軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第963話 旅の終着点

ライト達を乗せたアクアが、群生地の奥へ奥へと進んでいく。

途中眼下に大中小様々な大きさのドラリシオがいて、皆一様に空を見上げているのが見える。

その顔はどことなく不安げで、この群生地の中で起きている不穏な空気を肌で感じ取っているのか。

そうして進んでいくと、平地が徐々になだらかな丘になっていく。

ここはシュマルリ山脈の麓であり、丘の先にはシュマルリの峰々に続く急勾配が見える。

その急勾配になる手前、なだらかで広大な丘には一際木々が密集している箇所がある。ドラリシオ達が暮らすエリアの木々の疎らさと比べてかなり密で、群生地の外に広がる森と大差ないくらいである。

そしてそこには、森と大差ない緑の木々に囲まれた一体の巨大なドラリシオが横になって寝そべっていた。

それこそが全てのドラリシオの母、ドラリシオ・マザーであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

シュマルリ山脈の裾野に、仰向けで寝そべるように凭れかかっているドラリシオ・マザー。

その体躯は100メートルはあろうかという巨大さで、マザーの近くに侍っているドラリシオ・レディーですら手のひらサイズに見える。

濃緑色の胴体や蔓、頭の天辺に赤紫色の巨大な花が咲いているなど、基本的な特徴はこれまでのドラリシオ達と同じ。

顔の作りも黄金色の瞳に小さな鼻と口があり、ドラリシオにしては珍しくふっくらとした唇はマザーだけが持つ特徴だ。

天辺の花びらと顔の境目から生えている細い毛のような蔓は、横に一つにまとめて軽く結わえてある。肩から垂れる結わえた蔓は、まるで緩やかなウェーブヘアのように優美で艶めかしい。

胴体と球根部の境目から生えるドレスのような花弁はレディー以上に長く、球根を全て覆ってなお余る程だ。

体躯の大きさだけでなく、全てにおいて圧倒的な存在感を放つドラリシオ・マザー。その威容に、初めてドラリシオ・マザーを見るライト達はただただ息を呑みながら見上げている。

特にライトなど、呆気にとられたような顔の裏で大興奮していた。

『おおお、これがドラリシオ・マザー……BCOで屈指を誇る強力なレイドボスじゃないか!』

『しかも神殿以外の場所に生息するレイドボスって、このサイサクス世界では初めて見るケースだ!これって何気にすごいことじゃね!?』

『つーか、デカッ!海底神殿のデッちゃんやエリトナ山のガンヅェラもかなりデカかったけど、レイドボスって皆こんなにデカくなるもんなの!? ……そりゃまぁ、レイドボスなんだから? デカくて強いのは当たり前なんだけど』

『でも……BCOでは普通に日課として、騎士団任務で毎日討伐してたけど……こんなんリアルじゃ絶対無理やろがえぃ!』

ライトは内心で超絶大興奮しながら、ドラリシオ・マザーを見上げ続ける。

スマホの画面越しでは決して分からなかった、実物のドラリシオ・マザーの迫力はライトの予想をはるかに上回っていた。

その威風堂々たる姿はまさに圧巻過ぎて、ラウルやマキシ達同様に絶句あるのみ、である。

ノーヴェ砂漠でドラリシオ・ブルーム達を初めて見た時から、ライトは『名前や見た目からして、あのドラリシオ・マザーの子孫なんだろうな』ということは凡そ察しがついていた。

ただし、ライトが知るドラリシオとはマザーのみで、ブルームだのチルドレンだのレディーなどという細分化された亜種?は知らなかった。

これはきっと、将来的にフィールド用モンスターとして描き分けられたものか、もしくは運営の判断でボツ案となった類いなのだろう。

そしてライトが唯一知るドラリシオ・マザー、実はBCOのレイドボスのうちの一体である。

これまでライトが見てきたレイドボスは、全て属性の女王達の神殿の守護神であった。

だが、ここに来て初めて神殿守護神ではないレイドボスに出会えた。

これは、裏を返せば『神殿以外の場所にも、レイドボスが存在している』ということである。

それはまだ見ぬレイドボスとの更なる邂逅を予感させるものであり、ライトが興奮した原因の一つでもある。

また、ドラリシオ・マザーのレベルの高さもライトが興奮した要因の一つだ。

そのレベルは何と13。レベル数だけで見たら、これまでライトが出会ってきたどのレイドボスよりも高い。

ディープシーサーペントはレベル2、ガンヅェラはレベル3、アクアでもレベル4。数字だけで言えばかなりかけ離れている。

だが、このサイサクス世界はBCOと完全一致している訳ではない。

ところどころでライトの知らないシステムや、食い違いが多々見受けられることからもそれが分かる。

故に、アクアとドラリシオ・マザーを比較した時に、どちらが強いかはレベルの数字だけでは判断できない。

BCOのレイドボスのレベルだって、その数字は実装順につけられて増えていったに過ぎないのだから。

ただし、同じゲーム内でのコンテンツとして見た時に、先発のものよりも後発の方が数値インフレを起こすのは世の常。

そしてレベルの数字が増えれば増える程、レイドボスのステータス値もどんどん上昇していくのも、ソシャゲやRPGゲーム世界のお約束的な王道法則なのだが。

BCOの騎士団討伐任務も例に漏れず、レベル1から3は実装最初期で、4から9が中期、10から15が後期に相当する。

レベル13のドラリシオ・マザーは、後期に実装されたレイドボス。つまりライトの回想通り、ドラリシオ・マザーはBCOレイドボスの中では最強の部類に入るのである。

もし今ライトがドラリシオ・マザーのステータス値を鑑定したら、間違いなく空恐ろしい数字が羅列されるであろう。

しかし、今のライトにはドラリシオ・マザーを鑑定する気はさらさらなかった。

まず、初対面でいきなり黙って鑑定して、もしマザー側がそれを察知して不愉快に思ったら非常にマズいことになる。こんな大物相手に、非礼を働いて機嫌を損ねる訳にはいかない。

それに、そもそもライト自身ドラリシオ・マザーの実物を目の当たりにしたことで、興奮し過ぎて鑑定云々を考える余裕など微塵もなかったりする。

ただただ圧倒されっ放しのラウルやマキシ達の横で、ライトだけがその目をキラッキラに輝かせている。

久しぶりに触れたBCO要素に、ライトの心はワクワクして止まらなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

初めて会うドラリシオ・マザーの存在感に、ライト達がワクワクしたり圧倒されている頃。

そんな中でも、アクアとレオニスだけは動じる様子はない。

両者がしばし無言で対峙していると、マザーの方からアクアに向けて声をかけた。

『若き水神よ……よくぞ我が里に参られた』

『貴女が全てのドラリシオ達の母、マザー?』

『如何にも。我こそはドラリシオ・マザー。世界中にある全てのドラリシオ達の母 也(なり) 』

『はじめまして、こんにちは。僕の名はアクア。目覚めの湖に住む水神で、湖底神殿の守護神を務めている者だよ』

マザーの挨拶に応じ、アクアも自己紹介として自らの名と役割を明かす。

そしてマザーがアクアに向かって、改めて謝罪の意を表した。

『アクア様……此度の我が娘達の亡状、何とお詫びすればよいものやら……』

『あー、別にお詫びなんていいよ。マザーが悪いことをした訳じゃないしね。それよりもさ、僕よりも先にマザーに会ってほしい子達がいるんだよね』

『それは……』

『あ、レオニス君、ラウル君、ブルーム達をマザーのもとに連れていってあげてくれる?』

「「了解」」

マザーの謝罪なんて後回し!とばかりに、アクアがその背に乗せているブルーム達の運搬?をレオニスとラウルに頼み込む。

二人はすぐに動き出し、アクアの背にいる四体のブルームを二回に分けてそれぞれ運んでいく。

レオニス達のお姫様抱っこにより、マザーのお腹の上に置かれている花の手の上に乗せられたブルーム達。初めて会う母を前に、ただただその顔を見つめている。

呆然としたようなその顔は、ようやく母に会えたことに未だに実感が湧かないせいか。

だが、大きさの違いはあれど、自分達と同じ顔をした一際巨大なドラリシオが目の前にいる。

それが全てのドラリシオの祖であり、一目会うことを渇望して止まなかった母であることを———マザーの顔をじっと見つめ続けることで、ブルーム達はだんだんと理解していった。

それと同時に、ここに辿り着くまでの地獄のような日々が彼女達の脳裏に蘇る。

ノーヴェ砂漠での数々の窮地を、必死の思いで耐え続けたあの日々。母を求めて志半ばで散っていった、数多の姉妹達の顔が思い浮かぶ。

それらの死地を乗り越えて、今ようやく念願叶い母に会うことができたのだ。

じわじわと湧いてくる様々な思いに、ブルーム達の声が小さく震える。

「……か、母様……」

「……オ母、チャン……」

「ぅぅぅ……オ母チャン!」

「オ母チャーーーン!!」

「うわぁぁぁぁン!」

姉が呟いた一言をきっかけに、三体の妹達も次々に母を呼び泣き出した。

そして、一度涙が出始めたらもう止まらない。堰を切ったように涙がとめどなく溢れ出してくる。

望まぬ生を望まぬ場所で受けた、不遇のドラリシオ・ブルーム達。

不幸だらけだった彼女達の長い過酷な旅が、ようやく終わりを迎えた瞬間だった。