軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第906話 イェソドまでの行き方

翌日の日曜日。

ライトはルディに宣言していた通り、この日も転職神殿を訪れた。

今日はレオニスに「今日一日、カタポレンの森を散策してくるね!」と言ってあるので、昼に一旦帰ることなく夕方までずっと出かけていられる。

今日も週末ならではの冒険三昧!予定である。

「ミーアさん、ミーナ、ルディ、おはよう!」

「フィィィィ♪」

『皆、おッはよーぅ☆』

瞬間移動用魔法陣で、カタポレンの家から転職神殿に移動したライト。皆と元気に朝の挨拶を交わす。

今日もライトの肩にフォルとウィカが乗っている。

三者のお出ましに、ミーア達も快く歓迎の意を示す。

『ライトさん、フォルさん、ウィカさん、おはようございます』

『主様、フォルお姉様、ウィカお兄様、おはようございます!今日も素敵な毛並みですね!』

『おはようございます!今日もパパ様やフォル姉様、ウィカ兄様にお会いできて、すっごく嬉しいです!』

ライト達は昨日もここに来たばかりだというのに、今日も笑顔でライトを迎え入れてくれるミーア達。とてもありがたいことである。

一頻り朝の挨拶を交わしたところで、ミーナが早速本題に切り込んでくる。

『主様、今日は何をなさるのですか?』

「今日はね、ミーナとルディといっしょに、イェソドという街の外れにある山に行こうと思ってるんだ!」

『パパ様、そこには何があるのですか?』

「シルバースライムっていう、銀色のスライムがいるんだ。そいつを捕まえたいの」

『シルバースライム、ですかぁ……』

ライトの話に、ミーナもルディも小首を傾げつつ聞き入る。

ミーナもルディも、スライムと言えば魔物という認識しかない。魔物をわざわざ捕まえて、一体どうするのだろう?という疑問を抱いているようだ。

するとここで、ミーアがライトに問うた。

『捕まえる、ということは、いつものように魔物を狩る、のではないのですよね?』

「おお、ミーアさん、鋭いですねぇ。その通り、シルバースライムは狩るのではなく、捕獲したいんです!」

『どうして捕獲なのですか?』

「それはですね、スライムが出す素材、べたべたやぬるぬるなんかを採取したいんです!」

ミーアの鋭い質問に、ライトが笑顔で答えていく。

そう、今日のライトの目的は『シルバースライムを捕獲すること』であった。

捕獲というからには、仕留めて倒す魔物狩りとは異なる。いわゆる『生け捕り』にしなければならない。

シルバースライムを生け捕りにしたい理由も、ちゃんとミーア達に説明していく。

「ぼくは今、BCOのクエストイベントのエクストラクエストに挑戦中でして。そのお題の一つに『銀色のべたべた』があって、そのためにシルバースライムを生け捕りにしてべたべたを採取しなくちゃならないんです」

『銀色のべたべた、ですか……私は転職神殿以外のことは疎いのですが、それでもスライムやゴブリンなどからそうした強化素材が得られる、というのは知っています』

「ええ、その通りです。しかもこのサイサクス世界には、スライム飼育場という施設がありまして。そこでは様々なスライムを飼育して、ぬるぬるやねばねば、べたべたを採取してるんですよー」

『まぁ、今の人里にはそのようなものもあるんですか!?』

ライトが語る理由、その中に『スライム飼育場』なる未知の存在を示す言葉に、ミーアが驚いている。

「はい。スライム飼育場では様々なスライムが飼われていて、それぞれにぬるぬるやねばねば、べたべたを採取して人々の生活に役立てているんです。ぼく達がよく飲むぬるぬるドリンク、あれもスライムのぬるぬるをもとにして作られたものなんですよ」

『あの飲み物ですか!?』

「ええ、他にもねばねばやべたべたは美容液に使われたり、かなり人気らしいです」

『そ、そうなんですか……』

ミーアも何度かライトからご馳走になった、ぬるぬるドリンク。

あれによもやスライムのぬるぬるが使われているとは知らなんだミーア、ガビーン!顔で驚愕している。

いつも冷静沈着で穏やかなミーアのガビーン!顔とは、何とも珍しいことである。

というか、ライトももうすっかりぬるぬるドリンクに馴染んでしまったため、他所で振る舞う時にも特に詳しい解説はしていなかった。

そのためミーア達にも改めて話してはいなかったのだが。思えばライトも初めてぬるぬるドリンクの存在を知った時には、今のミーアと同じような反応だった。

今でこそ当たり前になってしまった感のあるぬるぬるドリンクだが、本来なら今のミーアやかつてのライトの反応こそが正しいのだ。

久々のカルチャーショックの連続に、ミーアは気の抜けたような声で呟く。

『魔物を倒さずに素材を得るなんて……時代は変わりましたねぇ』

「ですよねー。ぼくもこのサイサクス世界では、咆哮樹やデッドリーソーンローズちゃんなんかは倒さずに一部だけ切り取らせてもらってますし。最近では、天空島の閃光草も地上で地道に栽培してるんです」

『強化素材の栽培までなさってるんですか!?』

「はい!時代はやはりエコロジーですよね!」

ライトの話にますます驚きを隠せないミーアに、ライトはとびっきりの笑顔で胸を張る。

先日天空島から持ち帰ってきた閃光草。ライトは今カタポレンの森の家で、プランターで株分けしながら栽培しているのだ。

あまり増やし過ぎても手が回らなくなるので、最大で五株まで、と決めてある。五株の中で最も日付けが古い株から収穫していき、そして新たに株分けして増やすのだ。

これで閃光草の無限増殖の完成。今後ライトが閃光草関連の素材に困る心配は全くなくなった。

しかし、ライトよ。手ずから栽培している閃光草はともかく、果たして咆哮樹やデッドリーソーンローズまでエコロジーに含めてもよいものなのだろうか?

あれらは『切り取らせてもらっている』というより、ほぼ『強制徴収』だと思うのだが。

とはいえ、いくらでもリポップする通常魔物相手に完全にトドメを刺さず、最後は見逃してやる―――これもまたライトの慈悲の心の表れなのかもしれない。……と、いうことにしておこう。

『シルバースライムを捕まえて飼育する、というライトさんの目的や方針は分かりましたが……どこで飼育なさるのですか?』

「一応お願いする伝手というか、当てはあります。ツェリザークにあるルティエンス商会というところなんですが」

『ああ、ヴァレリアさんも懇意になさっておられる交換所のことですね』

「はい。まだ交渉まではしてないんですけどね、今日すぐに捕まえられるかどうかも分かんないし」

シルバースライムを捕まえた後、どうするのか。ミーアの懸念も尤もである。

実際ライトがカタポレンの家やラグナロッツァの屋敷でシルバースライムを飼う、というのは不可能だ。レオニスやラウルの許可が得られるとは思えないからである。

そうなると、取れる選択肢はかなり限られてくる。

他者、つまりは埒内の者に知られずに事を進めるには、BCOを知る者達の協力を得なければならない。

それに当てはまるのは、ここ転職神殿もしくはルティエンス商会の二択であった。

しかし、転職神殿では既にミーナとルディの面倒を見てもらっているし、これ以上厄介をかけるのも申し訳ない。

なので、今度はルティエンス商会に取引として話を持ちかけてみよう!とライトは考えているのだ。

そしてなおもミーアからの質問は続く。

『というか、そのシルバースライムは飼えるものなのですか? 危険ではないのですか?』

「スライム飼育場の職員さんから聞いた話では、シルバースライムはおとなしくてのんびりとした性格だそうです。もちろん個体差もありますし、全部が全部必ずしもそうとは限らないと思いますけど」

『そうなのですか……魔物と一口に言っても、様々あるんですねぇ……』

初めて知る事柄の連続に、ミーアは感心したように頷く。

もともとミーアは見た目通りの生真面目な性格だが、勤勉さや好奇心も人一倍強いようだ。

そしてそんなミーアの影響を受けてか、ミーナもまた積極的にライトに質問をしてきた。

『主様、そのシルバースライム?というのは、どこにいるのですか?』

「イェソドという街の外れにある銀鉱山、そこがシルバースライムの生息地らしいんだよね」

『そのイェソドという街に行けばいいのですか?』

「いや、イェソドには直接行かないよ」

ミーナの問いに、ライトがアイテムリュックから地図を取り出して地面に広げて皆に見せる。

ミーナだけでなく、ミーアとルディも興味津々で地図を覗き込む。

ライトは地図の中の巌流滝の部分を指差しつつ、行動方針を説明していった。

「ウィカの水中移動でここ、巌流滝に移動。そこからルディの背中に乗せてもらって飛んでいくつもり。巌流滝から南に飛んでいけば、イェソドの街があるんだ」

『そこで僕の出番という訳ですね!』

「うん!」

ライトから自分の出番を告げられたルディ。

それまで真剣に地図を覗き込んでいた顔を上げて、ライトを見つめながら大喜びしている。

そう、ライトが昨日ルディに予告した出番とは『巌流滝からイェソド郊外までライト達を乗せて飛んでいくこと』だった。

シルバースライムを捕獲するには、まずは目的の地イェソド、その郊外にある銀鉱山まで行かなければならない。

だがこれは、クエストイベントというBCO関連の行動であるため、誰にも知られずにライト一人だけで行動したい。

そのためには、いつものように冒険者ギルドの転移門に頼ることはできない。万が一後でライトがイェソドを訪ねたことが他者にバレた時に、上手く言い繕える理由が全く思いつかないからだ。

となると、転移門以外の手段を取らねばならない。

そこでウィカとルディの出番である。

地図上で見るイェソドは、巌流滝からそこまで遠く離れていない。

ルディは使い魔の卵から孵化してまだ五ヶ月ちょっとだが、レベルもそこそこ上がり体格もかなり良くなった。

先日もライトをその背に乗せて近所の山を飛んだくらいだし、巌流滝からイェソド郊外まで問題なく行き来できるだろう。

『そしたら、早速その巌流滝?に行きましょう!』

「うん!そしたら今からちょっと水場の支度するから、皆待っててね!」

『『『『支度??』』』』

早速出かけよう!と催促するルディに、ライトが待ったをかける。

そしてアイテムリュックを開き、何かを取り出した。

それは巨大な桶だった。

『パパ様……これは一体何ですか?』

「ウィカの水中移動の拠点作りだよー。ほら、ウィカの水中移動には何らかの水場が必要なんだけどさ。この周辺には川も池もないでしょ?」

『ああ、それでここに簡易的な水場を一時的に作る、ということですか?』

「そそそ、そゆこと。お風呂の浴槽でも通れるし、ぶっちゃけ身体さえ通れば何でもいいんだよね」

ルディやミーナの問いかけに、ライトは水魔法で水を出しながら答える。

その桶は円形で、直径約2メートル、高さ1メートルくらいある。

現代日本でいうところの家庭用ビニールプールのような感じだ。

子供のライトはもちろんのこと、ルディの頭だって余裕に入る大きさである。

この桶に、ライトが水魔法で並々と水を満たす。これでいつでもウィカの水中移動が可能になる!という訳だ。

ちなみにこの桶は、かつてレオニスがライトの水浴びのために用意したものだ。

今年の夏はあちこちお出かけ三昧で、のんびりと水浴びするどころではなかったが。ライトがラグーン学園に通い始めるまでは、毎年夏になると毎日カタポレンの家の外で水浴びをして遊んでいたものだった。

今はカタポレンの家の倉庫で保管されていたものを、ライトが一時的に借りて持ち出してきたのだ。

去年の夏は、まだラグーン学園に通ってなかったから毎日水浴びして遊んでたけど。今年は全く水浴びできなかったな……残念……

よし、来年はこの桶でアルといっしょに水浴びしよう!目覚めの湖での水遊びも楽しいけど、夏にこういう桶で遊ぶのもまた楽しいもんね!よし、そうしよう!

ライトはそんなことを考えながら、水魔法で桶の中に水を満たしていく。

ライトが水を出している間に、ルディが収納魔法からテーブルと椅子を出している。そしてミーナがそれらをせっせと木陰に移していた。

そして桶の八割くらい水を入れたところで、ライトは水魔法を止めた。

「よし、これくらいあればいいかな。ウィカ、どう? 大丈夫?」

『うん、十分だよー☆』

「じゃ、早速行こうか!フォルはミーアさんとお留守番しててね?」

「クルルゥ!」

「ミーナはどうする? ぼく達といっしょにイェソドに行く? それともお留守番する? ぼくはどっちでもいいから、ミーナの好きな方を選んでいいよ」

ウィカの水中移動のための準備が整ったところで、ライトがフォルに転職神殿でのお留守番を頼む。

そしてミーナにも同行するかどうかを尋ねる。

今回の作戦にルディは絶対に欠かせないが、ミーナは無理してついて来なくても大丈夫、とライトは思っていた。

それは、昨日の幻の鉱山でたくさん活躍してくれたばかりのミーナに対する、ライトなりの心遣いでもあった。

『うーん……今日はミーアお姉様とフォルお姉様といっしょにお留守番してますね』

「そっか、うん、それでもいいよ。ミーナには昨日大活躍してもらったしね!」

『はい。今日はここでお姉様方と女子トークしますぅー♪』

ミーナの選択を支持したライトに、ミーナもまた花咲くような笑顔で『女子トークする!』と答えたミーナ。

偶然ではあるが、ライト達お出かけ組は全員男子で、ミーア達お留守番組は全員女子と分かれることになった。

水入りの桶の近くに全員が集まる。

まずウィカが水面に降り立ち、トトト……と真ん中に向かって歩く。

続いてライトも水面に立ち、ウィカの横に移動する。そして空中で待機していたルディがライトの左手と手を繋いだ。

「じゃ、いってきまーす!」

『いってらっしゃーい!ルディ、主様とウィカお兄様をよろしくね!』

『はい!僕も頑張ります!』

『ライトさんもルディも、そしてウィカさんも、お気をつけていってらっしゃいませ』

『うぃうぃ、任せてー☆』

お出かけの挨拶をした後、ライトが右手でウィカと手を繋ぐ。

ミーアとミーナ、フォルに見送られながら、ライト達は水の中に消えていった。