軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第900話 かなぐり捨てた自己保身

保護者達による、手に汗握る熱い競技二つを繰り広げた後は、再びラグーン学園生達の舞台になる。それは子供達にとっても、ちょうどいい食休みになったことだろう。

まずは組体操。一年生から三年生まで、全学年で披露する。

一年生は一人でできる水平バランスやカエル倒立、V字バランスやブリッジなどを披露していく。

まだ一年生とあって動きはぎこちないが、幼いなりにも懸命に動いていて何とも愛らしい。

二年生はもう少し難易度が上がり、肩倒立や足上げブリッジなどの一人技から、二人一組の補助倒立、Wバランスなどの演目をこなしていた。

まだ愛らしさが残る二年生だが、一年生より一つ上のお兄さんお姉さんということもあり、より頼もしさを感じさせてくれる。

ライト達の出演に、レオニスやラウル、向日葵亭夫妻やイヴリン父母が大いに盛り上がる。そしてクラウスまでもが、彼ら彼女らの技が決まる度に大拍手していたのは言うまでもない。

三年生は初等部最高学年らしく、三人技から五人技まで演じていた。

三人で行う三人扇、カブト、ピラミッドなど、流れるような動作と練度の高さが素晴らしい。

最後の締めは五人扇で、ここでも保護者席はスタンディングオベーションでの拍手喝采の嵐だった。

「いやー、ライトも友達の皆といっしょにラグーン学園で頑張ってんだなぁー」

「普段は見れない学園生活の様子を、こういう行事で知れるってのはなかなかにいいもんだな」

「いつも以上に頑張るイヴリン、可愛かったなぁー」

「あのちっこいリリィが、一生懸命に頑張って……ぅぅぅ」

「ドレス姿のハリエットももちろんいいが、体操着姿など今しかお目にかかれない貴重な姿……しっかりとこの目に焼き付けておかねば……」

ただただ感嘆するレオニス&ラウル、うっとりするイヴリン父、涙ぐむリリィ父、そして感動に打ち震えるハリエット父。

皆どこの家庭も我が子の成長ぶりに感動しきりである。

全学年の組体操が終わった後は、学年ごとのフォークダンスが始まる。

一年生はジェンカ、二年生はオクラホマミキサー、三年生はマイムマイムを踊っていた。

明るい音調のダンスと笑顔で踊る子供達に、またも観衆はほんわかと和む。

そしてフォークダンスが終了した後は、いよいよ紅白の点数つき競技が始まる。

ここで、ラグーン学園秋の大運動会の点数加算方式を解説しよう。

ラグーン学園初等部は、一学年につき六クラス。

A組からC組が赤組、D組からF組が白組となって点数を競う。

玉入れや大玉転がしなどの団体競技は、勝ったら3点、負けたら1点、引き分けは2点が各チームに入る。

二人三脚などの複数人での個人競技は、一着が4点、二着3点、三着2点、四着1点と決められている。

そしてこれまでの午前の部の競技で、赤組が39点、白組が41点と接戦を繰り広げていた。

ちなみに父兄参加競技の紅白チーム対抗リレーなどは点数カウント外である。

まずは綱引きから始まった。

校庭のド真ん中に極太の大綱が用意され、紅白各六十人が綱引きをする。

一学年につき二回対戦し、三学年で計六回の対戦が行われる。

一年生の二回対戦が終わったら、次は二年生の番だ。

一年生が校庭から退場するのと入れ替わりで、二年生が大綱の両端にそれぞれつく。

綱の真ん中に先生が一人立ち、前屈みになって綱につけた旗を一気に上に上げたら競技スタートの合図だ。

旗が上がると同時に、皆一斉に全力を出して綱を引っ張る。

だがこの中で、ただ一人だけ全力を出していない者がいた。それは誰あろう、ライトである。

ここでライトが本当に本気を出して、全身全霊全力を込めて綱を引っ張ったら―――こんな児戯など、それこそ一瞬で勝負がついてしまう。

BCOの各種システムや称号により得た力は、それ程までに常人の域をはるかに超えてしまっていた。

まずは様子見で、軽く引っ張るフリをするだけに留めるライト。この時点ではまだ力は拮抗していて、双方動かない。

あまり焦らして疲れを溜めるのもアレなので、ライトは早々に少しづつ力を込めて引っ張っていった。

ジリジリと赤チームが綱を引き寄せ、勝利判定のラインを勝ち取る。

これを二回繰り返し、二年生の綱引き勝負は赤チームの完封二連勝に終わった。

もちろんレオニス達がいる父兄の席も大盛り上がりだ。

向日葵亭夫妻もイヴリン父母も、それはもう大きな声で赤チームを応援している。

だがレオニスとラウルだけは、何故か冷静沈着な顔で綱引きの勝負の行方を見ていた。

「ライトのやつ、きっとすんげー手加減してるんだろうな……」

「そうだろうなぁ……あのちっこいご主人様も何気に怪力っつーか、力の強さがおかしいからな」

「一体誰に似たんだろうな? やっぱグラン兄に似たんかな?」

「………………」

周りの父兄達に聞こえない程度の小声で、ゴニョゴニョと会話するレオニスとラウル。

二人とも、ライトが巨大トウモロコシやらかなりの巨岩を軽々と持ち上げるのを幾度となく見てきている。なので、今目の前で繰り広げられている綱引き勝負において、ライトが相当手加減していることを早々に見抜いていた。

とはいえ、それを咎めるつもりは毛頭ない。

他の普通の子達とともに過ごしていくには、あまりにも突出し過ぎた力は伏せておくのが無難だからだ。

そして三年生の綱引きを終えて、最後の種目『クラス対抗リレー』が始まっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『さあ!泣いても笑っても、これが最後の種目です!これより『クラス対抗リレー』を始めます!』

『全学年で行われるこのリレーは、各組から五人の選ばれた走者がバトンを繋ぐリレーです!』

『ここまでで、赤チーム51点、白チーム53点、勝負の行方はまだまだ分かりません!ここからが勝負です!』

白熱した場内アナウンスに、保護者席の熱気も強くなっていく。

一年生のリレーは、赤チームが5点、白チームが5点と平行線を維持していた。

そしていよいよライト達二年生の番である。

ライトが校庭のトラック内に向かう姿を見て、レオニスとラウルがまたゴニョゴニョと呟く。

「……ライトのやつ、本気を出して走るかね?」

「どうだろうなぁ……ちっこいご主人様が本気を出して走ったら、ぶっちぎりで優勝間違いなしだろうが……」

「でも、今ここでそれをするとなると……」

「ああ、絶対にドン引きされるだろうなぁ……」

レオニスとラウルが、心配そうな眼差しでライトを見つめる。

これまでレオニス達は、ライトの能力が普通の子供よりはるかに高いということは重々承知していた、つもりだった。

先日のエンデアンでのかけっこ勝負でも見た通り、足の速さにかけてはそこら辺の冒険者よりもはるかに速いことが証明されたばかりである。

だが、そもそもこの二人も『普通の子供』というのがどのようなものか、あまりよく分かっていなかった。

普段から接する子供といえばライトだけで、他にはせいぜいラグナロッツァ孤児院の子供達くらいしかいなかったから。

そのことを、レオニスもラウルも今日のこの大運動会を通して嫌というほど思い知る。

今日ここで見た大勢の、本当に普通の子供達の仕草や走り動き回る様子。それらは普段カタポレンの森を駆けるライトとは、明らかに異なるものだった。

そんな極々普通の子供達の中で、もしライトが本気を出して走ったら―――明らかに尋常ではないことが全校内に広く露見してしまう。

それはライトの平穏な学園生活に、少なからず悪影響を及ぼすであろうことをレオニスもラウルも容易に推察していた。

レオニス達のそうした心配を他所に、競技は厳粛に進められていく。

A組からF組の第一走者六人が、スタート位置に立つ。

二年A組の第一走者はリリィ。いつも陽気なリリィが、いつになく真剣な眼差しで前を見つめ、スタートの合図を今か今かと待ち構えている。

ライトはアンカーなので、五番目の走者だ。

『位置について。用意…………ドン!』

一斉に走り出す第一走者のスタートに、保護者の観衆からも大きな声援が沸き起こる。

途中、足がもつれて転んだりする子や、バトンの受け渡しを失敗して落っことしてしまったり等々、ところどころでハプニングが起こる。

ライトのA組も、最初は順調だった。

リリィが一位でバトンを渡し、第二走者までは一位だった。だが第三走者でB組に追い抜かれ三位に落ち、しかも第四走者がカーブで転んでしまって、四人目の時点で六組中五位まで順位が落ちていた。

それまでライトは、多少順位が低くても点数が入る四位以内になれればいいよね!と思っていた。実際ライト自身も、自分が本気を出して走ったらとんでもないことになる自覚はある。

だから、綱引きの時のように手加減するつもりだったのだ。

だが実際に対抗リレーが始まると、その気持ちはどんどん揺らいでいった。

順位が落ちていくにつれ、自分達の席で応援するイヴリンやジョゼ、ハリエットの心配そうな、ハラハラした顔が見える。

どうしよう、このままじゃ四位にもなれない……ここはせめて、三位に入れるくらいまで頑張るべきか……

ライトはバトンが来るまで大いに悩みに悩んでいた。

そして、躓いて転んだ第四走者の子が懸命に走り続け、ライトにバトンを渡す。その子は転んで擦りむいた痛みと悔しさを堪えながら、半べそでライトにバトンを繋いだ。

第四走者の子の悔しそうな涙を見て、ライトの中の理性はプツンッ……と切れた。

バトンを受け取ったライトは、次の瞬間猛烈な勢いで走り出した。

それはロケットスタートなんてものじゃない、弾丸か稲妻か、果ては音速かと思うような走りだった。

「「……!!」」

ライトの猛ダッシュを見たレオニスとラウルの目が大きく見開かれる。

ここは本来なら、ライトは力を抑えて普通の子のように振る舞うべきところであろう。今後の学園生活を平穏無事に送ろうと考えたら、絶対にそうすべき場面だ。

だがその猛ダッシュは、それに反する行為だった。そしてそれは、自己保身などかなぐり捨てて皆のために勝利を掴み取りに出たことを意味していた。

ライトが見せた男らしい心意気に、レオニスもラウルも堪らずその場に立ち上がった。

「ライト!いッけーーーッ!!」

「そこだーーー!もっとだ、もっといけーーーッ!!」

それまでずっと渋い顔でライトを見守っていたレオニスとラウルが、立ち上がって手を振り回しながら大声でライトを応援し続ける。

ライトは我武者羅に突き進み、先を走っていた他の組の走者をごぼう抜きで追い抜いていく。

そして僅差で一着こそ逃したものの、ライトは見事二着でゴールした。五位から二位に浮上とは、大したものだ。

二着でゴールしたライトは、ゴール近くにいたリリィ他A組の級友達に囲まれている。リリィなど、涙を流しながらライトに抱きついているではないか。

笑顔と涙でライトを褒めちぎる級友達に、ライトももみくちゃになりながら照れ臭そうな笑顔になっている。

レオニスとラウルは、はるか遠い保護者席からライトの嬉しそうな笑顔を満足そうに見守っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

全てのプログラムが終了し、子供達は全員校庭の真ん中に整列して並んでいた。いわゆる『閉会式』の開催である。

そして、紅白対抗戦の結果発表も行われた。

『それでは!点数発表いたします!』

『赤チーム、68点!白チーム、66点!』

『本年度の大運動会は、赤チームの勝利です!!』

赤チーム側から、ワーーーッ!という歓声が沸き起こる。

点数ボードは朝礼台横に常時掲示されていたので、結果は既に皆分かっていたのだが。それでもこうして大々的に発表されれば、改めて喜びも一入湧いてくるというものだ。

そして朝礼台に理事長のオラシオンが立ち、閉会式の言葉を述べる。

「皆さん、お疲れさまでした。本日はとても有意義な一日を過ごせたことと思います。これからもラグーン学園生として、日々勉学に友好に励んでください」

とても短い言葉だが、疲れた子供達には嬉しい配慮だ。

閉会式も無事済み、子供達は各々の家族の待つところに駆け出していく。

ライトもイヴリンやリリィ、ジョゼやハリエットとともにレオニス達の待つ場所に向かっていった。

レオニス達ももう敷物を仕舞ったりして、帰り支度をしている。

「レオ兄ちゃん、ただいま!」

「おかえり、ライト。対抗戦リレー、すっげー頑張ったな!」

「ありがとう!ラウルも見てくれてた!?」

「おう、もちろんだ!すっげーカッコよかったぞ!」

「ホント!?」

「ああ、ホントだとも!」

いつになく興奮気味に褒め称えるラウルに、ライトも破顔する。

そして周辺を片付け終えたレオニスが、ライトをヒョイ、と高く抱き上げる。

「よーし、頑張ったご褒美に今日は肩車で家まで帰るか!」

「ヤッター!レオ兄ちゃんの肩車、すっごく久しぶり!」

思わぬご褒美にはしゃぐライトの周りでも、皆それぞれに娘や息子を温かく迎え入れている。

皆帰り支度を終えて、解散の時がやってきた。

「向日葵亭の大将に女将、イヴリンちゃんやハリエットちゃん、ジョゼ君のお父さんお母さん、お疲れさま」

「皆さんお疲れさまー!今度またうちの向日葵亭にご飯食べに来てねー!」

「皆さん、これからもイヴリンと仲良くしてやってくださいね!」

「うちのハリエットのことも、今後ともよろしく頼む」

皆それぞれに会話を交わした後、各々の家に帰っていった。