軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第907話 シルバースライムの大捜索と思わぬ盲点

ウィカの水中移動により、転職神殿から巌流滝に瞬間移動したライト達。

ライトは滝壺の水面に立ったまま、ウィカとルディに話しかける。

「あ、皆ちょっと待っててくれる? ここに来たついでに、巌流滝の水を採取していきたいんだー」

『うん、いいよー☆』

『パパ様、僕もお手伝いしますー!』

「ありがとう、よろしくね!」

巌流滝に来たついでとばかりに、いそいそと水を採取し始めるライト。

アイテムリュックから次々と木製バケツを取り出しては、ルディとともに汲んでは収納していく。

ちなみにこの巌流滝の水は、『巌流滝の清水』という名で闘水の原材料の一つとなっている。

そしてその闘水は、グランドポーションの原材料ともなっている。

さらにこのグランドポーションは、マキシマスポーションの原材料である。

ライトはクエストイベントのために、これからマキシマスポーションを量産していかなければならない。

つまり、この巌流滝の水も今後アホほど必要になってくるのだ。

ひとまずバケツ十杯分を汲んだライト。

滝壺から外に出て、周辺のゴツゴツとした岩場から少し離れた平地に立った。

そしてマイページを開き、スキル欄の『マッピング』を選択する。

移動先の空欄の一つをタップし、『巌流滝の畔/地点A』という名称でマッピングの地点登録を完了した。

これでいつでもライトは巌流滝の水を汲みに再訪できるようになったのだ。

「これでよし、と。ウィカ、ルディ、お待たせー!」

『ライト君も水汲みお疲れさまー☆』

『パパ様、これからどうしますか?』

巌流滝の畔でおとなしく待っていたウィカとルディと合流したライト。

ルディが早速ワクテカ顔で今後の行動をライトに問う。

キラッキラに輝くルディの顔は、これから自分が大活躍できることへの期待に満ちていた。

ライトはマントの内ポケットに入れておいた方位磁石を取り出し、方向を確認しながら話し始める。

「ンーとねぇ、ここから真南に進むとイェソドの街が見えてくるんだよね。だけど、それだと八咫烏の里のシアちゃんにもぼく達の姿が見えちゃうかもしれないから、一度右側に大きく迂回してからカタポレンの森を抜けよう」

「カタポレンの森を出たらしばらく南に進んで、イェソドの街が見えてきたら向かって左側の山に入ろう。そこに、廃鉱になった銀鉱山があるはず」

だいたいの計画を伝えた後、ルディはライトとウィカがその背に乗りやすいように腹這いで地に伏せた。

『分かりました!そしたらパパ様、ウィカ兄様、僕の背中に乗ってください!』

「うん、よろしくね!」

『おッ邪魔しまぁーす☆』

早速ルディの背に乗り込んだライトとウィカ。

二人を乗せた黄金龍は、ふわりと宙に浮いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「うわぁー、すっごい見晴らしがいいねー!」

久しぶりに高い空を飛んで、ライトは思わず歓声を上げる。

ライトがルディの背に乗って空を飛ぶのは、一ヶ月半ぶりの二回目。しかも遠出は初めてのことなので、ライトのワクテカ感は否が応でも高まるというものだ。

ちなみに今回も地上からライト達が見えないように、かなり高い高度までルディに飛んでもらっている。

時折層雲と呼ばれる霧雲や綿雲などが見えるが、わざわざ雲の中に突っ込むこともないので上に飛んだり横にずれて回避している。

そうしてカタポレンの森を抜け、しばらく南下していくと人里らしきものが見えてきた。

人里に真っ先に気づいたルディが、ライトに向けて報告する。

『あ、パパ様、何か見えてきました!』

「あ、ホントだ。……うん、あれが多分イェソドの街だね」

ルディの報告に、ライトが首を横に出して前方確認をする。

その街も他の街と同じく高い壁に囲まれていて、パッと見た感じではそこそこ大きな街に見える。

イェソドはかつて銀鉱山で栄えていて、『白銀都市』という二つ名で呼ばれた程の街。街の規模的に考えても、今目の前に迫る街はイェソドに間違いないだろう。

「ルディ、そしたらここから左側にある山に入って下りてくれる? そこからシルバースライム探しを始めよう」

『分かりました!』

ライトの指示通り、ルディはそこから左側に移動して小高い山の中程に下りた。

その山は標高500メートルくらいの、本当に小さな山だ。

だがその後ろには、次第に標高の高い山が峰のように連なっていく。いわゆるシュマルリ山脈である。

「ウィカ、ルディ、ここからはシルバースライム以外の魔物にも遭うかもしれないから、気をつけていこうね」

『うん!ライト君のことはボクが守るよ!』

『僕もパパ様とウィカ兄様をお守りします!』

ライトの呼びかけに、力強い返事を返してくれるウィカとルディ。

頼もしい使い魔達の言葉に、ライトは思わず笑顔になる。

しかし、ここから先は本当に気を引き締めていかなければならない。

ライトはすぐに前を向き、真剣な表情で山中を歩き始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして、山の中を歩くこと小一時間。

ライト達は未だにシルバースライムを捕まえられずにいた。

その理由は主に三つある。

まず、シルバースライム以外の魔物と遭遇することが圧倒的に多かった。

咆哮樹と同種の樹木型魔物ヒステリーウッドに、同じく樹木型魔物で藤の花によく似たウィッタリア、ビッグワームと同種の虫型魔物の銀喰い線虫や小型のシルバーゴーレム等々。

これらはリポップする通常魔物、いわゆる雑魚魔物なのでライトやルディの敵ではない。

ライトの【手裏剣】やルディの魔法で一撃で倒し、その残骸をライトがいそいそとアイテムリュックに収納していく。

このシルバーゴーレム、【金属錬成】したら銀に変化しないかな?

そしたらシルバースライムの餌にできて万々歳なんだけどなー。よし、家に帰ったらなる早で実験してみよう!

ライトはそんなことを考えながら、素材集めに勤しむ。

しかし、今日の本命は素材集めではない。シルバースライムの捕獲である。

未だにシルバースライムが捕まえられない、二つ目の理由。それは『シルバースライムとの遭遇率が圧倒的に低い』であった。

ライト達がこの小高い山に篭ってから小一時間。

その間にシルバースライムに遭遇したのは、僅か三回。

遭遇回数の少なさもさることながら、そのシルバースライム達の逃げ足が尋常じゃない速さなのだ。

これこそが三つ目の理由。『逃げ足が早すぎて捕まえられない!』であった。

木々が生い茂る山中で、ふとした拍子にキラリと反射した光がライトの目に留まることがある。その方向を見ると、シルバースライムがいる。

だが、ライトがシルバースライムの存在に気づいた次の瞬間には、シルバースライムは猛ダッシュで逃げていくのだ。

その移動速度は、とてもじゃないがスライムとは思えない。逃げられたライトが「待ってーーー!」と叫ぶ暇すら与えない程の素早さで消えてしまう。

小さな岩があるところを見つけ、一旦立ち止まり岩に座るライト。

ウィカとルディにおやつ代わりの肉まんをそれぞれ一個づつ与え、ライトはエクスポーションをちびちびと飲む。

「ぬーーーん……シルバースライムって、こんなに素早く動けるのか……」

『なかなか捕まえられませんねぇ……パパ様、どうしましょうか?』

「うーーーん…………ぁ」

休憩しつつ、思わぬ苦戦に唸りながら悩むライト。

そんなライトに、心配そうな顔で主の悩みに寄り添うルディ。

ルディは本当に優しい子だな……と、ライトがルディの顔を見た瞬間。

ライトはとあることを思い出していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それは、ライトがスライム飼育場の存在を知り、初めて訪れた時のこと。

スライムの何たるかを理解するべく、ライトはスライム飼育場見学を申し出た。

そこで敏腕職員のロルフと出会ったのだが、彼はスライム見学の道中で、ライトに向かって次のような解説をしていた。

『スライム達は本能的に竜を怖がるんだ。それ故に、竜の血を引く者は優先的に職員採用されるんだ』

そしてその後、黄金週間の催し物の一つ『レインボースライムショー』でも、ロルフは警備員も兼ねて売店で仕事をしていた。

その時の理由も『ステージにいるスライム達にはあまり近づけないんだ、俺達飼育場職員が近づくと萎縮してしまう』というものだった。

そして今、ライトの目の前にいるルディ。彼は黄金龍。

ルディは東洋型の龍で、西洋型のドラゴンとは諸々違うところがあるが、龍という括りで言えばドラゴンの一種である。

そう、どのシルバースライムも猛烈な勢いで逃げ出していたのは、黄金龍であるルディが近くにいたからだった。

そのことに思い至ったライト。思わぬ盲点に、ただただ愕然とする。

だが、この確信にも近い推測を口にすることはできなかった。

『スライムってのはね、本能的に竜を怖がる生き物なんだって!』

『今日はルディがいるから、シルバースライムもものすごい速さで逃げちゃうんだよ!』

そんなことを言ったら、間違いなくルディは深く傷ついてしまうだろう。それはぶっちゃけた話、『 お前(ルディ) のせいで、シルバースライムを捕まえられないんだ!』と言っているのと同じだからだ。

例えそれが真実であろうとも、ルディを傷つけるのはライトの本意ではない。ルディを無駄に傷つくようなことは絶対に言いたくないし、何が何でも避けたいことだった。

『……パパ様、どうしたのですか?』

「…………ぁ、ぃゃ、何でもないよ、どうやってシルバースライムを捕まえようか、ちょっと考えてただけだから!」

『そうなのですか? 何か良い方法は思いつきましたか?』

「うーーーん……もうちょっと考えるから、少し待っててね」

『はい!』

ライトの呆然とした顔に、ますます心配そうにライトの顔を覗き込むルディ。

本当のことを言うのは咄嗟に回避したが、さてそうなると今の捜索方法とは全く違う方針を取らねばならない。

ライトはしばし思案した後、徐に口を開いた。

「……よし、そしたら廃坑の入口を探そう」

『廃坑、ですか?』

「うん。廃坑っていうのは、この山で言うと昔の人が銀を採るために掘った穴で、今は使われていない道のこと。銀を掘るための道だから、シルバースライムも主にそこを根城としている可能性が高いと思うんだ」

『そうだねー。シルバースライムにとってのご飯は、銀だもんね!』

「そゆこと」

ライトが出した新しい案に、ウィカも納得しつつ同意している。

確かにライトの考えは最も妥当なものだ。

シルバースライムにとって、銀は唯一の食糧。その銀がある場所に群がるであろうことは自明の理である。

「よし、じゃあここからはシルバースライム探しよりも、廃坑の穴を見つけることを優先しよう。ウィカもルディも、山に穴が開いてるのを見つけたらぼくに教えてね!」

『うぃうぃ、了解☆』

『分かりました!』

こうしてライト達は方針を変えて、山の散策を再開していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライト達が探索を再開してから、再び小一時間が過ぎようとしていた頃。

ルディがライトに向かって声をかけた。

『あッ!パパ様、あっちに何か変な場所があります!』

「え、どこどこ?」

『あ、ホントだー、あれは怪しい……』

ルディの声に、少し離れた場所にいたライトとウィカもすぐに集まる。

そしてルディが手で指した方向を見ると、確かにそこには木の板で塞いだ道っぽいものがあった。

高さが5メートルくらいありそうな洞穴に、乱雑な立て付け方をされた木の板が無造作に数枚打ち付けられている。

それは如何にも立入禁止にされた坑道であった。

「あー、確かにあれは廃坑の入口っぽいね……」

『パパ様、どうします? これから中に入りますか?』

「……いや、今日のところはここで一旦帰ろう」

やっと廃坑の入口を見つけたのに、ライトは帰ると言い出したではないか。

ライトからの予想外の答えに、ルディが思わず問い返した。

『え、このまま帰っちゃっていいんですか?』

「うん。まず、あの木の板を無断で剥がすのは良くないことだよ。後で地元の人に見つかったら、ものすごく怒られるかもしれないし」

『ああ……それはそうかもしれませんね……』

「それに、もし板を取り除いて入るとしても、多分ルディの身体では入れないだろうからね」

『そうですね……』

ライトが述べる正当な理由に、ルディはだんだん意気消沈していく。

ここでも自分は主の足を引っ張るのか……そう考えているようだ。

そんなルディに対し、ライトは努めて明るい声で語りかける。

「でも!ただこのまま帰る訳じゃないよ!今からここにマッピングの地点登録をするから、いつでもここに来れるようになるし!」

『マッピング、ですか?……それは良い案ですね!』

「でしょ? それに、今日はもうこの山で二時間近く過ごしたし。皆もシルバースライムを探し続けて疲れちゃったでしょ?」

『そ、そんなことはありません!僕はまだまだ動けます!』

ライトの妙案、マッピングの地点登録を聞いてルディが褒めるも、疲れただろうという言葉には即時否定する。

それはルディの『僕はまだまだ頑張れる!』というアピールで、もっともっと主の役に立ちたい!という意気込みの表れでもあった。

「うん、ルディがとっても頑張ってくれるのは嬉しいんだけど……ぼくの方がちょっと疲れてきちゃったんだ。ごめんね、ぼくがまだ体力のない子供だから……」

『そ、そんな!そんなことないです!パパ様がお疲れなら仕方ないです、すぐに転職神殿に帰りましょう!』

「ルディ、本当にごめんね……今すぐここでマッピングの地点登録をするから、ちょっとだけ待っててね」

『はい!いくらでも待ちます!』

申し訳なさそうに謝るライトに、ルディが慌てて帰宅に賛同する。

もちろんライトが疲れたというのは嘘だ。今のライトは、小高い山を二時間散策した程度でへばるような体力では絶対にない。

だが、まだまだ働きたい!というルディの気持ちを傷つけることなくこの場から立ち去るには、この言い訳が最も適していたのだ。

小芝居付きの嘘ではあるが、ライトのルディを思うが故の優しい嘘だった。

ルディの承諾を得たライトは、早速廃坑入口付近に近寄っていく。

あまり近づき過ぎてもいけないが、入口から遠過ぎても次回再訪時に見つけるのに苦労してしまう。

廃坑入口がよく見えて、近過ぎない程度の場所にライトは立ち、マイページを開いた。

スキル欄の【マッピング】をタップし、サクサクと地点登録を進めていく。

ここは『イェソド東/銀坑道入口』という名称にして、地点登録を完了させたライト。

マッピングの登録地点はこれで六ヶ所目。他の五ヶ所は、まず『カタポレンの家/地点A』に『転職神殿/地点A』、ディソレトホーク狩り用の『北レンドルー/地点A』、咆哮樹狩り用の『転職神殿東/地点A』、そして今日登録したばかりの『巌流滝の畔/地点A』だ。

地点登録も六ヶ所目ともなれば、その操作ももはやお手の物である。

マッピングの地点登録が完了したライトは、少し離れた場所で待機していたウィカとルディに向かって手招きをした。

「地点登録できたから、ここから転職神殿に帰ろう!」

『分かりました!』

『はーい☆』

ライトの呼びかけに、ウィカを頭に乗せたルディがいそいそと駆け寄ってくる。

如何に使い魔の後輩といえど、黄金龍の頭に乗っかるとかウィカもいい度胸である。

マッピングで集団瞬間移動するために、駆け寄ってきたルディの身体に触るライト。ひんやりとした黄金色の鱗、その触感が何とも心地良い。

こうしてライト達は、マッピングで転職神殿に戻っていった。