軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第899話 不屈の精神

レオニスとラウルが入場門に向かっていった後、しばらくしてから次の競技の案内アナウンスが始まった。

『バトンリレーで大盛り上がりでしたね!次の競技も引き続き父兄参加の『デカパン競争』です!』

『この競技は、二人一組で行っていただきます。巨大パンツの片足に一人づつ入り、肩を組んでゴールを目指す競争です!』

『走る距離はトラック一周。二人の息を合わせて進まないと、決してゴールはできません。チームワークが鍵となる勝負です!』

場内アナウンスが流れている間に、既に二人一組になった保護者達にデカパンが配られている。

デカパンの色は赤や白、青に緑に黄色に紫等々全部異なっていて、実にビビッドでカラフルだ。

そして二人一組での競技なので、夫婦や親子で出場しているのがほとんどのようだ。

レオニスとラウルも、配られたデカパンに身体を入れていく。

ちなみにレオニス達に配られたのは、赤いパンツ。奇しくもレオニスのトレードマークである深紅のジャケットを思わせる色だ。

渡されたデカパンを眺めながら、レオニスが「これ、スパイキーが普段履くズボンサイズだよなー」と呟いているのはご愛嬌というもの。

ズボンの足に身体を通した後、レオニスがウエストの紐をギッチギチに縛り上げる。

「グエッ……ご、ご主人様よ、ちとキツ過ぎねぇか?」

「いンや、これくらいしとかねぇと走ってる途中でパンツがずり落ちちまう」

「ぁー……パンツがずり落ちて脱げちまったらマズいわな」

「そゆこと」

紐の縛りのキツさに咽たラウルが文句をつけるも、レオニスが語る理由に納得し引っ込む。

レオニスの言う通り、走行途中に紐が緩んだらデカパンが地面に落っこちてしまう。そんなことになれば、大幅なロスタイムは避けられない。

そう、勝負に勝つためにはそんな凡ミスなど決して許されない。万難を排して勝負に挑まなければならないのだ。

競技参加者達がデカパンに足を通している間に、なおも場内アナウンスの解説が続く。

『走者は八組、その中の一組は先程大活躍なさったレオニスさんもおられます!組まれるお相手は、レオニスさんのお宅にお務めしている執事さんだそうです!』

『先程のリレー同様、今回もレオニスさんにはハンデをつけさせていただきます。他の七組がスタート後、先頭がトラック半周したところでレオニスさん達にスタートしていただきます!』

「「「え"ーーーッ!?」」」

レオニス達に課せられたハンデの内容に、校庭の観衆達はまたも驚愕する。

如何にレオニスが先程驚異的な走りを見せたとはいえ、他者とペアを組む競技ではレオニス一人の力では勝てないことは明白だからだ。

さすがにそれでは勝てんだろうな……しかし、それでも結構良い勝負になるんじゃないか?等々、様々な予想があちこちで飛び交う。

そしてそれは、ライトが座る二年A組の席でも行われていた。

「ラ、ライト君……これはさすがに厳しいんじゃない?」

「ンー、どうだろ? レオ兄ちゃんのことだから、ラウルを脇に抱えて走ることも余裕でできるからなぁ……?」

「「「「…………」」」」

心配そうに尋ねるイヴリンの問いかけに、ライトは上目遣いで悩ましげな声で答える。

レオニス組に与えられたハンデは、さすがにライトでもかなり厳しいものだろうとは思う。

だが、相手はレオニスだ。どんなに不可能と思えることでも、この人ならば可能にしてしまうのではないか―――そう思わせてくれるのが、レオニスという男なのだ。

実際ライトが口にした必殺法『レオニスがラウルを小脇に抱えて一人で走る』という方法も、レオニスならば余裕で実行可能だろう。

今のところそれをしてはいけません!というルール説明はないし、可か不可で言えば可だ。ただし、それをしたら最後、観衆からものすごいブーイングが起きそうではあるが。

そんな奇天烈な必勝法を聞いたイヴリン達は、ただただその場で固まるしかない。

成人男性を小脇に抱えて走るなど、一般人には到底思いつきもしないことだからだ。全く以って奇想天外もいいところである。

未だ騒然とした校庭に、場内アナウンスが再び響き渡る。

『では、今から第二種目『デカパン競争』を開始いたします!』

レオニス組以外の七組がスタート地点に立ち、スタンバイ完了している。レオニス組だけはその横に立ち、内周側で控えていた。

二十代後半や三十代と思しき若い夫婦達、父親と上の兄弟であろう若い青年、四十路くらいの中年夫婦、様々な組み合わせの人達がデカパンで繋がっている。

皆真剣な表情で、やる気満々である。

『位置について。用意…………ドン!』

スタートの合図に、七組のデカパンが一斉に駆け出す。

といっても、パンツの裾が全体的に細めかつ膝下まであって、大股で走ることはできない仕様になっている。できても小走り、組によってはピョンピョンとうさぎのように飛び跳ねている。

いい年をした大人がカラフルなデカパンを履いて、時にはよろけながら懸命に走る姿に子供達は大喜びで応援している。

イヴリンやジョゼ、リリィの顔見知りもいるのか、三人して「八百屋のおじちゃん、おばちゃん、頑張ってーーー!」と大きな声援を送っている。

他の走者達がスタートした後、レオニス組もスタート位置に立ってスタンバイしている。

二人はレースの模様を注視しつつ、何かゴニョゴニョと話したり同時に軽くジャンプしたりしながら息を合わせる練習をしている。

他の走者(ライバル) 達がいなくなったところで、競争で効率良く走るための作戦会議中といったところか。

そして、他の七組の先頭がトラック半周を通過したところで、向こう側に控えていた先生の一人が赤い旗を高々と上げた。

これは先頭走者がトラック半周を通過したことを知らせる合図、つまりはレオニス組のスタート許可が下りたことを意味していた。

その赤い旗を見た瞬間、レオニス組がスタートを切った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「……(うおおおおぉぉぉぉッ!!)……」」

ガッシリと肩を組み、声にならない声で猛ダッシュするレオニス組。

二人は小走りではなく、ピョンピョンと飛び跳ねて進む方針を取ったようだ。

だがしかし、彼らの跳躍は間違ってもピョンピョンなどという可愛らしいものではない。ここでもズドドドド……という擬音が聞こえてきそうなくらいの、怒涛の勢いで走るレオニス組。

校庭の砂がレオニス達の後方に蹴散らされていく。

その勇姿を見たライトは、思わず自分の席から立ち上がりながら「レオ兄ちゃん、ラウル、頑張ってーーー!」と大声援を送っている。

もちろんライトだけでなく、イヴリンやリリィ、ジョゼやハリエットも「レオニスさん、いッけぇーーー!」「ラウルさん!頑張ってくださいましー!」等々応援し、巨大ハンデを背負ったレオニス組への熱い声援があちこちから飛んでいる

跳躍自体はそこまで高く飛んでいないので、レオニスが飛行魔法を使っているなどのイカサマはしていないことは明白だ。

だがその一歩、歩幅がとにかくデカい。一回の跳躍だけで優に2メートルは前進していくのだ。

そして、驚異的なのは歩幅だけではない。

跳躍の着地直後に、瞬時に次の跳躍を繰り出すレオニス組。それはまるで、一人の人間が普通に地を走るかの如き滑らかな動きだ。

二人の圧倒的な身体能力により、他組との差があっという間に縮んでいく。

一番最後尾だった走者、黒パンツ組をトラックの四分の一付近で追いつき、その後もごぼう抜きで他の走者をどんどん抜いていった。

ちなみにレオニス達は、他走者と接触しないようにトラックの外周を大きく回っていく。この勢いのレオニス組に接触したら、一般人のペアなど絶対に跳ね飛ばされてしまうからだ。

そうしてトップのペア、紫パンツ組がトラック四分の三を過ぎた辺りで、レオニス達がその背を視線に捉えた。

「……ラウル、行くぞッ!!」

「おうッ!!」

世界最強の冒険者と、世界初の妖精族冒険者。

世界でも類を見ないサイサクス史上最強タッグが、勝利に向けて意気込みラストスパートを仕掛ける。

ここまでの二人の飛び跳ねるタイミングは、全て完璧だ。

多少レオニスの方が前に出てる感はあるが、それでもラウルもちゃんと食らいついてともに跳躍するあたり大したものだ。

先頭の紫パンツ組は既にスタミナが切れてきていて、走る速度がかなり落ちていっている。

だが、レオニス達はここからが本番だ!とばかりに、それまで以上のペースで走り続ける。

紫パンツ組がラストのトラック直線部に入る。その時走者の一人がふと何気なく後ろを見て、ギョッ!とした顔になる。

もうすぐゴール、その直前で勝利を確信した彼の目に映ったのは、すぐ後ろに迫りくる鬼の形相のレオニスとラウルだった。

「!?!?!?」

慌てて前を向き、再びゴールのテープに向けて最後の気力を振り絞る紫パンツ組。

その健闘も虚しく、ゴール手前5メートルのところでレオニス組に追いつかれてしまった。

そしてそのまま赤パンツのレオニス組がゴールテープを切り、レオニス達の一着が確定した。

「ヤッターーーーー!!!!!」

レオニス組がゴールした瞬間に、ライトが両手を上げて大きく飛び跳ねて喜んだ。

ライトが大喜びしたのは、何もレオニス組が一着になったからというだけではない。

他の組の倍以上の差という厳しいハンデをものともせず、真正面から正々堂々と難題に挑み、困難を乗り越えて頂点をもぎ取る―――その不屈の精神に、ライトは感激していた。

そしてそれはライトだけでなく、他の子供達や保護者の観衆も同じことを思ったようで、皆スタンディングオベーション状態で拍手している。

「何だ今の、すっげー勝負だったな!」

「人間頑張れば、何でもできるんだってことよね!」

「素晴らしい、実に素晴らしい勝負だった!」

観衆達からの惜しみない拍手の嵐に、レオニスとラウルも右手を上げながら応える。

観衆の称賛の拍手に応えつつ、レオニスとラウルはギッチギチに縛ったウエストの紐を緩めてデカパンを脱ぎ始める。

その間他のペアも順々にゴールに入り、最後尾のペアがゴールした後も観衆の拍手喝采はしばらく続いていた。