軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第587話 見事な予想的中

ライトが忙しくしていない、平日のとある日。

ラウルはカタポレンの森の家に足繁く通っていた。

何故かと言えば、カタポレンの森の家の横に畑を作るためである。

レオニスにはちゃんと許可を取ったし、善は急げ!とばかりに畑の開墾に取りかかるラウル。

この日もラウルは準備万端整えて、朝からカタポレンの森の家に移動していた。

ちなみに畑の開墾時には、レオニスから祝いの品としてもらった黒の天空竜革装備一式を着ている。いわゆるフル装備状態というやつだ。

そして頭には大きな鍔の麦わら帽子を被り、首には汗拭き用の白いタオルを一本掛けている。これは、ラウルが新たに畑を耕すという話をきいたライトからのアドバイスである。

ライト曰く『農作業中の正装だよー。天気の良い日は頭に直射日光が当たって、熱中症になる可能性もあるからね。特にラウルは黒髪で熱が篭もりやすいし、ちゃんと帽子も被って水分補給しながら作業してね』とのこと。

うちの小さなご主人様は博識で、しかも俺の体調まで気遣ってくれる。本当に優しいご主人様だ、と心の中で感謝するラウル。

そんなラウルの作業用姿は、実にスタイリッシュ&ちぐはぐな見た目で、とても畑を開墾する格好とは思えぬ場違い感満載である。

だが、ここはカタポレンの森の中。いつ何時異変が起きるか分からない魔の森であることを忘れてはならない。

万全を期して事に挑むのは、決して悪いことではないのだ。

それに、天空竜革装備一式にはレオニスにいろんな魔法を付与してもらっている。特にHPやMPの自動回復は、畑の開墾という超重労働時には有効かつ最適だ。

場違い感満載だろうが何だろうが、ラウルは使えるものなら何でも使う主義である。

というか、今この場にはラウル以外誰もいないし、そもそもラウルは外見を気にするような性格でもないので、見た目のどうこうなど端から全く問題なかったりする。

フル装備で疲れ知らずの無双状態で、まずラウルは木の枝打ちから始めた。

木の周りをヒョイヒョイ、と器用に飛び回り、幹から左右に生える枝をスパスパと手際良く切り落としていく。

伐採した木もその後ちゃんと丸太にして活かすために、先に枝葉を切り落としておく必要があるのだ。

切り倒す予定の木の枝打ちを全て終えた後、枝を一ヶ所に集めて魔法を駆使して一気に乾燥させていく。

細かい枝葉でも、乾燥させておけばちょっとした焚き火などで使えるだろう。あるいはラグナロッツァの屋敷の暖炉で、薪代わりに使ってもいいかもしれない。

葉っぱは土に混ぜれば、少しは堆肥として役立つだろう。

そうして小枝の処理を済ませた後は、本体の大木を切る作業に突入だ。

ラウルは特に何を詠唱するでもなく、手刀一つで太い木々を切っていく。

それはまるで小枝をポキッ☆とでも手折るような、何ともお手軽そうな作業に見える。実際にはとんでもないことなのだが。

自分の背丈の何倍もある大木を手刀で薙ぎ倒し、一本切り倒す毎にカタポレンの家の平らな敷地内に移動させていく。

ヒョイ、と肩に大木を乗せてスタスタと移動するラウル。まるで紙切れか石ころ、あるいは小皿か箸でも持ち歩いているかのような普段通りの足取りだ。

「おおお、やっぱこの服着てると魔法の威力も格段に上がるな!」

「身体もとても軽く感じるし、こんなクッソ重たい大木だって楽々持ち上げられるし」

「やっぱすごく良い物を作ってもらったんだな……よし、そしたらその御礼に、魔法付与の支払いスイーツを多めに作って渡してやるか」

天空竜革装備の高性能さを、ラウルは改めて己の身を以て思い知る。

もともとラウル自身、神樹の祝福や加護でかなり力がついて来てはいるが、こうして装備品や付与魔法でサポートを得るとまた格段に違うようだ。

付与魔法一つにつき、スイーツ五十個で手を打ってくれたレオニスにラウルは心から感謝する。

甘い物が好きな大きなご主人様に、多めに礼を渡そう!と思い直すラウルは、やはり根はとても心優しい善良な妖精なのである。

枝を打ち落とした大木を、三本ほど並べて家の横の平らな敷地内に置き並べる。

一本づつ丁寧に樹皮を剥ぎ取り、剥き出しの丸太状態にする。

丸太の方も小枝と同じように、魔法を駆使して水分を少しづつ抜いて乾燥させる。

何しろ木の一本一本がデカいので、丸太を一本乾燥させるのに五分くらいかけてじっくりと処理していく。

これを何十本分と繰り返していく訳だが、いくらラウルが高い魔力持ちといえども全部を一気にこなすのはさすがに厳しい。

切り倒した木の丸太処理を五本分こなしたら、一休みも兼ねて魔力回復剤のアークエーテルを一本飲み干す。

ついでに樹皮も乾燥させて、カタポレンの家の敷地内で平行して行っている蟹殻の焼却炉に放り込み火種の足しにする。

何気にラウルもライトに負けないくらいに、強烈なもったいない精神の持ち主のようだ。

こうして切り倒した木々を、丸太として新たに生まれ変わらせること約五日間。ようやく木の上の部分の処理が終わった。

魔法がなければ数ヶ月はかかる処理だが、ここは剣も魔法も魔物も実在するサイサクス世界。

嗚呼素晴らしきかな、ファンタジー世界。

ちなみに丸太はいつか使う時のために、空間魔法陣に全て収納している。

何なら畑の横に、休憩用のベンチか 四阿(あずまや) でも作ってもいいかもな……と、ラウルは丸太を収納しながら密かに考えていたりする。

四阿を作れば、収穫したての野菜の整理や処理などもできるようになるだろう。

よし、今度ガーディナー組に行って四阿の建て方を教えてもらおう―――ラウルの中で、丸太の有効活用方法が確定したようだ。

丸太の処理が終わったら、その次は木の根っこの処理が待ち構えている。

ラウルは地属性の適性も持っているので、土魔法も使える。

根の周囲の土を浮かせて一旦取り除き、木の根を除去する。

カタポレンの森の木々はもともとかなり大きいので、その根もかなり深く張っている。全部を一気に取り除くのは難しいので、まず大きい根を取り除き終えてからさらに土を深く掘り起こし、細かい根を地上に出す。

そのついでに、大きな石があればそれも取り除いておく。

地中に大きな石があると、農産物の育成の妨げになるのだ。

ラウルの拳大程もある大きな石が、思った以上に結構ゴロゴロと出てくる。

それらを土魔法でこまめに分けて、畑の端の方に一ヶ所にまとめておいた。

「さて、この石はどうしたもんか……小枝や木の皮は何とか活用できても、さすがに石ころの使い道は思い浮かばんぞ……」

ラウルの腰の辺りまで積み重なった石ころの山を眺めつつ、ラウルは顎に手を当てて思案する。

大きさが中途半端で、庭園作りの飾りなどには使えそうもない。漬物石に使えるほど大きくもないし、そもそもちゃんとした漬物石ならラウルも既にいくつか所持している。

こりゃ畑の囲いの代わりに、適当に埋め込んでおくしかないかな……とラウルが考えていた、その時。

何故だかラウルの脳裏に、ふとライトの顔が思い浮かんだ。

「……ふむ。案外ライトなら、こういう石ころでも何かしら使い道を見つけて欲しがるかもしれんな」

「よし、この石は小さなご主人様用にとっておこう。要らなきゃ要らんで畑の外にまた埋めてもいいしな」

ラウルの頭に思い浮かんだのは、砂漠蟹や氷蟹の殻を欲しがった時のライトの顔だった。

あんなもんを欲しがるライトのことだ、きっとこんな石ころ一つにだって使い道や価値を見い出して「ちょうだい!」と言って欲しがるに違いない。

だったら一度ライトに要るかどうか、聞くだけ聞いてみよう―――ラウルはそう考えたのだ。

ちなみに後日、ラウルの案内でその石ころの山を見せてもらったライトは、それはもう目をキラッキラに輝かせて「こんな良い物を、ぼくのためにとっといてくれたんだね!ありがとう、ラウル!」と、嬉しそうに破顔しつつラウルに礼を言った。

実はこの石ころ、交換所に持ち込めば一番ランクの低い強化素材『砥石』と交換できる。砥石の他にも、いくつかの低ランク強化素材の基材に指定されているはずだ。ライトが石ころを手放しで大喜びしたのも当然である。

宝の山!とまでは言わないが、石ころでもあればそれなりに役立つアイテムであり、もらえるものなら嬉しい品なのだ。

あんな宝石でも何でもない、本当にただの石ころの山を『良い物!』と言って喜ぶ理由など、正直ラウルにはさっぱり分からない。

だが、理由は分からずともライトが大喜びしたことは事実だ。

ラウルにとっては、その事実さえあればいい。

ラウルの思惑や予想は見事に的中し、ライトの嬉しそうな笑顔を見て満足したラウルだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして数日を新しい畑の開墾に費やしたラウル。そのほとんどの作業が終わった。

だが、大きな木の根や石を掘り起こして取り除いたことで、土嵩がだいぶ減ってしまった。

おかげで堀のような地形になってしまい、周囲の地面よりかなり表面の位置が低くなっている。その深さは25メートルプールくらいはあろうかという段差だ。

だが、そんな問題もラウルの手にかかれば大したことではない。

これまでに作り貯めた蟹殻や貝殻の焼成肥料を、土に存分に混ぜ込んでいく。焼いた時に出た木炭や樹皮の灰もついでに混ぜ込んで、嵩増し要員にすれば一石二鳥だ。

そして畑と森の境目を煉瓦分の幅に削り、堀状にしてそこに煉瓦を埋め込む。こうすれば、ちょっとしたお洒落なガーデニング風に見えないこともない。

ただし、カタポレンの森のド真ん中という土地柄、洒落た庭園とか畑には絶対になりようもないのだが。

掘った土は畑側に回し、土の補充にする。

こうした様々な工夫により、何とか周囲より少し低い程度の段差にまで整えた。

後は種なり苗なりを植えて、水遣りしながら野菜類の成長を見守るだけである。

種や苗はラグナロッツァの市場に専門店があり、店員のオススメに従い既に数種類の野菜の種を入手済みだ。

まだ種を蒔いてはいないが、種を蒔く前にラウルには一つ悩みがあった。

畑の横の地べたに胡座をかいて座り、休憩がてらアークエーテルを飲むラウルは独りごちる。

「ンー、植物の育成に適した魔法ってのはないもんかな。カタポレンの森の土壌とはいえ、ただ単に水遣りしているだけじゃあまり大きく育たないような気もするし」

「土魔法に関連した魔法もありそうなもんだが、今一つ分からん……」

「……よし、ここは挨拶がてらツィちゃんとこに寄って聞いてみるか」

飲み干したアークエーテルの空き瓶を、ポイー、と空間魔法陣に仕舞うラウル。

ついでに麦わら帽子と首に掛けたタオルも仕舞う。開墾自体は既に終了したので、もうそこら辺の装備は当分不要だ。

農作業中における正装を解除したラウル。徐に立ち上がり、神樹ユグドラツィのもとに向かうべく、飛翔していった。