軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第623話 水魔法のテスト

大の字になって一頻り休んだライトとレオニス。

どちらからともなく上体を起こし、胡座をかいて座り直した。

「はー、今のは結構疲れたぁー……」

「お前ね……あんだけの強風起こしといて、結構疲れたー、で済むの? 普通なら完全に魔力切れを起こして、その場でブッ倒れてもおかしくないところだぞ?」

「ンー、倒れそうになる寸前で魔法を止めたから大丈夫、とか?」

ライトの言葉に、レオニスが心底呆れている。

確かに先程の暴風の威力と発動時間を考えれば、発生源であるライトの魔力が枯渇しててもおかしくないところだ。

実際ライトも魔力総量の九割以上を消費していた。

「そんなもんなのか?」

「多分ねー」

「……ま、いっか。ライトも思った以上に元気そうだし」

ライトはこのサイサクス世界に生を受けてから、魔力切れなる現象に見舞われたことは一度もない。

だが、先程のテストでMPが減り続けていってることは、感覚的に理解できていた。例えて言うなら、それまで満腹だったのがどんどん消化されて空腹感を覚えていくようなものか。

その感覚に従い、あ、もうそろそろ魔力切れそう、というところで風魔法を停止したのだ。

レオニスにはそこまで細かく説明はしていないが、ライトがそこまで酷い疲労困憊にはなっていないところを見て安心したのか、それ以上は追及してこなかった。

ライトが無事なら万事OK!という、大雑把な性格とキニシナイ!大魔神の加護のおかげであろう。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。ここで今エーテルだけ飲むよりも、美味しいおやつを食べながら休憩したいー」

「お? そうだな。ちょうど時間もいいし、皆でおやつにするか」

『おやつ!? 今日も皆で美味しいものを食べるの!?』

「ああ。午後の三時はおやつの時間、という決まりが人族にはあるからな」

空間魔法陣からアークエーテルを一本取り出し、ぐびぐび飲んでいるレオニスにライトがおやつ休憩を提案する。

ライトの案に賛成したレオニス、アークエーテルを飲み干した後早速立ち上がり敷物などの支度を始めた。

ちなみにライトだけでなく、レオニスも先程のテストで身体強化魔法を連続がけしていて結構MPを消費していた。

あれだけの暴風を、何の補助もなく堪えられるはずはなかったのである。

敷物やおやつを出して、準備万端整えたライト達。

いつもの配置でそれぞれ座り、手を合わせて食事の挨拶をする。

「「『いッただッきまーーーす!』」」

敷物の上に広げられた様々なおやつを、各自手に取り食べていく。

もちろんイードやアクアにも、今日もきちんとおやつを用意してある。本日の彼らへのおやつは『魔物のお肉たっぷり激ウマ絶品スペシャルミートボールくん』、特大ウィンナー風である。

いつもは球状にしているが、今回は某シャウエッセンのような円柱状にしてみたのだ。

レオニスの胴体ほどもあるウィンナー風を各十本。イードはもちろんアクアも美味しそうに食べている。

「はぁー、疲れた身体にラウルのおやつは染み入るねぇー」

「全くだ。甘いスイーツももちろん美味しいが、クリームコロッケなんかのしょっぱいものと交互に食べると堪らんな!」

『ライトとレオニスが持ってくるおやつは、いつも本当に美味しいわぁー♪』

「にゃうにゃう♪」

「シュルシュル♪」

「クルキュアァ♪」

皆が皆、美味しいものを食べて幸せいっぱいの笑顔になる。

目覚めの湖の昼下がりは、今日も平穏なひと時であった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

おやつを食べた後、敷物の上でしばらくのんびりと過ごしていたライト達。

そろそろライトの魔力テストを再開すべく、レオニスがその口火を切る。

「さーて。おやつも存分に食って十分に休んだことだし、そろそろ最後のテストといくか」

「うん!」

ライト達は敷物や食器類を手早く片付けていく。

ライトもレオニスも、おやつの飲み物としてアークエーテルをぐい飲みしていたので、二人ともMPは完璧に回復している。

万全の態勢で挑むは水魔法、この目覚めの湖という舞台に最も相応しい属性である。

「最後のテストは水魔法だ。水というのは、生命あるものならば生きていく上で絶対に欠かせない要素なのは、ライトにも分かるな?」

「うん!」

「生活面だけでなく、冒険者としてももちろん使える。水を用いた攻撃に、水で壁を作って防御したりも可能だ」

「レオ兄ちゃんに買ってもらった魔術の本にも【ウォーター・バインド】とかあったよ!」

「ああ、それは水属性の初級攻撃魔法だな。水で縄を作って飛ばす魔法で、主に敵の捕縛などに役立つ」

水魔法と聞いて、ワクテカが止まらないライト。

そしてそれは水の女王も同じようで、今まで以上に目をキラッキラに輝かせながらレオニスの話を聞いている。やはり自身の属性の話だけに、気になって仕方がないのだろう。

「ライトは魔法を攻撃に使うにはまだ早い。使うにしても、それは身を守るための防御や生活面で役立つように使え」

「はい!」

「水魔法を使った防御というと、さっき言ったように水で壁を作って侵入を防ぐくらいだが……目覚めの湖のような水場ならともかく、水がない場所で壁を作るなら土魔法の方がよっぽど早くて簡単だから、あまり現実的ではないな」

「そうだね。それに敵を飛ばして身を守るだけなら、さっきの風魔法でも十分だし」

水魔法はあまり防御には向かない、というレオニス達の話に、水の女王がしゅん……とする。

別に水属性の防御が役に立たないという訳ではないのだが、使う場面をかなり選ぶことは間違いない。

「だからライトの場面、もし水魔法が使えるようならこれからはラウルの畑に水遣りしたり、ツィちゃんに水をやることで水魔法を鍛えるのが良いと思う」

「畑とツィちゃんに水遣りかぁ……畑はともかく、ツィちゃん喜んでくれるかな?」

「ライトが魔法で生み出した水だ、喜ばない訳ないだろう?」

「だといいな…………うん、今度ツィちゃんに会ったらあげてみるね!」

「そのためにも、水魔法が使えるかどうかを確認しないとな」

「うん!」

まだテスト前なので、ライトが水魔法を出せるかどうかは不明なのだが。ここまでくれば、もはや使えるだろうという前提で話が進んでいく。

「そしたらまずは火魔法のテストの時のように、小さな水球が浮かんでいるのを想像してみな」

「はい!」

「あくまでも最初は小さなやつ、何なら小指の爪くらいの大きさでな」

レオニスの指導に従い、ライトは両手を前に翳して水の球が湖上に浮かんでいるところを想像する。

目を開いたままでのイメージは、風魔法の時にも少々苦戦したが、その時よりも少しだけ早くに小さな水の球が発現した。

やはり実践や経験を積むことで、操作もコツを掴んで次第に早くなるのだ。

「レオ兄ちゃん、水の球ができたよ!」

「おう、その調子だ。その球を、今度はゆっくりと大きく育ててみな。いいか、ゆっくりとだぞ?」

「分かった!」

レオニスの言う通りに、少しづつ魔力を込めて水の球を大きくしていく。

レオニスも、火魔法の時のようにいきなり大きくし過ぎないように繰り返し注意する。そう、大事なことなので「ゆっくり」を強調しつつ二度言ったのだ。

ライトは魔力を込める量を絞るようにして、少しづつ、少しづつ増やしていく。

そうして湖上の水球は次第に大きくなり、程なくしてライトの身の丈ほどになった。

その様子をずっと見ていた水の女王が、心底感嘆したように言葉を漏らす。

『まぁ、何て綺麗な水でしょう……人の子の身でありながら、あんなにも大きくて清浄な水を生み出せるなんて……やっぱりライトはすごいわ、さすがはアクア様の親御様ね!』

「うにゃーぅ♪」

ライトが生み出した水球を、うっとりとした眼差しで見つめる水の女王。

その澄んだ水の球が清浄な水であることが、遠くからでも分かるようだ。さすがは水の女王、全ての水を司りし水の精霊の頂点を務めるだけのことはある。

そして、いつの間にか水の女王に抱っこされているウィカも、嬉しそうにライトを応援している。

ウィカもまたライトを生みの親として慕う使い魔。ライトを懸命に応援するのは当然のことだし、ライトが誰かから褒められれば我が事のように嬉しいのだ。

ライトの水魔法が成功したことを確認した後、レオニスはライトに向かって更なる試練を課した。

「そしたらライト、この水をここから氷に変えることはできるか?」

「えッ、こんな大きいのを!?」

「いや、できなさそうなら無理しないでもいい。今は無理でも、追々やっていけばそのうちできるようになる」

「……やってみる」

水が凍って氷という固体になるのは、水温が0℃以下になると水の分子が動かなくなって起こる現象である。

つまり、水の温度を奪って0℃以下にすればいいのだ。

とはいえ、言うは易く行うは難しというやつで、水の球のサイズが既にかなり大きくなっていることもあってかなり困難そうだ。

こんな巨大化させる前に言ってよー!とライトは内心思った。

だがしかし、レオニスに突きつけられた課題に怯み逃げ出すライトではない。ここはチャレンジ一択である。

水から熱量を奪い取り去るイメージを、ライトは頭の中で懸命に思い浮かべる。

そうしてしばらくすると、ふるふるとしていた水球の表面の動きが止まった。表面が凍り始めたようだ。

「ふんぐぬぬぬぬ……」

「おおッ、凍ってきたぞ!」

『ライト、頑張ってー!』

そこから五分くらい格闘しただろうか。

再び力尽きたライトが尻もちをつき、それと同時に湖上に浮いていた水球が巨大な氷となって湖に落ちた。

巨大な氷はそのままぷかぷかと水面に浮かんでいる。

その巨大な氷に早速イードとアクアが近寄っていく。真夏の湖に浮かぶ氷が物珍しいのだろうか。

イードとアクアは氷を押して、小島の岸に浜揚げした。陸上にいるライト達に届けてくれたのだ。

「おっ、ここまで届けてくれたのか。イード、アクア、ありがとうな」

「キシュリュリュ!」

「マキュモキュクルルゥ!」

へたり込んで動けないライトの代わりに、レオニスがイードとアクアの働きを褒める。

レオニスに褒められたイードとアクアは、嬉しそうに返事をしている。

イード達に持ってきてもらった氷を、レオニスはヒョイ、と事も無げに持ち上げる。150cmくらいある氷の球は、かなりの重量なはずだが。うおッ、冷てー!と言いながら軽々と持ち上げてしまうあたり、さすがはレオニスである。

「ほれ、ライトが作った氷だぞ」

『ねぇ、私も触ってみていい!?』

「どうぞ!……って、水の女王様、氷に触っても大丈夫なの?」

『大丈夫大丈夫!触るといっても一瞬だけだから!』

ライトが水の女王の願いを快諾するも、その後すぐに心配し始める。

水の女王様が氷に触ったら、身体が凍ってしまうんじゃないか? そしたら水の女王様が氷の女王様になっちゃう!?

そんなライトの心配を他所に、水の女王は平気平気!とばかりにそっと氷に手を触れた。

『うわっ!本当に冷たい!……これが、氷というものなのね』

本当に氷にちょこっと触っただけで、水の女王はすぐに手を引っ込めた。

この目覚めの湖は不凍湖であり、冬になっても湖面が凍ることはない。つまり、目覚めの湖に住まう水の女王は氷というものを今まで一度も見たことがないのだ。

水属性の延長線上に氷属性があることは、水の女王と知識として知ってはいた。それは氷の女王という姉妹の存在がいる故である。

だが、氷の実物までは見たことがなかった水の女王。とても興味津々に氷を眺めるその様子は、何とも楽しそうである。

夏の暑い空気に包まれた氷は、表面から次第に溶けていく。

その分周囲の空気は、心なしか暑さが和らいでいる。

イードやアクアだけでなく、ウィカまでもがちょいちょいと氷に触れて涼を取っている。

『氷って、すぐに溶けて水に戻ってしまうのね……』

じわじわと溶けていく氷を眺めながら、その儚さに思いを馳せる水の女王。

生まれて初めて見る氷という存在。自分と同じ水でありながら、普通の水とは異なる形態を持つ。言ってみれば、とても近しい親戚のようなものか。

その近しいものの行く末を、水の女王は最後まで見届けようとしていた。

あれだけ大きかった氷が、夏の空気の暑さに晒されてどんどん小さくなっていく。

ライトとレオニスは、目覚めの湖の仲間達とともにそれを静かに眺めていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「これで今日の魔力テストは終了だ。皆お疲れさん」

「お疲れさまでしたー!……って、レオ兄ちゃん、テストの点数は、どれくらい……?」

「ン? 点数か? そうだなぁ……」

レオニスがテストの終了宣言をし、それに喜んだライト。

だが、テストと言えば点数がつくのが常だ。今回のテストは100点満点中の何点だろう?と、おそるおそるレオニスに尋ねる。

点数を問われたレオニスは、しばし考え込んだ後口を開いた。

「魔力量は申し分ないどころかあり過ぎるくらいなので、120点だ!」

「120点!? やったー!」

「ただし、喜んでばかりはいられんぞ? それだけ膨大な魔力を持つなら、これからはコントロール方法をしっかりと覚えなきゃならん。それを怠ったら、いずれとんでもないことになる」

「うん、分かってるよ!」

100点満点中120点という予想外の好成績に、ライトは飛び跳ねて喜ぶ。

だが、レオニスの方もライトに釘を刺すことを忘れない。強大な力を持つ者は、それを制御し完璧に操作できるようにならなければならないのだ。

もちろんライトもそのことは重々承知している。特に一番最初に行った火魔法のテスト、あれは本当に肝が冷えた。

火魔法のテストを一番最初にしたのが、結果的にはライトの心構えを良い方向に促したといえよう。

レオニスはライトの頭をくしゃくしゃと撫でながら、赤味が差してきた空を見上げる。

「もう結構いい時間になってきたな。そろそろ帰るか」

「うん!水の女王様、イード、アクア、ウィカ、今日も皆ありがとう!」

『どういたしまして。私達も面白くて珍しいものが見られて、とても楽しかったわ』

「キュイキュイ!」

「クルルァ!」

「うにゃにゃーん♪」

別れの挨拶を交わすライトと目覚めの湖の仲間達。

「また遊びに来ますね!」

『ええ、貴方達ならいつでも大歓迎よ』

「じゃ、またな」

ライト達は水の女王達に見送られながら、目覚めの湖を後にした。