軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第559話 帰り道のエトセトラ

早速別荘の庭でバーベキューの支度を始めるカイ達。

もちろんライト達もその支度を手伝う。

レオニスが所持している大型簡易テントを張り、その下にバーベキューの道具を設置していく。

「レオのおかげで、日焼けの心配せずにバーベキューできるわ!」

「面倒な器具の設置も任せられるし、本当にいいところに来てくれたわね!」

ご機嫌な口調で話すのは、セイとメイである。

バーベキュー用のカット野菜や肉が乗った皿を、カイが別荘のキッチンで下拵えしては時折セイとメイが運んでくる。

日焼けが大人女子のお肌の大敵なのは、このサイサクス世界でも同様である。

「レオ、何かバーベキューに適した食材は持ってない?」

「生肉やら食材を持ち歩くのはラウルくらいのもんだが……そうだな、そしたら祭りの串焼をバラして端の方で少し炙るのはどうだ?」

「あっ、それいいわね!皆で食べる直前に何本か出してくれる?」

「了解ー」

ライトとレオニスは飛び込み参加なので、本来予定していたアイギス三姉妹の分だけではとても食材が足りない。

ライトはともかくレオニスはかなり食べる方なので、自分が食べる分は少しでも食材提供せよ!という訳だ。

しかし、今のレオニスは調理前の生肉や野菜は持ち歩いていない。野営をするにしても、最近はもっぱらラウルが調理してくれた品や屋台などで購入したものを出して食べるのが定番だからだ。

駆け出しの頃はともかく、今では空間魔法陣やラウルのご馳走を持ち歩くのがすっかり当たり前となってしまっていた。

あー、こんなことならプロステスで土産用に買ったパイア肉、ラウルに全部やらずに少し残しとくんだった……これからは、いつ如何なる時でもバーベキューができるように、空間魔法陣に生肉や野菜もストックしておくか……

そんなことを考えながら、テーブルや椅子などを出していくレオニス。

そうして一通りの準備を終え、バーベキューコンロの木炭に火を着けて野菜や厚めの肉を焼き始める。

全員が飲み物のジョッキを片手に持ち、カイが食べる前の挨拶を始める。

「この五人でラギロア島のバカンスを楽しめるなんて、姉さんとっても嬉しいわ。レオちゃん達も、ここで日頃の疲れを癒やし英気を養っていってね。それでは……乾杯!」

「「「「 乾杯(カンパーイ) !!」」」」

皆ジョッキを高く掲げ、カチーン、とジョッキの縁を軽く突き合わせる。

アイギス三姉妹はエール、ライトは橙のぬるぬるドリンク、レオニスは烏龍茶に似た薬草茶。どれも先程までツェリザークの雪で冷やしていたので、キンキンに冷えていて最高の喉越しだ。

「ぷはーッ!青空の下で飲む超冷たいエール、サイッコー!」

「レオのおかげで今日のお昼は最高のバーベキューね!」

「レオちゃん、いろいろ手伝ってくれてありがとうね」

「いやいや、俺達の方こそ昼飯誘ってもらってありがたい。こんな風に皆でバーベキューできるなんて、思ってもいなかったよ」

バーベキューコンロの上で、ジュウジュウと美味しそうな音を立てて肉や野菜に火が通っていく。

木炭で焼いているので、炭火の芳ばしさがさらに食欲をそそる。

コンロを囲みながら、ラギロア島別荘地でのバーベキュー大会が始まっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「へー、レオ達はマキシ君の里帰りについて行ってたのねー」

「おう、大神樹ユグドラシアにも会ってきたぞ」

「私も大神樹とか会ってみたいわぁ。でも、私達の魔力じゃカタポレンの森の魔力に堪えられないだろうから無理だけど」

「まぁな。でもカイ姉達にもちゃんと土産もらってきたから」

「え、何ナニ、土産って何?」

レオニス達が八咫烏の里に出かけたと聞き、羨ましがるアイギス三姉妹。

そんなカイ達に土産があると言うレオニスに、セイやメイが期待を込めた眼差しでレオニスを見つめる。

「大神樹ユグドラシアの枝。これでまたツィちゃんの枝と同じように、カイ姉達にアクセサリーを作ってもらいたいんだ」

「えーーー、それ、土産じゃなくて仕事の話じゃなーい」

「全くもう……レオといると大抵が仕事の話になっちゃうから嫌なのよねぇ」

「あッ、何だその言い方は。世にも貴重な大神樹の枝だぞ!? それに、余りはいつものようにカイ姉達に全部あげるってのに」

「それはそれ、これはこれ。休暇の間くらい、仕事からは完全に解放されたいものなのよ」

その土産とは、アクセサリーの作成依頼の材料を兼ねていると知ったセイとメイ。二人とも瞬時にぶーたれた顔になる。

確かにレオニスの言う通り、それは世にも貴重な大神樹の枝であることに違いはない。だが、それでアクセサリーを作ってくれというのもまた、セイ達にとっては仕事の話であることに違いはないのだ。

ぶーたれるセイ達のご機嫌を直すために、ライトが慌てて別の話を振る。

「え、えーと、皆さんはこのラギロア島で、どんなことをして過ごしているんですか?」

「そうねぇ……まずは昼頃までゴロゴロ寝て過ごして、夕方になったら島の中や浜辺を散歩して、夜は満天の星を眺めながら乾杯したりしてるわ」

「おおお……それはまさにゴロ寝三昧ですね!」

「カイ姉さんは朝の浜辺を散歩して、綺麗な貝殻や珊瑚の枝を拾ったりしてるけどね」

メイが語るラギロア島での過ごし方。それはまさしくゴロ寝三昧であり、決してラグナロッツァではできないぐーたら生活である。

ライトも前世では、盆暮れ正月などの長期休暇の度にそれはもうゴロ寝三昧を堪能していたものだった。

だが、このサイサクス大陸に生まれついてラグーン学園に通い始めて以降、全くと言っていいほどゴロ寝三昧なんかできていない。休日の間こそ、クエストイベントや素材集めに没頭し奔走する機会だからである。

ああ、俺もそろそろぐーたらな休日を過ごしたいなぁ……そう思いつつ、結局は何だかんだBCO関連をこなすために出かけちゃうんだけど。

ライトがそんなことを考えていると、自分の話が出たせいかカイがワンピースのポケットから手のひらサイズの貝殻などを取り出して、ライトに見せてきた。

「これは今日の朝に、浜辺で拾ってきたものなの」

「うわぁ、綺麗な貝殻ですね!これで何か作るんですか?」

「ええ、内側の白く綺麗なところを使ってボタンを作ったり、可愛らしい巻貝なんかはそのまま置き物にしてもいいわね」

「貝殻をボタンにするのは、ぼくも聞いたことあります。キラキラしてていいですよね!」

さすがは長姉カイ、バカンスしている間も仕事に使える素材集めをしているらしい。

のんびりと浜辺を散策しながらなら、リラックスもできて一石二鳥だろう。

「そういえばぼく、海底神殿に行く時に人魚のお姉さん達と友達になりまして。今度人族の街で売ってる髪飾りをプレゼントする約束をしたんです」

「まぁ、そうなの? 人魚に会ってきたなんて、素敵なお話ね」

「そんな訳で、今度アイギスで髪飾りを買いたいんですけど……海水でも錆びない髪飾りや腕輪となると、どんな素材がいいんですか?」

「そうねぇ、海辺でアクセサリーを着けるなら純金や銀がオススメね」

ライトの相談に、アイギス三姉妹がノリノリで話に乗っている。

和気あいあいと会話するライトの後ろで、レオニスが焼肉にかぶりつきながら「何だよ、貝拾いや髪飾りだって仕事の話じゃねぇのかよ……」とブチブチ零しているような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

バーベキューの後に、ライトが提供するラウルのスペシャルスイーツで食後のデザートタイムを過ごした五人。

気心の知れた者達だけで過ごす快適な空間は、全員の身も心も満たしてくれる。

だが、レオニスにはまだ冒険者ギルドでの一仕事が待っている。

そろそろラギロア島を出立しなければならない。

「俺はまだエンデアンでしなきゃならんことがあるから、ぼちぼちお暇する」

「あら、そうなの? もっとゆっくりしていけばいいのにー」

「気持ちだけありがたく受け取っておくよ。さ、ライトも帰り支度しな」

「はーい」

レオニスは徐に椅子から立ち上がると、レオニスが出した椅子やテーブルを空間魔法陣に仕舞い込んでいく。

その間にライトは皆の使用済みの皿を下ろしたり、バーベキューの後片付けを手伝う。

一通り片付けが済んだ後、ライトとレオニスは改めてアイギス三姉妹に礼を言う。

「今日は昼飯をご馳走してくれてありがとう。ライトも俺もちょうど腹が減ってたから、ここで昼飯食えて助かったよ」

「どういたしまして。私達もレオちゃんやライト君とバーベキューできて、とても楽しかったわ」

「カイさん、セイさん、メイさん、ごちそうさまでした!またラグナロッツァでお会いしましょう!」

「ライト君達も、御祓いスタンプラリー回り頑張ってね!」

カイ達に見送られながら、ライトとレオニスは別荘地を後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後ラギロア島の船着場にて、特急料金を払ってウスワイヤの街に渡ったライトとレオニス。

ウスワイヤの街を出て小一時間走り、港湾都市エンデアンに移動する。

お昼に美味しいバーベキューを食べてHPは満タンだし、食後の腹ごなしにももってこいのランニングだ。

そうしてエンデアンの街に入り、冒険者ギルドエンデアン支部に到着した二人。

早速クレエがいる受付窓口に向かう。

「よう、クレエ」

「クレエさん、こんにちは!」

「あら、レオニスさんにライト君。もうラギロア島に行ってこられたんですか?」

「ああ、おかげさまで用事は無事済んだ。ついてはこのエンデアン支部に伝えなきゃならんことができてな」

「はて、レオニスさんがわざわざこのエンデアン支部に伝えなきゃならないこととは……?」

レオニスの言葉に、不思議そうな顔をするクレエ。

それもそのはず、レオニスは普段このエンデアン支部と直接関わることなどほとんどない。レオニスの拠点ではないのだから、当然のことだ。

そんなレオニスが、わざわざエンデアン支部に来て伝達しなければならないこととは一体何なのか。クレエが訝しがるのも無理はなかった。

そんなクレエに、レオニスがちょいちょい、と手招きをした。

レオニスの手招きに応じたクレエに、レオニスはそっと耳打ちする。

(あー、ここだけの話なんだがな? 俺達今日は海の女王に会うために、海底神殿に出かけててな)

(……え?)

(無事海の女王に会えたんだが、その海の女王から人族にお願いがある、と言われてな)

(……ええ?)

(よくエンデアンに出没するディープシーサーペントな。あれ、実は海底神殿生まれの由緒正しい蛇龍神なんだと)

(……えええ?)

(あのディープシーサーペント、通称『デッちゃん』は世界唯一の蛇龍神だから、絶対に殺さないでくれって。人里に近寄っても、軽く追い払うだけに留めてくれってよ)

(……ええええッ!?!?)

レオニスのひそひそ話に、クレエはどんどん目を丸くしながら声にならない吃驚を上げる。

最後の方など、両手で口を押さえながら必死に堪えるクレエ。

こんな重大事を聞かされても、なお機密を守り通すクレエ。まさしく受付嬢の鑑である。

「じゃ、そゆことで。海の女王の言葉はちゃんと伝えたぞ。後はエンデアン支部で頑張ってくれ。じゃあな」

「ちょちょちょ、ちょっと!ちょっと待ってください!」

海の女王の言葉をサクッと伝え終えたレオニスは、さっさと帰るべくクルッ!と踵を返す。

だが、帰ろうとするレオニスをとっ捕まえるために、クレエが受付窓口から思いっきり身を乗り出しレオニスのベルトを鷲掴みにして引き留める。

慣性の法則でベルトがお腹に食い込んだレオニスが、思わず「グエッ」という小さな悲鳴を洩らす。

「そんな新事実や重大事を、受付窓口で軽く耳打ちしただけで済ませてもらっては困ります!」

「ぇー……アレを軽く追っ払うのなんて、やることは今まで通りで何も変わらんぞ?」

「それでもです!というか『デッちゃん』て一体何なんです、『デッちゃん』って!?」

「ぃゃ、だからそれは、海の女王がアレをそう呼んでてだな……」

受付窓口をひらりと飛び越え、レオニスの前に回り込みロングジャケットの両襟をムンズ!と掴みレオニスに迫るクレエ。

レオニスの顔面10cmの至近距離で迫るクレエの迫力に、レオニスはタジタジと後退る。

「と・に・か・く。それら諸々のお話は上の者も交えて、今すぐ奥の事務室にてゆっくりしっかりきっちりがっつりお聞かせ願います」

「は、はい……」

「というか。きちんと聞かせてもらうまでは、絶対にラグナロッツァに帰しませんからね……?」

「は、はいぃ……」

レオニスとクレエの顔面至近距離が、5cm、3cmと徐々に縮まっていく。

普段はおっとりとした愛らしいラベンダー色の美女クレエだが、今の彼女は逼迫していてそれどころではない。

レオニスから詳しい事情を聞かなければ、エンデアンに明日はない!くらいに深刻に捉えているようだ。

そう、レオニスにとっては今まで通りの対処でOK!ということで、海の女王に託された伝言を伝えきったつもりだった。

だがクレエにしてみれば、そんな重大な案件を自分一人に伝えただけで任務完了!と済まされてはたまったものではない。

港湾都市エンデアンにとって、いつ襲来するか分からないディープシーサーペントの存在は本気で死活問題なのだ。

ワナワナと打ち震えるクレエから、今にも 射殺(いころ) されそうな鋭い視線と『ドンドコズギャゴゴゴ……』という地の底から沸き上がるようなドス黒いオーラが陽炎のように揺らめき立ち上る。

クレエから発せられるそのあまりにも凄まじい圧に、レオニスはただただ震え上がる。

超弩級のド迫力クレエに押し迫られたレオニス、既に背後は受付窓口のカウンター。これ以上後退りようがないまでに追い詰められていた。

「という訳で。ライト君、しばらくレオニスさんをお借りしますね?」

「は、はい……」

「す、すまんな、ライト……俺が戻ってくるまで、ギルド内の売店でも見ながら待っててくれ……」

「は、はいぃ……」

クレエに引き摺られるようにして、奥の事務室に連れていかれるレオニス。

ズン、ズン、ズン、と力強く歩いていくクレエの後ろ姿を、ライトは小さく手を振りながら見送るしかなかった。