軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第558話 人魚の縄張りと女子トーク

海底神殿に行くために、ラギロア島から出立したライト達。

帰りもラギロア島からサイサクス大陸本土に帰るために、一旦ラギロア島に戻ることにした。

ウスワイヤの街に入る際に、レオニスは冒険者ギルドのギルドカードを提示して入った。そこから特急の船便でラギロア島に渡ったので、帰りもラギロア島からウスワイヤに戻らなければ後で何を言われるか分からないからだ。

海底神殿から1kmほど先にあるラギロア島を目指し、再び海中をゆっくりと移動するライト達。

せっかく海に来たのだから、帰り道だって海中遊泳を楽しまなくっちゃ損!である。

綺麗な熱帯魚風縞模様の魚や、エイやサメなどの大きな魚も時折ライト達の頭上を悠々と横切っていく。

途中、海底の岩や造礁珊瑚の上で寝そべっている人魚も見かける。

人魚同士、互いに視認すればにこやかな笑顔で手をひらひらと振る。

見た感じ、ここら辺には女性型の人魚しかいないようだ。

「ここら辺には、お姉さん達のような女性の人魚しかいないんですか?」

『そうよ。ここは女王ちゃんが住む海底神殿に近いから、メス側の縄張りになってるの』

『もともとオスとメスは基本的に住む場所が違うのよね』

『契りを交わして夫婦になれば、独立して親子連れが住む別の場所に移動するけれどね』

人魚達の話によると、やはりこの一帯は女性型の人魚の縄張りらしい。しかも独身者が集まる場所のようだ。

その理由の一つに海底神殿が挙げられていたが、海の女王のボディガードは同性の方が安心できる、ということだろうか。

「ねぇ、レオ兄ちゃん、今度男性の人魚にも会ってみたいね!」

「そうだな、せっかくなら会ってみたいなぁ」

「お姉さん、男性の人魚ってどこら辺に住んでいるんですか?」

『オス達は海底神殿のずっと向こう側にいるわ』

『半分くらいは年がら年中狩りや探索に出かけてて、不在なのも多いけど』

『私達メスはあまり外には出ないんだけど、オスは私達と逆で住処にじっとしていられないのよねぇ』

今回ライト達が出会った人魚は全て女性型。

もちろん見目麗しい彼女達に出会えたのも幸運だが、せっかくなら男性型の人魚にもいつか会いたいところだ。

次に海底神殿を再訪する時が来たら、今度は彼らにも会いたいな、と思うライト達。人魚のオスは狩りや探索が大好きなようだし、きっとレオニスとも話が合うに違いない。

そんな風にたくさんの話をしながら海中を歩いていると、水深が3メートルほどの浅瀬になり、もうすぐラギロア島の浜辺というところまで来た。

人魚達も、そろそろここら辺で引き返さなくてはならない。

『ここまで来ればもう大丈夫ね』

『じゃ、私達はここで帰るわね』

『ライト君とたくさんお話できて、とても楽しかったわ!』

『またいつでも遊びに来てね』

『その時は、さっきあげた呼び笛を使って呼んでね。そしたら私達の誰かが必ず迎えに行くわ』

人魚達が口々にライトとの別れを惜しみ、一人づつ優しいハグでライトを包む。

今度はもみくちゃにされずに済んだライト。ライトもまた彼女達との別れを惜しむ。

「ここまで送ってくれて、本当にありがとうございました!最後に……お姉さん達のお名前を聞いてもいいですか?」

『まぁ!そういえば私達、まだ名乗ってすらいなかったわね!』

『ライト君のお姉さん呼びが嬉し過ぎて、自分の名前を名乗ることなんてすっかり忘れてたわぁ』

『やぁねぇ、お姉さん達ってばうっかりしててごめんね?』

次回来た時には是非とも個々に名前を呼びたいと思い、彼女達の名を尋ねたライト。

これだけの美女達だ、名無しのモブABCDEのままでお別れするのも寂しいというものである。

そしてライトに名を聞かれ、それまで誰一人として名乗ってすらいなかったことにようやく気づく人魚達。きゃらきゃらと自分達の失態を笑いながら、改めて一人づつ名乗っていく。

『私の名前はアリッサよ』

『私はボニー』

『キャサリン!』

『ディアナ!』

『エリーゼ!』

人魚A、B、C、D、Eがそれぞれに己の名を告げる。

皆名前の頭文字がモブ時のABCDEに合致しているのは偶然である。

「アリッサさん、ボニーさん、キャサリンさん、ディアナさん、エリーゼさん、今日はありがとうございました。さようなら、またお会いしましょうね!」

「人魚の姉ちゃん達、またな」

先程教えてもらった人魚達の名を、一人づつ全部言いながら頭を下げて別れるライト。その横でレオニスもまた、素っ気ない態度ではあるが別れの言葉を口にする。

そうして浜辺に上がっていくライト達の背中を、ずっと見送っていた人魚達。

ライト達の姿が見えなくなった後、人魚達も踵を返して海底神殿に戻っていく。

『はぁー……ホンット、可愛らしいオスの子だったわぁ』

『私達一人一人の名前を呼んでくれて、なんて優しい子なのかしら!』

『でもあの大きい方のオスも、愛想はないけどかなりの男前よねー』

『ああいう素っ気ないオスってのも、たまにはいいかも!』

『私、生きてるニンゲンのオスって今日初めて見たけど……なかなかに面白かったわね!』

『『『ねー♪』』』

帰り際、実に楽しげかつ際限なく女子トークを繰り広げる人魚達だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

再びラギロア島に戻り、浜辺に上陸したライト達。

服はおろか、髪の毛すら一滴も濡れていない。とても先程まで海の中にいたとは思えない二人である。

貴族エリアと平民エリアを分ける中央分離帯の林を、のんびりとした足取りで進んでいく。

「海の女王様も無事で良かったね!」

「ああ、本当にな。如何に廃都の魔城の四帝といえど、さすがに海中にまでは魔の手を伸ばすことはできんようだな」

「ぼく、海の中って初めて歩いたけど……綺麗な魚がたくさんいて、人魚のお姉さん達も綺麗な人ばかりですっごく楽しかった!」

「目覚めの湖とはまた違った風景だったな。女型の人魚達は喧しかったが……」

海の中での様々な出来事や感想を語り合うライトとレオニス。

周囲からは、ほんのりと良い匂いが漂ってくる。

時刻は正午少し手前、まさに昼食時。広大な別荘でバーベキューを楽しんでいる宿泊客も多いようだ。

「あー、なんか良いニオイがするー。……レオ兄ちゃん、お腹空いてきたねー」

「そうだな……島から出てウスワイヤの街に戻ったら、適当な店に入って昼飯食うか」

「そうしよう、ぼくもうお腹ぺこぺこー」

「……レオちゃーん!」

ライト達が昼食の相談をしていると、どこからかレオニスの名を呼ぶ声が聞こえてきた。

その可愛らしい声には、ものすごーく聞き覚えがある二人。

しかもレオニスのことを『レオちゃん』と呼ぶのは、人族の中ではこの世で唯一人。

呼び声のする方を見ると、そこにはライト達のいる方向に笑顔で駆け寄ってくるカイの姿があった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「カイさん、こんにちは!」

「よう、カイ姉。こんなところで奇遇だな」

「レオちゃん達こそ、珍しいところに来たのね!」

「今日は俺達は、ラギロア島沖にある海底神殿に行ってたんだ」

「海底神殿!? 二人とも、またすごいところにお出かけしてたのね……」

生成色のシンプルなフレアスカートのワンピースに、日焼け防止のための麦わら帽子。実に海辺の島らしい、ラフな姿で屈託なく笑うカイ。

いつものアイギスでの作業着姿とは全く違い、清楚系の私服に身を包んだカイの姿は何とも新鮮だ。

「マキシからも、カイ姉達がラギロア島にバカンスに出かけてるとは聞いていたが。まさか本当にここで会えるとは思わなんだよ」

「そうなのね。私達、このエリアに別荘を借りていてね。今日はとても天気が良くて気持ちが良いから、お庭でバーベキューでもしようかと思って外に出てみたの。そしたらちょうどレオちゃんの姿が見えたもんだから、急いで声をかけちゃったわ!」

これまた偶然ではあるが、カイ達が借りた別荘は中央分離帯の林沿いに面しているらしい。

平民エリア側を見回しても、三軒くらいしか別荘が見当たらない。そのうちの一番手前の一際大きい建物が、カイ達のいる別荘なのだろう。

「つーか、カイ姉、よくあんな遠いところからでも俺だって分かったな?」

「そりゃあ、ねぇ? その深紅のロングジャケットは、私達が作ったものですもの。遠目からだって、すぐにレオちゃんだって分かるわ」

「ぁー、これのせいか……」

なるべく人目につかぬよう林の中を歩いていたが、それでも全く見えないようにしていた訳ではないので、カイの目に留まってしまったようだ。

うふふ、と笑うカイに、照れ臭そうに後頭部を掻くレオニス。

今日は隠密行動にする必要もないし、海での行動故に不測の事態に備えて準備万全フル装備で来ていたレオニス。

ここでもやはり、深紅のロングジャケットは相当目立つらしい。

「ねぇ、レオちゃん達は今からまだどこかにお出かけするの?」

「いや、この後はどこかで適当に昼飯食って、冒険者ギルドのエンデアン支部に報告がてら立ち寄って、後はラグナロッツァに帰るばかりだ」

「そしたらちょうどいいわ、お昼は私達といっしょに食べない? レオちゃん達なら、セイやメイも絶対に歓迎してくれると思うわ」

ここでカイがライト達にその後の予定を聞き、特に何もないことを知ると昼食に誘ってきた。

ライト達もこの後に予定が詰まっている訳でもないし、またちょうど昼食時というタイミングの良さもある。気心の知れた相手同士だけに、昼食をともにしても特に問題もないだろう。

「じゃあ、カイ姉の厚意に甘えさせてもらうか」

「決まりね!早速私達の別荘に行きましょう!」

「おっとっと……カイ姉、そんな急がなくても」

林の外に出ると、明るい日差しとともに爽やかな潮風がライト達を包む。

片手で麦わら帽子を押さえながら、もう片方の手でレオニスの手を引っ張り別荘の方に連れていくカイ。

とても嬉しそうな笑顔は、その新鮮な私服姿とも相まって可憐な少女のようだ。

そしてカイに手を引っ張られるレオニスも、どことなく嬉しそうな顔をしている。

休日ならではの解放感に満ちた二人の姿を、ライトもまた嬉しそうに眺めながら二人の後をついていった。