軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第874話 野菜栽培計画 in 天空島

ライト達が神殿の外の庭で、思い思いに過ごしていた頃。

レオニスは光の女王と雷の女王、二人の属性の女王と話し合いをしていた。

天空神殿の中、広間中央にある応接セットの椅子に対面で座るレオニスと二人の女王。

レオニスの方から、早速本題を切り出した。

「ところで、邪竜の島の動きはどうだ? 何か変わったこととかは起きていないか?」

『ええ。こちらから定期的に偵察を向けているけど、特にこれといった異変などの報告はないわ』

「定期的っていうと、どれくらいの頻度で偵察してるんだ?」

『五日に一度、二人一組を送るようにしているわ。この島からの距離がまだ結構離れてるから、偵察を送るにしても行き来の片道だけで二日か三日くらいかかるし』

「そうか……」

邪竜の島には特に異変がないことに、レオニスが安堵の表情を浮かべる。

「邪竜の島の最接近は、あと四ヶ月後くらいなんだよな?」

『ええ。人族が使う暦で言えば、来年の一月末ぐらいになるかしらね』

「一月末か……公国生誕祭の直後くらいだな」

『公国生誕祭? 人族の祭りか何かがあるの?』

レオニスが発した『生誕祭』という言葉に、雷の女王が不思議そうに反応した。

彼女達は地上にもいる光の精霊の目を通して、人族の文化や習慣をある程度知ってはいる。だが、そこまで詳しい訳ではないのでアクシーディア公国生誕祭のことまでは知らないようだ。

そんな女王達に、レオニスが丁寧に解説していく。

「ああ。一月十七日は、俺達が住むアクシーディア公国という国が誕生した日でな。それを祝う祭りがあって、誕生日とその前後の三日間は国中で盛大な祭りが催されるんだ」

『まあ、つまり私達で言うところのヴィーちゃんやグリンちゃんのお誕生日会みたいなものなのね』

「そうそう、国のお誕生日会だな。……って、ヴィーちゃんとグリンちゃんも毎年お誕生日会をしてるのか?」

『ええ、毎年春頃に天空島の皆でお祝いしてるのよ。ヴィーちゃんもグリンちゃんも、ほぼ同時期の春に生まれた子達だから』

レオニスの説明により、公国生誕祭をお誕生日会と同等と解釈した二人の女王。

まさしくその通りなのだが、ここ天空島でも神殿守護神達のお誕生日会が開催されているとは予想外だ。

ちなみにこれは余談であるが、属性の女王達に誕生日を祝う習慣はないらしい。

属性の女王は当代に一体のみであり、何らかの理由で代替わりするもの。故に女王達の誕生日は年に一度ではなく、歴代分の誕生日がある訳だ。

それらを全部祝うのも大変だし、無理!ということらしい。

話が若干逸れたが、レオニスの言わんとすることを早々に察した光の女王。

彼女の方からレオニスに打診してきた。

『貴方達が住む国のお誕生日を祝う祭りがあるというのなら、その時期だけは決戦日から外した方がいいわよね?』

「ああ、そうしてもらえると非常に助かる。俺も毎年警備要員として待機しなきゃならないんでな」

『分かったわ。幸いにも時期は少しずれるでしょうから、作戦決行に支障はないと思うわ。とは言え四ヶ月先のことだから、絶対とは断言できないけど』

「それは承知している。万が一何かあったら、光の精霊を通して連絡をくれ」

『ええ、そうさせてもらうわね。それと……貴方に一つ、相談したいことがあるのだけど』

「ン? 何だ?」

光の女王が懸念した通り、邪竜の島の殲滅作戦とアクシーディア公国生誕祭が被っては非常にマズい。

レオニスは毎年アクシーディア公国生誕祭では、万が一事件が起きた時のために冒険者ギルド総本部で待機しているのだ。

しかし、アクシーディア公国生誕祭は毎年一月十六日から十八日と日時が確定しているのに対し、邪竜の島の殲滅作戦はまだ日取りが決まっていない。

ならば公国生誕祭を無事済ませてから決戦に当たる方が、レオニスとしても心置きなく挑めるというものだ。

融通が効く邪竜の島の殲滅作戦の方を、公国生誕祭と被らせないようにすることに同意したレオニスと女王達。

話題は次に移り、女王達がレオニス何か相談したいことがあるらしい。

『貴方達が、グリンちゃんとヴィーちゃんにいつも振る舞ってくれる野菜。あれを、天空島でも栽培したいのだけど……』

「……ああ、さっきもパラスから女王達がそんな話をしていた、というのは聞いた」

『そう、ヴィーちゃんとグリンちゃんがね、あのお野菜をすっごく気に入ってるの!だからね、少しでもヴィーちゃん達に美味しいものを食べさせてあげたいの!』

『もちろんそれだけじゃないわ。邪竜の島の殲滅戦の前に、少しでも戦力向上しておきたい、というのもあるわ』

二人の女王がレオニスに相談したいこととは『野菜栽培計画』である。

ラウルが作るカタポレン産の巨大野菜を食べることで、ヴィゾーヴニルもグリンカムビもぐんぐん成長している。

邪竜の島の殲滅戦の前に、少しでも戦力アップしたい!という、もっともらしい理由を述べる光の女王に対し、雷の女王は二羽に美味しいものを食べさせたい!と理由を述べる。

特に雷の女王は、身を乗り出してまでレオニスに迫る。

畑を作る理由としては、もちろんどちらも正しいのだろう。だがしかし、彼女達の反応を見るにどうやら後者の方の割合が強そうだ。

ズイッ!と迫る雷の女王の迫力に、レオニスはタジタジになりながらも問いかける。

「ぉ、ぉぅ……それはまぁ、大いに良いことだと思うが……この天空島で、畑にできるところなんてあるのか?」

『もちろんそれも考えてあるわ!後でその候補の島に案内するから、貴方の意見も是非とも聞かせてね!』

「承知した。候補の場所は後で見せてもらうとして……あんた達、野菜の栽培なんてしたことあんのか?」

『そう、一番の問題はそこなのよね……野菜って、どうやって育てればいいのかしら?』

「そこからか……」

レオニスが繰り出す数々の質問に、一喜一憂する女王達。

そう、場所はおそらく問題ない。この天空島は一つ二つの島ではなく、大小いくつもの島が浮かぶ諸島である。

中には無人の島もあるだろう。そこを開拓すれば、畑に転用することも十分可能なはずだ。

だが、野菜の栽培や管理を一体誰が担当するのか。それが一番の問題であった。

水遣りはドライアドに任せることができるだろう。

もっとも、朝夕の一日二回以上の水遣りをあの幼女達が欠かさず行えるかどうかは、全くの不明だが。

そして、問題は水遣りだけではない。種蒔きや苗の育成、肥料の鋤き込み、土の手入れ等々―――野菜作りに直接関与していないレオニスですら、ざっと考えただけでこれだけの様々な作業が思い浮かぶ。

そう、こうした諸々の作業を経なければ成果は得られないのだ。

これら諸般の作業を、果たして一体誰が行うのだろう。

レオニスには全く想像もつかない。

実際二人の女王達も、野菜栽培はしたいし場所は十分にあるものの、そこから先をどうすればいいか全く分からないようだ。

「ンーーー……うちのラウルが直接指導できれば、一番良いんだろうが……地上と天空島は、そう簡単に往復できるもんじゃないからなぁ……」

『ウィカちゃんにも協力してもらうことはできないの?』

「そりゃあな? ウィカは優しいし、頼めばいつでも快く送り迎えはしてくれるだろうが……ウィカにだって都合というもんがあるだろうし、何よりウィカは目覚めの湖に住む水の精霊であって、俺達の従魔でも何でもない。俺達がここに来る時は、いつもウィカの厚意で運んでもらってるんだ」

悩ましげに呻るレオニス。

野菜栽培に関しては、レオニスがどうこう言うよりラウルが指導した方が良いことは間違いない。

だが、地上と天空島を往復する手段が少ないのが問題だった。

その移動手段は、現状ではウィカに頼るのみ。地上の水場を介して、ドライアドの泉を往復するしかないのだ。

本当は転移門を設置できればいいのだが、これもレオニスの独断で作る訳にはいかない。

ならば毎回ウィカに移動を手伝ってもらうしかないのだが、それではウィカに大きな負担がかかってしまう。

特に野菜栽培が軌道に乗るまでは、毎日のように頻繁かつこまめな指導が必要になるだろう。

天空島側がある程度理解が進めば、その必要もなくなるだろう。、だがそれでも、最初のうちはそれなりに苦労するに違いない。

如何にレオニスと言えども、毎日のようにウィカを扱き使うのはさすがに忍びない。レオニスが苦悩するのも無理はなかった。

そんなレオニスに対し、女王達も理解を示す。

『そうね……相手の厚意に甘えるだけ甘えるというのは、貴方達だって気が引けるわよね……』

『それは私達が言えた義理じゃないけどね。私達だって、いつも貴方達にお願いしてばかりだし』

「いや、それは別にいいんだ。俺達だって嫌々ながら応じてる訳じゃないし、むしろ天空島の皆と仲良くしてもらえることは本当にありがたいと思っている。ただ、ウィカに関しては別問題なだけでな」

『そうね……』

ンーーー……と三人して考え込む。

要は、地上と天空島の往復をウィカ一体だけが担うのが問題なのだ。

ならば、ウィカに頼らずとも往復できるようになればいい。

ただし、レオニスが転移門を設置するのは難しい。それには冒険者ギルドの許認可が必要になる。

いや、これも実際のところは冒険者ギルドに申請すれば通る案件だろう。特に廃都の魔城関連で必要だと説明すれば、許認可が通る可能性は十分にある。

どうする……ツィちゃんとこのナヌス専用転移門と合わせて、天空島への転移門設置も申請するか……?

レオニスが脳内で思案を巡らせていると、光の女王が口を開いた。

『つまり、天空島と地上の往復がもっと簡単にできればいいということよね?』

「ああ、結局はそこに尽きるな」

『そしたら、アレを使えばいいかもしれないわ』

「アレ、とは?」

『ちょっと待っててね』

光の女王はそういうと、徐に席を立ち祭壇のある方に向かっていった。

そして祭壇の裏側に回り込み、何かを手に持ちながら戻ってきた。

それは一枚の紙だった。

その紙をレオニスに差し出す光の女王。

紙を目の前に差し出されたレオニスは、無言のまま受け取った。

そしてその紙に描かれた図面を見たレオニスの目が、みるみるうちに大きく見開かれていった。

「!!……これは……」

『それが何か、貴方には分かるようね』

「ああ……これは、俺達人族が使う『転移門』という魔法陣だ」

レオニスが光の女王から受け取った一枚の紙。

そこには転移門の魔法陣が描かれていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

光の女王が出してきた転移門の魔法陣図面に、レオニスは驚きながらも懸命に思案を巡らせる。

これが天空島にあるのは、紛れもない朗報だ。

レオニスからは積極的に設置できない転移門だが、光の女王達が作るとなれば話は別だ。

彼女達は人族の思惑が通る存在ではないし、ましてや人族の支配化にある訳でもない。そんな彼女達が自ら作った転移門ならば、レオニス達がそれを利用しようとも罰則規定には問われないからだ。

「これがあれば、魔法陣間を瞬間移動できるようになる。……こんなもんを、一体どこで手に入れたんだ……?」

『これはその昔、フェネってぃがくれたものなの』

「!!!!!」

光の女王の口から出てきた思わぬ言葉に、レオニスが絶句する。

彼女の言う『フェネってぃ』とは、言わずと知れたフェネセンのことだ。

『随分昔のことだけど、フェネってぃが言ってたの。『この魔法陣があれば、天空島のあちこちを瞬時に移動できるよー!』って』

『そういえば、そんなこともあったわね。でも、私達はもちろんのこと、この天空島にいる者はエルちゃん様を除いて全員飛べるから、これをわざわざ作る必要もなかったのよね……』

『それを知ったフェネってぃ、すっごく落ち込んでたわよね……』

転移門の魔法陣を描いた紙をフェネセンから渡された当時のことを、懐かしそうに語る二人の女王。

しかしせっかく渡した秘伝の魔法陣が、天空島の面々にはほとんど不必要だったらしい。

そのことを知ったフェネセンが、四つん這いになってガックリと項垂れる姿が目に浮かぶようだ。

『でも、いつか必要になる時が来るかもしれないから、その紙は大事にとっといてね!って、フェネってぃは言ってたわね……』

『ええ……ほとんど涙目で叫んでたけど、その言葉が本当になる日が来るとは……私達でも予想できなかったわね』

フェネセンのことを懐かしそうに語りながらも、同時に申し訳なさそうな顔になる光の女王と雷の女王。

よもや彼の言葉が現実のものになろうとは、永い時を生きてきた属性の女王でも全く予想できなかったのだ。

しかし、落ち込んでばかりはいられない。

天空島での野菜栽培に一条の光を見い出した女王達は、顔を上げて前を向いた。

『今度フェネってぃに会ったら、改めてお礼をしないとね』

『そうね!フェネってぃにも天空島産の美味しい野菜を振る舞いたいわね!』

『そしたらレオニス。この魔法陣を天空島に設置することで、貴方達から野菜栽培の指導を受けられるようになるかしら?』

突如話を振られたレオニスだが、冷静に受け答えをしていく。

「ああ、もちろんだ。この転移門は俺達もよく使うものだから、使い方も教えてやれるぞ。ただし、魔法陣の設置はあんた達がやってくれ。俺の手で作ると、人族の柵で俺が罰せられちまう」

『分かったわ!そしたら早速畑の候補地に設置しましょう!』

「待て待て、あくまでも候補地だろ? まずはその候補地を見せてもらってからだ」

『それもそうね』

気が逸る雷の女王を、レオニスが軽く窘める。

そしてそのままレオニスの要望を女王達にも伝えた。

「それに、転移門を設置するなら畑以外の場所にも作ってもらいたい。少なくともこの神殿のある島と、エルちゃんやドライアド達の泉がある島、この二ヶ所にも設置が必要だ」

『そうね、その二つの島にも移動できる手段が必要よね。ただし、私達が許可した者だけが来れる仕組みにできるかしら?』

『そうね、誰でも通れるようになり過ぎても困るわね』

レオニスの要望に、二人の女王達も頷きつつ認める。

レオニス達にとって、天空島は属性の女王が住まう場所というだけではない。天空樹ユグドラエルやドライアド達とも親交があるのだ。

ただし、誰でも彼でも天空島に来れるようになっても困る。レオニス達以外の、良からぬことを企む輩が転移門を通じて押しかけられたら、それこそ一大事になるからだ。

もちろんそこら辺はレオニスも承知している。

故に、女王達が安心できる策をレオニスが提示した。

「そこは問題ない。転移門の通過条件に『光の勲章と雷の勲章の両方を持つ者』という条件を、魔法陣の構文の中に加えよう」

『まぁ、そんなこともできるの?』

『でも、それができれば確かに安心ね!』

レオニスの案に、二人の女王は驚いた顔になりながらもすぐに喜びの表情に変わる。

レオニスが付け加えるという通過条件は、今のこのサイサクス世界には二人しかいない。ライトとレオニスだ。

この二人なら、いくらでも天空島に来て構わない。女王達が安堵するのも当然である。

「そしたら、今日ここに来たラウルとマキシにも、光の勲章と雷の勲章を与えてやってくれるか? 野菜作りの指導はラウルが行うし、マキシも俺達の仲間で決して悪いことはしない。むしろラウルの手伝いとして、マキシがついていくこともあるだろう」

『分かったわ。貴方達四人なら、私達も信頼できるわ』

『じゃあ早速、ラウルとマキシに勲章を与えに行きましょ!』

レオニスの要望に、光の女王は頷き雷の女王は身を乗り出して席を立つ。雷の女王は闊達なだけに、かなり気が早いようだ。

ご機嫌な様子で神殿の出入口に向かう雷の女王。神鶏達に食べさせる野菜作りの計画に目処が立ったことが、余程嬉しいようだ。

スキップをしながら外に向かう雷の女王を、微笑ましく見守りながらその後をついていくレオニスと光の女王だった。