作品タイトル不明
第637話 ドライアドの加護
ドライアド達とともに、天空樹のいる島の中央に向かったラウル。
するとそこには、白銀の君と話しているユグドラエルがいた。
ラウルが周囲を見回すが、白銀の君以外には他に誰もいない。ライトとレオニスはまだここには戻ってきていないようだ。
ラウル達の存在に気づいた白銀の君が、ラウルに声をかける。
『おや、おかえりなさい。貴方も目的の者達と無事会えたようですね』
「ただいま。おかげさまでな、何とかドライアドの里を見つけることができたよ」
『それは重畳。では後は、ここでレオニス達が戻ってくるのを待てば良い訳ですね』
「そうだな。うちの大きいご主人様と小さなご主人様のご帰還を、ここでゆったりと待つとするか」
ラウルと白銀の君が話している間に、ドライアド達もユグドラエルと話をしていた。
『ユグドラエル様、こんにちは!』
『『『こーーーんにーーーちはーーー♪』』』
『あら、貴女達もようこそいらっしゃい』
『今日はユグドラエル様に、お聞きしたいことがあって来ましたー!』
三十人くらいいるドライアドの集団が、ユグドラエルに向かって元気良く挨拶をした。
わちゃわちゃとした緑の幼女集団が、世界最古の巨木を慕いわらわらと幹や根元に群がっていく。何とも微笑ましい光景である。
『私に聞きたいこと、ですか? 何でしょう?』
『私達といっしょに来た、そこのラウルという妖精に相談されたんですが―――』
ドライアド達がユグドラエルに、ラウルとのやり取りを話していく。
ふむふむ、とドライアド達の話を聞いていたユグドラエル。大凡の概要を知り、相談してきたドライアド達に優しく語りかけた。
『そうですか……そういうことでしたら、貴女達が直接ラウルに加護を授けるのがよろしいでしょうね』
『はい。そう思って、加護の与え方? そのやり方を、ユグドラエル様に教えていただきたいんです!』
『加護なら私からも授けることはできますが、せっかくですからこの機会に貴女達も他者に加護を与える方法を覚えるのも良いでしょう』
『『『はい!』』』
ドライアド達が横一列に並び、ユグドラエルに敬意を払う。
先程までのわちゃわちゃした空気は既になく、しゃんとした姿勢で天空樹と対面するドライアド達。見た目こそ幼女体型だが、やはり根は真面目な精霊らしく天空樹を敬う真摯な姿勢に満ちていた。
『ラウル、こちらにいらっしゃい』
「ン? あ、ああ、分かった」
ユグドラエルがラウルの名を呼び、近くに来るように言う。
天空樹に呼ばれたラウルは、言われるがままにドライアド達の横に立った。
『ドライアドの皆、心してよく聞きなさい』
『はいッ!』
『貴女達にもそれなりに力はありますが、単体で加護を与える力まではまだありません』
『はい……』
『ですが、貴女達一人一人の力を全員で合わせることにより、ラウルに加護を与えることは十分に可能なはずです』
『はいッ!!』
ユグドラエルの指導に、ドライアド達が従順かつ一喜一憂しながら聞き入っている。
気合を入れたり喜んだり、かと思うと落ち込んだり?再び元気になったり。その表情はくるくると目まぐるしく変わり、なんとも忙しいことである。
『では、始めましょう。ドライアドの皆は加護を与えたい者、今回の場合はラウルですね。彼を囲むように、皆で手を繋いで一つの輪になりなさい』
『『『はいッ!』』』
ユグドラエルの指示に従い、ドライアド達がわらわらとラウルの周りに集まってきた。
そして仲間と手を繋いでいき、全員で一つの輪になりラウルをぐるりと取り囲んだ。
『そしたら、このラウルを天空島の樹木達と同じと思って、貴女達のありったけの慈愛を彼に注ぎなさい』
『『『……はい……』』』
ラウルのことを樹木に喩えて、慈愛を注ぐよう指示するユグドラエル。
ラウルを樹木に喩えたのは、ドライアド達が普段から天空島の樹木に対して親愛の情を持って接しているからだ。
生まれて初めて行う未知の儀式でも、普段からしていることに喩えればやりやすいだろう、というユグドラエルの配慮である。
ユグドラエルからアドバイスを受けたドライアド達が、目を閉じてラウルに慈愛を注ぐイメージを懸命に思い浮かべる。
すると、ドライアド達の身体がほんのりと光り始める。そしてその光はラウルを包み込むようにして、彼の全身に注がれていく。
「おお、これは……」
淡い光に包まれたラウル、己の身の内に新たな力が湧き出てくるのが分かり感嘆している。
そしてその光はしばらくの間輝き続け、ラウルの身体に吸収されていくかのように徐々に薄れていく。
完全に光が収まった瞬間、ドライアド達がふぅ……と小さな息を吐きながら、繋いでいた手を離して地面にぺたりと座り込む。
慣れない力の使い方をしたせいか、結構疲れているようだ。
ここでユグドラエルが、ラウルに向かって声をかける。
『ラウル、どうですか? ドライアド達から力を受け取ったことが分かりますか?』
「ああ……俺の中に何か、今までにはなかった新しい力が芽生えたことは分かる」
『では試しに、そこの若木に向けてその力を出してごらんなさい。どの木でも構いません。その木に貴方の魔力を渡すのです』
ドライアド達も頑張ってユグドラエルの指導に従い、懸命に力を尽くしてラウルに加護を与えた。
今度はラウルがユグドラエルの指導を受ける番である。
「俺の魔力を糧に、植物を成長させるということか?」
『そうです。貴方の魔力は、喩えるなら瑞々しい清水。滋養溢れる清水を与えられたかのように、若木の枝葉がぐんぐんと伸びて成長していく場面を想像するのです』
「分かった」
ラウルは近くにあった手頃な木に目を留めて、その木に向けて手を翳す。ユグドラエルに言われた通りに、その木に魔力を放出していく。
すると、程なくして若木からざわざわとしたざわめきが聞こえてきた。そして木の枝葉がみるみるうちに湧き出して、よりこんもりとした茂みを増やしていくではないか。
それは決して気のせいとか欲目などではなく、誰の目にも明らかな程に、一回りも二回りもぐんぐんと大きく成長していた。
「ふぅ……初めてでこれくらい出来れば上等かな」
『『『す、すごい……』』』
『本当にすごいですね……植物魔法を初めて使うにしては、かなり上出来だと思いますよ』
ラウルは魔力を与えた若木が明らかに大きくなったのを見て、もう十分だと思い魔力の放出を止めて手を下ろした。
ラウルの周りで見ていたドライアド達も、その出力結果の凄まじさに目を丸くして驚く。
もちろんユグドラエルも、ラウルの魔法の成果を大絶賛しながら太鼓判を押す。
彼女達は、お世辞やおためごかしなど心にも思っていないことを決して言わない。
その彼女達が大絶賛するということは、ラウルの植物魔法は本当にかなりの成果を出している証であった。
『やった、やったー!』
『私達の初めての加護が成功したわー!』
『初めてのことで緊張したけど、私達もやれば出来る子なのよね!』
『『『ねーーー♪』』』
それまで呆気にとられたかのように、固まったまま驚いていたドライアド達が一斉にラウルを取り囲んで大喜びする。
ラウルが植物魔法を使えるようになったということは、自分達の加護が成功したということでもあるのだ。
『ラウル!貴方って、本当にすごい妖精なのね!』
『これで植物魔法を使うのが初めてとは、とても思えないわ!』
『緊張してちょっと疲れちゃったけど、ラウルの願いを叶えることができて私達も嬉しい!』
ユグドラエルに群がった時のように、ラウルにもまたわらわらと群がるドライアド達。
自分達木の精霊と近しいラウル、初めて会う同族の役に立てたことを本当に心の底から喜んでいるのだ。
大はしゃぎしながらラウルに群がり、その成功を喜んでくれるドライアド達。
そんな彼女達に報いるべく、ラウルが口を開く。
「ありがとうな。皆のおかげで俺も植物魔法が使えるようになったよ」
『本当に良かったわね!』
「皆、俺に加護を与えてくれるために、結構魔力を使っただろう?」
『まぁねー。でも、皆でやったからそれ程大きな負担にはなってないし? だから、心配は要らないわ』
ラウルに気を遣われて照れ臭いのか、もじもじしながら心配無用を伝えるモモ。
モモの頭を人差し指で撫でながら、ラウルが空間魔法陣を開く。
「疲れた時には甘いものが一番だ。さぁ、皆でまた美味しいおやつを食べよう」
『『『やったーーー♪』』』
「皆たくさん魔力を使っただろう。いくらでもおかわりを出すから、遠慮せずに好きなだけ食べて魔力を補充してくれ」
『『『わーーーい♪』』』
ラウルが再び敷物を取り出して地面に敷き、そこに座りながら空間魔法陣からマカロンを取り出して並べていく。
ドライアド達はラウルの肩や頭、膝や太腿などに乗り、マカロンをナイフで小さく切り分けていく様子をワクテカ顔で眺めている。
木の妖精と木の精霊が仲睦まじく楽しそうに過ごしている姿を、ユグドラエルと白銀の君も微笑ましく眺めていた。