軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第866話 開かずの宝箱

大広間にて、食後のゆったりとしたひと時を過ごすライト達。

するとここで、ライトがふととあることを思い出した。

「あ、そうだ。レオ兄ちゃん、海樹のイアさんのことろでもらってきたご褒美の中に、未開封の木箱があったって話をしたよね?」

「おお、そういやそんなこと言ってたっけな」

「開けられるかどうか、試してみる?」

「もちろん。中に何が入っているか、気になるしな」

ライトの提案とは、海樹からの褒美の一つ『開かずの宝箱』へのチャレンジであった。

本当は土日のうちに検証するつもりだったのだが、どちらも多忙過ぎてそれどころではなかったのだ。

だが、やはり気になるものは気になる。早いとこ中身を見たい!というライトの期待は募るばかりだ。

しかし、ライトが海樹のところで謎の宝箱を持ち帰ってきたことは、その場にいたラウルも知っている。

なので、ライトが一人だけで秘密裡のうちに開ける訳にはいかない。

まずは少なくともレオニスやラウルがいる場所で、開けられるかどうかを試して情報を共有しなければならないのだ。

「じゃあ、アイテムリュックを取りに行ってくるねー」

「あ、そしたら俺達も二階に行くわ。この手の作業をやるなら、ラウルの殻割り部屋でやった方がいいだろ」

「そうだね、じゃあラウルの殻割り部屋に集合ね!」

「「了解ー」」

「はい!」

謎の宝箱は、ライトのアイテムリュックの中に仕舞ってある。

それを取りに行くと席を立ったライトに、レオニスが皆で二階に移動すると言い出した。

確かにレオニスの言う通りで、開かずの宝箱を相手にするなら周囲の閑居にも配慮しておいて損はない。もしかしたら、大剣やハンマーを持ち出す可能性もあるのだから。

そうしてライト達は、大広間から二階に全員で移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライトは元宝物庫部屋に入り、レオニス達は先にラウルの殻割り部屋に入っていく。

真っ暗な部屋に明かりを灯すべく、ラウルが初級光魔法の点灯虫を部屋の中央天井と四隅に飛ばす。

明るくなった部屋の中を、キョロキョロと見回すレオニス。そして徐に呟いた。

「……思ったより綺麗に使ってるな」

「そりゃまぁな。ご主人様から借り受けた部屋だ、なるべく傷をつけないように気をつけながら使ってるし」

「殻割りに使いたいなんて言ってたくらいだから、壁とか天井なんかもうすっかりボロボロになってるもんかと思ってたぜ」

「そこら辺は心配無用だ。張ってある布を外せば、いつでも元通りの部屋になる」

レオニスが部屋の壁や天井を眺めながら感心している。

部屋の中は、窓だけでなく壁一面と天井が厚手の布に覆われていて、割った殻が飛んでも傷がつかないようになっている。

出入口の扉だけは布が掛けられていないが、殻割りの作業をする際にはその都度扉にも布をかけているらしい。徹底した傷防止策のもとで使用されているようだ。

そう、如何にラウルが基本遠慮なしな性格と言えど、厚意を仇で返すような真似は決してしないのだ。

そうして三人が待っていると、程なくしてライトも殻割り部屋に入ってきた。

「お待たせー!」

「おう、ようやく真打ちの登場だな」

「今リュックから出すから、ちょっと待っててねー」

ライトは部屋に入るや否や、すぐに部屋の中央に来てアイテムリュックを床に置き蓋を開ける。

ライトの手で早速アイテムリュックから取り出されたそれは、長辺60cm、短辺40cm、高さ50cmの箱。巨大という程でもないが、そこそこの大きさの箱である。

そして蓋から上がドーム型になっていて、如何にも宝箱ですぅ!というオーラを醸し出している。

「ほう、これが開かずの宝箱か……」

「うん。力自慢の男人魚さん達でも、何をどうしても開けられないんだって。開けられないどころか、傷一つつけられなかったんだってさー」

「へー、そこまで頑丈そうには見えんがなぁ? ……どれ、まずはラウルがいってみるか?」

「おう」

レオニスの指名により、まずはラウルが宝箱開封チャレンジに挑むことになった。

ラウルは宝箱の鍵がついている正面に立ち、しゃがみ込んでからまずは蓋を上に上げようと試みる。

もちろんそんな普通の動作では、宝箱の蓋はびくともしない。

次にラウルは、両手で箱を持ち上げてみる。

今度はヒョイ、と軽々と上がった。

軽々どころか、その後右手一つで宝箱の底辺から持ち上げたではないか。

まるでお手玉でも持つかのような仕草である。

「ンー、重さはそこまで感じないな。……ご主人様達よ、次はハンマーを使ってみてもいいか?」

「もうハンマーで行くのか? 早ぇな?」

「まぁな。海の中にいた男人魚達だって、見た目は結構厳つい身体つきしてたからな。その男人魚達が、束になってかかっても開けられなかった代物だってんだから、並大抵のことは通じねぇだろ」

とっととハンマーで挑もうとするラウルに、レオニスが少し驚く。

しかしラウルの言うことも尤もで、レオニスも男人魚達が鍛え抜かれた身体をしていたことは覚えている。

決して非力そうには見えない彼らですら、この宝箱には手も足も出なかったという。

ならばさっさと武器に頼る方が話は早い。

「そりゃそうだな。……よし、ハンマーでガツンといってみろ。ライトもいいか?」

「うん、いいよー」

ラウルの論に納得したレオニス、ラウルのハンマー使用の許可を出す。

宝箱の持ち主であるライトにも確認を取り、二人からの許可を得たラウルは早速空間魔法陣を開いてウォーハンマーを取り出した。

「よし、いくぞ。皆、部屋の隅に移動しててくれ」

ラウルの言葉通り、部屋の隅に移動するライト達。

三人が部屋の隅に移動したことを確認したラウル、ウォーハンマーを大きく振りかぶる。

「……ハァァァァッ!」

ラウルの気合いの入った声が部屋の中に響き渡る。

そして全身全霊を込めて、宝箱に向かって思いっきり戦鎚を振り下ろした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ハァ、ハァ……くッそー、やっぱり俺じゃ歯が立たん……」

ゼェハァと息を切らしながら、悔しそうに呟くラウル。

ウォーハンマーを何度叩きつけても、宝箱はびくともしなかったのだ。

そしてそれは平らな面のみならず、鈎爪の部分を叩きつけても同じことだった。

ドーム型の蓋はもちろん、側面や底もひっくり返して全力で叩いてみた。だが、何をどうしても本当にびくともしないのだ。

一見ただの木製の箱なのに、板の部分が凹む様子すら微塵もない。

この結果には、さすがのラウルも凹んでいた。

それまで部屋の隅でじっと見守っていたレオニスが、部屋の中央に向かって歩き出した。

「ラウル、交代だ。次は俺がやる」

「……ご主人様よ、頼んだぞ」

宝箱に向かって腕まくりしつつ真っ直ぐ進み出るレオニスと、項垂れながら部屋の隅に避難すべく隅に向かうラウル。すれ違いざまに互いに手を合わせてバトンタッチする。

そうして宝箱のもとに立ったレオニス。

ラウルの敵?を取るべく、レオニスもまた長剣を取り出し全力で宝箱に立ち向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ハァ、ハァ……くッそー、俺でも歯が立たんとは……」

先鋒ラウルが惨敗し、大将であるレオニスと交代してから約十分。

何とレオニスまでも宝箱を開けることができなかった。

レオニスが直接拳で殴りつけたり足で踏んづけたり、挙げ句の果てには宝箱の上に乗っかりトランポリンのように何度もジャンプしてみた。それでも宝箱は壊れることはなかったのだ。

十分もの格闘の末、諦めて床にベタ座りするレオニス。

そんなレオニスのもとに、ライトとラウル、そしてマキシも寄っていった。

「ご主人様でも壊せんとはな……この箱、一体何でできてるんだろうな?」

「ンー、見た目は普通の木と鉄でできてるっぽいけどねぇ……次はマキシ君がやってみる?」

「え"ッ!? いやいやいやいや、レオニスさんやラウルでも歯が立たないものが、僕になんか開けられる訳ありませんって!」

ライトの無茶振りに、慌てて両手を前に突き出してブンブンと左右に振るマキシ。

確かに、ラウルはおろかレオニスですら全力で壊しにかかってもびくともしない宝箱相手に、マキシの力が通用するとは思えない。

しかしそうなると、現状ではもはや手詰まりでしかない。

するとここで、胡座をかいて座っているレオニスがラウルに向かって声をかけた。

「なぁ、ラウルのオリハルコン包丁なら切れるんじゃね?」

「馬鹿言え。ご主人様が切りつけてたあの長剣だって、オリハルコン製だろうがよ」

「バレたか。でもよぅ、ちょこんと触ってみるだけでもやってみ? それなら刃毀れすることもねぇだろ?」

「しゃあねぇなぁ……本当にちょっと触れるだけだぞ?」

ラウルの伝家の宝刀で試せ、というレオニスに、ラウルは当然の如く否定する。

いくらラウルのオリハルコン包丁の切れ味が鋭くても、戦鎚や長剣をどれだけ叩きつけても傷一つつかない宝箱を相手にしたらどうなるか分からない。

あのオリハルコン包丁は、半年も待って手に入れたラウル念願の宝物なのだ。こんなことで刃毀れさせる訳にはいかないし、絶対に容認できるはずがない。

しかし、レオニスはなおも食い下がる。

ちょこっとだけでもいいから!と縋るように懇願されれば、ラウルもそれ以上嫌とは言えない。本当にちょこっと宝箱に刃を触れさせるだけなら、オリハルコン包丁の刃毀れも起こらないはずだ。

それをすることで、このご主人様の気が晴れるならしゃあない―――ラウルは観念したように、空間魔法陣からオリハルコン包丁を取り出した。

「いいか、本当の本当に、ちょこっと触れさせるだけだからな?」

「分かってるって。それでダメなら、すぐにオリハルコン包丁を引っ込めていいから」

「ったく……いくぞ」

右手にオリハルコン包丁を持ったラウルが、再び宝箱の正面にしゃがみ込む。

宝箱の鍵の数cm前までオリハルコン包丁をゆっくりと近づけてから、本当に軽い力でコツン、と触れさせた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「「「!?!?!?」」」」

突如起きた信じられない光景に、ライト達四人の顔は全員驚愕に染まる。

ダメ元でやったオリハルコン包丁での接触で、宝箱の蓋がパカッ☆と開いたからだ。

これには無理に頼んだレオニスも、オリハルコン包丁の持ち主であるラウルもびっくり仰天である。

四人の中で真っ先に我に返ったライトが、思わず喫驚の声を上げた。

「え、何、ラウルの今ので開いたの!? ラウル、そんなに力を入れてなかったよね!?」

「あ、ああ……本ッ当ーーーに、ちょこっと触っただけだ……」

「お、俺のさっきまでの苦労は一体何だったんだ……」

「知らん……ご主人様の前の俺の苦労も返してくれ……」

あまりにも呆気ない開封に、散々力づくを試したレオニスとラウルが再び萎れて項垂れる。

膝から崩れ落ちてガックリと四つん這いになる主従達を他所に、ライトとマキシは早速とばかりに箱の中を覗き込んだ。

箱の中には、一枚の紙が底にぽつん……と入っているだけだった。

「これは一体……何だろう?」

「一枚の紙、というか、メモみたいな切れ端にも見えますね……?」

マキシが身を乗り出して、底にある紙を取り出した。

紙の両面をピラピラと何度かひっくり返して眺めるマキシ。

その紙を見たライトの心臓が、一気にバクバクと高鳴り騒ぎ出した。

何故ならその紙には『ミステリー箱交換チケット』と書かれていたからだ。

「ママママキシ君!そそそその紙、ぼくにもよく見せて!」

「え? いいですよ、どうぞ」

マキシから半ば奪い取るように、ガバッ!と紙を受け取るライト。

震える手で何度もその紙を眺めるも、どう見てもそこには『ミステリー箱交換チケット』と書かれてあるではないか。

これは間違いなくBCO関連のアイテムだ。

実際のところ、ライトはこの開かずの宝箱がBCOと何かしら関わりがあるのでは……と薄々感じていた。

でなければ、男人魚達やラウル、レオニスまでもが力づくで挑んで開けられないはずがないからだ。

だから、宝箱がこの場で開けられるとは思っていなかったのだ。

マズい、これはマズい……

レオ兄やラウルに、どうやってこのアイテムの説明をすりゃいいんだ……

BCOのことを伏せながら、上手く説明する方法なんてあるのか!?

だいたい『ミステリー箱交換チケット』なんてあからさまに胡散臭い名前で、どうやって誤魔化せってんだ!?

内心でパニクるライトに、マキシが不思議そうに声をかける。

「ライト君、この白紙の紙切れに何かあるんですか……?」

「……え? 白紙?」

「はい。僕には何も書かれていない、真っ白な紙切れにしか見えませんが……」

マキシの言葉に、ライトの目がますます大きく開かれていく。

どうやらこの『ミステリー箱交換チケット』という文字が、マキシには見えないようなのだ。

ライトは慌ててレオニスとラウルのもとに行き、二人に『ミステリー箱交換チケット』の紙を見せた。

「レオ兄ちゃん、ラウル、開けた宝箱にはこの紙が入ってたんだけど……」

「……ぁ、何、紙?」

「どれ、ちょいと貸してみ」

打ちひしがれていたレオニスとラウルがのそのそと胡座で座り直し、レオニスがライトから紙を受け取った。

レオニスが紙の両面を何度かひっくり返し、繁繁と眺める。レオニスの向かいに座るラウルも、レオニスが持った紙をじっと眺めている。

「……何も書かれてねぇな」

「ああ、白紙の紙切れだな」

「!!!!!」

レオニスとラウル、二人が発した言葉にライトの目は極限まで開かれる。

マキシと同じく、レオニスとラウルの目にも『ミステリー箱交換チケット』という文字が映っていないのだ。

「はぁぁぁぁ……こんな白紙の紙切れ一つのために、俺達ゃ四苦八苦してたってのか?」

「しゃあない……もともと海樹のところで不要品として放っておかれたもんだったからな」

「しっかし、この箱の頑丈さはすげーよな。木箱一つにこんな苦労したのは、生まれて初めてだ」

「俺もだ。砂漠蟹やジャイアントホタテの殻なんて目じゃねぇわ」

ブツブツと愚痴を零しながらも、謎の宝箱の頑強さだけは手放しで絶賛するレオニスとラウル。

二人はのそのそと立ち上がり、パカッ☆と開いた宝箱の中を覗き込む。

そこには何一つない、本当にただの空っぽの宝箱となっていた。

レオニスは箱の中に手を伸ばし、底をコン、コン、と叩いている。

「二重底ってことでもなさそうだな。本当にこの紙切れ一つが入ってただけのようだ」

「一体どこの誰がこんなことをしたのか知らんが、紙切れ一つに大袈裟な箱を用意したもんだな」

気が抜けたように呟くレオニスに、ラウルもまた疲れきったような声で蓋を閉めた。

その後再び箱を開こうとしても、やはり開かなくなった。蓋を閉じると、梃子でも開かない『開かずの箱』に逆戻りする仕様らしい。

「さて、そうすると、この紙切れどうする? 炙り出しでもしてみるか?」

レオニスがふと呟いた言葉に、ライトが慌てて声をかける。

「レ、レオ兄ちゃん!その紙は、ぼくにちょうだい!」

「ン? ああ、いいぞ。……そうだな、これでも一応イアからのご褒美に違いはないもんな」

「う、うん!イアさんからもらった記念品として、大事にとっとくね!」

ただの白紙の紙切れにしか映らないレオニスに、ゴミだと思われて捨てられてはたまらない。ましてや炙り出しで焼いてみるなど以ての外だ。

ライトは慌ててレオニスから『ミステリー箱交換チケット』を受け取り、急いでアイテムリュックに仕舞い込んだ。

そして木箱をじっと眺めていたレオニスが、ライトに声をかけた。

「そしたらライト、この箱は俺がもらってもいいか?」

「ン? いいけど、何か入れるの?」

「おう。この宝箱をオーガの里に持っていってな、ラキ達にも開封チャレンジさせてやるんだ」

ニヤリ……と笑うレオニスの、何とあくどきことよ。

レオニスでさえ素手では開けられなかった箱を、オーガ族が開けられるとも思えない。

何しろレオニスは、腕相撲大会でオーガ族を凌ぐ力を持っているのだから。

そんなレオニスのあくどいいたずら計画に、ラウルが呆れたように物申す。

「このご主人様も、性格 悪(わり) ぃなぁ」

「何だとッ!? これはな、ラキ達オーガ族を鍛えるための道具になるんだぞ!」

「……そりゃまぁな? これを開けるために、オーガ達が修行して力をつける努力をするってなるなら、そういうことになるんだろうが」

「オリハルコン包丁での種明かしは、しばらく伏せとけよ。すぐに開けたらつまらんからな」

「はいはい……ホントにいたずら好きなご主人様なこって」

レオニスのしょうもない計画に、ただただ呆れるばかりのラウル。

しかしまぁ、そこには他者を害する悪意は存在しないので、そこまで目くじらを立てて怒る程のことでもない。

クックック……待ってろよ……と呟きながら、空の宝箱を空間魔法陣に仕舞うレオニス。

そんなおちゃめなレオニスを、ライト達は苦笑しつつ眺めていた。