軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第972話 二つの目的

今日もウィカに協力してもらうべく、オーガの里内にある溜池に歩いて向かうライト達。

いや、本当は目覚めの湖も近くにあるから目覚めの湖に直接出向いてもいいのだが。フギン達を送り届けた後、直接このオーガの里に帰還したいがためにオーガの里の水場を使うことにしたのだ。

道すがら、今後の予定などを話し合う。

「レオニスよ。大神樹のもとを訪ねるついでに、もう一ヶ所寄り道したい場所があるのだが」

「ン? どこだ?」

「トロールの里だ。八咫烏族にトロール族との交流を勧めたのは我だし、快く受け入れてくれたシンラにも直接礼を言いたいと思ってな」

「あー、そっか……」

ラキの言い分にレオニスも理解を示す。

ただ、しばし考え込んだ後に再びその口を開いた。

「……ま、行くなら八咫烏の里でシアちゃん達と会ってからの方がいいだろうな」

「ン? それは何故だ?」

「だってよぅ、トロールの里でもし殴り合いの挨拶を交わしたら、その後絶対にボロボロになっちまうだろ?」

「むぅ……それは確かにそうだな……」

レオニスの論に、今度はラキが深く頷いている。

ラキ曰く、トロール族はオーガ族以上に力に拘る種族だという。

その里に、レオニスやラキ達が足を踏み入れたら―――挨拶代わりの戦闘が勃発する可能性はかなり高いことは、誰にも容易に想像がついた。

そして、大神樹に会う前に挨拶代わりの戦闘如きでズタボロになる訳にはいかない。喧嘩の後のズタボロな格好で大神樹との謁見など、失礼極まりない。

そんなみっともないことは、オーガの一族を代表する族長として決してできない。

故にレオニスは、トロール族に会うなら八咫烏の里訪問の後を勧めたのだ。

「では、まず最初に八咫烏の里にお邪魔して、その後にトロールの里に向かうとしよう」

「そうした方がいいな」

「せっかくの良い機会なので、トロールの里でレオニスやライト、ラウル先生も紹介しておきたいと思っているのだが、どうだろう?」

「俺達としては、八咫烏と同じくトロール族と知り合えるなら願ってもない。ただ……」

「ただ?」

ラキの新たなる橋渡しに、もちろんレオニスとしても快く応じるつもりである。

しかし、それには唯一つだけ懸念があった。

「お前ん時と同じように、一度は全力で戦わなきゃならんのだろうなぁ」

「……まぁな。ただし、今日は我も同行する故、シンラにもそこまで無茶はさせないと誓おう」

「頼むぜ?」

拳で語り合わねばならぬことを察するレオニスに、ラキもまたそこは否定しない。トロール族の種族特性を考えれば、それは避けては通れない問題だからだ。

しかし、ラキは然程心配はしていないようだ。それは、己の横を歩く小さな親友がトロール族にコテンパンに負けることなど絶対にない、と信じているが故の一種の信頼か。

そんなことを話しているうちに、溜池に到着したライト達。

溜池の水面が見えてきて、まずライトが真っ先に駆け出した。

そして溜池の水辺から、水面に向けてライトが大きな声で話しかけた。

「おーい、ウィカー、ぼくだよー、ライトだよー!」

『ヤッホー!ライト君、おはよー☆』

「ウィカ、今日もいっしょにお出かけしようね!」

『うん☆』

ライトの呼びかけに、音もなく溜池の中央付近に現れたウィカ。

トトト……と軽やかに水面を走り、ライトの胸に飛び込んでいく。

その様子を、ラキは驚きの顔で見ている。

「……あれが、水の精霊か?」

「ああ。ウィカチャという名の水の精霊でな。ライトの友達なんだ」

「見た目はうちのラニと似ているが……ラニよりもかなり小さいのだな」

「あー、まぁな。ラニは黒い狼で、ウィカもぱっと見では黒猫にしか見えんもんな」

ラキ家の四番目の子、黒妖狼のラニとウィカが似ているというラキ。

どちらも黒いもふもふなので、確かに似ていると言えば似ているだろう。

もっともその大きさは全然違っていて、ラニは育ち盛りでどんどん大きくなっていくのに対し、ウィカは小さな黒猫のままでそれ以上大きくなることはない。

そしてレオニスやラキ達も溜池の脇に進み、まずラキがウィカに向かって声をかけた。

ラキはウィカとの目線を少しでも近づけるべく、溜池の端で片膝をつき姿勢を低くしている。

「水の精霊、ウィカチャ殿。初めてお目にかかる。我はラキ、オーガ族族長を務める者にて、以後お見知りおきいただきたい。此度ウィカチャ殿にお会いできたこと、心より嬉しく思う」

『初めまして!ボクの名前はウィカ、気軽に『ウィカ』って呼んでね!ボクの方も、君のことを『ラキ君』と呼ばせてもらうから☆』

「ウィカ殿の方からそう言っていただけるとありがたい。実は我も堅苦しいのは苦手でな」

『うぃうぃ、堅苦しい挨拶はここまで!ライト君やレオニス君、ラウル君の友達なら、ボクにとっても友達だからね♪』

初めて会うウィカに、ラキが恭しく挨拶する。

そんな礼儀正しいラキに、ウィカはいつもの人懐っこい糸目笑顔で応える。

ラキが『大恩人であるライトやレオニスの信頼する者は、自分にとっても信頼に値する者』と無条件に受け入れるように、ウィカもまた『ライトやレオニスの友達ならば、自分にとっても友達!』とすぐに受け入れるのだ。

こうして二者の初めての対面は恙無く済み、それを見届けたレオニスやフギン達がウィカに向かって声をかける。

「そしたらウィカ、今日もよろしくな」

『うん!』

「ウィカ殿、本日もお世話になります」

「ウィカ殿、よろしくお願いいたします!」

『フギン君もレイヴン君も、ホンット毎回丁寧な子達だねー。ボクの方こそよろしくネ☆』

それまで文鳥サイズでライトとレオニスの肩に留まっていたフギンとレイヴン。

二羽とも肩から下りて桟橋に降り立ち、もとのサイズに戻ってから深々とウィカに挨拶をしている。

毎回乗り物代わりに運んでもらっているのだから、フギン達にしてみれば礼を尽くすのは当然のことなのだが。基本誰に対しても軽いウィカからすれば、相当生真面目に映るらしい。

するとここで、レオニスがウィカに問うた。

「ていうか、ウィカ、今日はこのバカデカいラキもいるが……モクヨーク池まで、全員一気に移動できそうか?」

『任せてー!ボクだって、日々レベルアップしてるんだからねッ☆……ぁ、でもでもー、万が一にも移動途中ではぐれたりしないように、フギン君とレイヴン君は小さくなってくれた方がいいかもー。レオニス君かラウル君の服のポケットに入っていてくれたら、その心配もないしね☆』

「「分かりました!」」

レオニスの問いかけに、ウィカは胸を張りつつ応える。

レオニスが心配したのは、この大人数を一度に運べるかどうか?であった。

それは、神樹襲撃事件の際に八咫烏の里からの援軍含む総勢八羽を二度に分けて運んだ、というのを聞いていたからだ。

実際八咫烏達だけで八羽繋がった状態では、移動途中で繋いだ翼が離れたりする危険性がそれなりに高そうだ。

しかし、その時と違って今は八咫烏達が誰かの服のポケットに収まるという裏技?が使える。

要は、全員しっかりと手を繋いでいられさえすれば、人数は然程問題にならない、ということである。

ウィカに挨拶をするためにもとのサイズに戻っていたフギンとレイヴンは、ウィカの要請を受けて再び文鳥サイズに変化した。

そして早速レオニスの深紅のロングジャケットのポケットに入り込んでいく。レオニスの右手側にフギンが、左手側にレイヴンが入る。

フギンは尾側から後ろ歩きのようにモソモソと入っていき、レイヴンは頭から突っ込んでポケットの中で身体の向きを変えて頭をピョコッ!と出す。

こんなところでも兄弟の性格の違いが現れていて、何とも面白い。

フギンとレイヴンがレオニスのポケットに収まった後、ライト、レオニス、ラウル、ラキの順で手を繋ぐ。

そして最後の仕上げに、ライトとウィカが手を繋いだ。

『じゃ、皆、準備はいい? いッくよー☆』

「はーい!」

ウィカの掛け声の後、ライト達は目覚めの湖の湖面に吸い込まれるように入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

溶けるように水の中に入っていったライト達。

数瞬後には、八咫烏の里の中にあるモクヨーク池に移動していた。

「これが、水の精霊が行うという水中移動……実に不思議で美しい光景であった」

ウィカの導きにより、モクヨーク池の畔に移動したラキが心底感嘆している。

その間に、レオニスのポケットに入っていたフギンとレイヴンが外に飛び出し、もとのサイズに戻っていた。

「ウィカ殿、いつもありがとうございます」

「ウィカ殿の水中移動は、何度見ても感激するッス!」

『どういたしまして☆』

八咫烏兄弟に礼を言われるウィカ、ニッコニコの糸目笑顔で応える。

その後八咫烏兄弟は、低空飛行で飛び始めた。

「さあ、そしたら皆でシア様のもとに行きましょう!」

「俺達の後についてきてくださいッス!」

「フギン殿、レイヴン殿、よろしくお願いいたす」

「「はい!」」

今日初めて八咫烏の里を訪れたラキのために、ユグドラシアのもとまで案内役を買って出る八咫烏兄弟。

そう、今日フギン達が最も礼を尽くすべき一番の客人は、他でもないラキである。

ラキは八咫烏一族に、トロール族という異種族交流との架け橋という重要な役割を果たした。

八咫烏の里に、ライト達とはまた違う外の世界の新しい風をもたらしたラキ。その恩人に、大神樹ユグドラシアが直にその礼と感謝の意を伝えるためにここに呼んだのだ。

今日の主役であるラキを案内するべく、一行の先頭をゆっくりと飛ぶフギンとレイヴン。

その後ろを、ラキを筆頭にライト達がついていった。