軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第662話 黒い狼の正体

使い魔の卵から孵った、黒い狼のような生き物。

ルゥの腕に抱えられたそれは、見た感じ既にライトくらいの大きさがありそうだ。

黒々とした毛並みに、燃えるような赤い瞳。

己の腕の中で生まれたばかりの生命に、ルゥはただただ感動している。

「す、すっごく可愛い……!」

「これは見事な毛並みの……狼、か?」

「ンーーー……生まれたばかりの狼にしては、かなりデカいと思うが……」

「狼でも犬でも、何でもいいわ。この子が可愛いことに変わりはないもの!」

生まれたばかりの黒い狼を眺めつつ、首を傾げるラキとラウル。

それに対してルゥは既に黒い狼にメロメロで、これがどのような存在であっても受け入れる気満々のようだ。

そして彼らの少し後ろにいるライトは、頭の中であれこれと考えていた。

『あの黒い狼みたいなの、ぱっと見た感じでは狗神っぽいけど……デザインが違うよなぁ? 狗神なら、封印のための御札が身体のあちこちに貼られていたり、口を閉じるための 轡(くつわ) がついてるし、そもそも毛の色だって黒じゃなくて白だったはずだし』

『……となると、これもデザインを一部流用した別種族なんだろうか?』

『……ちょっとステータスを覗いてみるか』

ここでライトはこっそりと、今使い魔の卵から孵化したばかりの生き物のステータスを見てみることにした。

ちなみにこのステータス画面はライトにしか見えないものなので、ここで開いても問題はない。

ライトの『アナザーステータス』で表示されたステータスは、以下の通り。

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【名前】−

【種族】黒妖狼

【レベル】1

【属性】地

【状態】通常

【特記事項】従属型使役専属種族第四十七種甲類

【HP】70

【MP】20

【力】7

【体力】8

【速度】6

【知力】4

【精神力】3

【運】4

【回避】8

【命中】7

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『黒妖狼? 聞いたことのない名前だな……第四十七種ってことは、やっぱ俺の知らない種族のようだ』

『将来イベント用に使われる予定で生み出された使い魔かもしれないな……もう少し詳細を見てみるか』

この表示を受けて、ライトはさらに【詳細鑑定】で見ていくことにした。

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【黒妖狼】

燃え盛るような赤い目と黒い毛を持つ狼。

狗神が呪縛から解き放たれた直後の姿である、とも言われている。

狗神の頃の気性の荒さは若干残るが、自分を解放し救い出してくれた者には終生変わらぬ忠誠を誓う。

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ライトが一番最初に感じた『狗神に似ている』というのは、やはり正解だったらしい。

ちなみに狗神というのも、使い魔の卵から孵化する種族の一つだ。

BCOで使い魔システムが実装された時からいる、いわば使い魔における最古の種族でもある。

狗神というだけあって、リアルでは呪われた不吉な存在とされているが、BCOでは単なる使い魔の一種というだけなので特に実害を及ぼしたりすることはない。

『あー、でもやっぱ大型の肉食獣系もカッコいいな!ラウルに生肉を出してもらって、本当に良かった!』

『パイア肉50kgで黒妖狼になるんだったら、他の肉だとどうなるんだろう? 次はペリュトンの肉で孵化させてみたいな!』

ライトがあれこれと考察している間、黒妖狼を取り囲む輪はそれはもう賑やかだ。

「あのちっこい卵から、こんな綺麗な狼が生まれるなんて……」

「これ、種族的には何になるんだろう? 狼ってことでいいのかな?」

「ルゥちゃん、私も触ってみていい?」

一人の女の子が黒妖狼の身体を撫でようと、手を出したその時。

「グルルルルッ」

「……きゃっ!」

黒妖狼が突如歯を剥き出しにして威嚇した。

突然の変化に驚いた女の子は、思わず手を引っ込めた。

それを見ていた周囲は、一瞬にして静まり返った後、次第にざわつき始めた。

「これ、噛みついてくるの?」

「何か、怖いというか、危ないんじゃ……?」

「もしかして、とても凶暴な狼なんじゃ……」

それまで好奇心に満ちていた空気が、一気に不穏なものになる。

先程の威嚇で剥き出しになった黒妖狼の歯は、とても鋭いものだ。そんな鋭い歯で噛まれようものなら、如何に頑強な体躯を誇るオーガでも少なからず怪我を負うだろう。

オーガの民達の間に、そうした恐怖が芽生え始めていた。

そして、そんな不穏な空気を掻き消すかのように、一際大きな声が上がる。

「そんなことない!」

その声の主は、黒妖狼を抱っこしているルゥであった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「この子はさっき生まれたばかりなのよ!?」

「殻の外から出たら、こんなにたくさんの人がいるんだもの、きっとびっくりし過ぎちゃっただけなのよ!」

「だってほら!私がこうして抱っこしてても、暴れたり噛みついたりなんてしてないじゃない!」

一生懸命に黒妖狼を擁護するルゥ。

その眦には、うっすらと涙が滲んでいる。黒妖狼が危険視され始めていることに、悔しくて仕方がないのだ。

確かにルゥの言うことも尤もで、目が覚めたらたくさんの人に囲まれてじっと見つめられていたら、黒妖狼でなくとも驚くだろう。

そしてルゥの腕の中でおとなしく抱かれているのも本当のことだ。

ルゥの懸命な擁護が功を奏したのか、周りの者達も「……それはまぁ、そうだよな」「びっくりさせ過ぎちゃったかもね」と理解を示し始めた。

これを好機と見たライトがルゥの前に出て、黒妖狼に向けて話しかける。

「そうだよね、きっとびっくりしちゃったんだよね。君はまだ卵から孵化したばかりだもんね」

「でも、きっと君は優しくて賢い子だよね。だって、ルゥちゃんの抱っこを嫌がってないもん、ね?」

そう言いながら、ライトが黒妖狼の背中をそっと撫でる。

「「「……ッ!!」」」

周囲の者達は、思わず息を呑む。

先程の女の子の時のように、手を出したライトにも激しい威嚇をまたするのでは!?と思ったのだ。

だが周囲の予想に反して、黒妖狼が唸ったり威嚇する様子は全くない。それどころか、黒妖狼は目を細めておとなしく撫でられている。

これは、ライトに撫でてもらって気持ち良さそうにしている、ということだ。

ただただ驚く周囲を他所に、ライトは黒妖狼をそっと撫で続けながら静かに語りかける。

「君の生まれ故郷は、間違いなくこのオーガの里だよ」

「君がこうして無事生まれるために、ここにいる皆が手伝ってくれたんだ。だから君も、皆に恩返しできるように頑張らなくちゃ」

「これからはオーガの里の皆に、可愛がってもらうんだよ。そのためには、君のことを庇ってくれたルゥちゃんや、ルゥちゃんのお父さんでこの里で一番偉いラキさんの言うことをよく聞くんだよ」

「……いいね。分かったかい?」

優しい口調で語りかけるライトに、黒妖狼は小さくコクリと頷く。

ライトが一切怖気づくことなく黒妖狼を撫でることができたのは、黒妖狼がBCOシステムの産物だからだ。

ライトが一番最初に孵化させた使い魔のフォル。そのフォルが持ち帰ってきた品は、全てライトに所有権がある。

つまり、この目の前にいる黒妖狼もライトの所有物であり、ライトを主と仰ぐ使い魔なのだ。

だが、ライトはこの黒妖狼を自分の使い魔として連れて帰る気は全くなかった。

実際問題として、こんな大勢の人達がいる前で孵化させたので、連れ帰るに連れ帰れない、というのもある。だがそれ以上に、この黒妖狼の居場所は オーガの里(ここ) 以外にない、と思ったからだ。

ルゥ達親子の絆で支えられて、この世界に生を受けた黒妖狼。

黒妖狼がこれから生きていく場所に最も相応しいのは、このオーガの里以外にない―――ライトがそう考えるのも当然のことだった。

だから、黒妖狼の真の主であるライトは黒妖狼に言外に告げたのだ。

『このオーガの里がお前の故郷であり、これからはラキ一家に終生の忠誠を誓うように』と。

そして黒妖狼の方も、主の言葉を理解しその真意を汲んで頷いた、という訳だ。

もう大丈夫だ、そう確信したライトは振り返ってオーガの民達に話しかけた。

「もう大丈夫ですよ。ほら、この子もとってもおとなしいですし」

「……本当だ。ライト君って、すごいねぇ」

「もしかして、猛獣使いの素質があるのかしら?」

先程まで威嚇していた黒妖狼を相手に、ライトは一切物怖じすることなく手を差し伸べて撫でて、危害を加えるような危険な生き物ではないことを証明して見せた。

その胆力に、オーガの民達にさはただただ感服するばかりである。

「ねぇ、ライト君。そしたら今度こそ、私もこの子を撫でても大丈夫かしら……?」

「うん、ちょっとだけならいいと思うよ。あまり長く触らずに、二回か三回くらいそっと撫でてあげてね」

「……ありがとう!」

先程黒妖狼に威嚇された女の子が、再度黒妖狼を撫でたいと申し出てきた。

ライトのアドバイスに従い、おずおずとしながらもそーっと三回ほど撫でて手を引っ込めた。

その間黒妖狼はずっとおとなしく撫でられていて、歯を剥き出しにして威嚇してくることはなかった。

「はぁー……とってもふわふわで、すべすべで、柔らかくて……とにかく可愛い!」

黒妖狼を撫でた女の子が、声を震わせながら小さな声で呟く。

小さな声で呟いているのは、大きな声を出して黒妖狼を脅かさないように、という女の子なりの配慮である。

そして女の子の周囲にいた子供達も、黒妖狼を撫でたくてウズウズしている。だが、彼ら彼女らもまた黒妖狼がびっくりしてしまわないよう、必死に己の欲望を抑えて我慢しているのだ。

傍目から見てもそれがよく分かるだけに、ライトも苦笑いしつつその子達にアドバイスをする。

「皆、我慢しててえらいね。皆で我も我もと押しかけると、またこの子がびっくりしちゃうもんね」

「「「(……コクコク……)」」」

「この子をびっくりさせないように、少しづつ、少しづつ仲良くなっていけばいいよ。毎日少しづつ顔を合わせていけば、きっとこの子も分かってくれるから」

「「「(……コクコク……)」」」

ライトの言葉に、無言で頷くオーガの子供達。

声を抑えるのを通り越して、もはや無言を貫くのが一番だと思っているようだ。

ここで、それまでずっと事の推移を見守っていたラキが徐に口を開いた。

「ルゥよ、パパもこの子を抱っこしてもいいか?」

「うん……どうぞ!」

父親の要請に従い、ルゥが黒妖狼をラキに渡す。

ここでも黒妖狼は暴れたり抵抗したりすることなく、ルゥからラキの手に手渡された。

ルゥが抱っこしていた時には、そこそこの大きさに見えた黒妖狼。ラキに抱っこされると途端に小さな仔犬に見えてくる。

「黒き狼よ。ようこそ我がオーガの里に生まれてきてくれた」

「我らオーガの民は、心より其方の生誕を歓迎する。其方も我がオーガの里の一員だ」

「これからよろしく頼む」

ラキがオーガ族族長として、黒妖狼を受け入れると宣言した。

オーガ族にとって、族長の言葉は強い力を持つ。

族長が認めた者、それ即ちオーガ族全員が受け入れるべき者であることを意味していた。

使い魔の卵から生まれた黒妖狼が、晴れてオーガ族の一員となった瞬間だった。