軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第661話 親子の絆

形振り構わず中央広場に一目散に駆けていくラウル。

もう何度もこのオーガの里に来ているので、どこをどう行けば中央広場に辿り着けるかをラウルは熟知している。

そうして着いた中央広場には、ライトと大勢のオーガの子供達がいた。

「あっ、ラウル先生が来た!」

「ライト君、ラウル先生が来てくれたよ!」

ライトの周りにいた子供達もラウルの到着に気づき、ライトに声をかける。

ライトもラウルの存在に気づき、ラウルのもとに駆け寄った。

「ラウル!」

「ライト、無事か!どこも怪我はないか!? 一体何があった!?」

ラキ宅に呼びに来た子供達の様子から、ライトの身に何か異変が起きたのだ!と思っているラウルは、心配そうにライトの腕や顔、お腹などあちこちを触りながらその無事を確かめている。

「あ、うん、ぼくは全然大丈夫だよ、怪我とかもしてないし」

「そうか……それなら良かった……」

ライトの身体にはどこにも怪我はなく、無事なことが確認できたラウルは気の抜けたような声で安堵する。

ラウルに少し遅れて、ラキが中央広場に走り込んできた。

「ラウル先生!ライト!大丈夫か!?」

「おわッ、ラキさんまで!?……な、何か 大事(おおごと) になってきちゃった……?」

この里で一番偉い人まで慌てて駆け寄ってきたことに、ライトは思わず怯む。

使い魔の卵を孵化させるには大量の餌が要るし、卵の中から何が生まれてくるかはライトも完全には分からないので、家の中で孵化させるよりも外の広い場所で行う方が何かと都合が良い。

そのため自分は一足先に中央広場に向かい、オーガの子供達に『ラウルを呼んできて』と頼んだのだが、まさかラウル達がこんなに大慌てですっ飛んでくるとは思わなかった。

それもこれも、ひとえにオーガの子供達の説明不足が原因なのだが。

「な、なんか、大騒ぎになっちゃって、ごめんなさい」

「いや、怪我とかしてなければいいんだ。だが、俺に助けを求めなきゃならんことが起きたんだろう?」

「うん……」

「なら、それを話してくれ。一体何があった?」

ラウルは怒ることなく、優しい声でライトに説明を促す。

ライトはそれに応じルゥを呼び寄せて、 斯々然々(かくかくしかじか) これこの通り、と鍛錬場で起きたことをラウルに話していった。

「ふむ……確かにこりゃ何かの生き物の卵、だなぁ……」

「そのようだが……我は卵から生まれる生物といえば、鳥くらいしか知らんのだが。鳥の卵というのは、親鳥が自らの体温で何日も温めて続けて雛に孵すのだろう? これもそうするものなのか?」

「うーーーん……そもそもこれが鳥の卵なのか、あるいは他の生物の卵なのかもさっぱり分からん……こんな焦茶色をした卵なんて、初めて見た……」

ルゥの手のひらの上にちょこん、と乗っている焦茶色の小さな卵を眺めながら、ラウルもラキもうんうんと唸り悩んでいる。

ライトが持ってもうずらの卵程度の小さな卵だが、ルゥが持つとさらに小さい豆粒くらいにしか見えない。

「ぼく、レオ兄ちゃんといっしょに神殿の卵を孵化させたことがあるんだけど。多分それと同じ方法でいけるんじゃないかな」

「神殿の卵、か? そりゃまたとんでもねーもんを孵したもんだな」

「で、ライトよ。それは一体どんな方法なのだ?」

ライトの話を聞き、ラウルは感嘆しラキはその方法を尋ねる。

ラキからの質問に、ライトではなく周りの子供達がすかさず答える。

「何かね、たくさん食べ物をあげるといいんだって!」

「「……食べ物?」」

「そう、皆が普通に食べる食べ物!お肉でもお魚でも葉っぱでも、野菜でもお菓子でもお餅でも、とにかく何でもいいから同じ種類のものをたくさん、卵に直接食べさせてあげるんだって!」

「「卵に、直接ぅ……??」」

ラウルが来るまでの間に、ライトから卵の孵化方法を聞いていた子供達。

子供達にとって卵の孵化自体が全くの未知の体験なので、すぐにでもそれを見たくてウズウズしているのが分かる。

だが、ラウルとラキには子供達が何を言っているのかさっぱり分からない。卵に直接食べ物を与えるなんて、見たことも聞いたこともないからだ。

そしてそんな特殊な孵化の仕方をするのは、BCOシステム由来の卵だけである。二人ともそんな特殊な卵は一度も見たことがないので、理解に苦しむのも無理はない。

ここは百聞は一見に如かず!とばかりに、ライトがラウルに声をかける。

「ねぇ、ラウル。この卵には、お肉をあげてみたいんだけど。質の良い生肉持ってる?」

「おう、もちろんあるぞ。前にプロステスで買ったパイア肉でいいか?」

「うん。それをとりあえず、10kgほどちょうだい」

「了解」

ラウルは空間魔法陣を開き、パイア肉の塊を取り出す。

一つの塊で約1kgあるそれを手に持ち、ライトに問うた。

「これを一体どうすりゃいいんだ?」

「そのお肉を、ルゥちゃんが持ってる卵の殻に触れさせてみて」

「……こうか?」

ライトの言う通りに従い、ラウルは手に持ったパイア肉の塊の端っこを卵に触れさせてみた。

するとそのパイア肉が、スーッ……と瞬時に卵に吸い込まれるようにして消えていくではないか。これには百年以上生きてきたラウルもラキもびっくり仰天である。

しかも生肉が消えると同時に、卵が一気に鶏卵くらいの大きさに膨らんだ。これは卵がパイア肉を餌と認識して取り込み、栄養を吸収して成長した証である。

「おおお……卵が大きくなったぞ!」

「すごい!しかも卵が震えてるわ!きっとこのお肉がすっごく美味しくて、卵ちゃんが喜んでるのね!」

「ほほぅ、卵とはこのようにして大きく成長していくものなのか……」

劇的な成長を遂げる卵に、ラウルもルゥも興奮気味に声を上げる。

ラキに至っては卵の孵し方を勘違いし始めているが、このままで大丈夫なのだろうか。

「そしたらラウル、どんどんパイア肉を卵にあげて!」

「おう、任せろ!」

「ラウル先生、私も卵にご飯をあげたい!」

「僕も僕も!」

「よし、じゃあ一人づつ順番にな」

目に見えて卵が大きくなったことに気を良くしたラウル、空間魔法陣を開きっぱなしにしてパイア肉を取り出し続ける。

周りでじっと見ていた子供達も、卵に肉をあげたい!とこぞってラウルに迫ってきたので、一人一個づつ塊肉を渡す。

生き物の成長を、こんな間近で見る機会などこれまでなかったオーガの子供達。皆して目をキラッキラに輝かせて見守るのも当然である。

受け取った順に、子供達が次々と卵にパイア肉を与えていく。卵はその都度大きくなり、肉をあげた子供達も「ぉぉぉ……」と感嘆の声を洩らしている。

そうして次第に大きくなっていった卵は、卵を持っていたルゥの両手以上の大きさに膨らみ、どっしりと重たくなっていく。

二十人ほどの子供達が肉を与え終えた頃には、卵の横の長さがライトの身長くらいになっていた。

ライトが心配そうにルゥに問いかける。

「ルゥちゃん、かなり卵が重たくなってきたんじゃない?」

「うん……」

「落っことして卵が割れたら困るから、地面に置いていいよ」

「でも……最後まで持っていたい……」

いつもなら卵の安全のために、ある程度大きくなったら地面に置いて餌やりを継続するところなのだが、ルゥは孵化するまで面倒を見たいという。

そんなルゥの周りに、スッ……と影ができる。それまで腕の中の卵を見つめていたルゥがふと顔を上げると、そこには母親のリーネと父親のラキがいた。

リーネがルゥの前に出てきてしゃがみ込み、ルゥとともに卵を下から支える。

そしてルゥの後ろからはラキが、ルゥを包み込むようにして覆い被さり、ルゥの両脇から手を差し伸べる。

「ルゥ、パパが手伝おう」

「ママもお手伝いするわ。皆でいっしょに頑張りましょう」

「……パパ!ママ!ありがとう!!」

ルゥが両腕を使って抱っこしているその腕の下に、ラキの大きな手が添えられたことによって、卵の重さをしっかりと受け止めている。

二人もの思わぬ助っ人の登場に、それまで不安そうな顔をしていたルゥの表情がパァッ!と一気に明るくなる。

オーガの里で最も強い 父親(ラキ) と 母親(リーネ) に支えてもらえれば、それは万の軍勢を得たにも等しい。

実の両親という、世界で最も心強い味方を得たルゥの瞳はより一層強く輝き始めた。

「ルゥよ、この卵の行く末を確とその目で最後まで見届けるんだぞ」

「うん!!ラウル先生、卵ちゃんにどんどん美味しいご飯をあげて!」

「おう、任せろ」

族長父娘の強い絆に触発されたのか、ラウルも惜しみなくパイア肉の塊を出し続ける。

子供達だけでなく、ラキより少し遅れて後から来たご婦人方にもライトや子供達が簡単に説明をしつつ、塊肉を渡して順番に卵に与え続ける。

そうして塊肉を四十個ほど与えたところで、焦茶色の殻に一筋の罅が入った。

「……あッ!卵の殻が割れた!」

「おお、もうすぐ何かが生まれるのだな!」

「卵ちゃん、もう少しよ!頑張って!」

「卵ちゃん、頑張れーーー!」

周りで見守っていた子供達やご婦人方も、思わず手に汗握りながら卵に声援を送る。

するとここで、それまでずっと卵を腕に抱えて持っていたルゥが、後ろにいるラキに向かってお願いをした。

「パパ、ここからは私が卵ちゃんにご飯をあげたいから、パパが卵ちゃんを持っててくれる?」

「ああ、いいぞ。パパがしっかりと持ってるから、ルゥは安心してこの卵にご飯をあげるといい」

「ありがとう!」

ラキに卵を託し、初めて卵にパイア肉を与えるルゥ。

塊肉を一個与える毎に罅が増えていく。ルゥはその度に「あっ、罅が増えた!」「卵ちゃんが揺れてる!」と喜んでいたが、次第に無言になっていく。もうすぐ生まれてくるという緊張感が、ルゥから言葉を奪っていったのだ。

そして周囲もルゥに呼応するように、次第に皆息を呑みつつ無言になっていく。

緊張に包まれた空気の中、ルゥが十個目の塊肉を与えた、その時。

ついに卵の内側から手が出てきて、卵の殻をバリバリと割り始めた。

その手は黒く、獣の手のように見える。

もうすぐ何かが孵化する卵を、皆固唾を呑みながらじっと見守っている。

そうして卵の殻が全て取り払われて、中から出てきたのは―――黒い狼のような生き物だった。