軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第624話 レオニスの懸念

少しづつ茜色に染まっていく空の下、ライト達は目覚めの湖からカタポレンの家までのんびりと歩いきながら話をしていた。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。魔法の属性って、基本六属性だよね?」

「ああ、そうだ」

「そしたら今日やった魔力テスト、地水火風以外の光闇もテストするの?」

「あー、それはまたもう少し先、ライトがもっと大きくなってからの話だな」

「そうなの?」

今日やった四種の魔力テスト、土属性、火属性、風属性、水属性。これらはいわゆる『四元素』と呼ばれる、基本中の基本属性だ。

そしてその四元素に含まれない二つの例外、光属性と闇属性もこのサイサクス世界には存在する。

その二つは今日の魔力テストにはなかったけど、どうするんだろう?というライトの疑問は尤もなものである。

ライトはその疑問を帰り道に聞いた訳だが、レオニスの考えではその二つのテストはもう少し先の話らしい。

「光属性は、単純な明かりを得るものから浄化魔法まであって、難易度がかなり違う。闇属性も同じで、光を奪うものから重力を操るものまで様々あって、こっちも難易度が全然違うんだ」

「あー、うん……確かにそうだね」

「ライトはまだ子供だし、浄化魔法だの重力魔法だのなんて危険を伴う魔法を使わせる訳にはいかん。もっとも、そこら辺の高度なものになると、本来なら習得することすらかなり難しい代物なんだが……」

レオニスの考えも、これまた尤もなものである。

まだ冒険者登録もできない子供のライトが、幼いうちから浄化魔法やら重力魔法なんて高度な魔法を駆使する必要などない。もしどうしても浄化魔法を使いたければ、魔術師ギルド製の呪符を使えばいいのだ。

「つーか、今日の魔力テストを見て改めて思ったんだが……ライトの場合、浄化魔法だろうが重力魔法だろうが、使おうと思えば今からでもすぐに使えそうなのが怖ぇんだよな……」

「あッ、うん、ごめんなさい」

高度な光魔法や闇魔法、それらは一般的には常人には習得できないと言われている。その大きな理由の一つに魔力量の問題があった。

光魔法と闇魔法は、他の四元素系の魔法に比べて要求される魔力量が格段に多いのだ。

魔法発動時の初級消費量はもちろんのこと、発動後の維持にも相当量を持っていかれる。故に、魔力がちょっと多い程度では中級魔法を使うことすら不可能だった。

それを踏まえて考えると、ライトの魔力量なら光系や闇系の高等魔法も難なく使えるだろう。

レオニスが最も懸念していたのは、そういう理由があった。

いずれは使えた方がいいに決まっているが、魔力コントロールがまだ覚束ない今から高等魔法を使うのは危険過ぎる。

万が一重力魔法が暴走したら、それこそ洒落にならない事態に陥るのは明白である。

「とりあえず光魔法と闇魔法は、ライトが魔力を完璧にコントロールできるようになってからだ。それができないうちは危険過ぎるからな」

「うん、そうだね」

「まずは他の四元素魔法を日常の中で使い続けることで、コントロールを覚えていけばいい。魔力の操作なんてのは、結局は自分の身体で感覚を掴まなきゃならん。こればかりは書物や手本を見せてどうこうできるもんじゃない、ひたすら経験を積んで覚えていくしかないんだ」

「分かった!」

レオニスの語る話は全てが正論だ。

魔力のコントロールは、他の誰かに頼ることなど決してできない領域。自分自身で覚えていかなければならない。

それにはひたすら実践と経験あるのみなのだ。

だがここで、レオニスが思わぬことを口にする。

「ただし一番易しい初級魔法、光魔法なら『点灯虫』、闇魔法なら『目くらまし』、この二つに限っては今から覚えて使ってもいい。その二つは日常生活や防犯対策に使えるからな」

「そうだね、その二つならぼくも使えるようになっておきたいな!」

レオニスが例外として覚えることを許可した初級魔法『点灯虫』と『目くらまし』。

それらは魔力喰いと呼ばれる光魔法と闇魔法の中でも初歩の初歩であり、比較的覚えやすいとされている。

点灯虫は特に冒険者に重宝されており、洞穴やダンジョンの探索などでは必須魔法とさえ言われる。要は暗闇の中で使う懐中電灯のようなものだ。

そして目くらましは字面の通りで、敵の視力を一時的に奪う闇系初級魔法だ。

悪用したら危険そうに思えるが、一回の持続時間は十秒程度。その間に敵から逃げたり体勢を整え直したりするのだ。故に護身用として習得する者も結構多い。

もっともそれを要人暗殺に用いられたら洒落にならないが、要人はその周囲に護衛をつけるものなのできちんと対策はなされている。

「ま、とりあえずは四元素属性の魔法をちゃんと使いこなせるようにならんとな」

「うん、頑張る!」

明日からは、ライトが待ちに待った夏休みが始まる。

普段は土日祝日に励む修行やら、BCO関連の秘密の隠密行動もこれからは毎日することができる。

もっとも、その分出かける予定も多く入っていて、普通の修行時間はなかなか取れないかもしれないが。

いずれにしても、今からの夏休みがとても楽しみなライトだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

怒涛の魔力テストを完遂した次の日。

この日は、天気さえ良ければ天空島に行く予定になっている。

そしてその天気も問題なく、朝から澄み渡る青空が広がっていた。

ライトは既に朝の魔石回収ルーティンワークを済ませ、レオニスもまた周辺の警邏を終えていた。

「レオ兄ちゃん、おはよう!」

「おはよう。朝っぱらから元気だな」

「うん!だってお外の天気、すっごく良いんだもん!」

「そうだな、これなら天空島に行けるな」

窓の外から射し込む陽の光を見ながら、ライトとレオニスが朝の挨拶を交わす。

レオニスが朝食の支度をしている間に、ライトはラウルの畑の水遣りをすることにする。

ライトは畑の横に立ち、どのように水遣りをするかを思案する。

「ンーーー……この畑の作物は、基本オーガ族向けの巨大野菜だから、どうやって水遣りしよう……」

「ていうか、畑に遣る水にはエクスポとアークエーテルを一定量混ぜなきゃなんないし……さて、どうすべ?」

ライトはしばし考え込んだ後、とりあえず水の球を作ることにした。

バケツ二十杯分くらいはあろうかという水の球を作り、そこに事前に出しておいたエクスポーションとアークエーテルを各十本づつ入れていく。

回復剤を入れ終えたら、ゆっくりと掻き混ぜるイメージで水の球を撹拌する。これで水遣りの水は準備できた。

次の問題は水の撒き方だ。

小さいバケツをひっくり返すように、ザバーッと一気にぶち撒ける訳にはいかない。数日経過して巨大化した後ならともかく、植えたばかりの一日二日はもう少し優しく与えないと苗が折れてしまうかもしれない。

今ライトの目の前にある畑に植わっている作物は、昨日ラウルが植えたばかりであろうトマトとキュウリの苗。

昨日ラウルが植えた直後に一回水遣りしただけなので、苗もまだライトの背丈より少し小さいくらいで可愛いものだ。

といっても、半日でこれだけ大きく育つ野菜など他にはないのだが。

まだ小さめの苗に、優しく水遣りをするにはどうしたらいいか。

ライトは考えた末に、見えない蛇口をイメージして細い水流にして苗に与えることにした。

まるでホースから水撒きするように、チョロチョロチョロ……と苗の根元にかけていく。

これに慣れたら、シャワー状とか霧状にもチャレンジしたいな!と思いながら、せっせと水遣りをするライト。

そうしてライトは畑の作物全てに一通り水遣りを終え、家に入る。

食堂に入った時には、レオニスの朝食の支度もちょうど出来上がったところだった。

「ただいまー!」

「おかえりー。朝飯の支度できてるぞー」

「ありがとう!」

早速レオニスが用意した朝食を食べ始めるライトとレオニス。

食事をしながら、今日も二人でいろんな話をする。

「畑の水遣りご苦労さん。今は何を作ってるんだっけ?」

「えーっとねぇ、トマトとキュウリでしょー、スイカにカボチャ、トウモロコシとジャガイモ、あとはカブと玉ねぎ、だったかな!」

「うへぇー、すんげー量だな……ラウルのヤツめ、オーガ族相手に八百屋でもおっ始めるんか?」

何の気なしに気軽に問うたレオニスだったが、ライトがスラスラと挙げていく作物ラインナップのあまりの多種多様さに、レオニスが半ば呆れつつ驚いている。

今やカタポレンの家の東西南北に一面づつ、計四面の畑を展開するラウル。一面につき作物二つ、計八種類もの作物を育てているのだ。

「ラウルが八百屋さんになるかどうかは分かんないけど、オーガ族のお酒や織物なんかと物々交換してるらしいよー」

「そうなんか。まぁな、ラキ達もラウルの作る料理や野菜は、本当に美味しい、美味しいとかなり絶賛してるしな」

「オーガの人達も、ラウルの美味しい料理や野菜が食べられるようになって、本当に良かったね!」

「ああ。本当に素晴らしいことだ」

ラウルの功績を讃えるライトとレオニス。

噂をされているラウルも、きっと今頃盛大なくしゃみを連発していることだろう。

そして話題は今日の予定に移っていく。

「そういえばさ、レオ兄ちゃん。今日の天空島行きは、竜の女王様の背中に乗せて連れていってもらえるんだよね?」

「ああ。白銀の君の背中に乗せてもらえるぞ」

「すっごい楽しみー!」

竜の背中に乗って空を飛ぶ―――それはライトにとって、まるで夢のような話だ。

しかもそれはただの竜ではない。白銀の君と呼ばれる竜の女王だ。

おそらくは西洋型ドラゴンの頂点であろう存在の背に乗る栄誉。一体どれ程の人間が、その栄に浴することができるであろうか。

これまでの長い人類史の中でも、指折り数える程度しかいないに違いない。

「ねぇ、竜の女王様には今日のお礼に手土産とか、何か持っていくの?」

「いや、特に考えてはいないが」

「えー、それじゃ申し訳なくない? わざわざ背中に乗せてもらうのに?」

「あの辺のドラゴン達にはな、エクスポを瓶ごとあげりゃそれだけで大喜びされるんだ。だからエクスポを山ほど持っていきゃ問題ない」

「そういうもんなの……」

白銀の君への手土産を心配するライトを他所に、レオニスは終始シレッとした受け答えをしている。

実際、かつて白銀の君にもエクスポーションの瓶を丸ごとあげたところ、かなり大好評だった。エクスポーションの瓶のパリパリ感?が好きなのは、鋼鉄竜他中位ドラゴン達だけではないのだ。

「じゃ、そろそろ出かける支度をするか」

「うん!」

朝食を食べ終えたライト達は、本日のメインイベント『白銀の君の背に乗って、天空島に行こう!』を決行すべく、それぞれの部屋に支度をしに分かれていった。