軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第904話 現実世界への帰還

その後ライトは順調に採掘を続けていった。

十五分のバフスキルの効果が切れたら、その都度即マイページのスキル欄を開いて二種のバフをかけ直す。

ちなみにそのタイミングは、何をせずとも体感ですぐに分かる。ツルハシの重さが変わるのだ。

バフのかけ直しついでに、エクスポーションを飲んだりしてHP回復もしておく。

そうして四回目のバフをかけてから、しばらく経過した頃。周囲の景色の色が薄れだした。

これは、この幻の鉱山という亜空間の滞在時間が切れる合図。もうすぐ現実であるサイサクス世界へ帰還することを意味していた。

「あッ!ミーナ、もうすぐ転職神殿に戻るよ!」

『わ、分かりました!』

「今から一分後に転職神殿に戻るから、今あるのを拾い終えたらぼくの肩に掴まって!」

『はいッ!』

ライトは急いでツルハシをマイページに仕舞い、ミーナもライトが最後に砕いて切り出した鉱物を急いで掻き集めてアイテムリュックに放り込む。

二人がかりで一粒残らず鉱物を拾い、アイテムリュックを背負ったライト。ミーナはここに来た時と同じように、ライトの両肩に手を置いて待機する。

帰還の支度を終えて、スタンバイするライトとミーナ。その間にも周囲の景色、幻の鉱山の岩肌がぼんやりと薄れていく。

そうして十数秒後には、再び転職神殿の景色に変わっていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『あッ!ライトさんにミーナ!おかえりなさい!』

『パパ様、ミーナ姉様、おかえりなさい!』

ライト達の帰還に気づいたミーアとルディが、それまで座っていた椅子から立ち上がり、二人のもとに駆け寄りながら出迎えた。

「ミーアさん、ただいま!ルディもお使いから帰ってきてたんだね、おかえり!」

『ミーアお姉様、ルディ、ただいま戻りました!』

一目散に駆け寄ってきたルディにミーナが抱きつき、ライトはミーアとともにやってきたフォルやウィカにも声をかける。

「フォル、ウィカ、良い子でお留守番してた?」

「クルルゥ♪」

『もっちろん!ボク達はいつだって良い子だよ☆』

『ええ、お二方ともそれはもうとてもお利口さんでしたよ』

ミーアの肩からライトの肩に飛び乗り、二匹はそれぞれ頬ずりしながらライトを出迎える。

両方の頬をもふもふからもてなされるライト、くすぐったそうにしながらも嬉しそうだ。

『両手に花』ならぬ『両手にもふもふ』、まさに楽園の具現化である。

するとそこに、意外な人物がライト達の前に現れた。

「やぁ、ライト君、おかえりー」

「あっ、ヴァレリアさん!いらしてたんですね、こんにちは!」

『ヴァレリアさん!いらっしゃい!今日は何か大事な御用でもおありなのですか?』

「ぃゃー、別に今日はここに来るつもりはなかったんだけどさ? ライト君があの『幻のツルハシ・ニュースペシャルバージョン』をとうとう使ったようだから、居ても立ってもいられなくなっちゃって☆」

ヴァレリアの顔を見て、すぐに挨拶をするライトとミーナ。

どうやらライト達が幻の鉱山に出かけている間に、ヴァレリアもここに訪ねてきていたようだ。

ミーナが何の気なしに訪ねてきた用向きを聞くも、やはりライト達の幻の鉱山行きを察知して気になったから、ということらしい。

しかし、ライトはいつも不思議に思う。

この魔女は、一体どこでそういった情報を得ているのだろう?

ライトが幻の鉱山に出かけることは、当然のことながら誰にも口外していない。ミーアやミーナにだって、さっき転職神殿に到着してからその計画を明かしたばかりだというのに。

やはりヴァレリアは『鮮緑と紅緋の渾沌魔女』という二つ名に恥じぬ、謎に満ちた存在である。

そんなライトの複雑な心境を他所に、ヴァレリアが上機嫌そうな声で皆に声をかける。

「ささ、ライト君にミーナも無事帰ってきたことだし、皆でお茶をしながら幻の鉱山の土産話でも聞かせてもらおうじゃないか!」

『それいいですねー!主様、私、甘いものが食べたいですー!』

「そうだね、ミーナにはたくさんお手伝いしてもらったもんね!」

ヴァレリアの案に、まずミーナが真っ先に反応して大賛成する。

もちろんライトにだって否やはない。一生懸命鉱物集めをしてくれたミーナにご褒美をあげたいし、ライト自身にもちょうどいい休憩になるからだ。

ライト達はひとまず、先程までミーアやヴァレリアがいたテーブルに移動した。

「このテーブルと椅子は、ヴァレリアさんが出したんですか?」

「うん、そうだよー。私達もライト君達が帰ってくるまで、ここでのんびりと過ごしてたんだー」

ミーア達が囲んでいたテーブルと椅子を見ながら、ライトがヴァレリアに尋ねる。やはりこのテーブルセットはヴァレリアが持ち込んだもののようだ。

その豪奢な作りにライトは感嘆しつつ、ため息をつく。

「ホントはこの神殿内にも、こうした椅子やテーブルを置ける場所があるといいのに、とは思うんですけどねぇ……」

「うん。私もそう思ってさー、ライト君達の帰りを待つ間にルディに収納魔法を教えてたんだ!」

「え"ッ!? 収納魔法!?」

ライトがため息をついたのは、この転職神殿は野晒しで屋根などの日差しや雨を遮るものが全くないため、テーブルの一つも常時置けないことだった。

それまでずっとひとりぼっちだったミーアに、ライトが使い魔の卵を孵化させて与えた 妹(ミーナ) や 弟(ルディ) という家族も増えたことだし、彼女達が気軽にお茶や食事を楽しめる家具の一つも置いておいてやりたい。ライトはそう思っていたのだ。

だが、そんなライトの悩みの斜め上をいく答えがヴァレリアから発せられた。

彼女は何と、ルディに『収納魔法』なるものを教えたというではないか。

呼称こそ違えど、それはきっと空間魔法陣と同じ働きをもつものに違いない。

ライトは目の色を変えてルディに問うた。

「ルディ、今ヴァレリアさんが言ってたことは本当なの!?」

『はい!ヴァレリアさんが僕に、いろんな物を入れておくことができる魔法を教えてくださいました!』

「いいなー!ぼくも収納魔法を覚えたい!」

既に椅子に座っていたルディが、ニッコリとした笑顔でライトの問いに答える。ヴァレリアから直々に魔法を伝授されるとは、何たる幸運か。

ライトはルディの幸運を羨む。ライトはまだ小さい子供で成長途中だから、という理由で空間魔法陣を教えてもらっていないのだ。

そんなライトに、ヴァレリアが意外そうな声で話しかけた。

「えー、ライト君にはそのアイテムリュックがあるでしょ? アイテムリュック以外でも、回復剤や装備品なんかはマイページにも無制限に入れられるし」

「だって、マイページこそ人前では絶対に使えませんもん……それに、このアイテムリュックだってまだ一般的に普及してないから、これも人前では使えないし……」

「それ言ったら、収納魔法だって人前じゃ使えないと思うよ? これも結構特殊な魔法だし」

「ぐぬぬ……」

ヴァレリアのド正論に、ライトは反論のしようがない。

マイページは、ただ見るだけなら人前でも使えるが、さすがに物を取り出すのはマズい。空中からいきなり物質が涌いて出てきたら、それこそ大騒ぎになるだろう。

そしてライトがいつも使っているアイテムリュックも、まだまだ世間一般的なアイテムとして普及していない。

つまり、どちらも人前で使うことはできないのだが、それはヴァレリアの収納魔法も変わりなかった。

「……ま、ライト君が保護者君から空間魔法陣?を教わる日が来たら、私からもそのお祝いとして収納魔法を授けようじゃないか」

「はい……」

「ライト君もそこまで落胆することはないさ。その頃には、君が持つアイテムリュックだって堂々と使える世の中になってるかもしれないしね!」

「……そうですね!」

あっけらかんとした口調で慰めるヴァレリアの言葉に、俯いてしょげていたライトもだんだんと顔を上げる。

そう、今はまだ人前で堂々と使えないアイテムリュックも、いずれはアイテムバッグという別の形で大勢の人達が持つようになる日が来る。

その鍵を担う魔術師ギルドには、是非とも頑張ってほしいものだ。

気を取り直したライトが、テーブルの上にクッキーやドーナツ、ワッフルなどのスイーツをお茶菓子として出していく。

先程まで幻の鉱山で助手として頑張ってくれたミーナの前には、彼女のリクエスト通りたくさんのデザートを置いた。

『はわわわわ……主様、こんなにたくさんいただいていいのですか……?』

「もちろんだよ!ミーナはすっごく頑張ってくれたもん!」

カスタードプリンにみたらし団子、チーズケーキにティラミス等々、豪華なデザートを目の前に並べられたミーナ。

今まで見たことのない、それはもうキラッキラな笑顔になっている。

そしてその口元にヨダレが垂れかけている気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

「さ、じゃあ食べよっか!」

「はい!いッただッきまーーーす!」

「『『『『いッただッきまーーーす!』』』』」

「キュウゥゥゥ♪」

ヴァレリアが呼びかけ、ライトが音頭を取り、他の四人と二匹が続いて唱和する。

こうして和やかなお茶会が始まっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ゆったりとした空間で美味しいものを食べながら、幻の鉱山の話やルディのお使いの話などで盛り上がるライト達。

ミーナなど、ヴァレリアに『ルディに教えたという収納魔法を、是非とも私にも教えてください!』と頼み込んでいた。

それに対するヴァレリアの答えは「いいよー☆」であった。

何とも軽いノリの魔女である。

そうして十分に糖分補給し、休憩が取れたライト。

ひとまず皿やマグカップをアイテムリュックに仕舞っている最中に、ヴァレリアがライトに話しかけてきた。

「ところでライト君。幻の鉱山でどれくらいの成果を得られたんだい?」

「あー、ぼくはひたすらツルハシで壁を削ってて、それを拾うのはミーナだったから……何をどれくらい拾えたのかまでは、ぼく自身まだよく分かってないんですよね」

「そしたらさ、今ここで見せてくれないかい?」

「ここで、ですか?」

「うん。幻の鉱山で得た鉱物類は、どの道アイテム欄に移動させるでしょ? だったらここで移し替えておいた方がいいと思うよ?」

「それもそうですね……」

ヴァレリアの要望と提案を聞き、ふむ……と口元に手を当てながら考えるライト。

確かにヴァレリアの言う通りで、今回の幻の鉱山での収穫は全てアイテムリュックからアイテム欄に移し替えるさせる必要がある。そうすることで分類が自動的に行われて、なおかつ個数も瞬時に把握できるからだ。

それに、明らかに大量にあるであろう今回の収穫物を、カタポレンの家に帰ってから集計するのも相当めんどくさいことになりそうだ。普通の部屋の自室でちまちまと移し替えていたら、時間も手間もかなりかかるのは必至である。

ならば今、この広々とした敷地のある転職神殿にいるうちに、サクッと済ませてしまうのが最善というものである。

ここはヴァレリアさんの提案に乗るべきだ、とライトは判断した。

「分かりました。そしたら今からここに全部出してみますね」

「さっすがライト君!そうこなくっちゃ!」

ヴァレリアの提案を承諾したライトに、ヴァレリアが両手をパン!と合わせて喜ぶ。

ライトはお茶会の食器類を全て仕舞い終えてから、幻の鉱山の収穫物を移し替えるべく準備を整えていった。