軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第840話 蛇龍神の寝顔

アクアの水中移動で、ラギロア島沖にある海底神殿に着いたライト達。

海底神殿の真横には、ディープシーサーペントが横たわっていた。

そしてライト達がアクアの背から降りている間に、神殿の中から海の女王が慌てたように飛び出してきた。

『水の姉様!アクア様!』

『あッ、海の女王ちゃん!こんにちは!』

『やぁ、海の女王、お久しぶり』

『こちらこそご無沙汰しております!』

取るものもとりあえずすっ飛んできた海の女王。心なしかその髪が若干乱れているように見える。

実際のところ、神殿の中でのんびり寛いでいたら実姉と直属上司がアポ無し訪問してきたようなものだ。そりゃ慌ててすっ飛んできて当然だろう。

そして、水の女王とアクアに挨拶をした海の女王、他にも人間二人がついてきたことにようやく気づいたようだ。

ふとライトと目がかち合い、今度は少しだけリラックスしながらライトに声をかけた。

『……ああ、貴方達も来てたのね。お久しぶり、ライトにレオニ…………ン? レオニスじゃ、ない……?』

海の女王、ライトに挨拶している最中に怪訝な顔になっていく。

ライトの横にいたラウルのことをレオニスと間違えかけたが、すぐに違うことに気づいたようだ。

そんな海の女王に、ライトが挨拶しながらラウルを紹介する。

「海の女王様、こんにちは!こちらにいるのはラウルと言って、ぼくとレオ兄ちゃんの家で執事してる妖精です」

『まぁ、そうなのね。大きさがレオニスと似てるから、一瞬間違えかけたけど……よくよく見たら色も 顔貌(かおかたち) も全然違ったわ。ていうか、人族じゃなくて妖精なの?』

「はい。さ、ラウル、海の女王様にご挨拶して」

ライトの催促を受けて、ラウルが一歩前に出て海の女王に挨拶を始めた。

「海の女王、お初にお目にかかる。俺の名はラウル。プーリアという妖精族の一員だが、今は縁あってレオニスの家で執事として人里に住んでいる。ご主人様達ともどもよろしくな」

『ラウル、ね。レオニスやライトが信頼する者なら、人族であろうと妖精族であろうと私も信用するわ。それに、アクア様が水の姉様とともにその背に乗せるくらいですものね』

「ああ、水の女王やアクアとも親しくさせてもらっている」

『それだけで十二分に信に足るわ』

ライト達とともにやってきた初対面のラウルに対し、海の女王は歓迎の意を示す。

属性の女王達の恩人であるライトとレオニスの関係者というだけで、ラウルは海の女王からの信頼を得ることが可能だ。それに加え、水神であるアクアの背に乗って現れたのだから、海の女王がラウルを疑ったり不審に思う要素など微塵もなかった。

ラウルが無事受け入れられたことで、ライトは安堵しながら海の女王に話しかけたけど

「レオ兄ちゃんは訳があって、後で合流する予定です」

『そうなのね。というか、今日は何か用事があって来たの? それとも水の姉様やアクア様と遊びに来たとか?』

「えーとですね、実は…………」

ライトは今日の海底神殿の訪問目的を海の女王に聞かせていく。

デッちゃんがお気に入りだという全身淡紫のお姉さん、クレエがデッちゃんと直接話をしたいと思っていること、だからクレエとデッちゃんを会わせてあげたいと思っていること、そのためレオニスは自分達とは別行動でクレエを迎えに行っていること等々。

それを聞いた海の女王は、嬉しそうな顔をする。

『まぁ、デッちゃんが言っていた『淡紫の可愛いお姉さん』と会わせてもらえるの!? デッちゃんもとても喜ぶと思うわ!』

「はい!デッちゃんがここにいてくれて良かったです!……が……デッちゃん、寝てますよね?」

ライトが神殿横にいるディープシーサーペントをちろりと見遣る。

そう、ディープシーサーペントは何と爆睡中であった。

ライト達が海の女王と挨拶や会話を交わしたりしている間にも、ディープシーサーペントのいびきが聞こえてきていた。

ふがぁぁぁぁ……すやすぴぴぴぴ……ふにゃへへへ……ボクちん、もう食べれなぁい……

時折寝言のような、何とも言えぬ寝言混じりのいびきが今もライト達の耳に聞こえてくる。

ディープシーサーペントの寝顔も、剥き出しの歯がニヨニヨと笑ったり、かと思えば突然歯をカチカチと鳴らし歯軋りのような音を立てたり、百面相のようにクルクルと変わる。

長い胴体は時折クネクネと動き、まるで身悶えしているかのようだ。

そんなディープシーサーペントの寝姿を、海の女王は微笑みながら見つめている。

もともとディープシーサーペントの顔自体そこまで可愛らしいものではないのだが、そのコミカルな動きを見ていると何故だかだんだんと可愛らしく思えてくるから不思議である。

『ええ、デッちゃんはまだ寝ているわ。この子、いつもお昼頃にならないと起きないのよね』

「そうなんですか? じゃあ、起きるまで待っていた方がいいですかね?」

『そうね……訪ねて来てくださったアクア様や水の姉様達を待たせてしまうのは、非常に申し訳ないんだけど……そうしてもらえるとありがたいわ。うちのデッちゃんって、一度寝たら梃子でも起きないから』

あまりにも気持ち良さそうに寝ているディープシーサーペント。

それを無理に叩き起こすのは可哀想かな、とライトは思ったのだが。それ以前に、どうもこの蛇龍神は一度寝付くと叩き起こそうとしても起きないらしい。

もっとも、巨大な体躯の蛇龍神相手に多少ペチペチと叩いたところで、びくともしないだろうが。

とはいえ、ディープシーサーペントが遠出していて不在だった場合も想定していたライトにとっては、この海底神殿にディープシーサーペントが滞在していただけでも御の字だ。

それに、昼頃には起きるというのならそれまで待てば良い。レオニスの方も、クレエを迎えてから合流地点である崖まで到着するのは昼頃になるはずだからだ。

それら諸々のことを考えて、しばし無言だったライトは徐に口を開いた。

「海の女王様、そしたらぼくとラウルはお昼になるまでの少しだけの間、席を外してていいですか? レオ兄ちゃんに、海樹ユグドラグスのところにも挨拶に行くように言われているんです」

『海樹のところにも顔を出しに行くの? もちろんいいわよ。私は水の姉様やアクア様とお話をしながら、デッちゃんが起きるのを待つから』

「ありがとうございます!」

海の女王から承諾を得たライトは、海の女王にペコリと頭を下げる。

ライトがレオニスから海樹のところにも行くように、と言われたのは本当のことだ。

先日のユグドラツィ襲撃事件のことで、海樹もきっと相当心を痛めていたはずだからだ。

本当ならレオニスもともに行ければ一番いいのだが、今日は別行動なのでそれはできそうにもない。

なので、もし時間があるようなら海樹のところにも顔を出してやってくれ、とレオニスから前もって言われていたのだ。

ライトは早速とばかりに、水の女王とアクアの方に身体を向き直す。

「水の女王様、アクア、ここで海の女王様といっしょに待っててくれますか?」

『いいわよー、私は海の女王ちゃんとたくさんお話したいし!』

『分かった、僕はデッちゃんが起きるまで、海の女王とお話したりこの周辺をゆっくりと泳ぎながら見物してるよ』

「皆、ありがとう!」

水の女王とアクアの快諾も得て、ライトが皆に礼を言う。

嬉しそうに破顔するライトに、海の女王が先立って提案する。

『もし貴方達がここに帰ってくる前にデッちゃんが目を覚ましたら、人魚達を遣わして貴方達に教えるわ』

「そうしてもらえると助かります。じゃ、ラウル、行こうか」

「おう」

こうして水の女王とアクアは海底神殿に残り、ライトとラウルは海樹のもとに向かっていった。