軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第895話 運動会の準備と平穏な週末

レオニスやラウルが多忙な平日を送っていた頃。

ライトもまたかなり多忙な日々を過ごしていた。

何故なら次の日曜日には、ラグーン学園の秋の大運動会が開催されるからだ。

学園の授業は、道徳他融通の利きやすい授業が体育に変更され、大運動会のための練習時間が大幅に増えている。

特にラストスパートの一週間は、組体操やらフォークダンスの練習で大忙しだ。

そんなとある日のラグーン学園の放課後。

校庭でリレー競争のバトン練習が行われていた。

リレー競争はバトンの受け渡しが重要だ。ここでバトンを落としたり手間取れば、一気に順位が下がる。

リレー競争は運動会の花形競技で、しかもクラス対抗で点数が入る項目だ。なので、どの組でも放課後にバトンの受け渡しを熱心に練習していた。

その日も校庭のあちこちで、バトンの練習をする光景が見られる。

その中に、ライトの姿があった。

リレー競争は選抜制で、一クラスにつき五人の走者が選ばれる。

ライトが在籍する二年A組は、五人の走者の中にライトとリリィが含まれている。

二人ともA組の中で断トツに足が早く、リリィは自薦で立候補、ライトは他薦で渋々承諾したという経緯がある。

そして、放課後にバトン練習をするクラスメイト達を、イヴリンやジョゼ、ハリエットが応援している。走者の中に、仲良しのライトとリリィがいるためだろう。

「リリィちゃん、頑張ってー!」

「ライト君、ファイトー!」

ライトやリリィに向かって声援を送るイヴリン達。

他の三人の走者にも応援する友達がいて、この時期の放課後の校庭は実に賑やかである。

ちなみにリリィは一番走者で、ライトは五番目の走者。つまりアンカーである。

花形競技のアンカーとは責任重大だが、ライトとしても任されたからには全力を尽くすつもりである。

とはいえ、ライトが本当の本気を出して全力疾走すると、間違いなくとんでもないことになることは目に見えている。なので、ラグーン学園内でのライトは力を抑えつつ走っている。

匙加減がなかなかに難しいところだが、ここ最近は体育の授業を通して『自分と同い年の子供の体力は、どの程度が標準的なのか』を理解できているので、ライトは走るペースをコントロールしつつ全力疾走を装っていた。

例えば走っている間は必死の形相をしたり、ゴールした後は膝に手をつきながら、ゼェゼェ、ハァハァ……と息せき切ってみせたり。なかなかに涙ぐましい小芝居をするライト。

いちいち演技するのも大変ではあるが、ライトが平穏な学園生活を送るためには悪目立ち回避は欠かせないのである。

このように、秋の大運動会の日が近づくにつれてラグーン学園内は大運動会ムード一色となっていくが、昼休みは別だ。

昼休みの時間になると、ライトはいつものように図書室に篭り様々な書物を読んでは調べ物をしている。

最近では冬に備えて冬野菜の栽培方法を調べたり、あるいは先日のヴァレリアが語った世界の真実の一端、ジョブシステムとは何たるかを記した書物がないか探したり。

この調べ物の時間もまた、ライトにとっては欠かせない時間となっていた。

その日も『おいしい白菜の育て方』という本を読んでいたライト。

ふむ、白菜を育てるには石灰を使った土壌改良が要るのか。はて、石灰ってどうやって作られるもんだっけ? ……ここら辺も冬になる前に早めに調べておいて、ラウルに教えてあげなきゃね!

そんなことを考えながら、ライトが本をパラパラと捲り読んでいると、誰かがライトのもとに近づいてきた。

「こんにちは、ライト君」

「あっ、理事長先生!こんにちは!」

ライトに声をかけてきたのは、ラグーン学園理事長のオラシオンだった。

オラシオンに話しかけられたライト、それまで読んでいた本を閉じてパッ!と顔を上げた。

オラシオンは静かに微笑みながら、ライトが読んでいた本に目を遣る。

「ライト君は、今日も勉強熱心ですねぇ。何の本を読んでいたのですか?」

「えーとですね、『おいしい白菜の育て方』という本を読んでました!」

「おいしい白菜……ライト君は、農業や家庭菜園に興味があるのですか?」

「そうですねー、ぼくも家庭菜園は結構好きな方ですけど、ぼくよりもうちの執事のラウルの方がもっと熱心でして。ラグナロッツァの家の庭に、家庭菜園のためのガラス温室を四つも作っちゃうくらい野菜作りが大好きなんですよー」

「ガラス温室四つ、ですか…………」

ライトの話を聞いたオラシオンが、呆気にとられた顔をしている。

ライトが貴族街にあるレオニス邸に住んでいることは、オラシオンも知っている。

その貴族街の邸宅の庭で家庭菜園をしているなど、オラシオン的には前代未聞だ。

しかも家庭菜園のためにガラス温室を四つも作るなど、これまた前代未聞の話にオラシオンはしばし固まっていた。

しかし、それもほんの一瞬のこと。

オラシオンは、ライトが住む邸宅の主のこともよく知っている。

レオニスの性格や素性を考えれば、破天荒にも思えることでも快く受け入れるであろう。そう、お他人様に迷惑をかけさえしなければ、自分の持つ邸宅内で何をしてもいいのだから。

そのことをオラシオンも瞬時に悟り、再び柔らかな笑顔になる。

「ラグナロッツァの貴族街のお屋敷で家庭菜園とは、何とも贅沢ですねぇ。ライト君のお宅では、どんなお野菜を作っているのですか?」

「えーと、夏野菜のトマトやキュウリ、茄子、トウモロコシ、枝豆とかですかね?」

「な、なかなかに本格的ですね……」

「あッ、今は秋野菜のサツマイモやゴボウ、ニンジンに玉葱なんかも育ててます!」

「……それ、もはや家庭菜園ではなく畑なのでは……?」

オラシオンが何の気なしに尋ねた、レオニス邸の家庭菜園の成果。

そのラインナップのあまりの多さと充実っぷりに、またもオラシオンが固まる。

まぁ確かにライトの話を聞いていたら、それはもはや家庭菜園と呼べる範疇ではないし、オラシオンが全く想像できないのも無理はない。

しかし、ライトとしては尋ねられたから答えただけである。

それに、ラウルが育てる野菜の美味しさは格別だ。自慢の万能執事が育てる自慢の野菜、その話をするライトはニッコニコの笑顔だ。

そんなライトの笑顔に、オラシオンはハッ!と我に返り、ローブの内ポケットをガサゴソと漁り始めた。

「……あ、そういえばですね。今日私がここに来たのは、ライト君にお渡しするものがあったからなのです」

「ン? ぼくに渡すものって、何ですか?」

「こちらの手紙を、レオニス卿に渡していただきたいのです」

オラシオンはローブの内側から一通の封書を取り出し、ライトに差し出した。

差し出された封書を受け取ったライトが、不思議そうな顔で封書の封蝋を見つめる。

「何のお手紙か、聞いてもいいですか?」

「もちろん。これは今度開催される秋の大運動会で、レオニス卿にもゲストとして参加してほしい競技のリストです」

「あー、父兄参加型の競技ですか?」

「ええ、それらの競技への複数参加打診でして」

一体何の手紙かと思ったら、それは秋の大運動会のレオニスの参加打診だという。

運動会という催し物には、父兄参加型競技がつきものだ。

昨年の大運動会は、ライトがやむを得ない事情により欠席することを早々にラグーン学園側に伝えていたため、このような連絡もなかった。

だが、今年はライトも大運動会に出席するということで、その保護者であるレオニスにも改めてお声がかかったようだ。

「これを、レオ兄ちゃんに渡せばいいんですか?」

「はい」

「理事長先生へのお返事の手紙は必要ですか?」

「そうですね、いただければ嬉しいですが、なくても構いません。もともとダメ元で打診していることですので」

「分かりました」

するとここで、午後の授業が始まる十分前の予鈴が鳴った。

オラシオンがふと上を見上げつつ、ライトに謝罪する。

「……ああ、もうすぐ午後の授業ですね。ライト君の読書の時間を邪魔してしまい、すみませんでした」

「いいえ、そんなことないです!お手紙は必ずレオ兄ちゃんに渡します!」

「よろしくお願いします」

オラシオンの謝罪を受けつつ、ライトが慌てて読んでいた本を棚に戻す。

そしてライトはオラシオンに一礼し、急いで教室に戻っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして迎えた週末の土日。

日曜日には大運動会を控えているので、前日の土曜日は遠出はせずにひたすら近場で過ごす。

いつものように遠出して、何か事件的なものに巻き込まれたら敵わないからだ。

午前中には覚えたての植物魔法を使って閃光草の栽培をしたり、午後はレオニスとともにナヌスの里に出向き、ユグドラツィの結界作りの進捗状況を聞いたり。その帰りに目覚めの湖に立ち寄って、アクアや水の女王と楽しく会話したりもしてきた。

普段に比べて、実にのんびりとした土曜日を過ごしたライト。

たまにはこんな土曜日があってもいいな、と心の中で思う。

そして、土曜日の夜はラグナロッツァの屋敷に泊まることにしたライト。もちろんレオニスもいっしょだ。

ラウルとマキシにフォルも交えて、ラグナロッツァの屋敷で皆で晩御飯を食べる。

「ねぇ、ラウル、明日のお昼のお弁当はたくさん作ってくれた?」

「もちろん。百人前は用意したぞ」

「ありがとう!スイーツもたくさん用意してくれた?」

「ああ。外で手軽に食べられるものを中心に、十種類以上は作ってある」

「ホント!? やったー!」

晩御飯を食べながら、明日のお昼ご飯のことをラウルに尋ねるライト。

百人前の弁当とか十種類以上のスイーツとか、一体どこの屋台だ?と思われそうだが、余った分はそのままレオニスやライトの食事ストック分になるので全く問題ない。

そしてライトはマキシに声をかける。

「マキシ君、明日はフォルのことをよろしくお願いね」

「任せてください!……本当は僕も、ライト君の応援に行きたいところですけど……アイギスはお休みではないので……」

「気にしないで!そのおかげで、フォルのことをお願いできるんだから!」

「そうですね……カイさん達も『フォルちゃんを預かるのは大歓迎よ!』と仰ってくださってますし」

フォルの頭を人差し指でそっと撫でるマキシ。

どことなく寂しそうなのは、今回もライトのビッグイベントに一人だけ参加できないからか。

しかしフォルとともに一日を過ごすことは、フォル教信者であるマキシにとってはご褒美にも等しい。

それはマキシの勤め先であるアイギスも同様で、マキシとフォルの同伴出勤はいつでも大歓迎!らしい。

マキシにフォルのことを頼んだライト、その視線は今度はレオニスに移る。

「あ、そういやレオ兄ちゃん。昨日理事長先生に渡した返事のお手紙ね、理事長先生がその場で中を見て喜んでたよー」

「おおそうか、そりゃ良かった」

「レオ兄ちゃん、何の競技に参加するの?」

ライトが不思議そうな顔でレオニスに尋ねる。

それは、レオニスの大運動会の父兄参加型競技に参加する、という件だ。

オラシオンの反応からするに、レオニスは競技への参加を快諾したと思われる。

だが、何の競技に参加するのかまでは『当日のお楽しみ』ということで、手紙の内容を見ていないライトには教えてもらえなかったのだ。

「オラシオンがナイショだってんなら、俺もナイショにしとかなきゃならんな」

「えーーー!そんなーーー!教えてよぅーーー!」

食堂で横の席に座っていたレオニスの腕を、ライトが両手で捕まえてガクガクと揺さぶる。

そんなライトに、レオニスは笑いながら答える。

「そんな焦って急がなくったって、明日になりゃ分かるって」

「ンもーーー……」

「ま、俺の活躍を楽しみにしとけってこった」

ライトの揺さぶりに負けないレオニスが、ニヤリ……と不敵な笑みを浮かべる。

負けず嫌いのレオニスのこと、競技に参加するとなればいつものように全身全霊全力でもって挑むことだろう。

というか、オラシオンよ、一体何の競技をレオニスに参加打診したのだ。その判断は、果たして大丈夫なものなのか?

しかし、レオニスが活躍する場面が見られるなら、ライトとしても嬉しい限りだ。

皆が注目する中で、レオニスがカッコよく大活躍する―――想像しただけで、ライトの顔にも不敵な笑みが浮かぶ。

「レオ兄ちゃん、そこまで言うなら絶対に大活躍してね?」

「おう、任せとけ」

「ウフフフフ……」

「クックック……」

目をキラーン☆と輝かせて、くつくつと笑う人外ブラザーズ。

地の底から響くような低音ボイスと、脳天から抜けるような高音の笑い声が入り混じる。

その不気味な笑い声に、ラウルとマキシはドン引きしている。

「あ、明日の大運動会、大丈夫かな……? ラウル、いろいろと頑張ってね……?」

「ぉ、ぉぅ……できる範囲で頑張るわ……」

その日の夜のラグナロッツァの屋敷には、いつになく不気味な笑い声が絶えなかった。