軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第802話 早々の帰郷

カタポレンの家からラグナロッツァに戻り、軽く昼食を摂るライト達。

食事をしながら午後の予定を話し合う。

「さて、午後はどこに行こうか」

「レオ兄ちゃん、どこかいいところある?」

「そうだなぁ……人がたくさんいて、面白そうな場所というと―――」

これまで行ったことのない場所で、人がたくさんいてフギン達の観光にもなりそうなところをあれこれと考えるライト達。

すると、それまでライト達とともにタコ焼きを啄んでいたフギンが、口の中のものを飲み込んでからライト達に話しかけた。

「あの……レオニス殿、ライト殿、少しいいでしょうか」

「ン? 何だ?」

「我等は明日までここに滞在する予定でしたが……本日日の明るいうちに、里に帰ろうと思います」

「「「えッ!?」」」

「「…………」」

フギンの言葉に、ライトとマキシとレイヴンは驚愕の声を上げ、レオニスとラウルは無言でフギンを見つめる。

驚いたライトやマキシが、慌ててフギンに声をかける。

「フギンさん、もしかして……ぼく達の人里案内がつまらなかったですか!?」

「いや、決してそんなことはない!ライト殿やレオニス殿、そしてラウル殿にも心尽くしのもてなしをしていただけて、本当に心から感謝している!」

「フギン兄様、でしたら何故今すぐ帰ろうとなさるのですか!?」

「それは……」

マキシからの問いかけに、フギンが慌てて否定する。

そしてマキシの追撃の質問に、空間魔法陣を開いて何かを取り出した。

それは、先程オーガの里でラキに書いてもらった書状だった。

「これは先程、ラキ殿からいただいたトロール族族長への書状でな。これを今すぐ里に持ち帰って、父様や母様にご報告したいのだ」

「それは……」

「そして、明日にもトロール族にこれを届けて話し合いをしたい。ラキ殿が仰っていたように、八咫烏の里とトロール族は互いに距離が近い。我等が新たに交流を持つに、まさにうってつけな相手だからな」

「…………」

フギンの意思を知ったマキシは、それ以上何も言えなくなる。

これまで閉鎖的だった八咫烏一族が、自ら変わろうとしている。

己の殻を破り、外に目を向けようと懸命に努力する兄の姿に、マキシは深い感動を覚えていた。

「そういうことでしたら、すぐにでも里に戻らなければなりませんね」

「ああ。本当はマキシ、お前とももっとゆっくりと語らいたかったのだが……すまんな」

フギンがマキシの目の前に移動し、早々に帰郷することを謝る。

そしてすぐさまレイヴンに向けても謝罪した。

「レイヴンもすまない。お前も人里見学をとても楽しみにしてたのに……何ならお前だけ予定通り、明日帰ってきてもいいぞ」

「何を仰いますか!俺もフギン兄様といっしょに里に帰ります!」

「……いいのか?」

「俺だって八咫烏一族の一員です!俺のことなんかよりも、八咫烏の里の未来の方がずっとずっと大事です!」

「レイヴン……」

すぐに帰ると決意した兄を、レイヴンは心から応援している。

聞き分けの良い弟に、兄は安堵しつつも申し訳なさそうな表情になる。

だが、当の弟達は兄を尊敬の眼差しで見つめながら、さらに応援の言葉を続けていく。

「フギン兄様は、次代の八咫烏一族を背負い担う御方。一族の未来のために頑張る兄様を、僕は全力で応援します!トロール族との会談も、父様とともに頑張ってくださいね!」

「ありがとう、マキシ。お前にそう言ってもらえると、私も心強い」

「俺はフギン兄様を信じています!フギン兄様ならきっと、きっと成し遂げられます!」

「ああ、任せておけ。必ずやトロール族との交流を成立させてみせる。レイヴンも頼りにしてるぞ」

「はい!」

マキシとレイヴンの全力の応援に、フギンも柔らかな笑顔を浮かべる。

小さくて非力だと思っていた末弟。それが、自らの意思で家を飛び出して、里の外どころか森の外にまで出てしまった。

それだけでも驚愕の事態だというのに。マキシが住んでいるという人里の規模の大きさたるや、フギンの想像のはるか上をいくものであった。

お前はもう、いつまでも小さくて弱々しい弟ではないのだな。

……いや、お前は歴代の八咫烏一族の中でも最も偉大な英雄だ。敬愛するシア様の厄災をその身に一身に引き受けて守り続けた。

それだけでも立派なことなのに、我等の閉じた 眼(まなこ) を開かせてくれた恩鳥でもあるのだから。

八咫烏の里に新たなる風をもたらしてくれた、偉大なる英雄マキシ。

彼の行く末に、無限の幸あれ―――

フギンは心の中でマキシを讃えながら、右の翼でマキシの頬を優しく撫でていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「レオニス殿、ライト殿、ラウル殿。短い間でしたが、本当にお世話になりました」

「何の、またいつでも遊びに来てくれ」

「ありがたいお言葉、痛み入ります。この御恩は一生忘れません」

「つーか、フギンよ、そろそろ俺達にも敬語無しで喋ってくれてもいいんだぞ?」

「ぁー、そ、それは……努力いたしま……する」

フギン達の帰郷のため、ラグナロッツァの屋敷の浴室に皆で向かうライト達。

廊下でのレオニスとフギンの会話に、思わずライト達の顔も緩む。

「ウルスやムニン達にも、今後は敬語無しって言っといてくれよ? お前達八咫烏は、揃いも揃って生真面目すぎるぞ?」

「は、はい…………ぃぇ、わ、分かった」

「御恩は忘れないってんなら、俺達とも普通に会話してくれ。その方が俺は嬉しいから、これも立派な恩返しにもなるぞ」

「承知した。父様達にもそう伝えておこう」

レオニスの肩に乗るために自ら文鳥サイズになったフギンと、未だに堅苦しい口調のフギンの頬を人差し指でフニフニと突つくレオニス。

フギンはもともとが堅苦しい性格なので、恩人相手に敬語無しで喋るのもなかなかに難しそうだが、レオニスの言い分も尤もである。

レオニスもライトとともにもう何度も八咫烏の里を訪問しているし、何より先日の神樹襲撃事件においてユグドラツィを救うべく共闘した仲間でもある。

レオニスにとって、あの死線をともに潜り抜け生き抜いたフギン達は、もう立派な仲間。仲間内で敬語を使うなんて水臭いぞ!という訳だ。

レオニスの要望に、堅苦しいフギンも観念したのか頷きながら了承する。

そして今の会話で、フギンがはたと何かを思い出したようにレオニスに話しかけた。

「……あ、父様達にも、と言えば。我等の次に、父様とケリオンが人里見学に行くという話になっていたはずだが……」

「おお、そういやそんな順番だったな」

「トロール族との交流樹立を最優先に行動したいので、父様達の人里見学はしばらく延期させてもらえないか」

「ああ、そうだな。トロール族と交渉するなら、まずは族長であるウルスが出向かなきゃ話が始まらんもんな」

「そういうことだ」

フギンの申し出に、レオニスも納得しながら頷く。

人里見学第二陣のフギンとレイヴンの次に、最後にウルスとケリオンが人里見学に入れ替わりで来る予定だった。

だが、ラキからの贈り物にしてフギンの土産であるトロール族族長への書状は、これからの八咫烏の里を大きく変えていくであろう最重要案件だ。

こんな重大案件は、族長ウルス自らが率先して動いていかなければならない。故に、のんびり人里見学などしてはいられないのである。

そして浴室に辿り着いた一行。

ライトが浴槽に向かって声をかける。

「ウィカ、ぼくだよ、ライトだよー。今来てもらえるー?」

ライトの呼びかけの数瞬後、小さな気泡が一つ二つ浮き上がったところでウィカが音もなく登場した。

『ヤッホー♪ ライト君、呼んだー?』

「うん!今日はフギンさんとレイヴンさんが八咫烏の里に帰るから、二羽をモクヨーク池まで連れていってあげてほしいんだ」

『オッケーオッケー♪ ライト君達もモクヨーク池行くー?』

ライトのオーダーを受けたウィカが、糸目笑顔でライトに尋ねる。

すると、その問いにライトではなくフギンが答えた。

「いや、ウィカ殿、今日は我等二羽だけを送っていただけるとありがたい」

『そなのー? ま、僕はどっちでもオッケーだけどね?』

「ウィカ殿にはいつもお世話になりかたじけない」

『いーのいーの、そんなこと気にしないでー!』

相変わらず堅苦しい物言いのフギンに、ウィカがニパッ☆と眩しい笑顔で応える。

ウィカのこの軽さは、真の主であるライトよりもキニシナイ!大魔神の申し子レオニス寄りかもしれない。

ウィカに運んでもらいやすいように、小さい文鳥サイズのままウィカの腕にそれぞれしがみつくフギンとレイヴン。

黒猫相手に文鳥二羽がぴったりと寄り添う、なかなかに珍しい絵面である。

「レオニス殿、ライト殿、ラウル殿、そしてマキシ。皆本当にありがとう」

「また今度ゆっくりと遊びに来るから!その時はよろしくな!」

「おう、フギンもレイヴンも頑張れよ」

「皆さん、人化の術の練習頑張ってくださいね!」

「また美味いもん食わせてやるからな、人化できるよう頑張れよ」

「兄様達のご活躍を、心よりお祈りしてます!」

「「ああ!」」

ライト達に別れの挨拶を済ませたフギンとレイヴン。

二羽の挨拶を見届けたウィカが、皆に向けて声をかける。

『じゃ、そろそろモクヨーク池に行くよー!』

「ウィカ殿、よろしく頼む」

「皆も元気で!またな!」

音もなく浴槽の水面にトプン、と消えていくウィカ。

ウィカの左右にいたフギンとレイヴンも、ずっとライト達に向けて翼を振っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

フギンとレイヴンを無事見送ったライト達。

浴室から客間に移動する。

「さて……フギンとレイヴンの人里案内する必要がなくなった訳だが……皆どうする?」

レオニスの問いかけに、ライト達がそれぞれ答えていく。

「ぼくは夏休みの宿題をもう一度見返しておこうかなー。あと、二学期の準備もしておかなくっちゃ」

「俺は収穫した野菜の下拵えをするかな」

「じゃあ僕はラウルのお手伝いをします!」

午後の空いた時間に、それぞれやりたいこと、しておきたいことをレオニスに伝える。

やりたいことがすぐに思い浮かぶのは良いことだ。

ライト達の答えを受けて、レオニスもうんうん、と頷きながら口を開く。

「そっか、じゃあ俺はカタポレンの森の警邏をしてくるわ。時間に余裕があるからちと遠くまで行ってくるか」

「レオ兄ちゃんも気をつけて行ってきてね!」

「おう、ライトも夏休みの宿題ちゃんとできてるか確認しとけよ」

「うん!ラウルとマキシ君も、お料理頑張ってね!」

「ああ、皆に美味い野菜料理を出してやれるように頑張るわ」

「僕も手伝うから、たくさん下拵えしようね!」

「よろしくな、頼りにしてるぞ」

ライトの頭をくしゃくしゃと撫でるレオニスに、同じくマキシの頭をくしゃくしゃと撫でるラウル。

そうして四人は各々やるべきことをこなすべく、それぞれ散っていった。