軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第864話 目に見えぬ強い絆

ユグドラツィの根元で、ナヌス達とともに三時のおやつタイムを過ごす準備をするライト達。

まずはライトが用意したブレンド水をユグドラツィにご馳走するべく、レオニスとラウルが交互にバケツを持ち飛んでは根元にゆっくりとかけていく。

今回のブレンド水は『濃縮エクスポーション』『濃縮セラフィックエーテル』『グランドポーション』『コズミックエーテル』を各一本づつ混ぜた、計四種類である。

『どれも滋味溢れる、豊かな味わいですが……特に『濃縮』と名のついたものは、何というか癖になるような……独特な風味があって、とても美味ですね』

「そうですか、ツィちゃんに気に入ってもらえて良かったです!」

ライト特製ブレンド水を美味しいと言って飲むユグドラツィに、ライトもまた嬉しそうに破顔する。

ユグドラツィは決して嘘をついたり、上辺だけのお世辞は言ったりしない。なので彼女が言う『美味しい』とは、本当に心の底からそう思っているということである。

そして、濃縮系回復剤をブレンド水に使うのは今回が初めてのことだ。そのどちらもユグドラツィから好評を得られて、ライトとしても大満足だった。

『また、水自体にもこれまでになく清廉な魔力がたくさん含まれているのが分かります。これも氷の洞窟で採取してきたという氷の水なのですよね?』

「いいえ、今日のはそれよりもっとすごいお水です」

『あら、今までの氷ともまた違うものなのですか?』

「はい。今日はラウルが氷の女王様からその場で直接出していただいた、氷の槍を融かしたものなんですよー」

『まぁ、属性の女王自らが生み出した氷ですか……道理で……』

今日のブレンド水のベースの水は、今からちょうど一週間前の日曜日に氷の洞窟で氷の女王から直々に賜った氷の槍を融かしたものである。

そんな特別なものだということを聞き、納得したかのようにユグドラツィの枝葉がワッシャワッシャと揺れる。

これまでユグドラツィが味わってきた数々のブレンド水の中で、一番魔力が含まれていたのは氷の洞窟の壁から直接採掘してきた氷だった。

今回の水には、間違いなくそれ以上の良質な魔力が多量に含まれている。数々のブレンド水を飲んできたユグドラツィだからこそ、その味や魔力の含有量の違いなどが一番よく分かっている。

そしてその秘訣が『氷の女王が直接生み出した氷を使っているから』という答えを聞けば、なるほど納得である。

ちなみにこの氷の女王が生み出した氷、ただの氷とは訳が違う。

自然解凍させようとして、バケツの中に入れて外に出しておいてもなかなか融けないのだ。

それでも実験として、ラウルはバケツに入れたまま自然に任せて厨房の隅に置いてみた。

それから完全に水に還るまで、放置すること何と一週間。ラウルの膝丈程の氷一つ融けるまでに、実に一週間も要したのだ。

真夏の暑い時期ではないとはいえ、九月中旬の陽気でこれは驚異的な結果だ。

そしてそれは、砕いて水に浮かべてもほぼ同じ結果だった。

しかもその一週間の間、ラグナロッツァの屋敷の厨房は明らかに他の部屋よりも涼しかった。これは、氷の槍が融ける際の冷気が冷房代わりになっていたと思われる。

さすがは水属性の一形態である氷属性、その頂点たる氷の女王自らが放つ氷の槍だけのことはある。

これらの実験結果を知ったライトは「融けない氷!? 何ソレすごい、冷たい飲み物に使ったら最強無敵じゃーん!」という素晴らしいアイディアを出し、レオニスは「その氷に、そんなすげー効果があんのか!? そしたら俺にもいくつか譲ってくれ、是非とも孤児院の冷蔵用倉庫に使いたい!」と言ってきたくらいだ。

このように、氷の女王の生み出す氷には様々な有用性と無限の可能性が秘められていた。

「氷の女王様も、ツィちゃんのことをとても心配してましたよ。自分がラウルに分け与えた氷を、ツィちゃんにもたくさんあげてほしいって言ってました」

『氷の女王にまで心遣いをいただけるなんて、本当にとてもありがたく嬉しいことです……私も氷の女王に、何かお礼をお返ししたいところなのですが……』

「そしたらまたぼく達といっしょに、何がいいか考えましょうね!」

『ええ、頼りにしていますよ。皆の知恵を、是非とも貸してくださいね』

ライトとユグドラツィが、ほのぼのとした会話を交わしている。

その仲睦まじい光景を見たナヌス達もまた、和やかな面持ちで微笑んでいる。

「ぃゃぁ、この神樹様は本当に穏やかで心優しい御方じゃのぅ」

「全く全く。永き時を生きる偉大なる御方だというのに、驕り高ぶることなど一切見受けられぬ」

「この心優しき神樹様を二度と傷つけぬよう、これから我等が作る結界にてお守りせねば」

「我等ナヌスの腕の見せ所ですな!」

ナヌス達がユグドラツィに会うのは、今日が二度目のことだ。

まだ出会ってから日の浅い彼らは、ユグドラツィが放つ威容に未だに内心で畏怖を覚える。だがそれでも、こうしてユグドラツィの穏やかで愛らしい口調の会話を聞いていると親しみが湧くというものである。

今回のユグドラツィの結界作りは、もともとはレオニスから持ち込まれた話だった。

しかし、今ではナヌス達自身も神樹を守るために働きたい、と思っている。

神樹とナヌスにもまた、目に見えぬ強い絆が育まれつつあった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後ライト達は、ラウル特製の美味しいおやつを食べながら様々な話をした。

特にナヌスの人達の行き来について、ライトが何気なく発した『ナヌスの里にも転移門を設置したらどうかな?』という意見は、レオニスを大いに唸らせた。

転移門の無許可設置は、本来ならご法度である。

しかし、カタポレンの森にある神樹の身の安全のために使う、という名目で正式に登録申請を出せば問題なく許可が下りるだろう。

神樹ユグドラツィが廃都の魔城の四帝に襲われた、という話は既にレオニスが冒険者ギルド総本部マスターのパレンに報告してあるからだ。

カタポレンの森の安寧は、人族にとっても重要な課題だ。もしここが廃都の魔城の四帝の手に落ちれば、人族のみならずサイサクス大陸全土を揺るがす事態となる。

それを阻止するための策の一環であることを伝えれば、冒険者ギルド上層部も否とは言えないはずだ。

レオニスもそれを踏まえ、「……よし、近いうちにマスターパレンに相談しておくか」と言っていた。

ナヌスがユグドラツィのもとを自由に行き来できるようになれば、結界作りの推進も大きく進むことだろう。

そうした様々な話し合いを経て、レオニスがふと空を見上げながら呟いた。

「……さて、日が暮れる前にぼちぼち帰るか」

「そうですな」

レオニスの言葉に、ナヌス達も頷く。

海樹の枝の加工は外注に出すことが決まったし、これ以上今ここでしなければならないことももう特にないからだ。

出した敷物などをアイテムリュックに仕舞い込み、帰り支度を進めるライト。するとここで、ふとあることを思い出して何かを取り出した。

「あ、ヴィヒトさん、一ついいですか?」

「ぬ? ライト殿、如何いたした?」

「実はこの前、出かけた先で面白いものを見つけまして」

「面白いもの、とな?」

ライトがヴィヒトに向けて差し出した、小袋状のもの。

それは、先日ライトがアドナイの街の冒険者ギルド売店で購入した『ぬるぬるドリンク特濃レモン味』だった。

全く見覚えのない品に、ヴィヒトが不思議そうにライトに尋ねる。

「ライト殿、これは一体何だね?」

「これはですねぇ、その名も『ぬるぬるドリンク特濃レモン味』と言いまして。黄色のぬるぬるドリンクの五倍十倍は酸っぱいという上位版です」

「何ッ!? アレの上位版となッ!?」

ライトの説明に、思わず目を見開きながら食いつくヴィヒト。

かつてライトがナヌスの里に持ち込み広めた『黄色のぬるぬるドリンク』。疲労回復や美肌、特にシミ、シワ、美白に良いといった効能があり、今やナヌスの里に欠かせないマストアイテムとなっている。

そのマストアイテムの上位版と聞けば、ヴィヒトのみならず他のナヌス達も食いついてきた。

「ライト殿、それは真か!?」

「はい。ぼくも味見してみましたけど、そりゃもう酸っぱくてですね……黄色のぬるぬるドリンクの粉末と比べても、五倍以上薄めて同じになるくらいなんですよー」

「そりゃすごい……うちの嫁さんや娘も、アレの大ファンでして。ライト殿が届けてくださるアレは、もはや我が家にとってなくてはならぬモノなのです」

「そ、そんな大袈裟な……」

守備隊副隊長のリックが明かす家庭事情に、ライトはびっくりである。

確かにナヌスのご婦人方は、ライトが黄色のぬるぬるドリンクを手土産に持っていく度に、嬉々として持ち去っていくのが常となっていた。

リックの横にいた長老のパウルも、深く頷きながらリックの話を補足するように肯定する。

「いやいや、ライト殿、これは大袈裟でも何でもない事実じゃぞ? 何しろうちの婆さんまでアレを愛飲しておるからの」

「え"ッ!? そうなんですか!?」

「そうだとも。毎日あの酸っぱいアレを飲んでは『シミが薄くなったー♪』『肌が少しづつ白くなったー♪』などと喜んでおる。おかげで最近婆さんの機嫌が 頗(すこぶ) る良くてのぅ、アレは我が家の家庭円満の秘訣となっておるのじゃ」

「そ、そんなにですか……」

パウルがしみじみと語る『アレの御利益』に、他の三人のナヌス達もまた深く頷いている。

彼らの様子からするに、どうやらそれは大袈裟なものではなく紛うことなき真実のようだ。

というか、ナヌス達は黄色のぬるぬるドリンクのことを皆『アレ』と呼んでいる。これはもはやナヌスの里では『アレ=黄色のぬるぬるドリンク』という図式が全域で広まっている、ということで間違いなさそうだ。

「これも皆、ライト殿が届けてくださるアレのおかげぞ」

「そ、そんな……でも、ぼくのお土産が皆さんのお役に立てているなら、すっごく嬉しいです」

「ありがとう、ライト殿。これからも何卒よろしくお願い申す」

「こちらこそ、これからもぼく達と仲良くしてくださいね!」

ナヌスを代表してヴィヒトがライトに向けて手を差し出し、ライトもまた迷うことなくその手を握る。

かつてライトがクエストイベント目的で始めたナヌス族との交流。それも今や過去の話で、イベント云々を抜きにしても交流を深めていきたい―――ライトはそう思っていた。

「じゃ、そろそろ帰るか。俺とラウルはナヌス達を里に送っていくから、ライトは先に家に帰っていいぞ」

「うん、分かった!ナヌスの皆さん、さようなら!レオ兄ちゃんもラウルも、気をつけて皆さんを送っていってね!」

「おう、任せとけ」

レオニスがヴィヒトとパウルを脇に一人づつ抱え、ラウルがヴォルフとリックを同じく両脇に抱える。

二人に抱えられながら、ナヌス達が「ツィちゃん様、お元気でーーー」「ライト殿もお疲れさまでしたーーー」「またお会いしましょうぞーーー」「さらばじゃーーー」等々、口々に別れの挨拶を述べる。

そしてレオニスとラウルはほぼ同時にナヌスの里に向かって、ギュン!と飛び去っていった。

ライト以外の全員がいなくなり、急激な静けさがライトとユグドラツィを包み込む。

「ツィちゃん、ぼくも家に帰りますね」

『ライトもありがとう。貴方方のおかげで、今日も楽しい一日が過ごせました』

「ぼくもとっても楽しかったです!またツィちゃんに会いに来ますね。さようなら!」

ライトはユグドラツィに向かって、ペコリと頭を下げて一礼してから森の中に駆け出していった。

そうしてまた、更なる静けさがユグドラツィを包む。

だが、ユグドラツィがそれを寂しいと思うことはない。

ライトやレオニス、ラウルはいつも常に自分のことを気にかけてくれている―――そのことを、ユグドラツィは知っているから。

そしてそれはライト達だけではない。

結界作りを喜んで引き受けてくれたナヌス達に、己の身を削ってまで枝を差し出してくれた次兄ユグドライアを始めとした神樹族という家族もいる。

離れていても、心は常に寄り添ってくれている―――心優しい家族や親友達の思いを胸に、ユグドラツィは己が如何に幸せであるかを改めて噛みしめていた。