軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第711話 四ヶ月ぶりのお茶会

ユグドラツィが目覚めた日から、遡ること二日前。

ライトとレオニスは、暗黒の洞窟に向かっていた。

何故かというと、暗黒神殿の闇の女王にお礼を言いに行くためだ。

ライトとレオニスが、ピースとともにプロステスに出かけていたあの日の夜。闇の精霊がライト達にカタポレンの森の異変を知らせてくれた。

それがなければ、ライト達がその日のうちにユグドラツィの危機に気づくことはなかっただろう。

例え気づけたとしてもそれは翌日以降となり、ユグドラツィの危機に駆けつけることはできなかったはずだ。

もしそうなっていたら、分体の腕輪を通して気づけたラウルとマキシだけでは到底あの黒い瘴気を抑えきれなかった。

マキシの家族の八咫烏族長一族の援軍や、天空島からの使者ヴィゾーヴニルとパラスがいても、瘴気の本体である黒い粘液体を撃破するには至らなかっただろう。

そう考えると、ライト達は背筋が凍る思いだ。

手遅れにならずに良かった―――そう思うと同時に、そうならずに済んだのは闇の女王がレオニスに向けて異変を知らせてくれたおかげであることを、ライト達は深く理解し感謝している。

そのため、ライト達は闇の女王に礼を言いに暗黒神殿に向かっているのである。

暗黒の洞窟に入り、一層の一番奥の転移用円陣に辿り着いたライト達。

そこから先は、闇の勲章により三層よりも最奥の暗黒神殿のある大広間に直接飛べるのだ。

早速円陣の中に入り、暗黒神殿のある最奥大広間に飛んだライトとレオニス。

辿り着いた先には、紫炎が照らす幻想的な光景が広がっている。

その紫炎に囲まれた中心に暗黒神殿があり、中から闇の女王と暗黒神殿の守護神ノワール・メデューサのクロエが出てきた。

二人がライト達の来訪を歓迎する。

「闇の女王様、ココちゃん、こんにちは!」

『おお、ライトにレオニス、よう来たの』

「二人とも久しぶりだな」

『パパ!お兄ちゃん!こんにちは!』

「「………………」」

絶世の美女二人からの温かい出迎えに、二人して口をポカーン、と開けながらしばし言葉を失う。

ライトはクロエにお兄ちゃんと呼ばれたことへの感激に浸り、レオニスは同じくクロエにパパと呼ばれたことへの衝撃に撃沈しているのだ。

「うおおおお、ぼくにもこんな可愛い妹ができるなんて……」

「うおおおお、まだ結婚すらしてねぇ俺が、嫁より先に娘を持つことになるとは……」

『『?????』』

くゥーーーッ!と感激の涙を流すライトに、同じくくゥーーーッ!と悲哀の涙を流すレオニス。傍から見たら全く同じような図なのに、その悲喜は天地ほどに違う。

そんな二人の様子を、闇の女王とクロエは不思議そうな顔をして見ている。

いや、レオニスがパパ呼ばわりされるのは、何も今に始まったことではない。クロエが卵から孵化した直後から、その場にいた者は全員クロエの家族として認識されていた。

レオニスはパパ、闇の女王はママ、そしてライトはお兄ちゃん。

全員血の繋がりこそないが、クロエにとって彼らは生まれた時から深い絆を持つ大事な家族なのだ。

レオニスも、そこら辺は分かっているからこそ、クロエのパパ呼びを面と向かって否定したりはしない。むしろ、家族の絆というものに縁の薄いレオニスだからこそ、家族が増えることは大歓迎だ。

ならば何をそんなに落ち込むのか?と言えば、未だ嫁候補すら確保できていない己の不甲斐なさを嘆いているだけのことである。

『ところでレオニスよ。カタポレンの森の異変はどうなった? ひとまず悪しき氣は晴れたようだが……』

「……ああ、今日はそのことについての報告と礼を言いに来たんだった」

『パパもお兄ちゃんも、頑張って悪者退治してくれたのよね? ありがとう!』

闇の女王の問いかけに、落ち込んでいたレオニスがはたと我に返る。

クロエも事件が無事解決したことに、心から喜んでいるようだ。

そんな二人に、ライト達も明るい顔で応える。

「こちらこそありがとう!闇の女王様達のおかげで、神樹のツィちゃんを助けることができました!」

「ライトの言う通りだ。闇の精霊の使いで異変を教えてもらえなければ、今頃もっと酷いことになっていたはずだ。本当に、ありがとう。心から感謝している」

『ううん、ココもあの時の様子をここで見てたけど……パパもお兄ちゃんもすっごく格好良かった!カタポレンの森を守ってくれて、本当に本当にありがとう!』

礼を言うライトとレオニスに、クロエが二人を同時にギューッ!と抱きしめた。

それは、カタポレンの森を救ってくれた 英雄(ヒーロー) 達への心からの賛辞であった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

外で立ち話を続けるのも何なので、暗黒神殿の中に移動するライト達。

四人して歩きながら他愛もない雑談に花を咲かせる。

「にしても……ココ、だいぶ大きくなったなぁ」

『うん!立派な守護神になるために、毎日頑張ってるんだ!』

「ココちゃん、偉いね!」

『えへへ……お兄ちゃんに褒めてもらえて、ココ嬉しいな!』

少し見ない間に、かなり身長が伸びたクロエ。

その体格は3メートルを超えていて、レオニスですらクロエの顔を見るのにかなり上を見上げなければならない。

しかもそれは普通に立っている状態であり、クロエの後ろには下半身から続く大蛇の尾が長く地を這っている。

尾を含めた総身長となると、優に6メートルは超えているだろう。

生まれた直後は、レオニスより頭一つ分小さかったクロエ。

それが、四ヶ月経った今ではレオニスをはるかに上回る大きさにまで成長している。やはり神殿の守護神ともなれば、その能力だけでなく成長ぶりも規格外ということか。

神殿の建物の端の方、庭園が見える位置に移動したライト達。

レオニスがテーブルや椅子を空間魔法陣から取り出す。ライトはテーブルの上にラウル特製スイーツや飲み物を置いていく。

そして闇の女王とクロエは、早速席に座りワクテカ顔で待機。

四人で開く久しぶりのお茶会である。

「「『『いっただっきまーす!』』」」

四人して手を合わせ、食事の挨拶を唱和するライト達。

食事ではなくお茶会なのだが、お茶会だろうがおやつだろうが食事の際には必ず挨拶を唱和したレオニス。それがディーノ村の孤児院での流儀であり、教育方針だった。

なので、今でもレオニスはそれを律儀に守っているのである。

『この、ちょこれーとくっきー?なるものは、とても美味だな』

『お兄ちゃん!シュークリームって、すっごく幸せな味がするのね!』

『ああ、ココ様、中のくりーむ?が垂れておりますぞ?』

『ンにゅ?』

思いっきりシュークリームを頬張るクロエに、横にいた闇の女王がクロエの口の端から溢れたカスタードクリームを指で拭い取る。

その光景は、今まさにクロエが言った『幸せな味』を現していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

一通りのおやつを食べて、和やかな時間を過ごした後は今日の本題、カタポレンの森で起きた異変に関しての話に移る。

「あの時、この暗黒の洞窟は何ともなかったのか?」

『ああ、吾のいる最奥は何ともなかったのだが、上の層になるにつれ魔物達の騒ぎというか、ざわめき?が大きくてな。何しろいつもとは違う空気が漂っておった』

『うん……闇の精霊ちゃん達も、最初はどこか怯えるような感じだったんだけど……ある時を境に、主に小さい子達がものすごく怖がっちゃって。皆ここに避難してきたの』

この暗黒の洞窟に大きな異変は起きていないのは、先程一層を通過した時に理解していた。

だが闇の女王達の話では、やはり襲撃事件当日は暗黒の洞窟に住まう魔物達や闇の精霊も異変を感じ取っていたようだ。

『吾とココ様は、洞窟外にいる闇の精霊の目を通して外の様子を見ることができる。なので、闇の精霊の中でも勇敢な者達に外に出てもらって、何事が起きたのかを探らせたのだ』

『そしたらね、大きな鎌を持ったたくさんの蟲が、群れを成して神樹を襲うところが見えたの』

『最初は蟲が動けぬ神樹を一方的に嬲り続けておった。それだけでも胸糞悪い光景だというのに……ズタボロになった神樹の前に、亜奴が現れたのだ』

『その瞬間から、闇の精霊ちゃん達がすごく怯えて怖がっちゃったの』

その時の光景を思い出したのか、クロエは悲痛な面持ちになり、闇の女王は悔しげな顔をする。

闇の女王の話に、レオニスが問いかけた。

「亜奴、とは誰だ? もしかして、何か心当たりがあるのか?」

『ああ。あれはこの暗黒の洞窟に度々来ていた奴だ。毎回毎度懲りることなく、大量のゴーストを引き連れては何もできずに退散していく死霊使いに間違いない』

「やはりそうか……」

レオニスがユグドラツィを覆う黒い炎を初めて見た時、その邪悪で悍ましい気配が廃都の魔城の空気と同じであることを感じ取っていた。

とはいえ、それはあくまでもレオニスの推測に過ぎない。それが正しいかどうかは証明する手段や証拠がなかったので、これまでは単なる憶測でしかなかったのだ。

だが、今の闇の女王の話を聞いてそれは確信に至る。あの襲撃事件の裏側には、間違いなく廃都の魔城の四帝がいるのだ。

『いつまで経っても吾を落とせぬからといって、その腹いせに他者に邪悪な矛先を向けるとは……全く以って許せぬ輩共よ』

『ココも、神樹さんを救う手助けをしたかったんだけど……ここから出るのは危険だから、絶対にダメ!!ってママに言われちゃって……』

『当然です。確かにココ様は、偉大なるノワール・メデューサ様。その秘めたる御力は、間違いなく強力無比です。なれど、ココ様はまだ生まれてから日も浅い。幼子も同然なココ様を、危険な目に遭わせる訳にはまいりません』

しょぼん、とするクロエに、冷静沈着な顔でクロエを諭す闇の女王。

確かにBCOレイドボスにして神殿の守護神であるクロエは、ものすごく強力な力を持っている。あの時、謎の黒い粘液体にトドメを刺したヴィゾーヴニルも、BCOレイドボスの一体である。その力を見れば、如何に彼ら彼女らの力が強大であるか明白である。

だが、クロエはまだ生後半年にも満たない、生まれたての子供にも等しい。

そんなクロエがあの場に駆けつけたところで、何ができるか分からない。むしろ何もできないまま、大量の首狩り蟲に襲われて怪我を負うばかりだったかもしれないのだ。

闇の女王が危険だと大反対して、この場に押し留めたのも当然である。

『そんな訳で、一部の精霊以外はほぼ使い物にならなくてな。上級の精霊は、この暗黒神殿の守りを固めるという名目で避難していて、中級の闇の精霊をレオニス、其の方のもとに遣わすくらいが精一杯だった……許せ』

「許せだなんて、とんでもない!こっちこそ、肝心な時にカタポレンにいなかったんだ……役立たずな俺の方こそ、責められるべきなんだ……」

闇の女王が、ユグドラツィを救う手助けができなかったことをレオニスに詫びた。

だが、レオニスにしてみれば詫びるのは自分の方だ。

カタポレンの森の番人として、日々森の警邏を欠かさずにしてきたというのに。肝心な時に限って他所の土地にいて、全く役に立たなかった、とレオニスは思っていたのだ。

幸い皆の協力により、襲撃事件の元凶を撃破できたからまだいいものの、もしこれでユグドラツィが完全に死していたら―――どれ程悔やんでも悔やみきれなかった。

悔しげに俯く闇の女王やレオニスを見て、クロエがとても悲しそうにしている。

そんな三者を、ライトが黙って見ていられるはずがない。

ライトがレオニス達に向かって言葉をかける。

「レオ兄ちゃん、闇の女王様、過ぎたことを悔やんでも仕方ないですよ。皆の頑張りでツィちゃんは助かったんだから、それだけでも良しとして喜ばなくちゃ」

「だが……」

「それよりも、闇の女王様もこれからも気をつけてくださいね? あんなのがまた暗黒の洞窟を襲いに来たら……ぼくはそれも心配なんです」

『うむ……』

ライトのもっともな言葉に、レオニスも闇の女王も返す言葉がない。

そしてライトはクロエに向かっても言葉をかける。

「ココちゃんも、無理はしちゃダメだよ? 闇の女王様の言う通り、君はまだ生まれたばかりの子供なんだから」

『うん……』

「でも、ココちゃんが大きくなったら、きっとすっごく強くなれるよ!そしたら、闇の女王様やカタポレンの森の皆を守ってあげてね」

『……うん!』

兄と慕うライトの前向きな励ましに、クロエの表情も明るくなる。

ライトの励ましは、上辺だけの薄っぺらいものではない。何故ならライトはクロエがBCOのレイドボスだと知っているから。

しかもクロエはただのレイドボスではない。アズール・メデューサの亜種である。

BCOのレイドボス亜種は、もととなっているレイドボスと似て非なる存在。コピペ元のレイドボスよりも数段強いのだ。

そのことを知っているのは、このサイサクス世界ではライトだけ。故にクロエへの励ましにも強い説得力があるのだ。

悄気げる妹を励ます兄。

血の繋がらぬ兄妹でも、互いに思い遣り慕う心がある。

そんな二人の微笑ましい光景に、レオニスと闇の女王もまた心慰められていた。