながら応える。

それは一見柔和な笑顔だが、新緑色の瞳の奥には強い決意に満ちていた。

そしてニルは、今度はライト達の方に身体を向き直して話しかけた。

「角なしの鬼よ、此度もよろしく頼む」

「おう、任せとけ。そもそも泊まりがけの遠征とかじゃねぇし、日帰りだから日が落ちるまでには戻ってくるわ」

「では我らは、日が落ちるまでに宴の支度をしておこう」

「何だ、帰ってきたら晩飯食わせてくれるのか?」

「ああ。里の女子衆も、ラウル先生に習い培った腕を振るう機会と張り切っておるしな」

前族長にして現長老のニルに、改めてよろしくと頼まれたレオニス。

もちろんそれに否やなどあろうはずもない。

今回の八咫烏の里行きは、フギンとレイヴンを送り届けるためのもの。そしてラキと大神樹の初対面は、そのついで―――と言ってしまえば身も蓋もないのだが。

しかし、移動にかかる時間も然程かかる訳ではないし、泊まりがけで行く程のことでもないので日帰りと最初から決まっていた。

そして、ラウル達の後ろでは、ニルの言葉を受けてオーガのご婦人方がニィーーーッ!と満面の笑みを浮かべている。

皆右腕に力瘤を作り、左手で力瘤を覆いながら頼もしい笑みを浮かべるご婦人方。その筋肉、力瘤の大きさはとてもご婦人のものとは思えないが、鬼人族ではこれがデフォである。

「よし、じゃあそろそろ出かけるとするか」

「リーネ、ニル爺、皆。今日一日留守にするが、よろしくな」

「あなた、いってらっしゃい」

「万事儂に任せとけ」

「パパ、ルゥもちゃんとお留守番する!」

「パパ!僕も里を守る!」

「ワォン!」

レオニスの掛け声に、ラキが前に進み出てライト達一行に混ざる。

「族長、いってらっしゃーい!」

「大神樹様に、よろしくお伝えくださいねぇー!」

「土産話、楽しみにしてまーす!」

里の者達の様々な声援を受けながら、ラキはライト達とともにオーガの里を後にした。