軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第659話 子供同士の交流

オーガの里の外れにあるという、鍛錬場に向かったライト。

そこは以前、ライトが訪ねた時には年寄りオーガ達が弩の練習をしていた場所だ。

今日は特にそこまで騒がしい様子ではないので、弩の練習はしていないらしい。

その代わりに、子供達の明るい声が聞こえてきた。

「あッ、ライト君!」

「里に遊びに来てくれたの!?」

「おーい、皆ー、ライトが来たぞーーー!」

ライトの存在に気づいたオーガの子供達が、一斉にライトのもとに駆け寄ってきた。

最近のラウルほどではないが、ライトもオーガの里には何度も来ているので、子供達とももうそれなりに仲良しになっている。

ライトにとってオーガ族は珍しい異種族だが、それはオーガにとっても同じこと。オーガの子供達にとってライトは、オーガ族を滅亡の危機から救ってくれた救世主云々以前に物珍しい稀有な異種族。

双方にとって、互いに貴重な異種族交流の相手なのである。

「皆、こんにちは!今日はここで何してるの?」

「俺達男は剣や格闘技の練習だ」

「私達女の子は、弓の練習してるのよ!」

「へー、皆頑張って修行してるんだ、すごいね!」

ジャンやルゥが、それぞれライトの質問に答えている。

ラキは『鍛錬場で子供達が遊んでいる』と言っていたが、それは純粋な遊びではなく鍛錬を兼ねたもののようだ。

するとここで、ライトがふとあることに気づきジャン達に尋ねる。

「……あれ? 何か皆、背が大きくなった?」

「そうか? そんな変わってないと思うが」

「ぃゃぃゃ、皆絶対に大きくなってるって! だってジャン君もルゥちゃんも、うちのレオ兄ちゃんより背が高くなってるもん!」

「えー、そうかしら? ……でも確かに、最近服が小さくなってきたかもー」

「あー、僕もこないだ服を作り変えてもらったばかりだ」

「私も私も!」

ライトの目線では、オーガの子供達は明らかに以前より身長が高くなっている。だが当人達はその自覚があまりないようで、互いの顔を見合わせながら小首を傾げている。

子供達は普段から互いを見ているので、その違いになかなか気づきにくいが、たまにしか会わないライトは一目でその著しい成長に気づいたのだ。

「皆ぐんぐん背が伸びて羨ましいなー。ぼくも早くレオ兄ちゃんやラウルくらいに、背が高くなりたいんだけどなー」

「ライトだって、まだまだこれから伸びるだろ?」

「そうそう!……あッ、そうだ!私達の背が伸びたのは、最近ご飯が美味しくてたくさん食べているからかも!」

「あー、それあるかもな!俺もご飯美味しいから、毎日おかわり三回くらいしちゃうし!」

オーガの子供達の誰かが、背が伸びた秘訣は毎日の美味しいご飯にあるかも、と言い出した。

確かに成長期の子供がご飯をたくさん食べれば、体格が良くなるのは道理である。

「うちのお父さんやおじいちゃんも、ご飯が美味しい美味しいっていって毎日おかわりしてるわ!」

「その分母さんが『ご飯たくさん作るの大変!』って言うようになったけどな」

「でも、たくさん食べてくれて嬉しい、とも言うよねー」

「でもって『食費が増えて大変!』て言った後に、最後は『でもオーガは筋肉つけてナンボだからね!あんた達もたくさん食べて、たくさん運動して、筋肉つけるんだよ!』になるんだよなー」

「うちもうちも!」

「「「アーッハッハッハッハ!」」」

オーガの民達の赤裸々な食卓事情が、子供達の口から次々と明かされていく。

食事を作る手間だけでなく食費まで大幅増とは、家庭を預かるお母さん達はさぞかし日々大変な思いをしているだろう。

だがそれでも、我が子や旦那が自分の作ったご飯を美味しい美味しいと食べるのは嬉しいことに違いない。

子供達の明るい笑い声が辺りに響き渡った後、子供達がライトに向かって話しかけた。

「うちのご飯が美味しくなったのは、ラウル先生のおかげなんだってな」

「うちのお母さんもね、ラウル先生のお料理教室で教えてもらったものを、すぐに覚えてうちでたくさん作ってくれるの!どれもすっごく美味しくて、お皿があっという間に空になっちゃうのよ!」

「今までは肉とキノコと野草しか食べてなかったけど、今はヤサイ、だっけ? いろんなものを食べるようになったよな!」

「毎日肉だけでも十分だったけど、今じゃ肉だけだと寂しいよねー」

最後の言葉にうんうん、としたり顔で頷き合う子供達。

食卓のメニューが増えたことにより、肉だけでは満足できなくなっているようだ。

いずれにしても食生活の劇的な向上が見受けられて、ライトもとても嬉しくなった。

「そっかぁ、皆のおうちでラウルの美味しい料理が役に立っているんだね!」

「うん!それもこれも、ライト君がラウル先生を連れてきてくれたおかげよ!ありがとう!」

「どういたしまして!」

「俺達もいつかこの恩返しをしたいから、俺達でできることがあったら何でも言ってくれよな!」

オーガの女の子からは丁寧な礼を言われ、男の子達からは頼もしい言葉をもらうライト。

普段通っているラグーン学園の同級生もとても良い子達だが、オーガの里の子供達も良い子達ばかりだ。

前世でぼっち歴が長かったライトには眩しい光景だが、異種族である自分を温かく受け入れてくれるその気持ちがとてもありがたかった。

「うん、その時はよろしくね!……でも、皆ぼくと友達になってくれて、こうして楽しくお話してくれるだけで、もう十分嬉しいんだけどね!」

「私達もとっても楽しいわ!……そうだわ、ライト君。せっかく鍛錬場に来たんだから、今日は私達といっしょに弓や剣の練習してみない?」

「え、いいの?」

「剣はさすがに大きさが合わんだろうから、弓だけの方がいいんじゃないか?」

「あ、それもそっか。じゃあライト君、私達と弓の練習しましょ!」

「う、うん!」

女の子代表であるルゥに、手を引かれながら連れていかれるライト。

その後ろからジャンが「弓に飽きたらこっち来いよー」とライトに声をかける。

男の子達とは少し離れた場所に、ライトとルゥ達女の子は移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ルゥちゃん達も、弓矢の練習してるの?」

「うん。これからのオーガ族の女は、弓矢の名手を目指す時代よ!って、うちのママも言っているわ」

「ルゥちゃんのお母さん、リーネ様はオーガ 一(いち) の弓の名手だもんね!」

「リーネ様の華麗な弓捌きには、本ッ当ーーーに憧れるわぁ」

移動がてら、弓の話をするライト達。

以前催されたオーガ族の祝賀会の時に、リーネ達女性陣が弓の技術を競う催し物があった。

その時もリーネは断トツの腕前を披露していたが、オーガ族一の弓の名手は今でもリーネらしい。

それまでは、戦いに加わるのを良しとされなかった女性陣。

この里のオーガ族は穏和な種族なので、そもそも戦闘を繰り広げることなど滅多にないのだが。それでも先日起きた単眼蝙蝠襲撃事件では、皆が皆それぞれに悔しい思いをした。

男達は里を守りきれない悔しさに、女達は里を守る戦いに加われなかったことに、苦渋の思いを味わっていた。

もう二度とそんな悔しい思いをしないよう、オーガの里の女達は生まれ変わろうとしていた。

性格的には穏和だけど、やっぱりオーガ族は戦闘民族なんだな。男衆だけでも十分に強いのに、その女衆まで加わったらもはや物理戦闘では無敵じゃね?と思うライト。

だが、不思議なことに鍛錬場には弓が一つも見当たらないではないか。

弓の練習と聞いていたのに、これは一体どうしたことだろう?と思いつつ、ルゥに尋ねた。

「ねぇ、ルゥちゃん。弓はどこにあるの?」

「弓はまだ私達子供は持たせてもらえないの。だから弓の練習というのは、的に矢を当てる精度を高めることを言うのよ」

「へー、そうなんだね!」

鍛錬場の隅っこにあった箱のもとに歩いていくルゥ。

その箱の中には、ダーツで投げる矢のようなものがたくさん入っている。

そして周辺の木々を見ると、幹に何重もの円が描かれている。女の子達は、その円に矢を当てる練習をしているようだ。

見た目もシステム的にも、ダーツそのものである。

「これはね、レオちゃんが『子供のうちは、こういうので練習するといいぞ』ってね、教えてくれたの」

「そうなんだ、確かにダーツで投げる練習するのは良いね。本物の弓矢を使うよりも安全だから、子供達だけでもできるし」

「うん、だから女の子達はいつもここで練習してるのよ!」

ルゥの解説にライトも納得する。

弓とダーツは違うものだが、的に矢を当てるという点では同じことだ。

子供のうちから弓矢を使わせるのは危ないが、的に向けて矢を当てる精度を高める訓練なら将来弓矢を扱う時の下準備になる。

子供達でもできる訓練としてダーツを用いるのは、遊びながら学ぶという点においても最適である。

そんなレオニスの適切な指導に、ライトは感心しながらぽつりと呟いた。

「ぼくも将来攻撃魔法を使う時のために、的に当てる訓練はきっとしておいた方がいいんだろうなー」

「えッ!? ライト君、魔法が使えるの!?」

「見せて見せて!私、魔法って一度も近くで見たことがないの!」

「ねぇ、ちょっと、皆ー!ライト君が魔法使えるんだってー!」

ライトが魔法を使えると知った女の子達が、目の色を変えて『魔法見せて!』と詰め寄ってくる。

オーガ族は種族特性として魔法の適性がほぼ無いに等しいので、魔法を身近で見る機会がほとんどないのだ。

その分体格には十分に恵まれていて、その巨躯を活かした物理攻撃なら得意中の得意ではあるが。

そして、『魔法』という言葉を聞きつけた男の子達が「何ッ!? 魔法だとッ!?」「見たい見たいー!」と大声を上げながらライト達のいる方に走ってきた。

ないものねだりの物珍しさなのか、魔法に興味があるのは男の子も女の子も変わらないらしい。

「ライト君、どんな魔法が使えるの!?」

「え、えっと、こないだテストした時は、火と水と風と土は使えたよ」

「そんなにたくさんの属性を使えるのか!?」

「じゃあ、何でもいいから魔法を使って見せてくれないか!?」

「う、うん、いいよ」

鼻息も荒く興奮気味にライトに迫るオーガの子供達。その勢いに気圧されたライトは、何の魔法を見せるかを考える。

森の中で火魔法を使うのは論外だし、土魔法を使って鍛錬場をボコボコの地面にしてもいけない。風魔法も、子供達の服が変な風に捲れてもいけないので却下。

こうした消去法の結果、水魔法を選んだライト。

右手のひらの上に、10cmほどの水の球を作り出した。

ライトの手のひらの上に、突如現れた透明な水の球。それを見たオーガの子供達は、一斉に「……ぉぉぉ……」と感嘆する。

「その水を投げたりして、攻撃するのか?」

「うん。これっぽっちじゃ敵は倒せないから、戦いに使うとしたらもっと大きい水の球を出すか、あるいは縄状にして飛ばしたりとか、あとは凍らせて氷の槍を作って投げ飛ばすとかになるかな」

「おおお……魔法ってそんなこともできるのか!すげーんだな!」

「でも、そこまで使えるようになるには、すっごくたくさん修行しないといけないけどね」

魔法を間近で見たオーガの子供達は、さらに目を輝かせて興奮している。

思えば俺も、もともとは魔法なんて使えない世界にいた人間だったからなぁ。このサイサクス世界でレオ兄の魔法を初めて見た時には、やっぱ感動したもんだったなぁ……レオ兄の魔法だけじゃなくて、ナヌスの結界やピィちゃんの呪符だって見る度にすげー!とか思うし。

魔法って、ホントにすげーもんだよね……

オーガの子供達の反応を見て、ライトはかつての自分の姿が重なる。

「いいなぁ、俺も魔法が使えたらなー」

「オーガに生まれた時点で無理だけどねー」

「だよなー。でも、その分身体と力には恵まれてるしな」

「そうそう。腕力ならオーガの右に出る者はいないからね!」

魔法が使えないことを嘆くも、それはほんの一瞬だけ。

オーガが魔法を使えない種族であることは、子供達自身もよく知っている。それだけに、どんなに羨んでも手に入れられない力であることも、重々承知していた。

故に子供達はいつまでもうじうじと拗ねることなく、すぐに気持ちを切り替えて自身の長所に目を向けたのだ。

そんな明るく前向きなオーガの子供達を見て、ライトは感銘を受けていた。

「ねぇ、ぼくも皆のダーツの腕や剣の練習を見てもいい?」

「もちろんよ!まずは私達のダーツの腕を見せてあげるわ!」

「ダーツが一通り終わったら、皆でこっちに来いよ!」

「うん、女の子達のダーツを見てから行くね!」

子供達は再び男女に分かれて、それぞれの練習の場に向かう。

人族であるライトと鬼人族の子供達の、仲睦まじい交流が広がっていた。