軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第648話 エリトナ山遠征再び

ライトが念願のクエストイベントを進めることができた翌日。

東の空がうっすらと白んだ頃、ライトとレオニスはそれぞれ朝のルーティンワークを済ませて早々に朝食を摂る。

今日からエリトナ山の遠征に出かけるため、早朝から出立するのだ。

カタポレンの家からラグナロッツァの屋敷に移動し、屋敷を出て冒険者ギルドに向かう道すがら、ライトとレオニスが雑談する。

「レオ兄ちゃん、浄化魔法の呪符はちゃんと全部持ってるー?」

「おう、ピースから受け取る度に即空間魔法陣に入れてるから大丈夫だ」

「今回は何枚作ってもらったの?」

「全部で二百枚かな」

今回のエリトナ山遠征は、前回の訪問時に祓いきれなかった死霊兵団の残骸を浄化するためだ。

これはエリトナ山に住む火の女王の直接の依頼であり、金銭的な報酬は一切発生しない。だがその代わりに、火の女王からは【火の乙女の雫】という超高額アイテムをたくさんもらっている。

その他にも、死霊兵団の残骸をそのままエリトナ山に放置しておくのは良くないことだし、何より冒険者として一度請け負った依頼を達成せぬまま途中放棄する訳にはいかないのだ。

前回の実績から換算すると、おそらく百枚あれば残骸全てを祓いきれるはずだが、こればかりは実際にやってみないことには分からない。

もし万が一目算が大きく外れて、百枚でも足りなくて全部祓えない!なんて事態になったら、再びエリトナ山に三度目のお祓いに行かなければならなくなる。

そんな事態に陥らないためにも、レオニスは浄化魔法の呪符をかなり多めに用意しておいたのだ。

「またたくさん作ってもらったねぇ」

「もし今回使い切らずに余ったとしても、今後も呪符を使わなきゃならん場面が突然出てくるかもしれんからな」

「そうだねー。『備えあれば憂いなし』ってやつだよねー」

「お前、また難しい言葉知ってんね……どこでそんなん覚えるの?」

浄化魔法の呪符二百枚と聞いたライト、思わずびっくりする。

ライト達が言うところの浄化魔法の呪符とは、魔術師ギルド製呪符の中でも最上級の『究極』を指す。それ以下の呪符では効き目が足りず、さらに多くの枚数を要することになるからだ。

ライト達が相手にしている穢れや呪いの類いは、それ程に手強いものばかりなのである。

そして、そんな最上級の呪符ともなればその描き手はかなり限られてくる。魔術師ギルドマスターであるピースを含めても、三人かそこらくらいだろう。

レオニスはピースと個人的な親交があるので、いつもピースに直接依頼しては描いてもらっている。

だが、如何にピースであっても一枚三分や五分で描けるものでもなかろう。それを二百枚も作成してもらうとは、ピィちゃんも大変だったろうな……とライトは内心でピースを労う。

しかし実際のところは、ピースはレオニスからの依頼を嬉々として請け負っていたりする。

ピースにとってレオニスは『書類の檻から出る口実を与えてくれる、ありがたーい救世主様!』なのである。

そんな話をしながら二人して歩いていくと、冒険者ギルド総本部の建物が見えてきた。

「さ、これからゲブラーの街に行くぞ。ゲブラーについたらまた走ったり山登りしたりしなきゃならんからな、気を引き締めていくぞ」

「うん!」

レオニスの言葉に、ライトも気合いを入れつつ頷いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ゲブラーの街に移動したライトとレオニス。

冒険者ギルドの建物から出た二人は、早速シュマルリ山脈麓を目指して走り出す。

前回エリトナ山遠征に出かけたのは、三月末頃。朝のうちは今の方が過ごしやすいが、日が高くなる日中は夏である今の方が厳しい。出来るだけ早いうちにシュマルリ山脈に入りたいところだ。

前回同様、ゲブラー郊外からシュマルリ山脈までひた走るライトとレオニス。

心なしかレオニスの走るスピードが、前回よりもかなり速いように思える。

ライトはマントの内ポケットに入れておいたハイポーションを時折飲みながら、レオニスに置いていかれないよう懸命に食らいついて必死に走り続ける。

そうしてゲブラーの街を出てから約二時間半、山の麓まで辿り着いた。

「はーーーッ!キッツーーー!」

「結構速く走ったつもりだったんだが、よくついてこれたな。偉いぞ、ライト!」

「レオ兄ちゃん、結構どころのレベルじゃないよ……すんげーキツいよ……」

「日が高くなる前に山に入りたかったからな。ライトだって、炎天下の平野を走り続けたかないだろ?」

「まぁねー……そりゃそうなんだけどさ……」

地面に尻もちをついたまま、天を仰ぎつつゼェハァと息を切らしているライト。

前回は三時間かけて走ったところを、今回は二時間半で駆け抜けた。三十分も短縮されたということは、やはり走るスピードもかなり上がっていたという訳だ。

ライトがくたびれてヘトヘトになるのも当然である。

だがレオニスは、座り込んでいるライトの横で涼しい顔して敷物を敷いたり休憩の支度をしている。

あれだけ走り続けて息一つ乱さないとか、やはり現役金剛級冒険者は伊達ではない。

「ほれ、ライトもこっち来い、糖分補給するぞー」

「はーい」

レオニスに呼ばれたライト、尻もちから四つん這いになり敷物のところまで這っていく。

何ともお行儀の悪いことだが、野外活動の中のご愛嬌ということにしておこう。

敷物の上で、ラウル特製シュークリームやエクスポーション、ぬるぬるドリンク薄黄などを飲み食いしていくライト達。

ラウルもよく「疲れた時には甘いものが一番だ」と言うが、本当にその通りである。

絶品スイーツを堪能しながら、ライトとレオニスはこれからのことを話す。

「ここからは日が暮れるまで山を登っていく。魔物除けの呪符の管理はライトに任せるから、時間を見ながら定期的に呪符を使うようにしてくれ」

「分かった!」

「でもって、ここで昼飯を済ませるにはちと時間が早いから、山中で休憩できそうな場所を見つけたら食うことにしよう」

「そうだね、今まだ九時半だからお昼ご飯を食べるには早いよね」

そんな打ち合わせをしながら、のんびりと休憩時間を過ごすライトとレオニス。

時計の針が十時を指したところで、レオニスが徐に立ち上がった。

「じゃ、ぼちぼち行くか」

「はーい」

レオニスが空間魔法陣に敷物や空き瓶を仕舞い、その間にライトはレオニスから渡された浄化魔法の呪符の束をマントの内ポケットに入れる。

今からの出立に備えて、その束から一枚だけ抜き出す。

ライトがその呪符を真ん中から裂き、効果を発動させたことを確認したレオニス。

山を見上げつつ、再びライトに声をかける。

「ここからは再び山ん中だ。しっかり気合い入れていけよ!」

「うん!」

レオニスの掛け声に、ライトも力強く応える。

こうして二人はシュマルリ山脈に入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてシュマルリ山脈の中に分け入って進むこと約六時間。

途中ちょっとした岩場で軽く昼食を済ませ、他にも何度か小休憩を挟みながらいくつもの山を越えていったライトとレオニス。

日が傾き始めた頃に、野営に適した場所を見つけたレオニスが立ち止まった。

「よし、今日はここにテントを張るか」

「はーい!」

谷底の狭い平地だが、最悪テントだけでもちゃんと張れれば夜寝て過ごすことができる。

レオニスが空間魔法陣からテントを取り出し、テキパキと設営していく。

その間にライトは周囲に退魔の聖水を撒き、魔物が近寄ってこれないようにする。

そうして日が暮れる直前には、今夜二人が泊まる場所を確保することができた。

レオニスが起こした焚火を囲みつつ、早めの晩御飯を摂るライトとレオニス。

今宵もラウルが作ってくれたおにぎりやスープをいただく。ラウルのご飯はただでさえ美味しいのに、野外の焚火の前でべることでまたさらに格別な味がする。

食事の後は、谷底から見える夜空を二人で眺める。

山頂ではないので、そこまで見晴らしが良い訳ではない。だがこれはこれで、なかなかに味わい深いものがある。

ライトがこのシュマルリ山脈で夜空を眺めるのは、これが二度目。初めて見た時と変わらぬ美しい星空に、ライトの胸は感動に打ち震える。

「シュマルリの夜空って、本当に綺麗だねぇ……」

「ああ、カタポレンの森で見る夜空とはまた違う美しさがあるよな」

「ここがもうちょっとうちから近かったら、もっと探検しに来れるんだけどなー」

「まぁなー。でもこればっかりはどうしようもないなぁ、そもそもシュマルリ山脈自体人が住める場所じゃねぇし」

「だねぇ。たまに遊びに来るくらいが一番いいのかもね」

「だろうな」

無限に広がる星空を見上げながら、のんびりと語らうライトとレオニス。

シュマルリ山脈も人が住む場所ではないが、カタポレンの森も本来人が住む場所ではないのだが。

さらに言えば、どちらも気軽に遊びに行けるような場所でもなかったりする。

もし今ここにクレアがいたら、きっと『またまたぁ、寝言は寝て言うものですよ?』と即座に突っ込まれているところだ。

「……さ、明日も早くに出るからもう寝るぞ」

「はーい」

夏の夜空の鑑賞も良いが、まずは体調管理が優先だ。翌日もまたいくつもの山を越えなければならないのだから。

レオニスが焚火を消し、ライトは先にテントの中に入り寝袋に潜り込む。

寝袋に入ってすぐにスヤスヤと眠りに落ちるライト。朝からずっと走り続けて山だっていくつも越えてきたのだ、疲れてすぐに寝るのも無理はない。

ライトより少し遅れてテントに入ってきたレオニス。

ライトの横に敷いてあったレオニス用の寝袋に、足だけ突っ込んで座る。

スヤァ……と完全に寝ているライトの寝顔を見ながら、頭をそっと撫でつつ静かに微笑んでいた。