軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第613話 ライト達の日常

レオニスがシュマルリ山脈で様々な冒険をしている間。

ライト達は、普段と変わらぬ平穏な日々を過ごしていた。

ライトは平日は真面目にラグーン学園に通い、夜は晩御飯をラグナロッツァの屋敷でラウル達とともに食べた後、カタポレンの森の家に帰る。

ひとりぼっちで過ごす夜は寂しいが、毎朝のルーティンワーク修行は自分自身のために続けていかなければならない。

そして何より、レオニスが不在の間この家を守るのは自分だ!という自負がある。

その他にも、レオニスの目がないので家の中でレシピ作成やらアイテム整理やらのBCO関連の作業をし放題できる!というのもある。

夕方の日のあるうちに、外の作業場で魔物の解体三昧してから上級ポーションや上級エーテルを作り貯めたりしているライト。平日夜に、ここまで好き放題できることは滅多にないので、かなり生き生きと作業をしていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラウルの方も、二枚目の畑の開墾をしつつ順調に作物栽培や研究を進めていた。

ラグナロッツァの温室の方は、カタポレンの森の作物のように馬鹿デカい実がなることはない。やはり畑の方は、カタポレンの森という場所柄があってこその作物巨大化なのだろう。

ただし、水遣りの水の中にポーション類やエーテル類を混ぜると、森の畑同様に温室でも育成がかなり早くなることは確認できていた。

「ンー……これなら温室の野菜には、主にエーテル類を肥料代わりに与えた方が良さそうだな」

ラウルがブツブツと呟きながら、温室の野菜達に水を与えている。

温室で育てた野菜は、オーガ族用ではなく自分達が食べる用の作物だ。やたら大きく育てる必要はないし、ここは『量より質』で拘りたいところである。

「そしたら今度は、アークエーテルよりも高品質のエーテルを与えてみたいな。……って、アークエーテル以上の高級エーテルって、何だったっけ? そこら辺まだよく分かってねぇんだよな」

「……ライトが帰って来たら、聞いてみるか」

ラウルは人里に住んで結構長いが、これまで回復剤とは無縁の生活をしてきたので、その辺りの知識がほとんどない。

だが、ラウルも冒険者登録したことだし、これからはそういった知識も積極的に得ていかなければならない。

だからといって、その知識を十歳にも満たない子供に聞き求めるのもどうかと思うが。

カタポレンの森の畑の方は、トウモロコシの次の作物としてトマトとキュウリを植えてある。

それらの新しい苗を植える前に、周囲の木々と大差ない大木のようなトウモロコシの茎を黙々と引っこ抜く、とある日のラウル。

見るからにかなりの重労働だが、この日も農作業中の正装として黒の天空竜革燕尾服一式を着ているので楽勝だ。

もちろん麦わら帽子と首にかけるタオルも、正装の一つとして忘れずに装着している。それら全部込みでの『農作業中の正装』なのである。

抜いた茎は、ラウルの繰り出す風魔法の手刀で細かく裁断する。そこからさらに水魔法で水分を抜き、再び風魔法を用いてしっかりと乾燥させていく。

こうしてきちんと処理した茎は、畑に鋤き込んで緑肥にするのだ。

トウモロコシの栽培方法を、ラグーン学園の図書室で調べたライト曰く『トウモロコシって、肥料をたくさん食う分収穫した後の茎や葉っぱも肥料にするととっても良いんだって。あんだけデカくなると普通に処分するのも大変だし、せっかくだから細かく切って乾燥させて畑に埋めて、次の野菜の肥料にしちゃいなよ!』とのこと。

次の野菜の肥料になるのなら、ラウルにとっても是非はない。いつものように、素直にライトの指示に従い作業していく。

うちの小さなご主人様は、本当に物知りだよな!と心底感心するラウルである。

トウモロコシの栽培跡地に茎の緑肥を鋤き込んだ後は、アークエーテル入りの水をたっぷり撒いて丸三日間は畑を休ませる。

ラウルには土の中の微生物の働き云々はさっぱり分からないが、それでも全く間を置かずに次々と作物を植えていくのはあまり良くないことだろうな、という感覚は何となくある。

如何にカタポレンの森といえど、土だって少しは休ませてやらなきゃ可哀想だよなー……程度の、本当に漠然とした感覚ではあるが。

そうして畑をしっかりと休ませてあげた後は、トマトとキュウリの苗を2メートル間隔で植えていく。

ちなみにトウモロコシの横に植えた枝豆は、初収穫以降十日間ほど毎日収穫できた。

実がならなくなったら、枝豆の茎もまたトウモロコシ同様に緑肥として再利用する予定である。

普通の枝豆は 莢(さや) を茎から切り取った瞬間から鮮度が落ちるので、収穫するなら根っこごと引っこ抜いて鮮度を保つのがセオリーである。

だがラウルは空間魔法陣持ちなので、すぐに空間魔法陣に放り込めば鮮度に関しては全く問題ない。

また、そもそもカタポレン産の枝豆は莢も木も馬鹿デカいので、根っこごと一気に引っこ抜くよりはラウルが都度一つづつ収穫していく方が何かと楽なのだ。

そしてレオニスがシュマルリ山脈に出かけてて不在の間に、トマトとキュウリの初収穫を迎えた。

本当ならは、すぐにでもオーガ族のもとに持っていってやりたいところなのだが。肝心の大きなご主人様が不在では、それは絶対にできない。

ラウルの巨大野菜栽培とは、オーガ族のためのものである。だがそれ以前に、レオニスの許諾とライトの知識支援あってこそ成り立つものなのだ。

その成果である初収穫だけは、是非とも二人に食べてもらいたかった。

なので、一番最初に収穫したトマトとキュウリには、すぐにそれと分かるように切り口に黒いインクを塗ってから空間魔法陣に仕舞い込む。

他の実は普通に収穫していき、それらもポイポイ、ポイー、と空間魔法陣にどんどん入れていく。

その後トマトは使い勝手の良いトマトソースにしたり、キュウリは細かく切っていつでもサラダに使えるようにするなど、暇を見ては加工や仕込みに勤しむラウル。

畑作業は日のあるうちに行い、収穫物の加工や仕込みはラグナロッツァの屋敷で主に夜に行っている。

本当に休む間もなく動き続けているラウルだが、それらは全部自分が好きでやっていることなので、全く苦にもならないようだ。

ちなみにラウルのもう一つの壮大な計画、畑の横に四阿を建てる案も順調に進んでいる。ちょうど緑肥を鋤き込んで畑を休ませている間に、ガーディナー組を訪れる予定が入っていたのだ。

レオニスとともにガーディナー組を訪れたラウルは、先日依頼した四阿建設関連の見積もり書をイアンから受け取っていた。

……

…………

………………

「この見積もり価格には、ラウルさんがお持ちの丸太を当社にて四阿建設用資材に加工するという、言わば手間賃、加工賃も含まれております。これも全てラウルさんが行うのでしたら、もう少しお安くできますが……どうなさいますか?」

「そうだな……丸太の加工は、建築のプロであるあんた達に任せたいな。その方が間違いなく組み立てられるだろうし」

「そうですね、その方が賢明かと思います」

見積もり書に出してきたイアンの案を、全て受け入れるラウル。

ガーディナー組に出した見積もりでは、設計図と建築までの指導、それに丸太の加工賃込みで15万Gという回答が得られた。

担当のイアン曰く、公園などでよく見る四阿は一基30万Gが基本価格なのだそうだ。

丸太の加工もラウルがすればもっと安上がりにできるだろうが、それだとまたラウルの仕事が増える一方である。

トウモロコシや枝豆の栽培に、収穫物の調理の仕方の研究、次の作物の栽培、二枚目の畑の開墾等々、ただでさえラウルには他にもやらねばならぬことが山ほどあるのだ。

少しの手間賃を惜しんでなどいられないのである。

それに、ガーディナー組の方で組立キット化してもらえば、建築素人のラウルが組み立てても失敗する可能性は大きく抑えられるだろう。

四阿の組立キット化などと聞いたこともないが、見積もり書の一番上に『四阿建設組立キット・見積もり価格書』と書かれているので、これが世界初の事例になるのだろう。

いずれにしても、多少の手間賃で失敗するリスクが抑えられるのは良いことだ。

「では、四阿を建てるのに必要な分の丸太を今日ここに置いていくから、加工の方もよろしく頼む。代金の15万Gは、加工済の丸太を受け取りに来る時に一括払いでいいか?」

「もちろんです。いつもご贔屓いただき、ありがとうございます」

見積もり通り15万Gでの契約決定に、横で聞いていたレオニスが感心したように呟く。

「15万Gを一括払いかぁ……ラウルもお大尽になったもんだなぁ」

「いや、そんなことはないぞ? ここの話し合いが終わったら、すぐにツェリザークとネツァクとエンデアンに行かなきゃならんしな」

「…………それ、もしかして全部殻処理系の依頼か?」

「正解。今の俺が手っ取り早く稼ぐには、それが一番だからな」

ラウルが挙げた三ヶ所の地名を聞き、しばし考え込んだレオニス。

それらの街に共通するのは、蟹や貝の殻処理問題に悩まされていること。

レオニスでもすぐに思い当たることだった。

「まぁなぁ、実際それが一番早いわなぁ」

「そういうこと。それに、アイテムバッグが一般に普及すれば、殻処理問題自体かなり緩和されるだろうしな。殻処理で稼げるのも今のうちさ」

「それにはまだあと数年はかかるだろうがな」

先日の号外で、アイテムバッグの存在が世に広く知られるところとなった。

これに期待する層は、いくらでもいるだろう。

レオニス達の目の前にいるイアンもその一人らしく、二人の会話にアイテムバッグが出てきたことで食いつくように話に加わってきた。

「アイテムバッグ、本当に素晴らしいですよね!さすがに500万Gではとても手が出ませんが、もっと値段がこなれてきたらいずれは手に入れたいです!」

「イアンもアイテムバッグが欲しいのか?」

「もちろんですとも!というか、あれを欲しがらない人なんています? そんな人なんて、絶対にいないと断言しますね!」

いつになく気合いの入るイアンの説に、レオニスもラウルも頷く。

イアンも職場で空間魔法陣を幾度も見る立場にあり、その都度羨望の思いを胸に抱えていたのだ。

「まぁな。値段にもよるだろうが、10万Gくらいまで下がれば買える人もどんどん増えていくだろうな」

「理想は5万Gくらいですが、そこまでなるのに少なくとも十数年はかかるんでしょうねぇ」

「ま、そこら辺は開発担当の魔術師ギルドに頑張ってもらうしかないさ」

「ですねぇ。私が生きているうちに、是非とも入手したいものです」

そんな雑談を交わした後、レオニスとラウルはガーディナー組を後にする。

その後ラウルは先程の宣言通り、ツェリザークとネツァクとエンデアンを数時間かけて梯子して回ったのだった。

………………

…………

……

そうしてレオニスのいない寂寥感を埋めるべく、日々忙しく過ごしていたライトとラウル。

レオニスが出立してから、三日後の金曜日。

もうすぐ宵闇が迫りくる中、レオニスはラグナロッツァの屋敷に戻ってきた。

「ただいまーーー!」

目覚めの湖からカタポレンの家に戻り、そのまますぐにラグナロッツァの屋敷に転移してきたレオニス。自身の帰宅を知らせるために、二階から階段で一階に降りつつ大きな声でただいまの挨拶をする。

もうそろそろ晩飯の時間だし、ライトもラウルも食堂にいるだろうな……と思いつつ、レオニスは食堂に向かう。

すると食堂に入る手前の廊下の角で、ドシン!と何かがぶつかってきた。

それは、レオニスの帰宅の第一声を聞いたライトだった。

「ンぎゃッ!」

「ン? お、ライトか? ただいま!……って、大丈夫か?」

「ふぇぇ……大丈夫くない……」

「廊下を思いっきり走るからだぞ? 学園で『廊下は走っちゃいけません!』って、習ってないのか?」

「だってぇ……レオ兄ちゃんの声が聞こえてきたから……」

頑丈なレオニスの身体に思いっきりぶつかったライト、尻もちをつきながら赤くなった鼻を擦っている。

レオニスはびくともしていないのに、ライトはぶつかった反動で跳ね返されて尻もちをついていた。

まだ鼻血こそ出ていないが、思いっきり鼻をぶつけたライトはその痛さに涙目になっている。

そんな慌てん坊のライトを抱っこして、ライトの赤い鼻に右人差し指を当てて「キュアラ」と唱えるレオニス。

中級回復魔法をかけてもらったおかげで、鼻の痛みがすっかり消えたライトは手の甲で目元をぐしぐしと擦り、笑顔になる。

「もう痛くない!ありがとう、レオ兄ちゃん!」

「どういたしまして。もう廊下は走っちゃいけんぞ?」

「うん!いつもは学園でも廊下は走らないよ!」

「そうか、そりゃ良いことだ」

笑顔でキュアラの礼を言うライトに、レオニスもまた笑顔になりつつ廊下を走らないよう再び注意する。

そういうレオニスも、かつては孤児院時代にシスターマイラから「これ、レオ坊!廊下を走るんじゃありません!」「ああ、もう!床が抜けたらどうすんの!」と、それはもう毎日のように散々散々怒鳴られ続けていたものだが。

もちろんそんなことは黙っているレオニス。もしここにシスターマイラがいたら、大いに呆れ果てて黒歴史を披露してくれることだろう。

抱っこしついでに、そのままライトとともに食堂に向かうレオニス。

食堂に入ると、そこにはラウルがいて皆の食事を並べているところだった。

「お、ご主人様、おかえり」

「ただいま。皆変わりなく過ごしていたか?」

「おう。特に事件なんかが起こることもなく、皆元気にやってるぜ」

「そうか、そりゃ良かった」

ラウルが布巾で濡れた手を拭きながら、入口にいるレオニス達のもとに寄っていく。

「それにしても、思っていたよりかなり早いご帰還だったな」

「ああ、アクアやウィカの送り迎えのおかげだ」

「怪我も特にしてなさそうだな。無事帰ってこれて良かった」

「おかげ様でな。作戦の方もぼちぼち上手くいって、成果は上々といったところだ」

レオニスはラウルと会話しながら、抱っこしていたライトを床に下ろす。

「マキシももうそろそろ仕事から帰ってくる。そしたら皆で晩飯にしよう」

「レオ兄ちゃん、シュマルリ山脈でのお話、たくさん聞かせてね!」

「おう、シュマルリ山脈ではいろんなことがあったぞー。約束通り土産話もたくさんしてやるし、オマケの毒キノコも拾ってきたぞ」

「「毒キノコッ!?」」

土産話の流れでレオニスが本当に毒キノコを採取てきたと聞き、ライトとラウルがギュルンッ!とその首をレオニスに向ける。

爛々と輝く二人の熱い視線に、レオニスはドン引きしつつ後退る。

「お前ら、本ッ当ーーーに物好きだね……毒キノコなんて、一体何に使うのよ?」

「それをこれから研究するのが楽しいんじゃん!ねー、ラウル?」

「そうだとも。探究心溢れる小さなご主人様の言う通りだぞ?」

「探究心、ねぇ……ま、とりあえず猛毒とまではいかんだろうと思うが、間違っても食ったりすんなよ?」

「はーい!」「おう」

ライトとラウル、毒キノコを欲しがる変わり者達の言い分に、レオニスも若干呆れながら半ば諦め気味にため息をつく。

するとここで、レオニスの忠告に威勢よく返事をしたライトが、レオニスの顔をじーーーっ……と見ている。

それに気づいたレオニスが、ライトに向かって不思議そうに問いかけた。

「ン? 何だ、俺の顔に何かついてるか?」

「ううん、そうじゃないけど……」

ライトは少しだけもじもじした後、バフッ!とレオニスの身体に抱きついた。

「レオ兄ちゃん……おかえり!!」

「……ただいま」

無事帰還してきたことの喜びを、改めて全身で表すライト。

嬉しそうに抱きつくライトの頭を、レオニスもまたニッコリと笑いながらくしゃくしゃと撫でる。

どこも怪我することなく無事帰ってきた 兄(レオニス) と、その帰還を喜ぶ 弟(ライト) 。その光景は、見ていてとても微笑ましい。

ドラゴンの巣窟たるシュマルリ山脈南方に、単身その身一つで乗り込む。このことだけでもかなり危険で心配だったのに、レオニスはたったの数日で皆のもとに帰ってきた。

しかもケロリとした涼しい顔で、それはまるで近所の市場にでも買い物に行ったのかと錯覚するくらいに、いつもと変わらぬ穏やかな笑顔。

常人には決して成し得ない偉大な業績であることは、ライト達の横にいたラウルにも理解できていた。

本当に、このご主人様は―――とんでもなく強くて頼もしい英雄だな。

仲睦まじい兄弟の様子を、 妖精(ラウル) もまた内心で讃えながら笑顔で眺めていた。