軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第863話 結界の運用方法のあれこれ

ヴィヒトを始めとする四人のナヌス達が、それぞれに海樹の枝を観察している。

小刀を使って枝の表面や角を削ったり、手でコン、コン、と叩いて音や感触を確かめたり。思い思いの方法で調べた後、四人で集まって話し合いを始めた。

「ふむ……小刀で線や文字を掘ることは出来そうじゃな」

「うむ。枝に魔法陣を直接彫り込むことで、結界の効果をより高められるだろう」

「形状はどうしましょうね?」

「うーむ……出来ればこの大きさを最大限活かしたいところではある」

「そうすると、球状は難しいですかね」

「ああ、丸く削り出すためにかなりの部分を削ぎ落としてしまうことになるからのぅ」

「そうだのぅ。それに真円状にまで削り出す手間を考えると、それだけで相当の年月を食ってしまうことになりかねん」

「では、板状にしてから四つ切りの三角形にしますか?」

「ぬーーーん……出来れば魔法陣と同じく円形かつ平らな台状がいいかのぅ……その方が枝に直接魔法陣を彫り込むのも容易じゃろうし」

四人とも率直な意見を出し合っている。それは個々の立場や年齢などを超えた、結界に関するスペシャリストとしての意見交換だ。

ナヌス族は事結界魔術に関する事柄においては実力主義であり、一人一人が皆優秀な術者なのである。

そしてナヌス達が喧々諤々の議論を交わしている間、レオニスは後学のためにナヌス達の後ろで彼らの議論を聞いていた。

レオニスも魔法を扱う身であり、現役の冒険者でもある。

冒険者とは、少なからず危険が伴う稼業。生き延びる確率を高めるために、自分でも覚えられそうな 魔法(もの) なら何でも覚えるのが彼の信条だ。

特にナヌスが結界魔法はレオニスが使えるそれよりもはるかに強力なものだ。

なので、ここは是非ともナヌス秘伝の結界魔法を覚えたいところだ。

ちなみにライトとラウルは、レオニス達と少し離れたところでユグドラツィのためのブレンド水を用意している。

エリクシルは在庫切れなので、その代わりに濃縮エクスポーションや濃縮イノセントポーションをブレンドに使うライト。

ライトの横でラウルが、それらの回復剤を見て不思議そうに問うた。

「ライト、それもポーションやエーテルの一種なのか?」

「うん、そうだよー。こっちの濃い緑色は濃縮エクスポーションで、この濃い瑠璃色は濃縮セラフィックエーテルていうの」

「濃縮? 普通のエクスポーションやセラフィックエーテルよりも濃いってことか?」

「うん、そうだよー」

ライトはラウルと会話をしながら、濃縮回復剤を惜しげもなくバケツの中にトポトポと注いでいく。

バケツの中の水は、もちろん氷の洞窟で氷の女王から直接もらってきた氷を融かした水である。

「これ、いつもフォルがどこかから持ち帰ってくるんだけど、薬師ギルドでも売っていないらしいんだよねー。前にレオ兄ちゃんが冒険者ギルドで鑑定してもらったら、五倍濃縮でとても珍しいものなんだってさ」

「へー、そんなすごい代物なんだ……つーか、あのエリクシルもフォルがどこかから拾ってきたんだったよな?」

「うん。さすがにエリクシルの二個目はまだ拾ってくれてないけどねー」

「フォルはいっつも面白くて役に立つものを拾ってくるんだなぁ」

濃縮回復剤の出処がフォルである、とライトから聞いたラウル。早速フォルのことを褒めそやしている。

本当はライトが生産職スキルで濃縮させたものなのだが、かつてレオニスに鑑定に持っていってもらう際にフォルが拾ってきたものだということにした手前、ここで本当の制作主がライトであることがバレる訳にはいかない。

なので、ここでもシレッと誤魔化すライトである。

そして二人の会話を聞いていたユグドラツィが、ライトに声をかけてきた。

『まぁ、そんな珍しくて貴重なものをブレンド水にしちゃってもいいんですか?』

「もちろんいいんですよー。だって、ツィちゃんには美味しいお水を飲んでほしいですからね!」

『ありがとう……その心遣いが何より嬉しいです』

「どういたしまして!」

今回のブレンド水の材料である、濃縮エクスポーションと濃縮セラフィックエーテル。

ライトの話では、それらが実はかなり貴重な品と聞いたユグドラツィ。そんな珍しいものを自分のために使ってもいいのか、心配していたのだ。

実際のところ、濃縮回復剤が貴重な品というのはある意味本当のことだ。何しろそれらは、今のところライトしか作れない代物なのだから。

だがそれとて、ライトにとっては材料さえあればいつでも作れる品の一つに過ぎない。

それに、究極の回復剤であるエリクシルがない今、ライトがユグドラツィのためにしてやれることと言えば濃縮回復剤を提供するくらいしか思いつかなかった。

そうしていくつかのブレンド水を用意し終えたライトとラウル。

ナヌスの人達の話し合いはどうなったかな?とふと思い、そちらの方を見遣る。

すると、ライト達の視線に気づいたレオニスが、二人に向かってチョイチョイ、と手招きをするではないか。

何事かと思い、ライトとラウルはレオニスのもとに歩いていった。

「レオ兄ちゃん、どうしたの?」

「こっちの方もだいたい話がまとまりそうでな。その中で一つ、ナヌス達がラウルに力を貸してほしいことがあるんだと」

「ン? 俺か? 結界作りで俺が手伝えることがあれば、何でも協力するが……ナヌスの長よ、俺に手伝えることとは一体なんだ?」

レオニスからの思わぬご指名に、ラウルが不思議そうな顔をしている。

もちろんラウルも結界作りを手伝う気満々だが、結界魔法など使えない自分にできることはせいぜい素材集めを手伝うくらいだろう、とラウルは思っていた。

しかし、この様子だと手伝うのは素材集めではなさそうだ。

ラウルに何事かを問われたヴィヒトが、その質問に答えていく。

「この海樹の枝を切り取ったのは、ラウル殿だと聞き及んでいるが……それは真か?」

「ああ。俺が持つオリハルコン包丁で切り取ったが」

「その腕を見込んで、この枝をさらに細かく切り分けてほしいのだ」

「細かくっていうと、どれくらいだ?」

「まずは高さを我等の身長くらいの厚さの切り株にして、その切り株からこのくらいの大きさの円形にくり抜いてもらいたい」

「ふむ……まず50cmの厚さに切って、直径1メートルの円形にくり抜くのか……」

ヴィヒトが身振り手振りで伝えた形状は、直径1メートルくらいで厚みが50cmの円形。飲み物を乗せるコースターの超巨大版、といったところか。

ナヌス達の話では、以下のような計画になったらしい。

1.海樹の枝を直径1メートル、厚さ50cmの円形に切り出す。多分五十個以上は採れる、はず。

2.切り株状に切り出したそれに、ナヌスが結界用の魔法陣を直接彫り込む。

3.魔法陣を彫り込んだ枝を、ユグドラツィの周囲に配置する。

4.枝を配置する場所はナヌスが選定する。

5.ナヌスが選定した置き場所に、レオニスが魔力充填用の魔法陣を設置しておく。

6.これでユグドラツィを守る結界が半永久的に稼働する!

以上の計画を、レオニスとヴィヒトから聞かされたラウル。

何やら難しそうな顔をしている。

「何だ、ラウル。切り出すのが難しそうか?」

「うーーーん……厚さ50cmに切り分けるのはともかく、その後の『円形に切り出す』ってのがなぁ……こういうのは、なるべく均等に仕上がった方がいいんだろ?」

「そりゃまぁな……あまり歪な形だと、出力にバラつきが出るかもしれんってのはある」

ラウルの問いかけに、レオニスも顎に手を当てつつ同意する。

ラウルが推察したように、ナヌス達が求めているのはなるべく均一な形に揃えての切り出しだ。

均一な形の切り株に結界魔法陣を施すことで、魔力の出力も均一に揃えることを目的としている。

魔法陣の出力がバラバラでは、結界の強度に悪影響が出る恐れがあるためである。

もちろんラウルとてそこまで不器用ではない。料理を嗜む者としてそれなりにセンスはあるし、バランス感覚も卓越している方だとは自分でも思っている。

だが、今回作るのはユグドラツィの身を守るための結界だ。

より強固で完璧なものを作り上げるためには、素材の切り出し一つでさえ疎かにすることはできない。

料理のことならともかく、それ以外の物作りにおいて決して完璧とは言い切れない自分が、果たしてその役を担えるのか。そう自問自答すれば、ラウルの中で出る答えは自ずと『否』になる。

それに、下手なものを作って失敗したら、貴重な海樹の枝を無駄にしてしまうことになる。

それだけは何としても避けたい―――レオニスとラウルが考え込んでいるところで、ライトが二人に話しかけた。

「そしたらさ、50cmのスライスだけはここでしといて、その次の円形の切り出しはセイさんに頼むってのはどうかな?」

「セイ姉に、か?……確かにセイ姉なら、珊瑚の板から真円状に切り出すのもお手の物だろうな」

「でしょ? セイさんはアイギスの宝石研磨を全部担当してるんだもん。綺麗な円形で揃えるのも余裕でしょ!」

「……そうだな、そうするか」

ライトの案に、アイギス三姉妹を最もよく知るレオニスが頷く。

アイギス三姉妹は服飾と武器防具の職人として、それぞれが超一流の腕を持っている。特にセイは、服飾やアクセサリーに使う宝石類の研磨を一手に引き受けている。

特に宝石研磨が得意なセイならば、海樹の枝を円形状に切り出すことなどきっと朝飯前だろう。

そしてその出来栄えは、ナヌス達も唸る逸品になること間違いなしである。

「じゃあ、とりあえずここで50cmの厚さに切るだけ切っておくか。ラウル、すまんがオリハルコン包丁を貸してもらえるか?」

「ああ、いいとも。ただし、丁寧に扱ってくれよ? 俺が特注で買った、大事な大事な宝物の包丁なんだからな?」

「そりゃもちろん。俺だって剣士の端くれだ、武器の扱いは素人じゃねぇぞ?」

「ご主人様よ、俺の包丁は武器じゃねぇぞ」

ご自慢の包丁をレオニスに武器扱いされたラウル、ブツブツと文句を言いながらも空間魔法陣を開いてオリハルコン包丁を取り出す。

レオニスはラウルからオリハルコン包丁を受け取り、海樹の枝が置いてある方に向かう。

そして迷うことなく、厚さ50cm強の厚さにスパスパと切り分けていく。

50cmギリギリに切るのではなく、目分量で気持ち多めに切るのは後でセイに厚さを揃えてもらうために余裕を持たせているのだ。

「こんなところか。ラウル、包丁ありがとうな」

「どういたしまして」

「にしても、このオリハルコン包丁の切れ味、マジやべーな!すんげー切れ味じゃん、やっぱ俺も一本欲しいわー」

「何言ってんだ、武器庫にオリハルコンの長剣が普通に転がってただろ」

「それとこれは別モンだっての」

海樹の枝の切り分け作業をサクッと終えたレオニス。

ラウルから借りたオリハルコン包丁を返却しつつ、その抜群な切れ味を大絶賛している。

レオニスの言い草に呆れるラウル。このご主人様のことだ、そのうちファングでオリハルコン包丁を注文しそうだな……と内心で考えている。

貸し出したオリハルコン包丁を空間魔法陣に仕舞うラウルの横で、レオニスもまた空間魔法陣を開いて海樹の枝の切り株を仕舞い込んでいる。

コースター状への切り出しをセイに依頼するため、切り株はレオニスが預かるのが妥当なのである。

海樹の枝を全て仕舞い終えたレオニスが、ナヌス達の方に向き直り話しかけた。

「ヴィヒト、この後の円形の切り出しは俺の知り合いに頼むことにした。俺の知り合いに頼めば、間違いなく完璧な仕上がりにしてくれる」

「そうか、ではそちらはレオニス殿にお任せするとしよう。切り出した品は……そうだな、五個切り出す毎に我等の里に届けていただけるか? 何十個もいっぺんに持ってこられるよりは、我等の方でも少しづつ魔法陣を刻み込む作業をしておきたい」

「承知した。その方が互いに効率良く進められるもんな」

レオニスの提案に頷いたヴィヒト。

ヴィヒトもまたレオニスに、切り出した品をこまめに届けてくれるように依頼する。

確かに全てが仕上がるのを待って一気に届けるよりは、少しづつでも魔法陣を刻み込む作業をしていった方が時間的にも効率良く推進できるというものだ。

だが、それにはレオニスが頻繁にナヌスの里に切り株を届けに行かなければならない。

そのことについて、ヴィヒトは心苦しそうにレオニスに頭を下げる。

「足繁く届けてもらうのは、レオニス殿にも手間をかけてしまうこととなるが……申し訳ない、よろしく頼む」

「そんなこと気にするな。その程度のこと、手間でもなんでもない。もともと俺はこの森の中にも居を構えているしな」

「そう言っていただけると、我等としても非常にありがたい」

「ツィちゃんのために作る結界だ、皆で良い物作ろうぜ!」

レオニスとヴィヒト、どちらからともなく手を出し固い握手を交わす。

そうして一通り話がまとまったのを見計らって、ライトが皆に声をかけた。

「だいたいの話が決まったようだし、そろそろ皆で休憩のお茶にしない?」

「お、いいな。ナヌスの皆も、ツィちゃんや俺達といっしょに一休みしようぜ!」

「おお、茶会のお誘いか。遠慮なくいただくことにしよう」

時刻はちょうど午後の三時少し手前。

皆でおやつタイムを過ごすにはもってこいのタイミングだ。

ライトとラウルが用意したブレンド水の近くに皆で移動し、休憩と称した午後の和やかなひと時を皆で過ごしていった。