軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第894話 ゴミ箱開封の儀

時は少し遡り、ライトが日曜日にヴァレリアへの三回目の質問権利を行使した、その直後のこと。

その日にヴァレリアに尋ねる予定だった『ミステリー箱交換チケット』のことを、ライトはすっかり失念してしまっていた。

それは、三回目の質問『ジョブシステムは何のために作られたか』というライトの問いに対する、ヴァレリアからの回答があまりにも衝撃的過ぎた故か。

そのことにライトが気づいたのは、ヴァレリアを見送って自分もカタポレンの家に帰宅してからのことだった。

レオニスと晩御飯を食べ終えて、明日からまた始まるラグーン学園の登校の持ち物などを自室で準備するライト。

登校の支度を全て終え、後は寝るばかり。ベッドの縁に座り、マイページを眺めながらしばし無言になるライト。

ふと見たアイテム欄の中に『ミステリー箱交換チケット』があるのを見つけて、ようやくその存在を思い出した。

「……あ"ーーーッ!ヴァレリアさんにアレのこと聞くの、忘れてたーーーッ!」

「…………しゃあない、ここはもうサクッと開けちゃおう」

そうして開封した『ミステリー箱交換チケット』は、アイテム欄の中で『ミステリー箱1』『同2』『同3』『同4』『同5』の合計五個に増殖した。どうやらこれは『ミステリー箱1~5詰め合わせセット』だったようだ。

これを見て「おおッ!」と喜んだライト。早速その場で全部開封してみた。

そのミステリー箱の開封結果は、以下の通りである。

1.アバター変更チケット(瞳)

2.錬金の秘薬

3.コーティング魔法

4.吹雪番傘

5.称号【ハート泥棒】

まずはこれらのアイテムの解説をしよう。

1.は、その名の通り『目の色を好きな色に変更できる』というもので、いわゆるアバターチェンジ用アイテムである。

アバターチェンジ用アイテムは、以前ライトがルティエンス商会で購入した『髪型変更チケット』なども該当する。

今回の『アバター変更チケット(瞳)』は、現代日本で言うところのカラーコンタクトのようなものだが、実際には少々違う。

その効果は永続的で、次に変更チケットを使うまで色が変えられないのだ。

つまり、カラコンのように一日とか数時間だけ気軽に楽しむといったことができない、ということである。

ただし、変装にはもってこいなので『アバター変更チケット(瞳)』が二枚以上あれば、それなりに使える場面も出てくるかもしれない。

2.の『錬金の秘薬』、これは鍛冶屋での武器防具強化の際に、成功率100%を下回った時に使うアイテムだ。

例えば成功率50%の時に、成功率60%を加算する『錬金の秘薬』を使用すれば、成功率100%を上回り失敗を回避することができる。

言ってみれば、へっぽこ鍛冶屋の破壊神イグニスを補佐するお助けアイテムである。

この錬金アイテムは、秘薬の他にも複数存在する。

成功率10%アップの『錬金薬』から究極の100%アップ『錬金の極意』まであり、全ては大事な武器防具を 破壊神(イグニス) から守るためだけに存在感するアイテムなのだ。

しかし、BCOではそうした大事な役割を持っていた錬金アイテムを、このサイサクス世界で一体どのようにして使えと言うのだろう?

まさか、将来鍛冶屋を継いだイグニスに使え!とでもいうのか。

もしイグニスに使わせるにしても、どう説明すればよいものやら。現状では皆目見当もつかない。

3.のコーティング魔法とは、耐用回数のある武器や防具に使う。

これを使えば耐用回数制限は一切なくなり、半永久的に使用可能になる。使用限界を超えて壊れる心配がなくなるのだ。

故にBCOユーザー達の間には、失くしたくない武器を手に入れた際にはまず真っ先にコーティング魔法を使うべし!という教訓があるほどだ。

特別な手入れも無しに、武器防具が絶対に壊れることがなくなるなど、如何にもゲーム要素満載のファンタジー現象だ。

だが、そんな無敵にも思えるコーティング魔法においても、一点だけ注意事項がある。

それは『鍛冶屋で強化失敗した場合には、武器防具の消失は免れない』というものだ。

半永久的使用を可能にする魔法であっても、破壊神には逆らうことは許されないということか。

BCOの破壊神の威光とは、それ程までに凄まじいものなのである。

4.の『吹雪番傘』は、何らかのイベントで武器としてドロップする品だ。イベントの時期はかなり初期の方で、それだけに性能面では残念なことにかなり弱い部類に入る。

BCOでミステリー箱が人気だったのは、こうした過去イベントのアイテムでも入手可能だったことが大きい。

普通、自分がゲームを始める前のイベントアイテムというのは、譲渡可能な品以外は復刻イベントでも行われない限り入手は極めて困難なものだ。

そうした過去の品々の入手を、復刻イベントが無くても叶えてくれるのがこのミステリー箱の魅力の一つなのだ。

そして最後の5.の称号【ハート泥棒】。

称号なので、一応ステータス補正がつく。だがその数値は『HP +5』『MP +10』のみ。

そしてミステリー箱から得られる称号とは、だいたいこの程度のものが大半を占める。雑魚魔物ならぬ『雑魚称号』である。

ライトが普段属性の女王達や神樹達にもらう加護、特殊称号と比べたら月とスッポンポンである。

もっとも、それら特殊称号に比べたら大半の称号は雑魚同然なので、比べる方が可哀想かもしれない。

こうしてミステリー箱詰め合わせの結果を一通り見終えたライト。

その成果は、間違いなく『惨敗』である。

特筆すべき激レアアイテムは一個もないし、使えないようなアバター変更や雑魚称号は完全なるゴミと言っても何ら差し支えない。

だが、惨敗を喫したにも拘わらず、何故かライトは笑っている。

「クックック……そう、コレだよ、コレ!」

「そうだよ、これが本来のゴミ箱なんだよな!」

「いいもんや使えるもんが、そんなに何度も出てくる訳ねぇじゃん!これこそが、ゴミ箱と呼ばれたBCO名物ってもんだ!」

最初こそ、声をを抑えるようにくつくつと笑っていたライト。

次第にその声は大きくなっていき、終いにはベッドの上で転げ回りながら大笑いしていた。

ライトが今経験した、ミステリー箱惨敗劇。

これは、かつてライトが前世で散々散々味わってきたことだ。

当時は『ケッ、毎回毎度ゴミばっかり掴ませやがって!』と悪態をついていたものだった。

だが、十年弱の時を経て再会したBCO名物。それはライトの中で、外ればかりのガッカリ感よりも懐かしさの方がはるかに勝っていたのだ。

ベッドの上で、アヒャヒャヒャヒャ!と腹を抱えて大笑いしていたライト。

その懐かしさに一頻り浸った後、はぁー……と一息つく。

大の字で寝転がりながら、ライトはしばし無言で天井を見上げる。

そして、大笑いしたせいで眦に滲んだ涙を人差し指で拭いつつ、誰に言うでもなく呟く。

「……今度どこかでゴミ箱を手に入れたら、転職神殿で開けよう」

「BCO仲間のミーアさんやミーナ、ルディにも、このゴミ箱の残念さと楽しさを教えてあげなくっちゃね!」

「……あ、そしたらヴァレリアさんがいる時ならもっといいな。ヴァレリアさんならきっと『何このゴミ箱、ショッボ!』とか言って罵ってくれそうwww」

ライトが思ったのは、この開けてびっくり玉手箱!なミステリー箱を、転職神殿のBCO仲間達とともに開けたい!ということだった。

それは、何が出てくるか分からない福袋を開ける時のような高揚感。もし万が一期待外れの品が出ても、仲間とともに笑い飛ばせば心理的ダメージも軽くなるというものだ。

特にヴァレリアは、かつてライトの前で同様のアイテム『CP箱』を開封し、三箱も開けて14CPという中身のショボさに『相変わらずしょっぱい数値しか出てこないよね、チッ!』と大いに腐していた猛者の中の猛者。

もし彼女が今の開封の儀に立ち会っていたら、きっと『やっぱゴミ箱はゴミ箱だよね!』とケチョンケチョンに貶してくれるに違いない。

もちろん大当たりのアイテムが出れば、きっとミーア達も喜んでくれるだろう。例えそれがどんな品かよく分かっていなくても、ライトが大喜びする姿を見たら、それだけでミーア達は大喜びするはずだ。

そのことを想像するだけで、ライトの顔は自然と綻んでくる。

そしてベッドから起き上がり、マイページ欄のCPショップを開いて画面を眺め始めた。

「……ま、次にいつミステリー箱が入手できるかも全く分かんないけど。……そうだ、今度ツェリザークに行った時に、ロレンツォさんに新しいミステリー箱の入荷はいつになるか聞いてみよう」

ライトがCPショップの販売中アイテムを眺めながら、独りごちる。

今ライトがマイページ経由で購入できるミステリー箱は、ナンバリングシリーズの1から5まで。ちょうど今回手に入れた詰め合わせセットと同じラインナップだ。

だが、このミステリー箱は1から10までのナンバリングの他、『白』『黒』『金』などのカラーリングシリーズもある。

ライトとしては、それらが買えるようになるまで購入を控えるつもりだったのだ。

しかし、CPアイテムの購入方法は何もマイページ経由だけではない。ツェリザークにあるルティエンス商会でも購入できるのだ。

特にルティエンス商会には、ロレンツォというNPC由来の人物が店主として常駐している。彼なら、今後のミステリー箱入荷情報等何か知っているかもしれない。

次にツェリザークに行けるのは、いつになるかなー。

ツェリザークと言えば、氷の女王様に水の女王様と会わせてあげる約束もしたし、十月入ってすぐには行けるかな?

雪が降り始めれば、またラウルもツェリザークの雪を集めにせっせと出かけるだろうし。その時にまた、ルティエンス商会にも寄っていこう……

ライトは頭の中で、次のツェリザーク行きの計画を練り始めるも、次第に瞼が重たくなっていく。

今日も一日ずっと動きっぱなしだっただけに、身体が休息を求めているのだ。

そうしてライトは、程なくして眠りに落ちていった。