軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第841話 海樹の理解とセンス

海底神殿に残る水の女王やアクアと分かれて、海樹のもとに向かうライトとラウル。

ライトが前に海樹のもとを訪ねた時の記憶をもとに、二人で海中散歩よろしく歩いていく。

すると、しばらくして向こうから何かがライト達に向かってくるのが見えた。

それは、三人の男型の人魚であった。

鍛え抜かれた筋肉美溢れる一糸纏わぬ逞しい上半身に、輝く青色の鱗に覆われた下半身。その先端には、長い鰭がひらひらと優美に揺らめいている。

三人ともその手に長槍を持っており、海樹のいる海域周辺を警備する近衛兵のような役割を持っていると見られる。

男人魚達は、少し離れた場所からライト達に声をかけた。

『そこの人族二人、そこで一旦止まれ』

「あ、男の人魚さんだ。こんにちは!」

『海樹の命により迎えに来た。小さい方の一人は、以前にも海樹のもとを訪ねたことがあるな』

「はい!ぼくはライトって言います。今日も海樹ユグドライアさんに会いに来ました!」

『うむ。海樹もお前のことは歓迎なさるだろう。……で、そちらの大きい方は誰だ? 前に来た大きいのとは違うな?』

男型の人魚達の問いかけに、ライトは挨拶と返事を返す。

人魚達もライトのことは覚えているようで、すんなりと受け入れていた。おそらくは、前回ライト達が海樹のもとを訪れた時にも海樹の周辺にいた者達なのだろう。

だが、ライトに対しては寛容でも、ラウルを見遣る眼光は鋭い。

ラウルはこの海域に初めて来たのだから、男人魚達が警戒するのも当然だ。

その警戒を解くために、まずはライトがラウルのことを説明する。

「えーとですね、こちらはラウルと言いまして。見た目はほぼ人族と変わらないんですが、実は妖精なんです」

『……妖精……?』

「はい。ぼくとレオ兄ちゃんが住んでいるカタポレンの森の、とある木から生まれた妖精でして。今は森を出て、人里でぼくとレオ兄ちゃんといっしょに暮らしているんです。……さ、ラウルの方からもご挨拶して」

ライトが軽く説明した後、ラウルにも挨拶をするよう促す。

ラウルはそれに素直に従い、男人魚達に向かって自己紹介をし始めた。

「俺の名はラウル。今ライトから紹介に与った通り、人族ではなくプーリア族という妖精だ。今は縁あって人里で暮らしているが、カタポレンの森にいる神樹のツィちゃんや大神樹のシアちゃんは俺の友達であり親友だ。今日はライトの護衛としてついてきたが、ツィちゃんやシアちゃんの兄である海樹ユグドライアにも是非ともお目にかかりたい。良ければ海樹のもとに案内してくれるとありがたいんだが」

ラウルの淀みない自己紹介が語られている間、男人魚達は少しづつ近寄ってきてラウルのことを繁繁と眺めている。

眉間に皺を寄せ、険しい表情でじっとラウルを見つめてはいるが、その視線に悪意や強い疑念は感じられない。

『ふむ……そちらか妖精というのは、どうやら本当のことのようだな。人族とは異なる力を感じる』

「信じてもらえたようで何よりだ」

『では、海樹のもとに案内しよう。ついてきたまえ』

「はい!」

男人魚達に認められたライト達は、彼らの後をついていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

男人魚達の後をついてしばらく進んでいくと、大きな珊瑚の樹が見えてきた。

その大樹は、赤や青、黄色に橙、緑や紫や桃色に白等々、まるで七色の虹のように色とりどりの枝が無数に広がっている。

海の中にありながら、神樹族として『海樹』を名乗ることを許された唯一無二の存在。それこそが海樹ユグドライアである。

男人魚の近衛三人が、ユグドライアの前で恭しく跪きながら報告する。

『海樹よ、かの人族を連れてまいりました』

『おう、ご苦労だったな』

近衛の男人魚の報告に、ユグドライアが労いの言葉をかける。

男人魚達の後ろにいたライト達は、目の前にいるユグドライアを感嘆の眼差しで見上げる。

初めて海樹を見るラウルはもちろんのこと、二度目のライトですらその美しさ、雄大さに未だに息を呑んでしまう。

ライト達がユグドライアに見惚れていると、ユグドライアの方からライトに声をかけてきた。

『よう、ちっこいの。よく来たな』

「ユグドライアさん、こんにちは!お久しぶりです!」

『良い返事だな。人魚もそうだが、子供は元気なのが一番だ』

「ありがとうございます!」

ライトの挨拶の元気の良さに、機嫌が良さそうなユグドライア。

初めて会った時のバリバリの警戒心はなく、海樹もライトのことを認めてくれているようだ。

そしてユグドライアは、ライトとの挨拶から間を置かずにレオニスが不在なことに言及する。

『ところで、今日は大きい方……名はレオニス、といったか? あいつは来てないのか?』

「あ、はい。今日はレオ兄ちゃんは、デッちゃんのために動いてまして……」

『デプ助のために、か? デプ助が何かしたのか?』

「「……デプ助……」」

ライトがレオニス不在の理由を話すと、海樹はますます不思議そうな声音で問うた。

驚いたことに、海樹のディープシーサーペントの呼称は『デプ助』らしい。

ディープシーサーペントだけに、頭文字と次の音を取った二音に助の字をくっつけて『デプ助』。その短絡的かつ微妙なネーミングセンスに、ライトもラウルもしばし呆気にとられる。

この微ッ妙ーーーな名付けのセンス、誰かに似てるなぁ……はて、誰だったっけ?

………………あッ、ミーアさんか!ミーアさんもルディの名付けの時に、微妙ーーーな名前を羅列してたっけ……

もしかして、サイサクス世界のNPCや高位の存在って、ネーミングセンスが壊滅的にダメなんか? あるいはアレか、 創造神(うんえい) 譲りの避けられない宿命? それってもはや呪いじゃね?

ライトはかつて、第四の使い魔である黄金龍のルディが生まれた時のことを思い出す。

生まれたばかりのオスの黄金龍に、カッコいい名前をつけてあげよう!と皆で考えた際に、真っ先にミーアが出してきた案は『ドラゴンの『ドラ太郎』』『ドラゴンの『ゴン兵衛』』『真ん中の二文字を取って『ラゴ助』』という、それはもう惨憺たるものであった。

しかしまぁ、ディープシーサーペントの本名も『デッちゃん』という実に、実に微妙なものなので、海樹から『デプ助』と呼ばれたところで大差ない気もしてきたライト。

それに、普段から『デッちゃん』と呼ばれているのだから、海樹の『デプ助』呼びだって当人ならぬ当神や海の女王も普通に受け入れている可能性だって大いにあり得る。

何より他所様の呼称にケチをつける気など、ライト達には毛頭なかった。

気を取り直したライト、レオニスの目的を掻い摘んで海樹に話し聞かせていく。

ディープシーサーペントが毎日のように港のある人里に押しかけていたこと、その目的はとある人族の女性を見るのが目的だったこと。

その目的の女性とディープシーサーペントを引き合わせるために、レオニスは女性を迎えに行ったこと。そして自分達はディープシーサーペントを迎えに来たこと等々。

大まかではあるが、状況を把握したユグドライアが納得したように呟いた。

『あー……あいつ、そんなに頻繁に人族の里に押しかけてたんか……そりゃ人族にとっちゃ大迷惑だわなぁ、何しろあの図体だし』

「はい……でも、デッちゃんには悪意や害意はなかったみたいですし、きちんと話せばデッちゃんも分かってくれたので……それで、デッちゃんの話を聞いたクレエさんの方から、デッちゃんに会って直接話をしたいって申し出があったんです」

『そうか……まぁな、デプ助はあんな 形(なり) してて顔も不気味系の強面だが、本当は気が小さくて小心者というか……根は優しいヤツなんだよな』

ライトの話に、ユグドライアは全力で頷かんばかりにディープシーサーペントを擁護する。

現時点では、ディープシーサーペントや海樹の年齢がいくつなのかは分かっていない。だが、世界で四番目の神樹である海樹は少なくとも千歳は超えているはずだし、ディープシーサーペントもエンデアンとの長きに渡る因縁関係が存在することから、こちらも数百年は生きていると思われる。

海樹のいる場所から海底神殿は距離的に近いし、何百年もご近所さん同士していれば、それなりに互いのことを知っているのだろう。

もっとも、仲良しとまで言える関係かどうかまでは分からないが。

『しかし……人族側からデプ助に歩み寄るなんて、意外というかその姉ちゃんも随分と肝が座っているようだな』

「そうですね、クレエさんは普段から冒険者相手にいろいろと取り仕切る立場ですから」

『冒険者ってのは、お前達のような者のことを言うのか?』

「はい。ぼくはまだ子供で冒険者にはなれていないですけど、レオ兄ちゃんやラウルは冒険者です」

『そうか。身体が大きくなった大人がなるもんなのか』

人族の文化に興味津々の様子のユグドライア。

かつて彼は『人族のことは信用しない』と言っていた。だが、自分の姉妹達と懇意にしている者ならば、人族であったとしても認めているようだ。

『……ま、何はともあれだな、デプ助にとっても人族にとっても良い方向に話が進むといいな』

「はい!そのためにレオ兄ちゃんも、いろいろと頑張ってますから!」

『そうだな……お前達は、俺の大事な妹も守ってくれたからな……』

ユグドライアが静かな声でしみじみと、先日のユグドラツィ襲撃事件に触れた瞬間だった。