作品タイトル不明
第625話 様々な初顔合わせ
身支度を整えたライトとレオニスは、一旦ラグナロッツァの屋敷に移動しラウルと合流する。
天空島にいる天空樹に会いに行く、という話をラウルにしたら「俺も天空樹に用があるから、いっしょに連れてってくれ」と言われたためだ。
ラグナロッツァの屋敷では、ラウルが既に黒の燕尾服装備を着て待っていた。
「おはよう、ラウル!」
「おはよう、ご主人様達」
「じゃ、早速行くか」
早速ライト達は屋敷の中の浴室に向かう。ライトがウィカを呼び出すためだ。
レオニスがウィカに移動をお願いする場合は、毎回目覚めの湖に通っている。だが、ライトの場合は生みの親特権がある。
浴槽からはもちろんのこと、ちょっとした水場があればどこからでも呼び出せるのだ。
ライトが水の張られた浴槽に向かって声をかける。
「ウィカ、おいでー」
すると、数秒のうちにウィカが水面からニョキッと顔を出し、姿を現した。
「うなぁーん♪」
ウィカは水面に現れてすぐにライトの肩に飛び移り、嬉しそうに頬ずりをする。
ウィカはBCOシステムにより生まれたライトの使い魔なので、 主(ライト) に呼び出されることが至上の喜びなのだ。
「ウィカ、今日はレオ兄ちゃんとラウルもいっしょに、シュマルリ山脈の泉に連れてってくれる? 白銀の君に乗って、天空島に連れていってもらうんだ!」
「にゃうにゃう!」
「ウィカ、今日もラグスの泉までよろしく頼むな」
「うにゃっ」
ライトの頼みはもとより、レオニスの挨拶にも快く返事をするウィカ。とても愛想の良い子である。
ライトはレオニスと手を繋ぎ、レオニスはラウルと手を繋ぎさいで一列に並ぶ。これで集団移動の準備は整った。
そしてライトは、ウィカが差し伸べる手をそっと握る。
次の瞬間、ウィカとライト達は浴槽の水の中にするりと入っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
水の中の不思議な景色を経て、数秒後にはラグスの泉に到着したライト達。
レオニスとウィカは何度も来ていてすっかり見慣れたものだが、シュマルリ山脈を初めて訪れるライトとラウルには、見る物全てが新鮮だった。
ゴツゴツした大きな岩があちこちに転がる、荒涼とした谷。その中にひっそりと佇む清らかな泉。何とも異世界ファンタジー感溢れる不思議な風景である。
カタポレンの森やエリトナ山などとはまた全く違う、趣深い光景にライトは一瞬で魅了された。
ラウルも「ほう……これはすごいな……」と興味深そうに周囲を見回している。
「うわぁ……ここがシュマルリ山脈の奥深くなんだね……すごーい!」
「とりあえず、竜王樹のいる山に向かうか」
「うん!」
ライトはレオニスやラウルとともに、竜王樹のいる山に向かって歩いていく。
しばらくすると、ドスドスドス!という地響きが鳴るではないか。
突然のことに、ライトがびっくりしながらレオニスにしがみつく。
「えッ!? な、何!? 地震!? 噴火!?」
「あー、心配ない。あいつらが来てるだけだ」
「あ、あいつら!? あいつらって何ナニ、何なのッ!?」
ライトが軽くパニックになっているというのに、レオニスとウィカはシレッと平気な顔をしている。
前世では地震大国で生まれ育ったライトだが、それでも怖いもんは怖い!のである。
ちなみにラウルは怪訝そうな顔をしつつも、然程怯える様子はない。何とも肝の座った妖精である。
そして地響きとともに、ライト達の前にいつもの四頭の中位ドラゴンが現れた。
「ウィカチャーーーン!」
「ヤッホーーー!」
「オ久ーーー!」
ウィカの名を呼びながら、ライト達を囲む中位ドラゴン達。相変わらずウィカLOVE&レオニスはひとまずスルーである。
だが、そんな中位ドラゴン達でもいつもと違うことに気づくのに、そう時間はかからなかった。
「……ン? 人間ヨリ、更ニ、チッコイノガ、イルゾ?」
「何カ、別物ノ、大キイノモ、イルナ?」
「コレハ、初メテ見ル、人間達、カ?」
「ダナ……人間、オマエノ、子供カ?」
「オマエ、子持チダッタノカ?」
鋼鉄竜達が、物珍しそうにライトを繁繁と眺めている。
そしてライトの方は、5メートルを超える巨躯のドラゴン達に囲まれて、呆気にとられたように口をポカーン……と開けたまま立ち尽くしている。
「違ぇよ。小さい方は俺の実の子じゃないが、縁あって俺が育てている養い子だ。大きいのは俺の屋敷の執事……って言っても分からんか、要は俺の仲間だ」
「ソウナノカ。ヨク分カランガ、オマエノ子ト、友達ッテコトデ、良イカ?」
「良くはねぇが、まぁ子供ってよりは弟みたいなもんだ。友達ってのはその通りだ」
「弟ニ、友達カ。ソウイヤ、前カラ、弟ガイル、ミタイナ話、シテタナ」
「そうそう、それそれ」
ティラノサウルスに似た、凶悪そうな四色の強面がより一層ライトの近くに寄ってジーーーッ……と覗き込んでくる。
自分の身長よりも大きな顔面が、鼻息がかかるくらいの近距離まで迫りくる。そのド迫力は、常人ならば失禁しながら失神するところである。
だがライトは、失神するどころか目をキラキラと輝かせて叫んだ。
「本物のドラゴンだ!すッごくカッコいい!!」
「……エ?」
「俺ラ、カッコイイ?」
「ウソ、マジデ?」
「俺、ソンナコト、初メテ、言ワレタ……」
ライトの言葉に、今度は鋼鉄竜達が言葉を失う。
ドラゴンとは強大な種族であり、その力の強さや見た目の恐ろしさから逃げられることはあっても、直接褒め称える者は少ない。もっとも、竜騎士団等を除いて人間とドラゴンが触れ合う機会自体がほとんどないのだが。
ここにいる中位ドラゴン達も、実は人族をほとんど見たことがない。
例外としてレオニスやパレンがいるが、そもそもこのシュマルリ山脈の奥深くまで来れる人間がほぼいない、という事情もある。
中位ドラゴン達にとっては、ライトは三番目に接触する人間だった。
「初めまして!ぼくの名前はライトと言います!」
「ライト、カ。良イ、名前ダナ」
「レオ兄ちゃんがいつもお世話になって、ありがとうございます!」
「オオ、ナカナカニ、賢クテ、礼儀正シイ、子ジャネェカ」
「人間、オマエニハ、アマリ、似テネェナ」
「うっせーよ」
早速ライトは名を名乗り、中位ドラゴン達に向かってペコリと頭を下げる。
互いに初対面であり、自ら名を名乗るのはライトにとって当然の礼儀である。
そんなライトの折り目正しい姿勢に、鋼鉄竜達は感心したように頷いている。
そしてライトの自己紹介を見ていたラウルも、続いて自己紹介をする。
「俺はラウル、人間じゃなくて妖精だ。プーリア族という、カタポレンの森に住む妖精の一族出身で、今は人里に住んでいる。ご主人様ともども、今日はよろしく頼む」
「妖精カ、コリャマタ、珍シイノガ、来タモンダナ!」
「ココラ辺ニハ、妖精ナンテ、アマリ、イネェカラナ」
ラウルのこともまた物珍しそうに、繁繁と見入る中位ドラゴン達。妖精そのものが珍しいようだ。
ラウルの自己紹介が済んだ後で、ライトが早速本日の目的を鋼鉄竜達に告げる。
「いつもはレオ兄ちゃんといっしょに、カタポレンの森に住んでいます!今日は天空島に連れていってもらうために、ここに来ました!」
「アア、白銀ノ君ニ、乗ッテイク、トイウ、アレカ……」
「ホンット、命知ラズダヨナー、ト、思ッタガ……」
「コノ子ナラ、白銀ノ君モ、普通ニ、気ニ入ル、ダロウナ」
「ナラ、我等ガ、白銀ノ君ノ、イル場所ニ、案内シテヤロウ」
「ホントですか!? ありがとうございます!」
ライトと鋼鉄竜達は、今さっき出会ったばかりだというのに、もう彼らに気に入られているっぽい。
満面の笑みで礼を言うライトに、中位ドラゴン達も満足そうにウンウン、と頷いている。
そして彼らはライトを誰の肩に乗せるかを決めるべく、獄炎竜がレオニスに声をかけた。
「オーイ、人間!早ク、アミダクジシヨウゼ!」
「ライト……恐ろしい子!」
ライトのあまりにも凄まじいコミュ力に半ば絶句しつつ、白目を剥きながら慄くレオニスだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
鋼鉄竜達の案内で、竜王樹のいる山に向かうライト達。
ちなみに本日のあみだくじの結果は、獄炎竜がライト、鋼鉄竜がラウル、氷牙竜がレオニス、迅雷竜がウィカを乗せることになった。
獄炎竜と迅雷竜はニッコニコ、鋼鉄竜はラウルとともに無言、氷牙竜はブツブツ、である。
中位ドラゴン達は、ふよん、ふよん、と低空飛行しながら山を登っていく。
そうして辿り着いた竜王樹の横には、白銀の君がいた。
『レオニスさん、ウィカさん、おはようございます。ようこそいらっしゃいました』
『おはようございます。獄炎、鋼鉄、氷牙、迅雷、いつも案内ご苦労さまです』
「よう、ユグドラグスに白銀の君、おはようさん」
「イイエ!我等ハ、当然ノ、コトヲ、シタマデデス!」
まずは顔見知りのレオニスに声をかける、竜王樹と白銀の君。
そして彼らもまた、初めて見る顔が二つあることにすぐに気づいた。
『……ン? そちらの二人は……?』
「小さい方は俺の養い子のライト、大きい方は俺の仲間のラウルだ」
『ああ、前々から話に聞いていた人達ですね。ライトさん、ラウルさんこんにちは』
ライト達のことを、レオニスがざっと軽く説明する。
二人のことは、竜王樹ユグドラグスとの親睦を図るために度々ここを訪れていたレオニスが、四方山話を聞かせる際に折々に触れていた。
そのため、ユグドラグスも二人の名前だけはレオニスから聞いていたのだ。
レオニスからの紹介を受けて、ここでもライトとラウルがユグドラグスと白銀の君に向かって自己紹介を兼ねた挨拶をした。
「ユグドラグスさん、白銀の君さん、初めまして、こんにちは!ぼくの名はライトと言います!今日はレオ兄ちゃんといっしょに、天空島に連れていってもらうために来ました。今日一日、よろしくお願いします!」
「俺はラウル、プーリアという妖精族だ。今日は俺も天空島に行く用事があって、同行させてもらった。よろしく頼む」
ライト達の自己紹介に、ユグドラグスも白銀の君も感心したように見入っている。
特に白銀の君は、ライトを見ながら『ほう……かつての我が君の幼き頃のような、とても賢き子ですね……』と呟いている。
その後白銀の君は、ハッ!と我に返りレオニスに声をかける。
『ところでレオニスよ。朝から訪ねて来たということは、例の任務の決行日ですか?』
「そうだ。今日は天気も良いし、前から話してあった例の任務は今日行こうと思う」
『分かりました。我が君、今日一日、貴方様のお傍を離れることをどうぞお許しください』
天空島行きの任務を今日決行する、とレオニスから聞いた白銀の君は、真上を見上げてユグドラグスに話しかけた。
それに対し、ユグドラグスは穏やかな声で返事をする。
『もちろんだよ。僕のことは気にせずに行っておいで。ユグドラエル姉様にも、よろしく伝えてね』
『はい。我が君の姉君に御目文字し、貴方様のお言葉を伝える任務を全うして参ります』
『気をつけていってきてね。レオニスさん、ライトさん、ラウルさんのことを守ってあげてね』
『はい。この白銀、身命を賭してでも我が君の下命を全うする所存です』
ユグドラグスの言葉に、白銀の君が恭しく応える。
ユグドラグスへの挨拶を済ませた白銀の君、今度は鋼鉄竜達の方に向き直った。
『獄炎、鋼鉄、氷牙、迅雷、留守を任せましたよ。私が戻るまでの間、何があろうとも絶対に、その身を賭して我が君をお守りするのです』
「「「「ハハッ!」」」」
白銀の君の檄に、中位ドラゴン達は背筋をしゃんと伸ばして大きな声で答える。
白銀の君ほどの力はなくとも、四頭が力を合わせれば大抵の荒事は退けられるだろう。
そしてウィカはここで一旦目覚めの湖に帰還するので、中位ドラゴン達とともにライト達を見送る。
『では、人の子に妖精よ、我が背に乗りなさい』
「ありがとうございます!」
「天空島まで、よろしく頼むな」
「お邪魔しまーす」
ライト達は白銀の君の背に次々と乗る。
ライトだけはレオニスに抱っこされながらの騎乗だ。
『では、いってまいります。すぐに戻ってまいります』
『いってらっしゃい。気をつけてね!』
「「「「イッテラッシャーーーイ!」」」」
ライト達を乗せた白銀の君は、ゆっくりと地を離れ宙に浮く。
ユグドラグスと中位ドラゴン達、そしてウィカに見送られながらライト達は天空島に向かっていった。