軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第650話 エリトナ山山頂でのお茶会

ライト達がエリトナ山中腹で、死霊兵団の残骸の後片付けを始めてから約一時間経過した頃。

ようやく全ての残骸が片付いた。

それまでずっと、朽ち果てたスケルトンの白骨や錆だらけの剣や盾などが転がる殺伐とした異様な場所だったが、全てが片付けられたことでエリトナ山の地面が見えるようになった。

そのことに、火の女王は殊の外喜ぶ。

『おお……この地の山肌が見えたのは、いつぶりのことか……』

『レオニス、ライト……其方らのおかげで、この山の本来の姿を取り戻すことができた。本当に感謝する』

火の女王がライト達に感謝の言葉をかける。

火の女王が発する業火では、死霊兵団を撃退することはできてもその骸までは焼き尽くすことができなかった。その骸を全て浄化させることに成功したのだから、火の女王がライト達に感謝するのも当然のことである。

「いや何、俺達が役に立てたなら幸いだ」

「そうですよ!火の女王様のお役に立てて、ぼく本当に嬉しいです!」

『二人ともありがとう。そう言ってもらえると、妾も気が楽になる』

火の女王から労いの言葉をかけられたライト達も、さも当然のことをしただけだ、というように気軽に返す。

ここで火の女王が、両手をパン、と合わせてライト達にとある提案をしてきた。

『其方らは、この後に何か予定はあるか?』

「いや、あんたからの依頼である死霊兵団の残骸の片付けは、この通りもう済んだから後は家に帰るだけだが」

『ならば妾の住処に案内する故、少し寛いでいかないか?』

「え、火の女王様の住処に連れてってもらえるんですか!?」

火の女王からの提案に、ライトが真っ先に食いつく。

ライトは属性の女王達の根っからのファンであり、そのファン歴は前世時代から含めて二桁年数は超える長さを誇る。

そんな当代随一のファンであるライトが、火の女王からの魅惑的なお誘いに乗らないはずがなかった。

「レオ兄ちゃん、行ってもいいよね!?」

「ぉ、ぉぅ……まだ昼前だしな、時間もかなり余裕があるし」

「決まりだね!やったー!」

無事レオニスの承諾も得て、飛び上がらんばかりに大喜びするライト。

大はしゃぎで喜ぶライトを見て、火の女王も嬉しそうに微笑む。

『そしたら妾が頂上まで連れていってやろう』

「ン? ここから山頂まで登らずに行けるのか?」

『ここを何処だと思っておる? エリトナ山全てが妾の領域ぞ』

レオニスの疑問に、事も無げに答える火の女王。

火の女王がスッ、と右手をライト達の前に差し出した。

その手をライトは何の疑問も持たずに取り、もう片方の手でレオニスの手を握る。

「あッ、おい、ライト、大丈夫か!?」

『さ、行くぞ』

「はい!」

レオニスが慌てて声をかけるも、そんな心配を他所にライトはずっと平気そうな笑顔をしている。

三人が手を握ることで一つに繋がったことを確認した火の女王は、己の住処に向かって瞬間移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それまでエリトナ山の中腹にいたはずのライト達。

火の女王が繰り出した瞬間移動により、目に映る景色が瞬時に変わった。

そこはエリトナ山の最も高い頂である。

もちろん木々などはなく、見渡す限り視界を遮るものはない。

ぱっくりと大きく口を開いたような火口と、その周りに少しばかりの縁取りのような土地がある。

ライトがおそるおそる火口を覗き込むと、かなり奥の方から赤い何かが薄っすらと光っているのが見える。

「おおお……これはまさしくエリトナ山の火口ですね……」

『そう、妾は普段はこの火口の中、マグマの中に住んでおる』

「さすがに俺達はマグマの中には入れんぞ……?」

『それくらいのこと、妾にも分かっておるわ』

「ぃゃ、だってあんた、さっき『妾の住処に案内する』って言ってたから……」

レオニスがおずおずと確認すると、火の女王は不服そうに頬を膨らませてむくれるではないか。

如何にライトとレオニスが人外ブラザーズであろうとも、さすがにマグマの中に落とされたらただでは済まない。ただでは済まないどころか、普通に一巻の終わりである。

そんな常識的なことをわざわざ尋ねるレオニスに対し、それくらいのことは妾とて承知しておるわ!と憤慨しているのだろう。……と思ったが、どうやら違うことでお冠らしい。

『さすがに最初から家の中にまで男を上がらせはせぬわ。妾はそんな安い女ではないぞ?』

「ぃゃぃゃ、そういう問題じゃねぇだろう……」

「ここでお茶しましょー!」

火の女王とレオニスのちぐはぐな問答を他所に、ライトから元気な呼び声がかけられる。

ライトは山頂について早々に平らな場所を選び、そこにいそいそと敷物を敷いていた。

親睦や交流に欠かせないお茶会を開催するためである。

「美味しいお菓子や飲み物もたくさんありますよー。火の女王様は何がいいですか?」

『おお、ライトはよく気が利くの。では早速妾もお邪魔するとしよう』

「ライト……恐ろしい子!」

敷物の上に、クッキーやらアップルパイやらの美味しいスイーツをテキパキと出していくライト。普段からあちこちでお茶会を開催しているだけあって、実に手際が良い。

美味しそうなものの気配に、火の女王も瞬時に機嫌が直りいそいそとライトの方に引き寄せられていくではないか。

火の女王とも早々に仲良くなりつつあるライトのリア充っぷりに半ば絶句しつつ、白目を剥きながら慄くレオニスだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

エリトナ山山頂で、ライトが敷いた敷物の上でのんびりとお茶会をするライト達。

ライトが出したマグカップに、並々と注がれた熱々のホットココアを啜る火の女王。これはこれで滅多にお目にかかれない、なかなかに貴重な絵面である。

火の女王が『おお、なかなかに美味な液体だの。これは一体何ぞ?』と感心したように聞くと、ライトは「これはホットココアっていう飲み物なんですよー。甘くて香りも良くて、ぼくも大好きなんですー」などと答え、のんびりした会話を交わしている。

そんな和やかな空気の中で、ライトが気になっていたことを火の女王に質問した。

「そういえば、火の女王様専用の神殿はないんですか?」

『ああ、特にこれといった特別な建物はない。だがその代わりに、このエリトナ山自体が妾にとっては神殿なのだ』

「エリトナ山そのものが神殿、か……何か分かるような気がするな。炎の女王も神殿は持っていなかったが、その代わりに炎の洞窟そのものが神殿みたいなもんだし」

『そう、それと同じ理屈よの』

そう、ライトが気になっていたこととは『火の女王の神殿はないのか?』ということである。

今まで出会ってきた属性の女王達は、大抵がその属性の名を冠した神殿があり、そこに住んでいた。

それ故エリトナ山山頂まで行けば、神殿があるのかな?と思っていたライト。だが、周囲を見渡す限りでは何も見当たらないので、不思議に思って聞いてみた、という訳だ。

しかし、それらにも一部例外はあって、炎の洞窟に住まう炎の女王の玉座は神殿ではなかったし、水の女王も湖底神殿とは別の褥に住んでいた。

火の女王の場合も、特定の神殿はなくてこのエリトナ山そのものが神殿扱いになっているようだ。

その話を横で聞いていたレオニスも、ラウル特製アップルパイをむしゃりつつ頷き納得している。

「あ、そういや俺も火の女王に聞きたいことがあるんだが」

『何ぞ? 妾が知ることならば、何なりと答えてしんぜるが』

「エリトナ山は周期的に小規模な噴火を起こしてるって、ここから一番近い人里で聞いたんだが」

『ああ、このエリトナ山はそれはもう活発な活火山だからな。たまに噴火してエネルギーを発散してやらんと、エネルギーが溜まり過ぎて大噴火に至るのだ』

「だろうなぁ。いきなり大噴火を起こされるよりは、小出しでエネルギーを分散してくれる方が余程マシってもんだ」

レオニスはレオニスで、エリトナ山の噴火の仕組みについて聞いている。

確かに火の女王の言う通りで、エネルギーを限界ギリギリまで溜め込まれてから大放出されるよりは、少しづつ出して発散してくれた方が周囲の環境にも被害を出しにくいだろう。

だが、レオニスが本当に聞きたいのはそこではなかった。

「その小出しの小規模噴火、次にいつ来るかってのは分かるか?」

『次の噴火がいつになるか、か? さすがにそれは妾にも分からんが―――前の噴火から十は季節の巡りを過ぎておる故、そろそろ来る頃だと思うが』

「そうか……」

『何故にそのようなことを聞くのだ? エリトナ山の噴火は、其方ら人族に何か悪影響や不都合をもたらすとでも言うのか?』

具体的な時期の回答が得られなかったことに、レオニスの表情が少しだけ険しいものになる。

その微妙な表情の変化を目敏く察知した火の女王、今度は彼女の方からレオニスに問うた。

「ああ、いや、不都合とか悪影響とかそこまで大袈裟なことではないんだ。ただ、噴火するとここに一年は来れなくなるってだけでな」

『何?……それはつまり、其方らも一年以上はここに来れなくなる、ということか?』

「噴火直後の火山ってのは普通に危険だからな。噴火後一年はエリトナ山への入山が禁止になるらしい。だから、もし次に噴火する時期が分かれば、その前にもう一度くらいはここに様子を見に来れるかと思ったんだ。……ま、死霊兵団の残骸の片付けはもう一通り済んだし、とりあえずしばらくは大丈夫だと思うが…………って、ン? どうした?」

レオニスの話を聞いていた火の女王、俯いたまま何やらふるふると震えている。

『せっかく妾のところにも、こうして客人が来るようになったと思ったのに……何たることぞ』

「ンー、でもまぁこればかりはしゃあないよなぁ。エリトナ山の噴火を抑える方が危険は増大するし」

『それはそうなのだが……何か良い手はないかのぅ……』

火の女王が真剣な顔で考え込んでいる。

やはり火の女王としても、人族の訪問は物珍しいだけにこれからもライト達にエリトナ山に来てもらいたいのだろう。

目を閉じ眉間に皺を寄せつつうんうんと唸り、しばし思案していた火の女王が、その目をパッ!と見開いた。何か案が浮かんだようだ。

『先程の話で思いついたのだが。其方らは、炎の洞窟には行ったことがあるのよな?』

「あ、ああ、もちろんだ。全ての属性の女王達の安否を確認してくれ、と俺達に頼んできたのも、もとはといえば炎の女王の依頼だしな」

『妾は全ての火を統べる火の女王。火のあるところなら、どこでも行き来することができる』

「そうなのか? ……ぃゃ、確かに属性の女王ならばそれくらい出来て当然なのかもしれんが。……てことは、何か? もしかして、ここから炎の洞窟に移動することも可能、ということか?」

『うむ。実際にやったことは妾の代では一度もないが、理論的には出来て当然なはず』

火の女王が言わんとしていることを、早々に察知したレオニス。その目が次第に見開かれていく。

先程も火の女王はライトとレオニスを連れて、エリトナ山の中腹から山頂までを一気に瞬間移動してみせた。

それは火の女王の領域であるエリトナ山だからこそ出来る業なのだ、ライト達はと思っていたが、どうやらそれだけに留まらないらしい。

『火の女王と炎の女王―――属性の女王として双方独立してはいるが、もとは同じ火属性を司る者。ならば行き来できぬはずなどない』

「そりゃそうだが……どうやって移動するんだ? まさかとは思うが……この火口に飛び込む、とか言わないよな?」

『おお、妾の考えることがよく分かったのぅ。その通り、この火口のマグマを通じて、炎の洞窟の火溜まりに飛べばよいのだ!』

火の女王の理論は確かに正しい。

火と炎はもともと同じもの。火という現象の一部分を指した言葉『火の穂』が枝分かれして派生したのが炎という概念だ。

起源を同じくする者同士、ならばその行き来も可能なはずである。

しかし、問題はその移動方法だ。

ウィカやアクアの水中移動じゃないが、まさかそれと同じようにマグマ溜まりに飛び込むんじゃねぇだろうな……?という、割と最悪な方のレオニスの予想は的中してしまったようだ。

レオニスが泡を食ったように、火の女王に向かって慌てて反論する。

「おいおい、ちょっと待ってくれ!そりゃあんたは火の女王だからマグマ溜まりに飛び込んでも平気だろうが……俺達ゃただの人族だぞ? マグマになんて飛び込んだら、一瞬で消し炭になっちまう!」

『大丈夫。其方らは妾の加護を直々に与えておる。火属性の頂点たる妾が加護を与えたならば、その者は既に火属性を完全に得たも同然。マグマ溜まり如きに溶かされるなどと、そんなことがある訳なかろう?』

「え? そ、そういうもんなのか……?」

自信満々に説く火の女王に、レオニスは一瞬折れかけるもただただ不安しかない。

だがここで、ライトが身を乗り出しつつ話に加わる。

「レオ兄ちゃん、火の女王様が大丈夫って言うなら大丈夫でしょ?」

「そ、そんな、お前……マグマ溜まりに飛び込むなんて、怖くねぇのか?」

「全く怖くないかって聞かれたら、ちょっとだけ不安だけど……でもほら、きっと水の女王様の加護と同じじゃないかな?」

「水の女王の加護……か?」

「うん。水の女王様の加護のおかげで、ぼく達は水の中でも普通に歩けるし、呼吸もできて話もできるようになったでしょ?」

「あ、ああ、確かにそうだな……」

不安がるレオニスに、ライトは水の女王の例を引き合いにして話していく。

確かに言われてみればそうで、水の女王と仲良くなったおかげでライト達は水の勲章を得て水中でも自由自在に動けるようになった。それは水の女王のお膝元である目覚めの湖だけでなく、ラギロア島での海底神殿訪問時にも役立った実績がある。

水中での会話、歩行、呼吸、全てが常識ではあり得ないことだ。だがそのあり得ないことを、現実のものとして叶えてくれるのが属性の女王の加護なのである。

二人の話を横で聞いている火の女王も『妾の姉妹にできることなら、妾にだってできるわ』『むしろ妾ができないと思う方がおかしいぞ』とドヤ顔で息巻いている。

話の流れ的に、マグマ溜まりを経由しての瞬間移動決行は避けられそうにないことをレオニスは悟る。

そうとなれば、決意するのが早いのがレオニスという男だ。その覚悟を決めるとともに、キッ!と顔を上げてやる気を見せる。

「……よし、俺も男だ。火の女王を信じて、やってやろうじゃないか」

「それでこそレオ兄ちゃんだよ!それに、ぼくもいっしょだから大丈夫!もし何かあったら、エリクシルがぶ飲みしようね!」

「ぃゃ、あの、ライト君? マグマに飛び込んで何か起きた日にゃ、エリクシルを飲むどころの話じゃねぇと思うんですが……って、聞いてねぇな、こりゃ」

覚悟を決めたレオニスを褒めちぎるライト。

万が一の時を考えてエリクシルの名を挙げるも、その策が穴だらけのザルであることをレオニスに指摘される。

だがしかし、ライトは敷物をアイテムリュックに仕舞ったりしてお茶会の後片付けをしていて全く聞いていない。ライトは既に出かける気満々なのである。

「片付け終わりました!さ、火の女王様、レオ兄ちゃん、お待たせ!早く行こうよ!」

『ふふふ、肝の座った子だの』

「ぉぅ、俺よりライトの方がよっぽど冒険者してるぜ……」

活き活きとした顔で出立を急かすライトに、火の女王は嬉しそうに微笑みを浮かべ、レオニスは若干憔悴気味ながらもライトの冒険者魂を讃える。

三人はエリトナ山山頂の火口の縁に横並びに立つ。火口の奥には、赤々と燃え盛る業火のようなマグマが見える。

エリトナ山のマグマ溜まりを改めて目にしたライトとレオニスは、その光景に思わず息を呑む。

どろり、と畝るように渦を巻くマグマ。その煌々とした赤い輝きの奥には、強い火がもたらす破壊の力の恐ろしさも内包していた。

火の女王は二人の間に立ち、右手をライト、左手をレオニス、それぞれと手を繋ぐ。

『では、今から炎の洞窟に行くぞ。二人とも、覚悟はよいな?』

「はい!よろしくお願いします!」

「ここまで来たら、腹括るしかねぇよな……よし、行くか!」

『よろしい。……行くぞ!』

ライトは最初から嬉々として返事をし、レオニスは諦めの境地から腹を括り応える。

二人の覚悟を見た火の女王。満足そうな顔でニヤリと笑い、二人の手を引っ張って火口の中に飛び込んでいった。