軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第651話 熱い抱擁

「おわーーーッ!!…………って、こりゃまた綺麗なもんだな……」

「マグマの中って、すっごく明るくて綺麗だね!」

「おお、これは地上から見るマグマとはまた全然違うな」

意を決して勢いよくエリトナ山火口に飛び込んだはいいものの、やはりマグマへの恐怖で思わず大声で叫んでしまったレオニス。

だが、飛び込む前に火の女王が言っていた通り、マグマの熱さは全く感じない。むしろほんわかとした温かさに包まれている。

マグマの温度は800~1200℃とされているが、ライト達が感じているのは普段のお風呂の温度くらいだった。

マグマの中は赤い光に満ちていて、それ程眩しくも感じない。

世にも珍しい光景をうっとりと眺める間もなく、数秒後には別の景色に切り変わる。

そこはゴツゴツとした岩でできていて、太陽の光が一切ない代わりに炎が明かりの役割を持つ場所。炎の洞窟であった。

壁から床から天井から、至るところで炎が噴き出している。

『おお、見よ!ここはまさしく炎の洞窟ではないか!?』

「ぉ、ぉぅ、確かにこの光景には見覚えがあるな」

「うん!炎の女王様の言う通り、ここは間違いなく炎の洞窟だよね!……って、ここ、洞窟のどこら辺だろ?」

周囲を見渡す限りでは、ここは炎の洞窟内部に間違いなさそうだ。

だが、エリトナ山から初めて瞬間移動したので、炎の洞窟内部のどこに転移したのかさっぱり分からない。

三人してキョロキョロの辺りを見回していると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。

『……ね、姉様?』

ライト達が声のする方を見ると、そこには炎の女王がいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『おお、炎の女王!我が妹よ、会いたかったぞ!』

炎の女王がそこにいることを認識した火の女王が、一目散に炎の女王のもとに駆け寄る。

炎の女王の方も、それまで横になって寝そべっていた炎の褥から慌てて立ち上がり、火の女王に向かって歩いていく。

そして二人の女王は互いに抱き合い、熱い抱擁を交わした。火の女王と炎の女王だけに、物理的にも文字通りの超高温の熱い抱擁である。

抱き合う炎の女王の瞳からは、炎の雫がぽろぽろと零れ落ちる。

火の女王の眦にも、薄っすらと光る雫が溜まっていく。

まさに火の姉妹の感動の対面であった。

『火の姉様……妾も姉様にお会いしとうございました』

『其方の身に起きた異変について、妾も聞き及んでおる。可哀想に……大変な目に遭ったのだな、さぞ辛かったことだろうに』

『ええ……ですがこの通り、だいぶ良くなりました。まだ魔力は全回復してはおらず、万全とまでは言えませんが……』

『そうか……今妾の魔力を其方に分け与える故、安堵するがよい』

それまで抱き合っていた二人が少し離れて、火の女王が炎の女王の頬を両手でふんわりと優しく包み込む。

そして額をコツン、と当てた瞬間、眩い光が女王達の身体から発せられた。

その光は火の女王の方が明らかに強い。おそらくは火の女王が言っていたように、火の女王から炎の女王へ魔力の譲渡が行われているのだろう。

そうして三十秒ほど経過しただろうか。眩い光は徐々に収まっていき、元の景色に戻った。

『火の姉様、ありがとうございます……こんなにたくさんの魔力をもらってしまって、姉様のお身体は大丈夫なのですか?』

『何、心配は要らぬ。妾など、エリトナ山に帰ればすぐに魔力を補充できるからの』

『そうですね。火の聖地エリトナ山は、それこそ火の魔力が無限に満ちておられますものね』

『そういうことぞ。だから其方が心配することなど何一つない』

火の女王が炎の女王の頭をそっと撫でる。

火の女王と炎の女王、二人並ぶと明らかに炎の女王の方が背丈が高い。顔立ちは基本全く同じコピペなのだが、身長差があるせいか火の女王の方が若干幼く見えて、その分炎の女王の方が余計に大人びて見える。

傍から見ただけだと、幼い妹が泣きじゃくる姉を懸命に慰めようとしているかのような図である。

だが、二人の関係は火が姉で炎が妹のようだ。

火と炎―――双方同じ火属性であっても、火こそが大元の根源であり本家本元。炎はそこから枝分かれした分家という位置付けになることを思えば、火が姉で炎が妹となるのは当然の摂理か。

いずれにしても、姉妹が互いを思い遣り労り合う様はとても尊い光景だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

『ところで、火の姉様……どうして今日はここにいらしてくださったのですか?』

『ン? ああ、それはだな、あの者達が―――』

火の女王に魔力をたっぷりと分け与えてもらった炎の女王。気分的にも少し落ち着いてきたのか、火の女王に今日の突然アポ無し訪問の理由を尋ねてきた。

それに答えるべく、火の女王がライト達のいる後ろを向くと―――そこには、涙をダバダバと流す人外ブラザーズがいた。

「遠く離れた姉妹の再会……ううッ、何て感動的なんだろう……」

「全くだ……兄弟姉妹ってのは、どんなに遠く離れていても思い合うもんだもんなぁ……」

「火の女王様も、炎の女王様も、姉妹同士がちゃんと会うことができて、本当に良かったねぇぇぇぇ」

「ああ、俺も貰い泣きしちまうぜ……頼れる兄貴や姉貴ってのは、本当にいいもんだよなぁ」

滝の如き涙をダバダバダーと流す人外ブラザーズ。どうやら火の女王と炎の女王の感動の対面に、二人して思いっきり貰い泣きしているようだ。

あまりにも貰い泣きし過ぎて、レオニスは空間魔法陣からタオルを取り出し、ライトはアイテムリュックからおしぼりを取り出し、それぞれぐしゃぐしゃになった顔をゴシゴシと拭いたり鼻をかんだりしている。

何とも涙脆い人外ブラザーズの様子を、しばし呆気にとられつつ眺めていた火の女王と炎の女王。

先に我に返ったのは、炎の女王の方だった。

『あれは……妾を救いし者達……?』

『そうだ。其方を悪辣な奸計から救い、其方の願いである他の姉妹の無事を確認して回っている人の子らだ』

『あの者達は、火の姉様のところにも行ったのですね』

『ああ。あの人の子らは其方だけでなく、妾のエリトナ山をも救ってくれたのだ』

火の姉妹がそんな話をしていると、火の姉妹からの視線を浴びていることに気づいたライトとレオニス。

二人は火の姉妹のもとに歩いて寄っていく。

「炎の女王様、お久しぶりです!ぼく達のこと、覚えておられますか?」

『もちろんだとも。妾を救いし恩人達を、忘れようはずもない』

「そりゃ良かった。俺達もここに来るのは久しぶりのことだからな。近いうちに炎の女王に報告するつもりではいたんだが、今日は思わぬところでここに来れたよ」

『火の姉様とともに来たのだな。汝らも息災そうで何よりだ』

まずは炎の女王に挨拶をするライトとレオニス。

久方ぶりに会う炎の洞窟の主は、相変わらず見目麗しい。火の女王に会う前までは若干痩せ細っていた感があったが、火の女王から魔力をたっぷり充填してもらった後はすっかり元気そうだ。

ふっくらとした頬、艶やかな唇、炎の揺らめきを模した豊かな長髪、全てがライトが知るBCOの精霊の女王そのものである。

「火の女王様の転移も上手くいって、本当に良かったです!」

「ああ、さすがの俺もマグマに飛び込んだ時は肝が冷えたぜ。転移が成功して本ッ当ーーーに良かった……つーか、失敗したら本気で洒落ならんがな……」

「でもさ、マグマの中を通るなんて、滅多に経験できることじゃないよね!」

「……まぁな。こんな経験ができるのも、冒険者ならではだよな」

エリトナ山からの瞬間移動に成功したことを喜ぶライトと、喜びつつも己の手で腕を抱き抱えながらブルッ、と震えるレオニス。改めて肝を冷やしたようだ。

二人の会話を聞いた炎の女王が、火の女王に向かって問うた。

『マグマということは……姉様、エリトナ山の火口からこの炎の洞窟に飛んでいらしたのですか?』

『ああ。妾と其方は同じ火属性。我ら同じ火の中に住まう者同士、繋げられぬことなどなかろう、と思ってな』

『何とまぁ大胆な……妾達はいくら火を浴びても平気ですが、人の子の身でそれを行うとは……本当に豪胆な人の子達ですね』

『あの者達は妾と其方、両方から加護を受けておるからな。それに―――』

ライトとレオニスを見つめながら、火の女王が小さく笑う。

『其方のみならず、妾をも救いし者達なのだ。それくらいは朝飯前だろうて』

『ふふふ……そうですね』

火の女王の言葉に、炎の女王もまた静かに微笑みながら納得していた。