作品タイトル不明
第639話 沽券と玉砕
天空樹ユグドラエルのお膝元で、遅い昼食を摂るライト達。
時間的にあまりのんびりとしてもいられないが、この天空島はあまり頻繁に来られる場所ではないし、どうせならドライアドや天空樹とももっと話をして仲良くなりたいなー、と思うライト。
いつもはレオニスの真横でいっしょに食べるのだが、今日はラウルの横でサンドイッチなどを頬張りつつドライアド達と話をしている。
「へー、皆最初はラウルのことを人間と間違えちゃったんだねー」
『だってほらー、ラウルの見た目って人族とほぼ変わらないじゃない?』
「まぁねー、見てすぐに分かる違いはないよねー」
『せっかく頑張って大きくなったのに、私達の魅了がちっとも通用しないんだもん。いやんなっちゃうわぁー』
『ホントホント、酷いわよねー』
『『『ねーーー!』』』
ここにいるドライアド全員が味わった屈辱?を、ライト相手にブチブチと垂れ流すドライアド達。
見た目だけなら、ライトは子供、ドライアドは幼女なのだが。子供達が話す会話とは到底思えない内容である。
「あ、でもラウルがダメだったからって、ぼくやレオ兄ちゃんに魅了かけないでね?」
『分かってるわよー』
『だって貴方達は、ラウルのお友達でしょ? お友達にちょっかい出したら、ラウルに怒られちゃうわ』
『きっと怒られるだけじゃなくて、悲しませちゃうもの』
「分かってくれてるなら良かったー」
ドライアド達に一応釘を刺しておくライト、ドライアド達も分かってくれているようで一安心だ。
だが、ここでふとライトが何気なくレオニスの方を見ると、ライト達の方の話に加わっていなかった数人のドライアドが、既に美女化していてレオニス相手にしなだれかかっているではないか。
『ねぇ、人族のお兄さぁん。私達といっしょに、イ・イ・コ・ト、しなぁい?』
「遠慮しとく」
『そんなこと言わずに……ね?』
「いや、俺ホントに忙しいんだ」
上下左右前後、全方位から緑の美女に迫られて埋もれているレオニス。だがレオニスは、微動だにせずもっしゃもっしゃと昼食を食べ続けている。
いつもと変わらず胡座をかいて座るレオニスの姿が、何故だか今は座禅を組んでいるように見えるのは気のせいか。
しかし、つれない態度のレオニス相手に何とか誘惑しようと頑張っているドライアド達も必死だ。
ラウルの時は、同族相手だったから魅了が効かなかっただけ!と言えるが、正真正銘人族の男であるレオニスにまで効かないとなるとその言い訳は使えない。
もはやこれは、ドライアドの沽券にかかわる重大問題なのである。
あの手この手で必死にレオニスを誘惑するも、一向に落ちないレオニス。あまりにも自分達の説得?が通じないことに、ドライアド達は次第に怪訝な顔になっていく。
そして今度は別の方向で、レオニスに様々な疑惑をかけ出した。
『私達を見ても何とも思わないなんて……貴方、もしかして実は女?』
「ンな訳あるか」
『じゃあ……中身の心は女で、外側だけ男、とか……?』
「それもねぇな。俺は普ッ通ーーーに人間の男だ」
『なら、どうして私達の誘いに乗らないの? 普通の人族の男なら、私達の誘惑に落ちないなんてこと絶対にないはずなのに』
未だに納得のいかないドライアドが、何とかその原因を探ろうとレオニスにあれこれ質問している。
必死に食い下がるドライアド達に、レオニスはふぅ、と小さくため息をつきつつその答えを教える。
「だって、お前らの本体はアレだろ? 俺は子供は好きだが、幼女とどうこうなる趣味はないんだ」
『えーーー、そんなん言ったらもう私達の勝ち目はないじゃない!』
「そゆこと。だからもう早いとこ諦めてくれ」
レオニスが親指を立ててクイッ、と何かを指す。その親指の先には、周囲にいる大きく化けていない本来の姿のドライアドがいた。
ドライアドの正体、その見た目が幼女であることを既に知っているレオニスには化けた後の美女モードは効きません!という訳である。
そう、残念ながらレオニスには幼女趣味はないし、砂上の楼閣と分かっている美女モードの罠にわざわざ引っかかるほど愚昧でもないのだ。
レオニスのつれない答えに、皆ガビーン!顔になるドライアド達。フラフラと蹌踉めきながら、地面にョョョ……と崩れ落ちる。
そこまでレオニスに言われて、ドライアド達ももはや観念したのか、ボフンッ!と霧に包まれた後再び本体の幼女モードに戻った。
そのままレオニスの膝や腿、肩や頭に乗っかったままゴロゴロしだしたドライアド達。『ちぇー』とか『つまんなーい』とか頬を膨らませてぶーたれながら転がる姿は、実に緊張感の欠片もない。
先程までの美女モードでは、終始スーン……として表情が抜け落ちていたレオニスも、今度は柔らかい笑みを浮かべている。
美女モードは明らかに誘惑しに来ていたので、ずっと警戒していたレオニス。だが、害意のない手のひらサイズの小さい精霊状態ならば、普通に愛でることができるのだろう。
レオニスは自分が食べるつもりで出しておいたハンバーガーを、一口サイズに千切ってドライアド達に分け与えて始めた。
「……とりあえず、レオ兄ちゃんの方も大丈夫そうだね」
「あのご主人様も、アイギス三姉妹や冒険者ギルドの受付の姉ちゃんとかの美女を見慣れてるからな。それなりに耐性もあるんだろう」
「あー、そうだねー、レオ兄ちゃんの周りにもすっごく綺麗な人たくさんいるもんねー」
レオニスの様子を伺っていたライトとラウルが、安心したように呟く。
そう、この天空島にいるドライアドも絶世の美女には違いないのだが、レオニスが普段から普通に接している女性陣達もかなりの美女揃いなのだ。
『えー、でもさー、いくら目が肥えてるからといって、ドライアドの魅了が通じないとか、普通にあり得なくない?』
『ホントホント!』
『まぁでも、通じないものはもうどうしようもないわねー』
『そうね、ここはラウルの友達ってことで許してあげるわ!』
『私達も、次こそは魅了に成功するように!日々女を磨く修行をしなくてはね!』
『皆で修行、頑張るぞーーー!』
『『『おーーー!』』』
最初こそブチブチと文句を言っていたドライアド達も、やっと観念して諦めたようだ。
そして今回は誘惑を断念したが、次こそは成功させるぞ!と意気込むドライアド達。そのポジティブ思考は良いことである。
だが、幼女が女を磨くぞー!と意気揚々に叫んでも、説得力は皆無であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あ、そういやライトに話しておきたいことがあったんだが」
「え、何ナニ?」
ドライアド達の悲喜こもごもが一通り済んだ後、ラウルがはたと思い出したようにライトに声をかけた。
「ドライアドの里の中心に、泉があるんだ。ドライアド達はその泉の水に自分達の身体を浸して、天空島の木々に水を与えているそうなんだが」
「えッ!? 泉があるのッ!?」
ドライアドの里にある泉の話を聞いた瞬間、ライトの目がキラーン☆と光る。
ラウルが泉という言葉を発した時点で、ライトはラウルの言わんとすることを即時察していた。
「泉があるなら、ウィカにお願いして連れてきてもらうこともできるってことだよね!?」
「多分そうだろうと思ってな、ドライアド達にも先にその話をしておいた」
「ホント!? ありがとう、ラウル!」
ラウルの話に大喜びするライト。
もしウィカを通じてドライアドの里の泉に来ることを許されるなら、それは実質的に天空島との行き来がし放題になるということだ。
こんな好機を逃す手はない。ライトはすくっ!と立ち上がり、ラウルに興奮気味に声をかけた。
「そしたらラウル、今すぐドライアドの里の泉にぼくを連れてって!早速ウィカを呼ぶから!」
「おう、いいぞ。他所の土地からウィカを呼び出せるのはライトだけだからな」
『えー、何ナニー、泉に行くのー?』
ライト達の話を聞いていたドライアド達が、わらわらとライトやラウルの周りに集まってきた。
「おう、さっき皆にも話した水の精霊を呼び出すかって話をな、今ライトとしていたところだ」
『じゃあ私達もついていくわ。泉は私達の里で一番大事な場所ですもの』
「もちろんだ。お前達抜きでそんな大事なことはできん。早速皆でいくか」
ラウルがドライアド達と話をしている間に、ライトはレオニスの方に話を振る。
「レオ兄ちゃん!ドライアドの里の中に泉があるんだって!」
「そうらしいな。今の話はこっちにも聞こえてたわ」
「ラウルがドライアド達にも話をしておいてくれたようだから、今からぼくも泉に行ってウィカを呼んでくるね!」
「おう、気をつけていってきな」
「うん!」
レオニスの許可を得たライトは、再びラウルのいる場所に戻る。レオニスとしても、ウィカを通じて天空島と行き来ができるなら万々歳である。
そしてラウルはラウルで、ライトがいない間に敷物を片付けたりしていた。
敷物を空間魔法陣に仕舞い、手をパン、パン、と叩きながら払うラウル。
そんなラウルのもとに、ライトが満面の笑みで戻ってきた。
「ラウル、レオ兄ちゃんにもちゃんと言ってきたよ!」
「ご苦労さん。じゃ、早速行くか」
「うん!レオ兄ちゃん、いってきまーす!」
「おう、いってらー」
レオニスに見送られながら、ライトとラウルはドライアド達とともに島の森の中に入っていった。