軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第638話 故郷に馳せる思い

敷物の上でお茶会よろしく、おやつタイムを満喫するラウルとドライアド達。

もちろん傍にいるユグドラエルや白銀の君にも、ラウルがちゃんとおやつを渡している。

ユグドラエルには、ツェリザークの雪の塊。ラウルの身長よりも大きい特大サイズで、おやつのシャーベット代わりだ。

もっともラウルやドライアド達には巨大な塊でも、白銀の君からしたら大きめの大福一つ、超巨木のユグドラエルに至っては小指の爪程にしかならないのだが。

ラウルは空間魔法陣から巨大な雪の塊を取り出し、幹と根の境目あたりにドスン、と置く。

「ユグドラエルのおやつは、これな」

『これは……雪、ですか……?』

「そう。だがこれは、ただの雪じゃないぞ? ツェリザークという人里の街の近くで採れる、魔力をふんだんに含んだ特別な雪だ。ツィちゃんもこれが大好物なんだぜ?」

『まぁ、特別な雪ですか。しかも、これがユグドラツィの好物とな……どれどれ…………ふむ、これは本当に美味しくて、すごく冷たいですね』

「だろう?」

ラウルからツェリザークの雪がユグドラツィの好物と聞き、早速雪のシャーベットを堪能するユグドラエル。

ユグドラエルもユグドラツィと同じ神樹なので、やはりその味を美味しいと感じるようだ。

雪の塊がじわじわと溶けていき、ユグドラエルの根の隙間にゆっくりと染み込んでいく。

『しかし、とても不思議な雪ですね……どうしてこんなにもたくさんの魔力が含まれているのですか? ただの雪に、ここまで大量の魔力があるなどとは到底考えられないのですが……』

「ああ、それはツェリザーク近郊に氷の洞窟があるのが原因なんだと。氷の洞窟には氷の女王がいて、その氷の女王の魔力が洞窟の外にまで大量かつ幅広く漏れるおかげで、洞窟周辺の雪にも自然と魔力が溜まっていくらしい」

『ああ、なるほど。確かにそれは道理に適いますね』

天然の極上シャーベットを味わいつつ、ツェリザークの雪の由来や詳細を尋ねるユグドラエル。

普通の雪には魔力などほとんど含まれていないので、ユグドラエルが不思議に思うのも当然である。

ちなみにこのシャーベットには、何もかけていない。素のままの雪の塊である。

本当なら何かフレーバーでもつけてあげたいところなのだが、ここでまたリキュールをかけて提供して万が一ユグドラエルが酔っ払いでもしたら、それこそ大変なことになる。

そう、ラウルも日々学習しているのだ。

幸いユグドラエルの方も、ツェリザーク産の魔力をふんだんに含んだ雪は初めて食するので、これだけで満足している。

そして白銀の君には、エクスポーションを五十本。もちろんこれは彼女のリクエストによるものである。

相変わらず瓶ごと食べては美味しそうに飲み込む白銀の君に、ラウルも唖然呆然である。

「シュマルリ山脈のドラゴン達の好物がエクスポーションで、しかも瓶丸ごとをとても好む、というのはうちのご主人様から話に聞いてはいたが……本当なんだな」

『この、エクスポーションという品。中の液体もとても美味ですが、それ以上にこの外側の瓶?なるものの、パリパリサクサクとした歯応え。これがまた、実に味わい深く美味なのですよねぇ』

「……そういうもんなのか……」

『ちょっとだけ歯に詰まりますけどね。ですが、それもまたたまらなく善き味わいにて』

エクスポーションを十本づつ、白銀の君の手のひらに乗せていくラウル。

その十本をヒョイ、と己の口に一気に放り込んでは、もっしゃもっしゃと美味しそうに頬張る白銀の君。

でもまぁな、果実や野菜を丸ごと頬張るようなもんだと思えば、分からんでもないかな……と内心で思うラウル。

ガラス瓶など普通は食べるものではないし、野菜の皮なんて可愛いものでは絶対にないのだが。そうやってドラゴンの嗜好を好意的に解釈してやるあたり、ラウルのポジティブさや心根の優しさが垣間見える。

もっともそれも、全てはラウルが持つキニシナイ!精神が良い方向に働いているおかげであろう。

「しかし、植物魔法って思ったよりも魔力を消費しないもんなんだな」

『ンー、私達は使えて当たり前のものだから、今まで特に気にしたことはなかったけど』

「俺、もっと魔力をごっそり持っていかれるもんかと思ってたよ」

ラウルが己の手を見つめながら、握ったり開いたりしている。

先程ラウルが初めて使った植物魔法。それを行使したのは、手近にあった一本の木だった。

ユグドラエルはそれを若木と言ったが、実際にはもうすぐ樹齢三桁に至る立派な木である。

人里の街中にあったら、余裕で街のシンボルくらいにはなりそうな大木相手にラウルは植物魔法を行使したのだ。

そしてドライアド達の加護のおかげで、ラウルの初の植物魔法は成功した。

傍から見れば、あれだけにょきにょきと勢いよく枝葉が増えていったのだから、だいぶ魔力も吸われただろうに……と思いきや。その後ラウルは、ちっとも疲れていないのだ。

ラウル自身ですら、あんなに木が大きく成長したというのに、全くと言っていいほど疲れを感じないことが不思議で仕方がなかった。

そんなラウルの疑問に、ユグドラエルが答えを与える。

『それは多分、ラウルの魔力の質が良いからでしょうね』

「……そうなのか?」

『ええ。神樹である私から見ても、貴方の魔力はとても澄んでいて綺麗なものだということが分かりますよ』

「魔力の質、か……俺には質の良し悪しとか全く分からんし、今まで一度もそんなの考えたこともなかったが……」

ユグドラエルに『お前の魔力はとても良い魔力!』と言われたラウル。まだ己の手のひらをじっと見つめている。

ラウル自身は、他者に対して魔力の多寡くらいは分かってもその質までは分からない。なので、質の良い魔力を持っていると言われても、今一つピンとこないらしい。

そんなラウルに、周りでマカロンを食べているドライアド達が太鼓判を押す。

『ユグドラエル様の仰っていることは、全て本当よ』

『だってラウル、貴方の魂は澄みきっていて綺麗な色をしているもの』

『それだけ良い魂を持っていたら、魔力だって綺麗で良いものになるに決まってるわよね!』

『極上の魔力だから、少量出すだけでも効果が高いんじゃなぁい?』

ラウルの身体のあちこちに乗りながら、マカロンをまくまくと頬張るドライアド達。このままではラウルの全身がマカロンの粉まみれになってしまうが、ラウルはそれを気にする様子など全くない。

きゃわきゃわと賑やかに喋るドライアド達の言葉に、ユグドラエルも同意する。

『そうですね。ラウルの場合魂や魔力の質が良いというのもありますが、ラウルが木から生まれた妖精というのも大きな要因でしょう』

「ああ、そうだな……俺はカタポレンの森の中にある、フォレットという木から生まれるプーリア族という妖精だ。だからもともと木属性の魔法なんかとは相性が良いんだろうな」

『樹木を母に持つ種族ならば、植物魔法とも相性が良くて当然でしょうね』

「……母さん……」

ラウルはかつてプーリアの里にいた頃のことを思い出す。

他の妖精達とはほとんど馴染めなかったが、プーリア族の母にして生みの親であるフォレットの木達とは仲が良かったラウル。己を生んでくれた親木だけでなく、他のフォレットの木ともよく話をしたものだ。

優しかったフォレットの木々。彼女達と語り合った穏やかな日々、その思い出がラウルの脳内で蘇る。

何故こんなところに生まれてきてしまったのか―――ラウルがそう思い、プーリアの里そのものを憎み、嘆き、悲しんだことも一度や二度ではない。

だが、里の外に飛び出して故郷を捨て、二度と戻らないとどれほど心に誓っても、己の出自を変えて偽ることなどできない。

そしてかつて散々憎んだ己の出自が、今はこうして新たな魔法の会得の役に立ってくれている。

ユグドラエルの言葉で、ラウルは初めてそのことに思い至る。

複雑な心境ではあったが、ラウルは今生まれて初めて妖精として生を受けたことに感謝したのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうしてラウルがドライアドや天空樹、白銀の君とともに和やかにおやつタイムを楽しんでいると、空からレオニスが勢いよく降ってきた。

レオニスがストッ、と着地し、レオニスの背に背負われていたライトも地に降り立ってラウルのもとに駆け寄っていく。

「皆、ただいまー!」

「待たせてすまなかったな。……って、何だ、皆でおやつか?」

「おう、ご主人様達、おかえり。ご主人様達が戻って来るまで、ここで待ちながらドライアドの加護をもらったり植物魔法を会得したり、のんびりとおやつなんかも食べたりしてたところだ」

「そうか、そりゃ良かった」

ラウルにわらわらと群がるドライアド達。その図を見て、レオニスはラウルがドライアドとも仲良くなれたことを察する。

一方ドライアド達にとっては、ライトとレオニスは初めて会う者達だ。ドライアド達はラウルのあちこちに乗っかったまま、この二人が一体何者なのかをラウルに問う。

『ねぇねぇラウル、この人族はだぁれ?』

「大きい方がレオニス、小さい方がライト、どちらも俺が働く職場のご主人様だ」

『一応人族、なのよね? 貴方みたいに、人族のフリした別物でーす!とかじゃないわよね?』

「人族のフリとか失敬な。それに、ご主人様達は一応人族だぞ。多分」

「一応とか多分とか、お前も大概失敬だぞ?」

ラウルとドライアド達の問答に、レオニスが呆れながらツッコミを入れる。

ライトとレオニスが人族がどうかを疑うドライアド達も大概失敬だが、彼女達の場合ラウルの見た目に騙されたという前歴がある。故に『今度も人間のフリした別物かも?』とドライアド達が警戒するのも致し方ない。

そしてドライアド達を諌めるラウルも何気に失敬だ。

そんなラウルに、ライトが憤慨しつつ抗議する。

「そうだよ、ラウル!一応とか多分とか、何それしどい!」

「だよなぁ? ライトもこの失敬な執事にガンガン言ってやってくれ!」

「レオ兄ちゃんはともかく、ぼくは普通の人間の子供なんだからね!」

「……ライト……お前も何気に酷ぇね……」

フンスフンスと鼻息も荒く主張するライト。

ライトの抗議は、レオニスのそれとは似て非なるもののようだ。

ライトだって、そこらにいる普通の子供とは全然違うだろうに……とラウルもレオニスも内心思うのだが、それを口にすると余計にライトが憤慨しそうなのでここは黙っておく。

「ところでご主人様達は、昼飯は食ったのか?」

「いや、まだだ。つーか、天空神殿で悠長に飯食ってる暇なんぞなかったしな」

「じゃあ今ここで食べていくか? ライトも腹減ってるんじゃないか?」

「うん、結構お腹空いてるかも」

ラウルの問いかけに、ライトもかなり空腹なことに気づく。

それまでは竜の背に乗っての空の旅やら、光の女王と雷の女王と謁見やらでずっと興奮していて気づかなかったが、時刻的にはもうとっくにお昼ご飯の時間を過ぎていた。

「帰りにまた白銀の君の背に乗せてもらうにしても、シュマルリ山脈に到着するまで結構時間かかるだろうし。飯を食うなら今ここで食っておいた方がいいと思うぞ」

「そうだな……帰る前にここでちゃちゃっと何か軽く腹に入れておくか。白銀の君の背中の上で飯食うのも悪いしな」

『レオニス、貴方ね……私の背は食卓ではありませんよ?』

お昼ご飯の時間はとうに過ぎているが、シュマルリ山脈に帰る頃には日が暮れる直前くらいになっているだろう。

そうなると完全にお昼ご飯抜きということになり、一日三食必ず欠かさず食べるラウルのポリシーに反してしまう。

それに、帰宅途中の空の旅の最中に食べる訳にもいかない。竜の女王の背中で物を食べるなど、失敬どころの話ではない。

「じゃ、ここでささっと食っていこう」

「あまりゆっくりしている時間もないしな」

「飲み物はぼくが出すね!」

敷物をもう一つレオニスが出して、ラウル達の横に並べて敷く。

サンドイッチやハンバーガーなど、手軽に食べられるものを出すラウル達の横で、ドライアド達が興味深そうにその様子を見ている。

飲み物の支度をしていたライトが、ドライアド達の視線が気になってドライアド達に声をかけた。

「……ドライアドさん達も、ぼく達といっしょに食べる?」

『ご馳走になってもいいの!?』

「レオ兄ちゃん、ラウル、いいよね?」

「おう、ドライアド達も食べたいならいっしょに食べても構わんぞ」

「じゃあドライアド達はこっちに来な。俺が小さく切ってやるから」

『『『やったーーー♪』』』

レオニスとラウルも了承し、ドライアド達にもお昼ご飯を振る舞うことになった。

ラウルが空間魔法陣からまな板と包丁を取り出し、サンドイッチや唐揚げなどをドライアド達にも食べやすいように小さく切り分けていく。

その間に、レオニスが白銀の君に追加のエクスポーションを五十本差し出したり、ライトがユグドラエルのために急ぎブレンド水を調合?して作ってはレオニスに運んで根元にかけてもらったりしている。

自分達だけご飯を食べるもの気が引ける故の心遣いだが、ユグドラエルも白銀の君も気配りされて悪い気はしない。

二者ともに『ブレンド水……何とも珍しくて美味しい水ですね』『エクスポーション、いくら食べても飽きのこない味ですね』とご満悦である。

敷物の上に置かれたまな板の周りで、ラウルが食べ物を細かく切っていく様子をワクテカ顔で見守るドライアド達。

人族に妖精、神樹に精霊、そして竜の女王。多種族が入り交じる、天空島での初めてのピクニックご飯?がもうすぐ始まろうとしていた。