軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第801話 新たなる国交樹立

「ンふぅ……気持ちいい~……」

ルゥに頭や胸元を優しくブラッシングされたマキシが、思わずため息を洩らしながらうっとりとしている。

マキシも最初のうちこそビクビクとしていたが、最高級ブラシとルゥの卓越したブラッシングの腕にすっかりメロメロである。

「マキシちゃん、どう? 他に痒いところとかない?」

「すんごーく……気持ちいいれすぅ……」

ルゥの問いかけに、心底心地良さそうに答えるマキシ。

あまりの心地良さに蕩けそうなマキシ、デロンデロンに溶けてスライムになってしまいそうな声である。

「あ、ルゥちゃん、マキシくんの羽根や羽毛もとても貴重なものだから、ブラシについた毛はぼくにちょうだいね」

「うん!」

ライトの要望に、ルゥは快く応える。

ちなみに黒妖狼のラニの毛も、実はルゥに頼んでとっておいてもらってある。

先程ラニのブラッシングを終えた分と、これまでにルゥが日々貯めてきた分。両方合わせて結構な毛を譲ってもらっていた。

黒妖狼であるラニの毛に、果たして幻獣カーバンクルのフォルやフェンリルの末裔である銀碧狼のアル親子のような、何か素晴らしい効果があるかどうかは分からない。

だが、黒妖狼もまた銀碧狼同様にこのサイサクス世界では貴重な生き物。いや、ラニの特殊な出生―――使い魔の卵から生まれたことを考えると、もしかすると銀碧狼より稀少性が高いかもしれない。

なので、とりあえず一度はアイギスで毛糸にしてもらって、何かーつ作ってみよう!とライトは考えたのだ。

良い効果があればまずルゥにプレゼントして、良くも悪くもなく特に害がなければラニ用に何かを作ればいい。そしてもし万が一マイナス効果がつくようなら、ライトが責任を持って処分するなり管理すればよい―――ライトはそこまでいろいろと考えて、黒妖狼の毛糸活用方法を模索し計画しているのだ。

ライトの飽くなき探究心ともったいない精神、ここに極まれりである。

ほんの少しだけブラシについたマキシの毛を、ルゥがそっと取り外してライトに手渡す。

「あまりついてないけど……どうぞ!」

「ありがとう!」

ライトとルゥ、そんなやり取りをしているとフギンとレイヴンがライト達のもとに来た。

「あ、フギンさんにレイヴンさん。レオ兄ちゃん達とのお話は終わりましたか?」

「いいえ、今ラキ殿が席を外したところなので、少しだけ様子を見にこちらに戻ってきたのですが……」

「……どうした、マキシ?」

今ラキはフギン達へ持たせる紹介状を書くために、筆記具を取りに別の部屋に出ている。

その間に、途中退席してしまったライト達の様子を見にきたようだ。

だが、そこでマキシの意外な姿を目の当たりにしたフギン達はびっくりしている。

「これは一体……ライト殿、マキシはどうしたのですか?」

「マキシ……寝てるのか? それともどこか具合が悪いのか?」

「……ふにぇぁ……」

ブラッシングの心地良さに、完全にノックダウンしているマキシ。

今まで見たこともないような、あられもない腑抜けた弟の姿に兄達は実に心配そうに声をかけている。

マキシが体調を崩しているのか!?と勘違いしている様子のフギン達に、ライトが慌てて説明する。

「あ、違います!さっきまでルゥちゃんにブラッシングしてもらってて、それがとっても気持ち良かったらしくて……」

「……何ですと……」

「具合が悪いんじゃないなら良かった……」

ライトの状況説明に、ほっと安堵するフギンとレイヴン。弟の身を案じる、心優しい兄達である。

しかしそうなると、今度はブラッシングなるものが気になってくる。

マキシをここまで骨抜きにするブラッシングとは、一体何なのか。それは、どのようなものなのであろうか―――

ものすごーく気になったレイヴンが、早速ライトに尋ねる。

「ライト殿。そのブラッシングというのは、そんなにも気持ち良いもんなんですか?」

「えーと、ここにいるラニなんかもそうですが、犬や猫、馬などの四本足の動物はブラッシングされるのが大好きですよ。もちろんそれは、ブラッシングしてあげる人の腕や信頼関係なんかにも左右されますけど」

「なるほど……ルゥ殿のブラッシングの腕前が一流ということなんですね!」

ライトの解説に、レイヴンが得心したように頷いている。

マキシもレイヴン達と同じく、オーガの里を訪ねるのはこれが初めてのことだ。

だが、オーガ族の話だけならライト達からも時折聞いており、特に最近はオーガの里で料理教室の先生を始めたラウルからも、様々な話を聞いて知っていた。

なので、マキシはルゥに対しても最初から好意的で親しみを持っていたのだ。

ライトとレイヴンの会話に、ほぼ寝そべっているマキシの横で聞いていたルゥが加わってきた。

彼らの会話の中で、自分の名が出てきたからだろう。

「そうよ、ルゥはこの里の中でブラッシングが一番上手なんだから!……って、『ルゥドノ』って、ナニ?」

「えーとね、敬称……っても分かんないか。要は『ルゥちゃん』って呼んでるのと同じようなものかな」

ルゥがレイヴンから『ルゥ殿』と呼ばれていることに、不思議そうな顔をしている。

ルゥはオーガ族の中でもまだ子供。普段『ルゥ』もしくは『ルゥちゃん』と呼ばれているので、『ルゥ殿』などという畏まった呼ばれ方をされたことがないのだ。

そしてライトから『殿』とは呼称の一種であることを聞き、少し拗ねたような顔でレイヴンに話しかけた。

「むぅー……『ルゥちゃん』ならいいけど、『ルゥドノ』は何かゴツくて可愛くないから嫌!ねぇ、カラスちゃん、私のことは普通に『ルゥ』とか『ルゥちゃん』って呼んで?」

「あ、はい、分かりました。そしたら俺のことも、これからは『レイヴン君』って呼んでくれると嬉しいッス!」

「分かったわ!そしたらレイヴン君もブラッシングする?」

「はい!ルゥちゃん、よろしくお願いするッス!」

堅苦しい呼称を嫌うルゥにより、双方の垣根が下がったルゥとレイヴン。互いに『レイヴン君』『ルゥちゃん』と呼び合い、一気に距離が縮まったようだ。

そして早速ルゥが、レイヴンに自慢のブラッシングの腕前を振る舞うという。

もちろんレイヴンがその誘いを断るはずもない。マキシをメロメロにしたブラッシングなるものを、自らの身体で体験できる絶好の機会なのだから。

「じゃあ、レイヴン君、こっちに来て座って!」

「はい!……あ、フギン兄様、ラキ殿が戻られたらよろしくお伝えくださいね!」

「ぉ、ぉぅ……」

三本足でいそいそとルゥのもとに駆け寄っていくレイヴンに、フギンは半ば取り残されるような形で後を任されてしまった。

フリーダムで人懐っこい三男坊の要領の良さに、生真面目な長男はただただ唖然とするばかりである。

するとそこに、ラキがその手に封書を携えて客間に戻ってきた。

「待たせてすまない。別室で書いてきたので、これをフギン殿にお渡ししよう……って、フギン殿は 何処(いずこ) に?」

「あ、はい!すみません!すぐにそちらに参ります!」

真っ直ぐにテーブル席にいったラキが、フギンの姿が見当たらないのでキョロキョロと周囲を見回している。

一方ライト達とともにいたフギンは、ラキの帰還に慌ててテーブに戻っていった。

そしてレイヴンは、早速ルゥのブラッシングを受けている。

ラニやマキシにしたのと同じく、ゆっくり丁寧にブラッシングしていくルゥ。レイヴンはその心地良さに目を細めてうっとりしている。

レイヴンはもうすっかりその身をルゥに委ねている。

ラキとフギンの交流が、それぞれの一族の代表として行う『外交』としての意味合いが強いとしたら、ルゥとレイヴンの交流は子供同士の『草の根交流』である。

ルゥとレイヴンの草の根交流が交わされている横で、マキシがスヤスヤと寝入っている。

エステサロンレベルの気持ち良さに、すっかり夢の中のようだ。

長兄はテーブル側で一生懸命に外交に励んでいるというのに、弟二人は呑気なものである。

だが、レイヴンはともかくマキシにはこんな日があってもいいだろう―――テーブル席からちろりと弟達を見遣るフギンはそう思う。

フギンはラキから書状を受け取り、何度も何度も礼を言う。

八咫烏一族の名代として、その名に恥じぬようフギンは懸命に責務を果たそうとしている。

立場も役割も違う兄と弟。

弟達の蕩けるような表情を、兄は横目で見ながら異種族交流を深めるべく奮闘していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後フギンはラキに案内されて、レオニスとともにオーガの里の内部を一回り見学してきた。

賑やかで闊達なオーガの民達を見て、フギンは終始感嘆していた。

鍛錬場では子供達が剣やダーツの訓練をしていたり、里の外れの方では長老ニルが年寄りオーガ達に弩の訓練を指導している。

訓練の見学に来たレオニス達を見て、年寄りオーガ達が笑いながら「おお、角持たぬ鬼ではないか!」「今日も角を隠しておるのか?」と囃し立てた。

それに対してレオニスも、「ジジイども、元気だな!つーか、本当にあと千年は長生きしそうだな!」と軽く悪態をつくのはご愛嬌である。

オーガの里の中を一周して戻ってきた頃には、マキシもレイヴンも目が覚めて起きていた。

客間のテーブルで、ルゥがリーネとともに作った『ぬるぬるドリンク絶品ブレンド(ライト命名)』を、ラウルが出したバニラクッキーとともにのんびりと飲んでいる。

「あ、レオ兄ちゃん、おかえりなさい!」

「ご主人様、おかえりー」

「「フギン兄様、おかえりなさい!」」

「パパ、レオちゃん、フギン君、おかえりー!」

「あなた、お疲れさま」

戻ってきたレオニス達に気づいたライト達が、帰ってきた家族をそれぞれ笑顔で迎える。

おかえりの言葉をかけられたレオニス達も、それぞれに「ただいま」と笑顔で応えている。

「さ、じゃあ俺達はそろそろラグナロッツァに帰るか」

「そうか、大してお構いもせずすまんな」

「いやいや、こっちこそいつも連絡もせずに突然来てすまんな」

「全くだ」

「うぐッ」

レオニスの謙遜に、ラキが即座に肯定する。

だが、そのすぐ後に本音を付け加えることも忘れないラキ。

「だが、今日は我等オーガ族とフギン殿達八咫烏族が初めて顔合わせした目出度い日だ」

「そうだな」

「お前はいつもこんな善き出会いを、我等にもたらしてくれるからな。突然の訪問だろうと何だろうと大歓迎だ」

「オーガと八咫烏の交流の架け橋になれたなら幸いだ」

どちらからともなく手を差し出し、握手を交わすレオニスとラキ。

固い握手を交わしながら、ラキがニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる。

「というか、レオニスよ。そもそもお前に細やかな気遣いなど端から期待しておらんから気にするな」

「だよな!つーか、それ、お前らオーガにも言えることだからな?」

「違いない」

「「ワーッハッハッハッハ!」」

握手をしながら高笑いするレオニスとラキ。

今日も底抜けに明るい脳筋親友同士である。

一頻り高笑いした後、ラキがフギンに向けても手を差し出した。

「フギン殿。トロールの里の族長に、オーガ族族長がよろしく言っていたと伝えておいてくれ」

「ありがとうございます。ラキ殿の御高配、このフギン一生忘れません」

「そんな畏まらずともよい。ここから八咫烏の里は遠いが、レオニス達のもとを訪ねた折などに、いつでも気軽に遊びに来られるがよい」

「はい!必ずやまたこの里に立ち寄らせていただきます!」

ラキの差し出した大きな手に、フギンも右の翼差し出して握手のように触れ合う。

オーガ族と八咫烏族、双方にとって貴重な出会いに感謝しつつフギン達はライト達とともにオーガの里を後にした。