軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第649話 身体能力向上の秘訣

エリトナ山遠征二日目。

ライト達は朝早くから起きて、しっかりと朝食を摂って腹拵えをする。

大自然の山中、その早朝の清々しい空気とともに食べる朝食。これもまた、いつものカタポレンの森の空気と違って格別なものに思えるから不思議なものだ。

「あと一つ山を越えればエリトナ山だよね? ここを出たらすぐに着くかな?」

「ああ。前回来た時よりもかなり先に進んでいるからな。一時間もしないうちにエリトナ山に着くだろうな」

「今日はあのスケルトンの残骸の残りの分を、全部片付けなくちゃならないもんね。早くエリトナ山に行かなくちゃね!」

「そうだな。……にしても、ライト。お前本当に足腰強くなったなぁ。毎朝の走り込み以外にも、どこかで山登りしたり何か別の鍛錬でもしてるのか?」

レオニスが感心したようにライトに尋ねる。

ゲブラーの街からシュマルリ山脈麓までの平地マラソンの時も、かなりの時間短縮ができておりレオニスは感心していた。それだけでも、ライトの基礎体力が向上していることがレオニスの目から見てもはっきりと分かる。

だがそれ以上に驚きなのが、シュマルリ山脈山中に入ってからだ。

シュマルリ山脈はほぼ人の手が入れられていないので、当然整備された山道などない。聳え立つ木々の間を縫うように急な坂を登り降りし、草むらを掻き分けながら道なき道をひたすら前進するしかない。

そのための体力消耗は、平地マラソンの比ではない。普通に平地を走る時の何倍も神経を使い、体力もガンガン消耗していくものだ。

だが、昨日のライトは最初のエリトナ山遠征の時よりもかなり余力があり、スイスイとレオニスの後をついてきた。

ハイポーション片手に時折飲みながらではあったが、それを差し引いてもライトの身体能力向上には目を見張るものがあった。

これは親の欲目ならぬ兄の欲目や贔屓目ではない。現役冒険者として公正な目で見ての感想である。

「そ、そうかな? 時々近所の岩山で登ったり降りたりの訓練をしてたから、かな?」

「そうか、あの岩山か。森の中で山の登り降りの訓練するには、まさにうってつけの場所だよな」

「う、うん、またエリトナ山に来ることが決まってたからね。山道の登り降りも練習してたんだ!」

「今回の遠征に備えて訓練してたのか、ライトは偉いなぁ!」

「ま、まぁね……アハハハハ……」

ライトの回答に、レオニスは破顔しつつ手放しで褒める。

だがしかし、ライトの足腰が強靭になったのは、近所の岩山を登り降りしたからではない。ディーノ村にある転職神殿周辺で、いつも咆哮樹の柴刈りをしているせいである。

ライトが咆哮樹の柴刈りに勤しむのは、『咆哮樹の木片』がコズミックエーテルの原材料だからだ。

つまりライトはコズミックエーテルを作りたさに、転職神殿周辺の山中で幾度となく咆哮樹の柴刈りを繰り返しているうちに、山中で自在に駆け巡る動きも自然と身につけていった―――これが、ライトの足腰が強靭になった本当の理由である。

だが、そんなことをここでバカ正直に種明かしする訳にはいかない。

そんなことをすれば、何で咆哮樹なんてもんを狩ってるのか、どうして転職神殿周辺の山に入り浸っているのか等々、いろいろと突っ込まれること確実だからである。

故にライトはとっさに近所の岩山を引き合いに出して、何とか事なきを得たのだ。

岩山での鍛錬と聞き、その成果とライトの勤勉さを褒めるレオニスの眩しい笑顔を前に、ライトは苦笑いしつつ上手く誤魔化しながらも内心では良心がチクチクと痛み申し訳なくなる。

だが、BCOにまつわる事柄だけは、如何にレオニス相手といえども話すことはできない。こればかりはどうしようもないのだ。

だがしかし、ここでライト自身すら気づいていない問題が浮かび上がる。

それは『あの岩山はご近所さんか否か?問題』である。

そう、あの岩山は常人の感覚では決してご近所ではない。カタポレンの家からはるか遠くにぽつん、と見えるくらいには距離が離れているのだ。

あの岩山をご近所扱いするレオニスのことを、以前はライトも『感覚おかしい』と思っていたはずなのだが。カタポレンの森で日々鍛錬を積むうちに、ライトも徐々に感覚がレオニス基準に染まりつつあるらしい。

これは、喜んでいいことなのか、あるいは悲しむべきことなのか。

いずれにしても、人外ブラザーズの名に相応しい道をライトも着実に歩んでいるようである。

「じゃ、ぼちぼち行くか」

「うん!」

朝食を摂り終えた後、寝袋やテントを仕舞うライトとレオニス。

後片付けを済ませた二人は、再びエリトナ山に向かって出発した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ライト達が昨晩の野営地から出発して、約三十分くらいのこと。

見覚えのある山肌に到着したライト達。二人は一旦足を止め、下から山を見上げる。

「ここからもうエリトナ山だよね?」

「ああ。前回はここをもっと上がっていって、山の中腹あたりで死霊兵団の残骸と出食わしたな」

「そこで火の女王様が出迎えてくれたよね。今回もそこに行けば、火の女王様が出てきてくれるかな?」

「多分な。一応他の女王達からもらった勲章も内ポケットに入れてるし、それらの気配でもすぐに火の女王には伝わるだろうが」

火の女王がいつもどの辺りに住んでいるかまでは、まだライト達も知らない。火口がある山頂付近にまで行けば、神殿なり何なりあるかもしれないが、二人ともまだそこまで行ったことがないのだ。

前回は火の女王自らが直々にライト達のもとに現れてきてくれたが、今回も火の女王の方からライト達の前に出てきてくれることを願うばかりである。

木々もほとんどなくなった、岩や石だらけの山を黙々と進むライトとレオニス。

程なくして、その山肌とは違う異様なオーラと彩りを放つ場所に到着した。

そこは前回ライト達が辿り着いた、死霊兵団の残骸が堆く積み重なる地である。

その見覚えのある荒涼たる景色を見渡した限りでは、前回の訪問時から特に変わったことはなさそうだ。

とはいえ、相変わらず無数の屍が山と積み上げられた凄惨な光景に、ライトもレオニスも自然と顔が強ばり表情も険しくなる。

「さて、と。じゃあ早速作業に取りかかるか」

「うん」

レオニスが空間魔法陣を開き、浄化魔法呪符『究極』を取り出す。今回用意してきた二百枚を一辺に出しても邪魔になりかねないので、とりあえず三十枚分ほど手に取って、残りを再び空間魔法陣に仕舞う。

ライトはアイテムリュックを腹側に装備して、浄化が済んだ後に残された鎧などの装備品収拾の準備をしている。

そうしているうちに、ライト達の前に火の女王が音もなく現れた。

『レオニス、ライト、久しいの。よく来てくれた』

「あッ、火の女王様!おはようございます!」

「よう、火の女王。元気そうで何よりだ」

レオニスの横に現れた火の女王のもとに、ライトもアイテムリュックを前側装備のままで駆け寄って朝の挨拶をする。

「あれから特に変わったことはないか?」

『ああ。日々息災なく過ごしておる』

「そうか、そりゃ良かった」

『其方らも元気そうで何よりだ。思ったよりも早くに再びここを訪ねて来てくれて、とても嬉しく思う』

レオニスもまた、火の女王と和やかに挨拶を交わす。

ライトとレオニスに再び会えたことを、殊の外喜ぶ火の女王。本当に嬉しそうな笑顔を浮かべている。

火の女王の変わらぬ麗しい姿形や穏やかな笑みを見るに、本当に特に異変は起きていないようだ。

『其方らはこのエリトナ山に来るまでに、かなりの時間と苦労を要するのだろう? 前にそんな話を聞いておったから、季節の巡りを十回か二十回は過ぎる覚悟をしておったわ』

「十年も二十年も経つ頃には、俺はすっかりいい歳になって冒険者引退してるわ……」

火の女王は、ライト達の再訪を十年でも二十年でも待つつもりだったらしい。精霊の長たる火の女王だけあって、実に悠長な感覚である。

もっともそれは悠久の時を生きる者達ならではの感覚であり、人族であるライトもレオニスもそんなに長生きできないのだが。

「今からライトとともに、ここの残りの残骸を片付けていく。火の女王は俺達の作業が終わるまで、そこら辺で適当にのんびりと待っててくれ」

『承知した』

「ライト、やるぞ」

「うん!」

レオニスはそう言うと、早速ライトとともに今回の主目的である死霊兵団の残骸の除去作業に取りかかり始めた。

まずレオニスが浄化魔法呪符『究極』を一枚、残骸の上に置く。

すると瞬時に呪符の周りが淡く光り、小さな光の粒のような塊がいくつも湧き起こる。

その光の塊が空に向かって浮かび上がり、天に還る頃には足元の白骨が減って鎧や剣などの物質的な装備品類だけが残る。

ライトはレオニスが浄化した後に残される装備品類を拾い、アイテムリュックに収拾していく。

二人はこれを延々と繰り返した。

ここには火の女王もいるので、いきなり外敵に襲われる心配はない。ライト達は安心して作業を行っている。

火の女王もただ見ているだけはつまらないのか、ライトやレオニスの傍に寄ってきていろんな質問をしている。

『その呪符?とやらは、本当に凄いのう。それも人の子の手で作られておるのか?』

「ああ。これは魔法や魔術を使える魔術師が、特殊な紙と特殊な墨で描き上げるものでな。魔法を使えない者でも魔術の恩恵が受けられるように、そう願って作られるものなんだ」

『人の子の努力というものは、ほんに凄まじいものよのぅ』

「人間なんて基本弱っちい生き物だからな。そうやって皆で助け合っていかないと、すぐに滅んじまう」

『人の子ならではの生きる智慧、成せる業、か……実に興味深い』

レオニスの話を聞いた後、今度はライトのもとで話しかける火の女王。

なかなかどうして話好きの女王様である。

『この残った鎧やら剣はどうするのだ? これは呪われた品ではないのか?』

「浄化魔法の呪符で浄化済みなので、もう呪われる心配はないです。前回回収した時も問題なかったですし、ここにこのまま放置しておいても邪魔でしょう? ……本当は、もとの持ち主が誰だか分かれば、遺族に返すのが筋なんですけど。いつどこで亡くなったかも分からないスケルトンなので、遺族を探すこと自体がほぼ無理なんですよね」

『そうであろうなぁ。皆骨だから 顔貌(かおかたち) の区別すらつかんし』

火の女王としては、死霊兵団という呪われた手駒が身につけていた装備品なので、それらも全て呪われた品ではないのか、という疑問があったようだ。

ライトとしては、もしこれらの装備品が誰のものか分かれば、持ち主の家族に返還してあげたいところなのだが。身元不明のスケルトンの素性など調べられるはずもない。

そして火の女王もライトの意見に同意するが、真面目な顔してスケルトンの顔貌を論じるところが何だか面白い。

「それにもうこれらはただの金属なので、鍛冶屋さんとかに持ち込めばまた融かして再利用できるかもしれませんし」

『再利用、か。もとの持ち主が天に還って生まれ変わるならば、その装備品も生まれ変わって新たな姿形を得るのもよいやもしれぬな』

「ですよね!でも中には相当古い品もあって、そういうのは金属としてもかなり劣化してるから、本当に再利用できるかどうかは微妙なところなんですけどね。材質も、鉄やらミスリルやらごちゃまぜだし」

一番最初に会った時の、強大な威圧感はどこへやら。

火の女王も他の女王と同様で、仲良くなれさえすれば気さくで話しやすい性格のようだ。

そんな風に軽い雑談を交わしながら、ライト達は死霊兵団の残骸を次々と片付けていった。