軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第614話 故郷への貢献

「へーーー、ウィカが毒キノコ退治で大活躍したんだぁ」

「毒キノコ相手じゃ窒息には至らんが、それでも胞子攻撃は水に濡れることで完璧に封印されるし、大抵の陸上生物は顔を水で覆われれば窒息するからな。ありゃ何気にすげー強力な攻撃だぞ」

「ウィカって可愛い黒猫にしか見えんが、やっぱ水の精霊だけあって強いんだな」

「ウィカについていってもらって、本当に良かったね!」

シュマルリ山脈での任務を終えて、無事帰還したレオニスとともに食事を摂るライト達。

マキシも仕事から帰ってきて、そこにラウルやフォルも加わってとても賑やかな食卓の風景だ。

もちろん今日の主役はレオニスで、ライト達は皆レオニスが語るシュマルリ山脈での出来事をずっと興味深そうに聞いている。

中でもドラゴンや竜王樹の話は、皆真剣に聞いている。

「ツィちゃんの弟か妹の神樹にも会えたんだね!どんな感じの神樹だったの?」

「ンー、ありゃ弟だな。話し方や声のトーンも男っぽかったし、一人称が『僕』だったし。でもって、ツィちゃんやシアちゃんのことを『姉様』って呼んでた」

「てことは、ツィちゃんもシアちゃんも女の子で、お姉ちゃんや妹になるってことか」

「話し方からそんな感じはしてたけど、同じ神樹がツィちゃん達のことを姉様って呼ぶなら、きっとそうなんだろうねー」

神樹に性別があるかどうか、これまで定かではなかったが。ユグドラグスとの出会いで、やはり性別が存在することが判明した。

ユグドラツィやユグドラシアの優しい口調や上品な会話は、やはり女性だからだったんだな、と皆一様に納得している。

「竜王樹とはどんなお話をしたの?」

「ツィちゃんやシアちゃんの話をしてやると、とても喜んでたな。ツィちゃんと一番最初に友達になったライトのことを話したら、竜王樹も友達になりたいって言ってたぞ」

「えッ!? マジで!?」

「マジマジ。他にもシアちゃんのもとで里を作っている八咫烏の話をしたら、マキシにも会いたいって言ってたし」

「えッ!? ホントですか!?」

「ホントホント」

竜王樹が友達になりたいと言っていた、という話をレオニスから聞いたライトとマキシ。

案の定その目をキラッキラに輝かせている。

「じゃあじゃあ、そしたら夏休みに皆で竜王樹のとこに遊びに行ってもいい!?」

「もちろん。ライトが長い休みの間でないと、ゆっくり会いに行けんからな」

「やったー!マキシ君もアイギスでお休みもらって、皆で行こうね!」

「はい!シアちゃんから竜王樹へのお土産も持っていきましょうね!」

ライトとマキシがきゃいきゃいとはしゃぐ横で、ラウルが一人ぽつんと寂しそうに「……俺は?」と呟いている。

そんな寂しがり屋のラウルに、ライトやレオニスがちゃんと声をかける。

「もちろんラウルもいっしょに行こうね!」

「ああ、だってラウルはツィちゃんと一番仲良しだもんな。次に竜王樹のところに行ったら『ツィちゃんの親友』として、真っ先にラウルのことを紹介してやるよ」

「よろしく頼むぜ、ご主人様達よ」

ライト達の言葉に、安堵の表情を浮かべるラウル。

ラウルの横で、マキシが「えッ!? ラウル、いつの間にツィちゃんとそんなに仲良しになったの!?」とびっくりしている。

その他にも、鋼鉄竜との対戦や他の中位ドラゴンの話、竜の女王である白銀の君の話など、レオニスの冒険譚がいくらでも溢れ出てくる。

ライト達はずっと楽しそうに、いつまでも飽きることなくレオニスの土産話を夜通し聞き入っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その次の日。

レオニスは、冒険者ギルドディーノ村出張所に出向いていた。

「よう、クレア。久しぶり」

「あら、レオニスさん、こんにちは。ご無沙汰してますねぇ」

冒険者ギルドディーノ村出張所の看板受付嬢、クレアに挨拶をするレオニス。

今日もディーノ村出張所には人っ子一人いないが、それでもクレアは受付窓口で凛とした姿勢で座り続けている。

さすがは完璧なる淑女、『サイサクス大陸全ギルド受付嬢コンテスト』の殿堂入りするだけのことはある。

「して、本日はどういったご用件でのお越しで?」

「昨日までシュマルリ山脈に出かけてたんだがな、そこで得た素材なんかの買取査定をしてもらおうと思ってな」

「まぁ、それならラグナロッツァ総本部の方が何かと手早く済むでしょうに……」

クレアが不思議そうな顔をしつつ、レオニスを見つめている。

確かにクレアの言う通りで、魔物由来の素材の買取ならば冒険者ギルドの総本山であるラグナロッツァ総本部に持ち込んだ方が絶対に早い。

なのに、何故こんな閑古鳥鳴き喚くディーノ村出張所にわざわざ素材を持ち込むのか。クレアが不思議に思うのも当然のことだった。

「そりゃまぁそうなんだがな。他にもクレアに聞きたいことがあって、こっちに来たんだ。それに……」

「……それに?」

「俺の所属はディーノ支部だからな。たまには所属支部にも顔を出さんとな」

視線を斜め横にずらしながら、照れ臭そうに頬をポリポリと掻くレオニス。

今でこそここは『ディーノ村出張所』となっているが、レオニスが冒険者登録をした頃は『ディーノ支部』だった。

孤児院時代に、十歳になってすぐに冒険者登録をしたレオニス。尊敬するグランの背を追うように、ここまで我武者羅に突き進んできた。

おかげで今や、押しも押されぬ大陸一の金剛級冒険者として名を馳せるようになった。

そのレオニスの冒険者としての原点は、言うまでもなくこのディーノ村にあるのだ。

そんなレオニスの思いを瞬時に悟ったクレア。

嬉しそうな顔でレオニスに話しかける。

「ふふふ、嬉しいことを言ってくださいますねぇ。たまにはと言わず、毎日でも顔を出してくださってもいいんですよ?」

「ぃゃ、毎日はさすがに無駄足になるから無理だな!そもそもこの出張所に出てる依頼書とか、ほとんどねぇし」

「…………」

「ン? どうした、クレア?」

「やはりレオニスさんには、私が講師を務める『冒険者のイロハ講座』の再履修が必要なようですねぇ? 今日から一週間、ミーティングに入りましょうか」

せっかくのクレアのご機嫌な笑顔も、レオニスの無神経な返しで台無しである。

そう、いくらそれが揺るぎない事実であったとしても、口にしていいこととダメなことが厳然としてあるのだ。

レオニスの根性を叩き直すべく、クレアの背後からユラリとしたオーラが立ち上る。

ギラリと光る双眸からの射抜くような鋭い視線に、レオニスが必死に言い募る。

「ぁッ、ぃゃ、そ、それは……俺がここで冒険者登録した時に、直々にクレアから受けたからもう結構だ!……つーか、俺、シュマルリ山脈の遠征から昨日帰ってきたばかりなんだ、一週間ミーティングとか勘弁してくれ……頼む、この通り!」

「……そうですか。遠征から昨日お帰りになられたばかりというなら、仕方ありませんね。冒険者は身体が資本、酷使した後はしっかりと休むのも冒険者の務めですし」

「す、すまんな……」

クレアの逆鱗に触れかけたレオニス、パン!と眼前に両手を合わせて拝み倒すように平身低頭で頼み込んだ。

そんなレオニスを見て、ふぅ、と小さくため息をつきながら許すクレア。

懸命に言い訳し続けたおかげで、何とかクレアのお仕置きを免れたようだ。

レオニスも、これに懲りたらもう少し乙女を労る精神を持ってもらいたいものである。

「では早速ですが、シュマルリ山脈での成果をお見せいただけますか?」

「お、おう、今出すからちょっと待っててな」

「あ、大きいものとか品数が多いようでしたら、あちらのテーブルの方に広げてください」

「分かった」

クレアの催促により、二人は地図を広げたり査定用に使う大きなテーブルのある方に移動する。

レオニスは空間魔法陣を開き、下位ドラゴンの尻尾や毒々キノコ、樹木系魔物の枝や幹、ミスリルゴーレムの残骸などを取り出した。

「まぁぁぁぁ、これはまたたくさん採ってきたものですねぇ」

「丸三日以上はシュマルリ山脈に滞在してたからな」

「これだけの成果があれば、絶対に総本部に持ち込んだ方が買取査定も高くなりますよ? それに、ギルドからの覚えも目出度いでしょうに……」

「今更ギルドの覚えなんぞ気にしねぇさ。階級だって一番上だしな」

「それは、そうですが……」

ドラゴンの尻尾やらミスリルゴーレムやら、貴重な品々を続々と出してくるレオニスに、クレアが感嘆のため息をつく。

素材の買取価格は一応ギルド内で定められた最低基準があり、その他に品物の大きさや地域毎の需要によって価格が上下する。

例えば下位ドラゴンの尻尾は、1kgあたり1000Gと決まっている。レオニスが持ち込んだ尻尾は約10kgなので、ディーノ村出張所での買取価格は1万Gとなる。

だが、ラグナロッツァ総本部ならこの価格に二割上乗せして1万2000Gでの買取査定になる。

これはラグナロッツァがアクシーディア公国最大の都市で、その物流も最大級の流通を誇るからだ。

下位ドラゴンの尻尾からは、鱗、皮、骨、肉などが取れる。そのどれもが引く手数多の素材であり、買い手もすぐにつく。

故に買取価格が高く出るのである。

そしてこのことは、冒険者ギルド受付嬢であるクレアはもちろんのこと、レオニスもまた重々理解していた。

だからこそクレアは、心配そうにレオニスに忠告していたのだ。

しかし、レオニスは全く気にも止めない様子だった。

「買取価格の方だって、別に気にしねぇさ。このディーノ村出張所での買取だって、ギルドが決めた最低価格は保証されてる訳だろ?」

「それはもちろん、当然のことです」

「それに……ディーノ村出張所にだって、買取実績は必要だろ? 俺だってたまには貢献しなきゃな!」

レオニスがニカッ!と爽やかな笑顔をクレアに向ける。

遠征から帰ってきて早々に、このディーノ村出張所に素材を持ち込んだレオニス。その行動の意図するところは『たまには自分の故郷であるディーノ村に貢献したい』という思いから来るものだった。

故郷を思う、屈託のない眩しい笑顔。

クレアの目には、その笑顔にグランの顔が重なって見えた気がした。

「本当に、貴方という人は……」

「ン? 何か言ったか?」

「いえ、何でもありません。ではこちらの品々の査定をしますので、少々お待ちくださいね」

「分かった。あっちの椅子に座ってのんびり待ってるわ」

クレアは何事もなかったかのように、穏やかな笑顔を浮かべる。

その後クレアは、三十分ほどかけて素材の買取査定を出していく。

その間レオニスは、自分が冒険者登録をした頃と全く変わらぬ建物の中を見回しつつ、幼い頃の思い出に静かに浸っていた。