軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第542話 二度目の里帰り

皆で鑑定祭り第一部を楽しんだ翌日。

黄金週間二日目のこの日は、マキシとともに八咫烏の里に出かける予定である。

この日はいつもより早めに朝のルーティンワークを終え、いそいそと出かける支度をするライト。もちろんレオニスも周辺の警邏をササッと終えて、出かける気満々である。

二人してラグナロッツァの屋敷に移動し、ラウルやマキシと合流する。今日は八咫烏の里への移動にウィカに協力してもらうため、既にウィカも呼び寄せてある。

四人とウィカ、フォルで朝食を食べつつ、ライト達は今日一日の動きの打ち合わせをしている。

「八咫烏の里には何時頃に行く?」

「昼飯をどうするかにもよるな」

「せっかくだから早めに行って、シアちゃんのところでお昼ご飯食べながらシアちゃんともゆっくりお話する?」

「それもいいな」

今回のマキシの里帰りは、マキシが家族の顔を見に帰るだけでなく、大神樹ユグドラシアに会うという目的もある。

ユグドラシアに直接会う機会など滅多にないので、できればゆっくりと話もして親交を深めたいところだ。

八咫烏の里に泊まるとしてもおそらく一泊だろうし、ならば里帰り初日も早めに到着しても良さそうではある。

そしてお昼ご飯という言葉が出たせいか、マキシがラウルに向かってお願いをした。

「ねぇ、ラウル。もし良ければ、僕の家族にも料理を出してくれる? 前回行った時に、皆ラウルのご馳走をとても気に入ってくれてたみたいだから」

「おう、いいぞ。前回ちゃんと家族と仲直りできてたもんな」

「ありがとう!」

お願いを快く受け入れてくれたラウルに、マキシがパッ!と明るい笑顔になりながら礼を言う。

「巌流滝から八咫烏の里までは、歩いてどれくらいかかるんだっけ?」

「前回のマキシ君の里帰りの時に、翼竜籠で巌流滝に運んでもらったけど。その時はのんびり歩いて一時間弱ってところだったかなー」

「そしたらここを十時くらいに出れば、昼の少し前に到着できるな」

「うん、それくらいがいいと思うなー」

「じゃ、皆十時に風呂場に集合なー」

「「はーい」」「おう」

ウィカに水場を介して巌流滝に連れていってもらうため、集合場所は風呂場である。

十時までは各々出かける支度などしてのんびり過ごす。

レオニスはライトの指導のもと、ユグドラシアへの手土産としてブレンド水を調合したり、ラウルは料理を追加で作ったり、マキシは家族への土産など忘れ物がないかをチェックしている。

そして時刻は午前十時少し前になり、全員風呂場に集合した。

フォルを肩に乗せたライトを先頭に、レオニス、マキシ、ラウルと全員で手を繋ぐ。

浴槽に張った水の上にちょこなんと座るウィカに、ライトが声をかける。

「ウィカ、巌流滝までよろしくね」

「うなぁーん♪」

ウィカがライトに向けて手を伸ばし、ライトがウィカの手をしっかりと握る。

すると、ウィカの身体が瞬時に水に沈み、手を握ったライト達も水の中にするっと吸い込まれていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

一瞬にして、ラグナロッツァの屋敷から巌流滝に辿り着いたライト達。

ウィカの水中移動を久々に経験した皆が一様に感動している。

「俺、初めてウィカで水中移動したが、何アレすげーな!」

「全くだ。ウィカの水中移動は何度経験しても驚きだよな!」

「本当ですよね!ウィカちゃん、ありがとう!」

「ウィカ、後でラウルから美味しいご褒美もらおうね」

「うにゃーん♪」

八咫烏の里に向かう道中、皆から褒めそやされてご機嫌のウィカ。今日はレオニスの頭の天辺に乗っかっている。

四人の中で一番背の高いレオニス、その頭の上からの眺めはさぞかし良かろう。

そうしてのんびりと歩くうちに、八咫烏の里の結界を過ぎた。

それは属性の女王達が防衛のために張る結界よりも、若干弱めに感じるライト。

各種称号のおかげでライトの能力値がかなり底上げされたせいか、最近はそうした目に見えない異変も感じ取れるようになってきた。

「八咫烏の結界を通り過ぎたね」

「ああ、そのようだな」

「ライト君、レオニスさん、今から里の治安部隊がすっ飛んでくると思いますが……もしこちらの話を聞かないようであれば、適当にあしらってやってください」

「ン? 俺があしらうって、そんなことしていいのか?」

「もちろん向こう側に話を聞く耳があれば、その時は穏便にお願いします」

「了解」

そんな話をしているうちに、早速奥から数羽の八咫烏が飛んできた。

「貴様ら、何者だ!ここを八咫烏の縄張りと知っての侵入か!」

「今すぐ立ち去れ!さもなくば命はないぞ!」

「我等が十数えるうちに、今来た道を戻れ!」

鋭い眼光を放ち、里の領域内に入ってきた侵入者を排除すべく威嚇する衛兵達。

里を守る治安部隊だから仕方がないとはいえ、それでも話し合いを試みる姿勢が端から感じられないのはいただけない。

相変わらず居丈高な八咫烏の治安部隊の衛兵に、ライトもマキシも乾いた笑みしか浮かばない。

「……あー、何か前回と変わり映えしてないね……」

「どうやらそのようですね……」

「これ、多分マキシ君が人化の術を解いてもまたダメなやつかな?」

「おそらくは……でも一応やってみますね」

ライトとマキシがゴニョゴニョと話し合った後、マキシが人化の術を解いて前に出た。

「僕はマキシです。八咫烏一族の族長ウルスとアラエルの四番目の息子、マキシです」

「父様や母様、兄様や姉様、妹、そして大神樹ユグドラシア様に会いにきました。ここを通してください」

マキシの姿を見た衛兵達が明らかに怯む。

「マキシ、だと? ……これ、一度戻ってケリオン様に報告した方がいいやつじゃね?」

「しかし……マキシはともかく、他に胡散臭い人族を三人も連れてきてるぞ?」

「そうだよな、邪悪な人族を三人も通す訳にはいかんよな?」

「ケリオン様だけでなく、トリス様やレイヴン様にも増援を頼むべきでは?」

ずっとゴニョゴニョと相談していた衛兵達。どうやら案がまとまったようだ。

ライト達の方に向き直ったかと思うと、威嚇するような大声を放つ。

「貴様ら!ここでしばし待て!」

「いいか!そこを一歩も動くなよ!」

あー、まぁね、問答無用で襲いかかってこないだけマシか……とライトが思ったのも束の間。その直後にライトの左右からものすごい殺気が放たれた。

ゾワッ!とした悪寒とともに、全身の肌が瞬時に粟立ち背筋が凍ったライト。慌てて右を見るとレオニスが、左を見るとラウルが、それぞれ鬼の形相でとんでもない威圧を発しているではないか。

その強烈な威圧をまともに受けた八咫烏の衛兵達。「ピョエッ」という短くも小さな悲鳴を上げて全羽卒倒してしまった。

「ったく……族長の息子の帰還だってのに、とんでもねー出迎えの仕方だな」

「ここの奴等は昔からそうだ。マキシの魔力が戻ったからといって、早々に性根が変わるもんでもない」

「だな。マキシ、さっき言われた通りに適当にあしらっておいたが……こいつらはこのままここに放置でいいか?」

「ええ、構いません。また後で兄様や姉様達に扱かれると思いますので」

「じゃ、先に進むか」

全く役立たずの衛兵達を放置して、ライト達一行は八咫烏の里の奥深くを目指して再び歩いていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

大神樹ユグドラシアの勇姿がだいぶ近くに見えてきた頃。

一行の先頭を歩いていたマキシ目がけて、前方から何かがものすごい勢いで突進してくる。

それはマキシの双子の妹のミサキであった。

「マキシ兄ちゃん!おかえりーーー!」

「グハッ!……た、ただいま、ミサキ」

ドスン!という音が発生し、ほぼタックルと変わらないそれをしっかりと抱きとめたマキシ。一瞬だけ蹌踉めくも、兄としての矜持か押し倒されることなく何とか踏ん張り堪える。

そして兄の帰還の喜びを全身全霊で表すように、全力で抱きついてきたミサキの頭をそっと撫でる。

「ラウルちゃんもライトちゃんもようこそ!お久しぶりね!」

「ミサキちゃん、こんにちは!」

「ミサキちゃんも元気そうで何よりだ」

「うん、私はいつだって元気よ!……って、こちらのお兄さんはどなた?」

ライト達以外にも見慣れない顔が一人含まれていることに、ミサキが不思議そうな顔で尋ねる。

きょとんとした顔のミサキに向かって、レオニスは微笑みながら自己紹介をする。

「俺はレオニス。マキシやラウルが住む家の家主だ。今日はマキシが家族の顔を見に里帰りすると聞いて、是非とも八咫烏族長一族の皆や大神樹ユグドラシアに挨拶したく罷り越した次第だ」

「ということは、マキシ兄ちゃんが人里でお世話になってる恩人さんってことね!」

「まぁ一応そういうことになるかな」

レオニスの自己紹介を受けたミサキは、明るい顔でレオニスを見つめる。

ミサキの言葉を補完するように、マキシがミサキに話しかける。

「ミサキ、レオニスさんは僕の恩人なんてものじゃないよ。大恩人と言っても足りないくらいに、本当にお世話になってるんだ」

「そうなのね!レオニスちゃん、いつもマキシ兄ちゃんを助けてくれて本当にありがとう!」

双子の兄の恩人となれば、ミサキにとっても恩人である。

ミサキがレオニスに向かい、ペコリと頭を下げて恭しくお辞儀をする。何とも愛らしいその姿に、思わずレオニスの顔も緩む。

名前の呼び方ものっけから『レオニスちゃん』だが、レオニスとしては一向に気にならない。

ミサキはマキシの双子の妹。ということは、ミサキも御歳120歳である。

自分の五倍近い年月を生きている八咫烏ならば、例えそれが子供であろうともちゃん付け呼びに不服を申し立てる方が不遜というものである。

お辞儀の姿勢からパッ、と頭を上げたミサキは、その両翼の羽でレオニスの手を包み込む。

「レオニスちゃん、早速ユグちゃんに会いに行きましょ!ユグちゃんも皆が来るのを、それはもう枝を長ーくして待ってるわ!」

「お、おう、ミサキちゃん、案内よろしく頼むな」

「任せて!」

人間なら待ち侘びることを『首を長くして待つ』というが、樹木の場合は『枝を長くして待つ』ということになるらしい。

ただでさえ巨大な大神樹が、それ以上枝を長くして大丈夫なのか。いや、これはあくまで諺的な例えなのだから問題ないか。

ミサキに手を引かれながら奥に進むレオニスに、他の三人も微笑ましく見守りながらのんびりとその後ろをついていった。