軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第622話 風魔法のテスト

先程の火魔法のテストで『ライトの魔力はアホほど多い』『イメージのために目を閉じたら逆に危険』などの教訓を得たライト達。

今度はそれを踏まえて、次の魔力テストに移る。

「よし、次は風魔法のテストをするぞ。エーテル飲みながらでいいから、俺の話をちゃんと話を聞くように」

「はい!」

ライトはアイテムリュックからハイエーテルを一本取り出し、くぴくぴと飲み始める。

ちなみにこのハイエーテル、一本でMP300を回復する効果がある。それを半分ほど飲んで、瓶に栓をするライト。

それを見たレオニスが、ライトに問うた。

「ン? そのハイエーテル、全部飲まないのか?」

「うん。そんなに魔力減った感じしないから、もう大丈夫」

「あんだけデカい火球作っといて、全然平気なんか……まぁ、ライトがそう言うならそうなんだろうが」

ライトの答えに、レオニスがほとほと感心したように驚いている。

実はライトには、とある特技というか人には言えない体質がある。それは『HPやMPが満タン状態だと、身体が回復剤を受け付けなくなる』というものだ。

例えばこれがぬるぬるドリンクのような、嗜好品的なものならまだ何とか飲めるのだが、これがポーションやエーテル等のガッツリした回復剤になると必要以上に飲み込めず、喉でピタリと止まって「おごッ」となり咽るのだ。

これはRPGゲームでよくある現象で、HPやMPが満タンだと回復アイテムが使用できなくなるのと同じ現象である。

ライトとしては、こんなところにまでゲームの特色を出さなくたっていいのに……と思う。これもライトがBCOという、サイサクス世界の根幹を知る故の影響なのか。

だが、満腹中枢を限界まで刺激されて、もう一口も食べられません!というのと同じようなものかと思えば、まぁ納得できないこともない。

「まぁいいや。次のテスト、風魔法について解説するぞ」

「はーい!」

「風魔法ってのもまぁそのまんまで、基本的には大気を操り風を起こす魔法だ。攻撃にはもちろんのこと、防御にも使えるし生活の中でも使える。なかなかに使い勝手の良い属性だ」

「お風呂上がりに髪の毛を乾かしてもらう、あれも風魔法だよね!」

先程の火魔法のテストのようなことにならぬよう、今度はレオニスも事前に真剣にレクチャーするようだ。

そしてライトの方も、レオニスの風魔法講座を楽しそうに聞きながら質問している。

そう、レオニスやラウルが普段ライトの濡れた髪やアルの毛をドライヤーのように乾かしていくのも、弱い風魔法を用いている。

ライトは誰かにあれをしてもらうのがとても好きで、今でも寒い季節には風呂上がりにレオニスに乾かしてもらっているくらいだ。

「ああ、ライトやアルの風呂上がりにはよく乾かしてやったもんだな。……って、今でもライトの髪の毛は乾かしてやってるけども」

「うん、いつもありがとう!でさ、レオ兄ちゃんが子供だった頃は、他にも風魔法で洗濯物を乾かすお手伝いをしてたんでしょ?」

「孤児院にはたくさんの子供がいたからな。洗濯物だってそりゃもう毎日山のように出るから、手伝いとして散々駆り出されたもんだ」

ライトの何気ない問いかけに、レオニスは懐かしそうな顔で孤児院時代の当時を語る。

決して裕福な生活ではなかったが、ボロくても皆最低限の服は着せてもらえていたとか、赤ん坊の布おむつや子供のおねしょした布団のシーツなど、洗濯は毎日していた等々。

「……と。俺の昔話はともかくだな。風魔法も、使えるならばきちんと使い方を覚えた方がいい。暴漢に襲われた場合なんかも、相手を風圧で吹き飛ばして逃げる時間を稼ぐこともできる」

「身を守るのにもいいんだね!」

「ああ。だが、いいか? 例えそういう場合でも、間違ってもさっきみたいな強烈なのを出すんじゃないぞ? そんなことしたら、暴漢が吹っ飛ぶだけじゃ済まなくなるからな」

「…………はーい」

「……おい、ちょっと待て、何だ今の間は……」

レオニスの注意に、ライトは少し間を置いて返事をする。

何故答えるまでに、しばしの間が開いてしまったかというと。強烈な竜巻に悪漢が飛ばされて、空の彼方にピューッ!と吹っ飛んでキラーン☆と光るところを想像していたからだ。

これもまた前世の漫画やアニメの影響だろうか。

しかし、現実でそんなことをすれば、周辺の建物や偶然近くにいた人まで巻き込んでしまうことになる。

やっぱそれはマズいよなー、そこはきちんと控えておかないとなー、と内心で思うライト。

そんなライトを疑いの目で見ながら、コホン、と咳払いを一つして、解説を再開し始める。

「風魔法をイメージするなら、まずは優しいそよ風くらいから始めろ。そこから、俺がいつもライトの髪の毛を乾かしてやるくらいの風量を想像してみな」

「はい!」

「ちなみに雷は風属性の一部なので、風属性の適性があれば雷魔法も問題なく使える」

「雷魔法はスライムにも効くよね? なるべくなら覚えて使いたいなー」

レオニスが風魔法の何たるかをライトに解説していく。

途中レオニスが雷魔法のことに触れると、ライトはスライム対策のためにも雷魔法は是非会得したい!と意気込む。

しかし、レオニスはライトに対して魔法や魔術の解説をあまりした覚えがない。なのに、何故そんなことを知ってるんだ?とばかりに、不思議そうな顔でライトに問うた。

「よく知ってるな? その通り、スライムに最も効くのは雷魔法だ。もう学園で習ったのか?」

「ううん、授業ではまだ習ってないよ。前にレオ兄ちゃんに買ってもらった近代魔法大全?を読んだんだ!」

「ああ、あれか……確かにライトの将来に役立つと思って、グライフのところで買った覚えはあるが……あんな難しい本を、もう全部読んだのか?」

「うん、面白かったよ!それに、他にも学園の図書室の本もいろいろと読んでるよ!」

「そうなんか……相変わらずラグーン学園の図書室ってのは、すげーところなんだな……」

ライトの学習意欲の高さに、レオニスは戦慄する。

自分が子供の頃には、本なんて読んだら三秒で寝れたわ……とか内心で考えている。

ライトの場合、前世では魔法に縁がなかったので魔法に対しては一種の憧れすらある。いつ使えるようになるかは全く分からずとも、魔法のことを本で読んでいるだけでも十分に楽しかった。

「じゃ、風魔法を出してみな。さっきも言った通り、極々弱い風を生み出すイメージでな」

「はい……」

目を閉じてイメージするのは禁止を言い渡されてしまったため、今度はしっかりと前を見据えがら両手を前に出すライト。

ライトの前には、レオニスが立っている。ライトが風を起こせたかどうかをレオニス自身が体感するためだ。

両手を腰に当て直立不動の姿勢で立つレオニスと、レオニスに向けて風を起こそうとするライト。まるで対戦しているような絵面である。

だが、先程の火魔法の時とは違い、なかなか風が起きない。

目を開いたままでイメージするのは、やはり想像する力がかなり弱まるようで、思ったよりも想像しにくいようだ。

ふんぐぬぬぬぬ……と苦戦していたライト。だが、しばらくするとレオニスの金髪がふわりと後ろに靡く。

「レオ兄ちゃん!今、風が出たよね!」

「ああ、弱い風がこっちに来たぞ」

「やったー!成功だね!」

風魔法を生む手を止めて、その成功を飛び跳ねながら大喜びするライト。

レオニスもライトの喜ぶ姿を見て微笑んでいる。

「よし、そしたらもう少し強い風を出してみてもいいぞ」

「えッ!? いいの!?」

「おう、多少の風で飛ばされる俺じゃないからな?」

「分かった、やってみる!」

ライトは再び両手を前に突き出し、二度目の風の発生に挑む。

先程成功したことでコツを掴んだのか、今度は先程よりも短い時間で風魔法を発動させることができた。

再びレオニスの髪が後ろに靡くことで、二度目の成功を確信したライト。レオニスにその感想を問うた。

「レオ兄ちゃん、どう!?」

「おう、なかなかに涼しい風だな」

「ホント!? じゃあもっと強くしてみるね!」

「おう、いいぞー。………………」

最初こそ涼しい顔をしていたレオニスだが、次第に真顔になっていく。

ライトが起こす風の強さが、どんどんうなぎのぼりで増していっているのだ。

レオニスの金髪が、靡くを通り越してバッサバッサと大きな音を立てて全力で後方に流れていく。

それまで普通に足を横に軽く開いていたレオニス、しっかりと踏ん張るためにいつしか足の位置が前後になっていく。

腕を額に当てて目や顔を覆い、吹き飛ばされまいと必死に堪えるレオニス。それはかつて、復元魔法を使って謎の本を復元した時に起きた暴風を上回りそうな勢いだ。

ライトが起こす風はもはやそよ風などではなく、完全な暴風と化していた。

「ふんぐぎぎぎぎ……」

「レオ兄ちゃん、そろそろ止める!?」

「お、俺は負けんぞ!」

『あ、あれ、ホントに大丈夫なの……?』

ライトがレオニスに声をかけるも、レオニスの負けず嫌いが発動してしまい引き下がる気はないようだ。

まるで台風に向かってわざわざ前進していくような図に、それまでずっと風魔法テストを見守っていた水の女王が不安そうに呟く。

ちなみにイードやウィカ、アクアは、レオニスの背後の水辺にいて、ライトの暴風を楽しそうに浴びている。それはまさしく扇風機の風を浴びるかのような図である。

ライトが暴風を生み出し続け、レオニスがそれに立ち向かい続ける。その膠着状態がしばらくの間続いた。

そしてその膠着がようやく途切れたのは、ライトのMP切れを迎えたのが原因だった。

暴風が次第に弱まり、ついには風が止まる。MP枯渇寸前のライトは、その場にへたり込んで座ってしまった。

そして風が止まった瞬間、レオニスもライトに少し遅れて膝が崩れ落ちた。

「も、もうダメ……疲れた……」

「や、やった……お、俺は、負けんかったぞ……」

『二人とも、大丈夫!?』

暴風が止まったのを確認した水の女王が、慌てて二人のもとに駆け寄る。

レオニスの背後で暴風を浴び楽しんでいたアクア達も、それぞれライトやレオニスのもとに寄っていく。

「レオ兄ちゃんは、やっぱすごいや……」

「おう、まだまだライトには負けられんからな……つーか、今のうちからライトに負けてたら本気で洒落ならん、それこそ冒険者引退ものだわ」

いつの間にか大の字になって、小島の上で寝転んでいるライトとレオニス。

二人とも完全にヘロヘロになっているが、言葉を出せる程度の余力はまだあるようだ。

「でも、ライトの風魔法もホントにすごかったぞ」

「ホント!?」

「ああ、さすがはグラン兄の子だ」

レオニスの褒め言葉に、ライトは大の字から瞬時に腹這いになり、レオニスの頭のある位置を見つめる。

「レオ兄ちゃん、冒険者引退なんてしないでね? ぼくといっしょに冒険する約束、忘れちゃったの?」

「忘れてなんかいないぞ? だからこうして意地でも頑張って堪えたじゃないか」

「うん!ぼく、頑張って修行して、もっともっと強くなる!」

「その意気だ」

レオニスは未だ仰向けのまま、静かに目を閉じる。

ライトが俺を超える日も、そう遠くないだろうな―――夏の眩しい日差しを浴びながら、微笑むレオニスだった。