軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第660話 使い魔の本能

「あーーー、フォルちゃん可愛いわぁーーー」

「ホンット、癒やされるぅーーー」

「可愛くて、ふわふわで、キラッキラで、最高よね!」

「「「可愛いは、正義」」」

弓矢代わりのダーツの鍛錬を一通り終えた、オーガ族の女の子達。

木陰に座って休憩しながら、ライトが連れてきたフォルを代わる代わる手のひらに乗せて撫でている。女の子同士でキャッキャウフフしている姿は、とても可愛らしい。

女性であっても強く逞しいのがオーガ族の特性ではあるが、それでも可愛いものを愛でる心は老若男女変わらないし、フォルの愛らしさで癒やされる彼女達は傍から見ても実に微笑ましい。

ちなみにライトは今男の子達のいる方で、木刀を使った打ち合いを見学している。

ライト自身はまだ剣術など全く習っていないし、木刀といえども彼らに混じって手合わせをする訳にはいかない。

そこはやはり小さくてもオーガ族の男、体格的にも既にレオニスを上回る大きさだし、将来オーガ族を背負って立つ未来の戦士達なのだ。

オーガって、拳で闘うイメージだったけど……そうだよね、剣だって普通に使うよね!でも、剣よりも金棒の方が似合いそう。鬼人族だけに、鬼に金棒。なんちって。

そういやBCOにも、豆まきイベント限定の金棒タイプの武器があったなぁ。実際にオーガサイズの金棒があったら、作るのすんげー大変そう……あの身長で持つとしたら、レオ兄の身長の倍くらいはないと格好がつかないだろうし。

レオ兄が普段使う大剣だって、ラキさんが持てば果物ナイフかペーパーナイフくらいにしか見えないよね。それどころか、クレアさんの持つハルバードだって、ミニサイズの鉈にしかならんだろうなぁ……

そんなとりとめもないことを、オーガの男の子達の鍛錬を見ながらつらつらと考えていたライト。

だが、そんなのんびりとした時間は突如終わる。

女の子達がライトの名を呼びながら駆け寄ってきたのだ。

「ラ、ライト君!ライトくーーーん!」

「ちょっと、コレ見て!」

「フォ、フォルちゃんが……!」

「え、フォルがどうかしたの!?」

慌てて走ってきた女の子達。その慌てぶりに、一体何事が起きたのかとライトも心配になり、女の子達のもとに駆けつけていく。

そして一番最後に小走りで来たルゥが、皆と合流した。

ルゥの手は何故だかおにぎりを作るような形をしていて、手を上下に合わせて何かを包んでいるように見える。

女の子達の慌ただしさに、男の子達も何事かと集まってきた。

「おいおい、何だか騒がしいな。一体どうした?」

「そ、それが……これを見てくれる?」

「ン? 何だ、コレ……卵、か?」

「え"。……卵?」

ルゥがそっと開いた手を、ライトやジャンが覗き込む。

レオニスほどの大きさもあるルゥのその手の中には、小さな卵があった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「こんなもん、一体どこで拾ってきたんだ?」

「私じゃなくて、フォルちゃんが拾ってきたの」

「フォルが??」

ルゥの話によると、木陰で女の子達がフォルとともに休んでいた時のこと。

フォルがふいっ、と斜め上の方を見たかと思うと、急にルゥの手から離れて森の中に消えていったという。

声をかける間もなく急なことだったので、誰もフォルを止めることができなかったそうだ。

いくらフォルが『森の友』と呼ばれる幻獣だからといって、ライトといっしょに里を訪ねて来たものを行方不明にさせる訳にはいかない。

女の子達が慌てて周辺を探しに行こうとした時、フォルが森の中から帰ってきた。

女の子達が慌ててフォルを取り囲み、安堵していたところ、フォルがその口に咥えていたのがこの小さな卵だった―――ということらしい。

「ねぇ、ライト君。私、こんな小さな卵見たことないんだけど……これ、どうしたらいいの?」

「うーーーーーーん……」

戸惑いながらライトに尋ねるルゥ。

だが、ルゥに問われたライトはルゥ以上に内心で戸惑いまくっていた。

『この色、この大きさ、そしてフォルがどこからか持ってきたってんだから、これはどこをどう見ても使い魔の卵、だよなぁ……』

『BCOでは、使い魔の卵は譲渡不可のアイテムだったが……物質として現実に存在する品物相手に、譲渡不可もへったくれもないよなぁ……そんなゲーム特有の縛りやルールなんてもんがあるはずもないし』

ライトがあれこれと考えを巡らせている間に、フォルがルゥの肩からライトの胸にに飛び込んできた。

白くてふわふわなフォルを抱っこしつつ、その背中を撫でながらライトはとりあえずフォルに小さな声で聞いてみた。

「フォル、これはルゥちゃん達にあげるの?」

「キュゥン……」

「……そっか、うん、分かった」

ライトの問いかけに、しょぼんと俯きながら頭を小さく横に振るフォル。その様子からして、どうやらそれはフォルの想定外のことだったようだ。

ライトはその場にいなかったので推測しかできないが、おそらくフォルは使い魔の卵が近くにあることを、気配か何かで察知したのだろう。

そこで使い魔としての本能が疼き、早速拾いに行って見事に『使い魔の卵、ゲットだじぇ!』したはいいものの、ライトに渡す前にルゥ達オーガの女の子に囲まれてしまった、というところか。

使い魔がお使い途中に他者に捕まるとは、ライトも初めて聞く話だ。

だが、このサイサクス世界はゲームがベースの世界であっても、そのゲームシステムが厳格かつ最優先で適用されている訳ではない。

埒内にいる者達も一人一人が意思を持ち、他者と会話し、考えながら日々の活動を行っている。

それを鑑みると、時にはライトの予想外のことだって起こるだろう。

ライトは運営の中の人ではないし、少しばかりBCO知識を持っているってだけの 一般人(プレイヤー) なのだ。

故にライトはフォルを責める気は全くなかった。

さてそうなると、今度はこの卵をどうするべきか、に論点が移る。

オーガの子供達は、フォルが卵を拾ってきたことを既に全員知ってしまっている。食べ物として調理して食べるなんて論外だし、かといってここで孵化させてしまっていいものかどうかも大いに悩むところだ。

そしてふとオーガの子供達の顔を見ると、彼ら彼女らの瞳には不安と知的好奇心が入り混じった、何とも言えない目をしていた。

ここでライトは決心した。

使い魔システムで出てくる使い魔で、邪悪な種族は今のところ出てきてないし、俺のBCO知識の中にも『失敗作』を除いてどれもそれなりに善い種族が多い。

既にルゥちゃん達に見つかっている以上、下手な誤魔化し方はできない。いっそのことここで俺の指導のもと孵化させてみるか!

そう腹を括ったライトは、ルゥ達に声をかけた。

「ぼく、こういう卵の孵し方を知ってるよ」

「本当か!? どうすればいいんだ!?」

「私達で何か手伝えることはある!?」

ライトの言葉に、ルゥ達が食いつくようにライトに迫る。

ライトの顔面10cmまでグイグイと迫りくるド迫力に気圧されつつ、ライトは何とか答える。

「と、とりあえずラウルのところに行こう。これはラウルに協力してもらわなくちゃならないことだから」

「そうなのね!そしたら今すぐにルゥちゃんの家に行きましょ!」

「多分ラウル先生のお料理教室も終わってる頃よね!」

「よし、皆で行くぞ!」

「「「おーーーッ!!」」」

オーガの子供達が、いつになく一致団結しながら気炎を上げる。

ライトとフォルも子供達に引き摺られるようにして、ラキ宅に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その頃のラキ宅では、トマトを使った数々の贅沢フルコース料理が完成し、それぞれ味見をしたりしながら皆でのんびりと過ごしていた。

トマトのマリネにカプレーゼ、ミネストローネにボロネーゼ、当初ラウルが口にしたメニュー全てを作り終えて、今現在は試食タイム兼質問タイム中である。

「この、マリネって言うんですか? お酢と塩胡椒、油だけで作れるなんて、簡単でいいですね!」

「しかもお酢を使っているからさっぱりしていて、暑い夏でも食が進みますね!」

「こっちのカプレーゼもまた、もっちりあチーズ?とバジルソースをかけるだけで、すっごく簡単に作れるのにとっても美味しいなんて!ホント素敵!」

「スープの方も具沢山でいいですね!じゃがいも、人参、玉葱、どれも美味しくて、しっかりお腹にたまるのがいいわ!」

数々の珠玉の逸品を味わいつつ、テーブルを囲んで賑やかに語り合うオーガのご婦人方。皆眩しいくらいの笑顔に満ち溢れている。

手早く簡単に作れて美味しい品々に、それはもうご婦人方は異口同音で大絶賛する。『簡単』『美味しい』『栄養豊富』の三拍子が揃った調理法は、世の忙しい奥様方の味方なのだ。

そして今日もラウルの料理教室に参加していたラキも、早速ラウルに質問をしていた。

「ラウル先生、このもっちゃれらチーズ?というのは、人里でしか作れんものなのですか?」

「そうだなぁ……人族以外で酪農する種族なんてのは、少なくとも俺は見たことも聞いたこともないなぁ。……ああ、酪農ってのは、牛を飼育して牛が出す乳を搾り取る仕事のことを言うんだが。チーズやバター、ヨーグルト、ケーキに使うクリームなんかは、全てこの牛乳が主原料なんだ」

「うぬぅ……我らもその酪農?とやらをやることは可能ですかな?」

ラキはどうやらカプレーゼに使われているモッツァレラチーズが気に入ったようだ。

しかもご婦人方とは違い、気に入ったモッツァレラチーズの購入方法ではなく、作成方法を尋ねている。

もしオーガの里で酪農が可能ならば、自分達が食べる分だけでなく今後の輸出品としても大いに期待できる。

この里で新しい事業を興し、食生活のみならず他の里との交易にも活かしたいという、将来の発展を見据えた展望―――それは、オーガの里を率いる族長としての責務をも含んでいた。

「ぁー……やってやれんこたなかろうとは思うが……そもそも普通の牛を、このカタポレンの森の中で飼育できるかどうかからして怪しいんだよなぁ」

「ではまず、このオーガの里で飼うことのできる牛を見つけるのが先決、ということですかな」

「ああ、そういうことになるな」

「では、次に行商の旅に出る者達に牛探しも命じておきましょう」

「そうだな。つーか、それより先にバジルソースを作れるようになっておいてもいいと思うぞ。バジルはハーブの一種、つまりは植物だからこの里でも作れるだろうし」

「おお、それは妙案ですな!早速次の議会で検討しましょうぞ」

ラウルもラキの話を『オーガ族にそんなことができる訳がない』などと一笑に付すことなく、ラキといっしょにあれこれ考えたり答えたりしている。

里を想うラキの真摯な姿勢に、ラウルも大いに好感を持っているのだ。

美味しい料理に大満足のご婦人方に、新産業育成相談に花を咲かせるラキ。そして皆のその活き活きとした顔を眺めて、料理教室の先生としての役割を今回も果たせたことに大満足そうなラウル。

そんな和やかな空気は、ドタドタという大きな足音で掻き消されていった。

「ラウル先生ーーー!いるーーー!?」

「あッ!ラウル先生、いた!」

「ラウル先生ーーー!」

三人のオーガの子供がラキ宅厨房に駆け込んできて、一目散にラウルのもとに走り寄った。

足音だけでなく、声までも大きな子供達が厨房に乱入してきたことに、大人達はびっくりしている。

そしてすぐさま「こらッ!大声で人様のおうちに走ってくるなんて、駄目でしょ!?」「入ってくるにしても、もっと静かに入って来なさい!」「ここは族長のお宅なんだからね!?」等々、ご婦人方の怒号がすぐさま飛んで、駆け込んできた子供達を叱責する。

そのご婦人方は、駆け込んできた子供達の母親。彼女達が『ご婦人方』から『お母ちゃん』に早変わりした瞬間である。

人様の目を気にして『お母ちゃん』でいるうちはまだいいが、これが『オカン』になったら落雷警報が発せられる。

それは子供達自身が一番良く知っているので、その一歩手前で踏み止まらせるべくすぐに謝る。

「うるさくしてごめんなさい!」

「でも、どうしてもラウル先生に急ぎの用事があったの!」

「ン? 俺に急ぎの用事って、何だ? 外で何かあったのか?」

「ライトが、ラウル先生の力が必要だって言ったんだ!」

「……ライトが、か?」

子供達の尋常ではない慌てぶりに、ラウルの顔が 俄(にわか) に曇る。

ラウルとしても、ライトが自分に助けを求めている、と聞いては居ても立ってもいられない。

その場ですぐにエプロンを外しながら、子供達に問いかける。

「ライトは今どこにいる?」

「途中までいっしょにこっちに来てたんだけど、ライトは中央広場にいた方がいいって言って、他の子達とそっちに向かった!」

「よし、じゃあすぐに中央広場に行くぞ」

「「「うん!」」」

ラウルは脱いだエプロンを空間魔法陣に放り込みながら、ラキ宅を飛び出して中央広場に向かって駆け出していった。