軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第898話 過酷なハンデと真打ち登場

子供達が各々の席に戻り終えた頃、再び場内アナウンスが校庭中に響き渡る。

『これより父兄参加型競技を行います。保護者の皆様方、是非とも奮ってご参加ください』

『一種目目は、父兄対抗バトンリレーです。ご参加いただける方は、入場門横までお越しください』

アナウンスが流れ終えると、レオニスが徐に立ち上がり腕を十字に組んで伸ばすなどの準備運動を始めた。

その様子を見たラウルが、座ったままレオニスの顔を見上げながら話しかける。

「お、そろそろご主人様の出番か?」

「ああ、理事長のオラシオンから直々にご招待いただいたからな」

「他の保護者は一般人なんだ、間違っても怪我なんてさせるなよ?」

「当ッたり前だ。俺をそこら辺のポンコツといっしょくたにすんじゃねー」

「…………」

ぃゃぃゃ、このご主人様も時折というか割とというか、結構ポンコツなところあるがな……? とは思っても口にしないラウル。

あのラウルがいつものように素直に口にしなかったのは、実に珍しいことだ。

しかしラウルとて、レオニスが研鑽を積んできたベテラン冒険者であることはよく知っている。

また、勝負事に関しては一切手を抜かないというレオニスの性格上、何をどうしたって手加減などできる訳がない。

とはいえ、さすがに一般人相手に大怪我を負わせるようなことにはならんだろう……多分? とラウルは考えて口を噤んだのだ。

するとここで、レオニスが思わぬことを言い出した。

「つーか、お前も後で一つ、俺といっしょに出てもらうぞ?」

「ン? 俺も出なきゃならんような種目があるのか?」

「父兄参加競技の中に、二人一組でやるやつがあるらしい。…………こいつだ」

「…………承知した。アナウンスが出たら集合場所に行くわ」

「よろしくな」

レオニスが一旦準備運動を停止し、今朝方正門にて応援に来た父兄に向けて配られた運動会プログラムをラウルに渡す。

そしてその中のとある箇所を指差して、ラウルに出場の指示を出すレオニス。

ラウルはライトの肉親ではないが、ほぼ毎日をともに過ごす立派な家族だ。

今日も今日とてライトの応援に来たのだし、父兄参加競技にラウルがライトの家族として加わる資格は十二分にある。

ラウルもまた ご主人様(レオニス) の要請とライトのために一肌脱ぐべく、一も二もなく承諾した。

ラウルの了承を得たところで、レオニスが再び準備運動を再開する。

屈伸したり足の腱を伸ばしたり腰を左右に回したり、全身を隈なく解し終えたレオニス。

ちなみに今日のレオニスは、トレードマークである深紅のロングジャケットは着ていない。ラフなTシャツにジーンズという、極々普通の動きやすい普段着姿である。

あの格好で子供の運動会に参加するのは、さすがに場違いというか相当浮くに違いないことはレオニスでも分かっているようだ。

そしてレオニスの周りでは、レオニス同様席から立ち上がり数人の保護者が出場の準備をしている。どうやら彼らも父兄参加競技に参戦するらしい。

イヴリン父スコットやリリィ父ビリーだけでなく、中にはリリィ母シルビィも準備運動をしているではないか。

それを見たラウルが、スコット達にも声をかける。

「イヴリンちゃんの親父さんに、大将や女将も競技に出るのか?」

「ああ、リリィに『パパも絶対に出てね!』って言われてるんでな」

「うちもだ。可愛い娘にそう言われちゃあな、出ない訳にはいかないさ」

「私までリリィに『ママも何か一つは出てね!』って、おねだりされちゃってるのよー」

「娘を持つ親ってのも大変なんだな」

「まぁな」

「でもそれ以上に、良いこともたくさんあるがな!」

「親として、たまには娘にいいとこ見せなくちゃね!」

ラウルの労いに、準備運動をしながらニカッ!と笑うスコットとビリーとシルビィ。

父親二人はそれなりに体力の要る仕事をしているせいか、そこそこ良い体躯をしている。母親もいつも定食屋でキビキビと働いているし、皆きっと競技でも善戦することだろう。

レオニスとともに四人並び立ち、ラウルや各々の妻達に向かって声をかける。

「じゃ、ちょっくらいってくらぁ」

「おう、ご主人様や皆の活躍を期待してるぜ」

「母さん、いってくる」

「いってらっしゃい!」

レオニス達四人は、場内アナウンスに従い入場門の方に歩いていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

レオニス達が入場門に向かってしばらくしてから、再び場内アナウンスが校庭中に鳴り響く。

『お待たせいたしました。午後の一番最初の種目は父兄によるバトンリレー、紅白二組に分かれての対抗戦です!』

午後一の種目は、保護者達によるバトンリレーのようだ。

一人につきトラック半周し、バトンを繋ぎながらゴールを目指す。

紅白に分かれての対抗戦なので、走者がどちらのチームか分かるように保護者達に赤白帽が配られている。

それを見ると、レオニスとスコットが赤チームでビリーとシルビィが白チームのようだ。

赤白帽の赤側を頭に被るレオニス。ただでさえ貴重な姿だというのに、ゴム紐までちゃんと顎にかけているのだから面白おかしさ倍増だ。

そして、リレーに出る保護者は総勢三十人のようだが、何故か赤チームの人数が明らかに少ない。

白帽を被っているのが二十人なのに対し、赤帽は十人しかいないのだ。

これについての説明は、保護者達に赤白帽を配っている間に場内アナウンスでなされていた。

『今回の大運動会には、何と!冒険者として世界にその名を馳せておられます、レオニス・フィアさんが!当学園生徒の保護者として、本日参加くださっております!』

『つきましてはその能力差を鑑みて、変則ルールを適用することとします!赤チームアンカーのレオニスさんには、ハンデとしてお一人で十一人分走っていただきます!』

「「「え"ーーーッ!?」」」

レオニスの紹介とともに、彼が負わされるハンデの説明を聞いた学園生や保護者達。その内容に、校庭中から驚きの声が上がる。

白チームが二十人でトラック十周するところを、赤チームは十人で十周。しかもレオニス以外の九人は普通にトラック半周で、アンカーのレオニスが一人で五周半走るということだ。

ハンデと言うにはあまりに過酷な条件に、校庭中が騒然とするのも無理はない。

だが、当のレオニスは涼しい顔をしている。その表情から、レオニス当人にも事前にハンデの打診があり、なおかつ了承していることが窺える。

そして、そのハンデに驚きもしないのはレオニス当人だけでなく、ラウルやライトも同様であった。

ライトの席にいるイヴリンや、後ろにいるリリィも心配そうにライトに声をかける。

「ラ、ライト君、あのルールで本当に大丈夫なの?」

「あー、うん、今日のレオ兄ちゃんはいつもの冒険者の格好はしてないけど、それでも負けるつもりはないと思うよー」

「そ、そうなの?」

「うん。うちのレオ兄ちゃんって、すっごく負けず嫌いだからねー」

「負けず嫌いとかいう以前の問題だと思うんだけど……」

イヴリン達の心配を他所に、ライトは全く心配などしてなさそうだ。

そして二人の第一走者がスタート位置に立つ。スタートの反対側のトラック内側にも、第二走者が立ってスタンバイしている。

白チームの第二走者は、リリィ父ビリーのようだ。

「キャー!パパー、頑張ってーーー!」

「リリィちゃんのお父さん、ファイトー!」

二年A組の席から、ビリーを応援する一際大きな応援の声が飛ぶ。

愛娘達の可愛い声援が届いたようで、ビリーも娘達の席のある方向に向かって笑顔で小さく手を振っている。

『位置について。用意…………ドン!』

アナウンスのスタート合図に、第一走者二人が走り出した。

半周後にビリーにバトンが渡され、その後も白チーム第四走者シルビィ、赤チーム第七走者スコットが全力でバトンを繋いでいく。

だが、途中バトンの受け渡しの失敗やカーブでの転倒があり、赤チームの方が劣勢となっていった。

そしていよいよレオニスの出番が近づいてきた。

第九走者の時点で、赤チームは白チームにかなり引き離されている。

第十走者のレオニスがバトンを受け取る頃には、白チームは第十二走者にバトンが渡っていた。

それは走者二人分、トラック一周丸ごと負けていることになる。

そんな不利な状況での真打ち登場に、子供達や保護者席からの声援はますます増えて盛り上がる。

レオニスのいる赤チームはかなりの劣勢だが、レオニスの出番にライトも声を張り上げて応援し始める。

「レオ兄ちゃーん!頑張ってーーー!」

ライトの声援が届いたのか、レオニスがライトのいる方向に向かって右手親指をグッ!と立てて応える。

そして、全力で走ってヘロヘロになった第九走者からバトンを受けたレオニスが走り出した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「うおおおおぉぉぉぉッ!」

バトンを受けた赤チーム最終走者、レオニス。

その後の猛追ぶりは凄まじいものだった。

周回遅れだった差をみるみるうちに縮めていき、白チーム第十五走者が走っている途中でレオニスが追い抜いたのだ。

白チーム走者を追い抜いたその後も、レオニスは一切手を抜くことなく校庭を駆け抜けていく。

ズドドドド……というちょっとした轟音を立てながら、砂塵を巻き起こしつつ走るレオニス。その姿の何と勇ましきことよ。

そしてレオニスがトラックを五周半し、ゴールした時には白チームは第十九走者にバトンが渡ったところだった。

圧倒的なレオニスの勝利に、子供達の席はやんややんやの大盛り上がり。その一方で、保護者席の方は呆気にとられていた。

「な、何、あのスピード……」

「あれ、本当に人間の走る速度なのか……?」

「でも、世界一と名高い冒険者なら、あれくらい走れて当たり前、なのかも……?」

信じられないものを目撃したかのように、戸惑いを隠せない保護者達。

それらの人達は本当に極々普通の一般人で、冒険者と直接関わり合うことのない者達ばかり。故にレオニスの実力、その片鱗を見ただけで度肝を抜かれてしまうのだ。

だが、そんな中でもレオニスのことを知る者は、今目の前で起こった逆転劇を当然のこととして受け止めている。

ライトは「ヤッターーー!レオ兄ちゃん、カッコいいー!」と大喜びし、ラウルは「ま、あのご主人様ならこの程度、朝飯前だよな」と呟く。

ラウルの横のテントにいるウォーベック家のクラウスや執事だって「ぃゃー、レオニス君は走りも抜群に得意なんだねー」「左様でございますね」などとのんびり会話していた。

レオニスがゴールしてから程なくして、白チームアンカーもゴールして、第一種目のバトンリレーは無事終了した。

三十人の走者を務めた保護者達も、それぞれの席に戻っていく。

大活躍したレオニスのもとにも、同じ方向に帰る向日葵亭夫妻やスコットが自然と集まってきた。

「いやー、レオニスさん、ぶっちぎりでしたねぇ!」

「私達夫婦がいる白チームが勝つと思ったのにー」

「いくら何でもあのハンデなら、レオニスさんにだって勝てると思ったんだがなぁー」

レオニスと同じ赤チームだったスコットは上機嫌で、負けた白チームにいた向日葵亭夫妻は残念かつ悔しそうに零す。

「まぁな、俺もライトの前で情けない姿は見せられんからな」

「あー、ライト君も大喜びしてましたねぇ」

「そりゃあね、レオニスさんがあんなにも大活躍したんですもの。ライト君だって嬉しいに決まってるわよね!」

四人で雑談しながら敷物のある場所に戻ると、ラウルの横にクラウスがいた。

「おお、レオニス君!君の勇姿をとくと見せてもらったよ!」

「ありがとう、クラウス伯。つーか、テントから出ていいのか?」

「何、心配は要らんさ、すぐ後ろに護衛も控えているしな!」

レオニスの活躍ぶりに、我が事のように喜び出迎えるクラウス。

そんなにホイホイとテントの外に出て大丈夫なのか?と心配になってくるが、昼食時にも敷物の周囲を護衛でガッチリ固めていたので問題ないのだろう。

そしてラウルは敷物の上に座ったままで、レオニスを迎え入れた。

「ご主人様、おかえりー。えらい大活躍じゃねぇか」

「まぁな、あの程度のハンデなんて余裕余裕!……つーか、次の競技はお前も参加するやつだぞ。そろそろアナウンスが来るんじゃね?」

レオニスとラウルがそんな会話をしていると、噂をすれば何とやら、で場内アナウンスが流れてきた。

『次の競技、第二種目に出場してくださる方は、入場門横までお越しください』

「……おっと、早速来たな。行くぞ、ラウル」

「おう」

敷物から立ち上がったラウルと入れ替わりに、バトンリレーから帰ってきた向日葵亭夫妻とスコットは敷物の上にドカッ!と座った。

「レオニスさん、次の種目にも出るのか。元気だなぁ」

「ホントホント、冒険者って揃ってタフな人多いわよねぇー」

「いってらっしゃーい、頑張って!」

「俺達の分も活躍してくださいねー!」

「レオニス君、ラウル君、君達の活躍を期待してるぞー!」

ライトの学友の父母達からの温かい声援に、レオニスとラウルの顔も自然と綻ぶ。

クラウス達の声援を背に受けながら、レオニス達は再び入場門横に向かって歩いていった。