軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第543話 ユグドラシアとの約束

「ユグちゃーん!皆を連れてきたよー!」

『ミサキ、ご苦労さまです』

ミサキの案内で、ユグドラシアの前に連れてきてもらったライト達。

長い悠久の時を生きてきた大神樹。その雄大な姿はいつ見ても圧巻で神々しい。

ユグドラシアに初めて会うレオニスはもちろんのこと、二度目の対面であるライトやラウルでさえも未だに息を呑む。

レオニスははるか上を見上げながら、ただただ感嘆する。

「おおお……これが大神樹ユグドラシアか……」

『シアちゃん』

「うぐッ」

大神樹と会えた感動に浸る間もなく、その呼び方に速攻でダメ出しされるレオニス。

ユグドラシアは、相変わらず何が何でも『シアちゃん』と呼ばれたいらしい。

『カタポレンの森の番人レオニス、ようこそいらっしゃいました。貴方の噂はかねがね聞いておりますよ』

「大神樹の耳にまで俺の噂が届くとは、光栄の極みだ」

『常にカタポレンの森の治安を担い、森の平和に尽力する姿勢は称賛に値します。かつてマキシを救ってくれたライトに授けたように―――レオニス、その功績を称え貴方にも私の加護を授けましょう』

「ありがとう。大神樹から加護を直々に頂けるなんて、身に余る光栄だ」

レオニスの身の回りに、ふわっとした温かい風がそよぐ。

その風こそ、大神樹ユグドラシアが与える【大神樹の恩寵】である。

温かい風はレオニスを優しく包み込み、レオニスの身体に吸い込まれるようにゆっくりと収まっていく。

風が完全に止んだ頃には、レオニスはその身の内に大きな力が湧き起こるような感覚を覚えていた。

「おお……これが【大神樹の恩寵】の加護か……ものすごい力が湧いてくるのを感じる」

「やったね!これで皆シアちゃんからの加護を全員お揃いでもらえたね!」

「ああ。大神樹の加護に恥じぬよう、これからもカタポレンの森の安全を守っていかなきゃな」

『頼みましたよ』

「ああ、任せとけ」

新たな力を得たレオニスは、ユグドラシアの期待を込めた声に応えるように力強く頷いたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「じゃあ私は父様や母様達を呼んでくるから、皆はここでユグちゃんとお話をしながら待っててね!」

「分かったよ。よろしくね」

「うん!」

ミサキはそう言うと、ユグドラシアの上に向かって飛んでいった。

その後はミサキの言う通りにユグドラシアと会話しながら待つライト達。

ユグドラシアとレオニスが穏やかな会話を交わす中で、ユグドラシアがユグドラツィのことに触れる。

『それにしても―――我が弟妹のツィも、余程貴方方のことが気に入っているのですね。貴方方全員に、己の分体を入れた装飾品を持たせるとは……』

「ああ、このアクセのことか?」

ライト達がそれぞれ身に着けている、ユグドラツィの分体入りアクセサリーの存在に早速気付いたようだ。

さすが大神樹、弟妹の気配を敏感に感じ取っている。

「これはツィちゃんから枝を分けてもらって、皆が身に着けられるアクセサリーを作ったんだ。動けないツィちゃんの代わりに、俺達が世界中のいろんな景色を見せてあげるって約束したんでな。ちなみに俺のはこのカフスボタンな」

「ぼくはこのタイピンです!」

「俺はこのバングルだ」

「僕もラウルとお揃いで、サイズ違いのバングルです!」

ライト達はユグドラシアによく見えるように、それぞれ身に着けている分体入りアクセサリーを指差したり手を上に上げる。

『何と……ツィはそんな素敵な約束をしてもらったのですか。ツィは果報者ですねぇ』

「ちなみに他にもまだツィちゃんの枝で作ったアクセがあってな。良かったらシアちゃんにあげようか?」

『……いいのですか?』

「そのアクセにツィちゃんの分体は入れていないが……いや、そしたらこのペンダントにもツィちゃんの分体を入れてもらうこともできるか」

そう言うと、レオニスは空間魔法陣からペンダントを取り出した。

そのペンダントには、木製の雫型のシンプルなモチーフがついている。そのモチーフがユグドラツィの枝で作られていることは、言うまでもない。

「そしたら近いうちに、このペンダントにもツィちゃんの分体を入れてもらってからまた届けるとしよう」

「だったらその時までに、シアちゃんの枝でアクセを作ってもらうのはどうだ? そうすれば、次にここに来た時にシアちゃんの分体を入れてもらえるだろ」

「お、それいいな。シアちゃんとツィちゃんの分体をそれぞれ交換できるな」

レオニスの案に、ラウルが更なる提案をする。

せっかくなら分体入りのアクセをあげたほうが、神樹同士の会話も可能になるだろう。

そのためにまた八咫烏の里を訪ねる必要があるが、大事な友のためならばライト達はその手間を惜しみ厭うことなどない。

とんとん拍子で進んでいく話に、ユグドラシアがぽつりと呟く。

『……ツィの枝で作った装飾品をもらえるとは、夢にも思いませんでした……』

「このくらい何てことないさ。ツィちゃんにもシアちゃんにも祝福や加護をもらったしな。その礼と言うにはまだまだ足りないがな」

『そんなことはありません。貴方方の心遣い、とても嬉しく思います』

ユグドラシアが感謝の言葉を述べる。

するとここで、レオニスがふと思いついたように新たな提案を話し始めた。

「そうだ、何ならシアちゃんの枝を一本だけでももらえれば、アクセを作ってツィちゃんにも同じく届けるぞ?」

「そうだね!シアちゃんの枝で作ったアクセをツィちゃんにプレゼントできたら、きっとツィちゃんもすっごく喜んでくれるよ!」

「それいいな。ツィちゃんの喜ぶ姿が目に浮かぶようだ」

レオニスの案に、ライト達も大賛成する。

他の神樹達に会いたい、会って話がしたい―――そう願っていたユグドラツィの願いが半分だけでも叶うかもしれないのだ。

あの可愛らしくも孤独な神樹に、少しでも明るい希望を与えてあげたい。ユグドラツィを知る皆が皆そう思っていた。

そしてそれはユグドラツィだけでなく、ユグドラシアもまた内に秘めた願いでもある。

大地から一歩も動くことが能わぬのは、何もユグドラツィばかりではない。大神樹ユグドラシアもまた樹木であり、ユグドラツィと同じ宿命を背負っているのだから。

ライト達の話を聞いていたユグドラシアは、しばしの沈黙の後再びライト達に語りかけた。

『それは……願ってもないことです。私も他の神樹、兄弟姉妹達をより身近に感じたい。この里の外に広がる、大いなる世界を見てみたい。私の枝を……ツィに届けてもらえますか?』

「もちろん。ツィちゃんもシアちゃんも、俺達の大事な友達だ」

「そうですよ!それにぼく達、これから世界中を旅していつかは六本全ての神樹に会いに行きたいんです!その時は、ツィちゃんやシアちゃんのアクセサリーを他の神樹全員に届けますからね!」

『ありがとう……本当にありがとう……』

ユグドラシアの声が、僅かながら震えている。

それは、思いがけず願いが叶うことへの歓喜の感情が溢れ出しているようだ。

これまでユグドラシアは、ユグドラツィと同じく外の世界を見たことがなかった。八咫烏もまた閉鎖的な種族で、里の外に出る者などほとんどいなかったからだ。

ユグドラシアが知る外の世界と言えば、時たま天辺の枝に留まる精霊達との会話や周辺の木々から伝わってくる噂話くらいだ。

そんなユグドラシアが、さらに広い世界を見ることができるようになる。

それは悠久の時を生きてきた大神樹ですら、初めて味わう希望に満ちた話だった。

『この歳になるまで、こんなにも喜びを感じることはありませんでした。人族との出会いがもたらしたこの奇跡に感謝します』

「そんなに喜んでもらえるなら、シアちゃんにも世界中の景色を見せてやらんとな!」

「そうだね!」

「俺も協力するぞ」

「もちろん僕だってシアちゃんの力になりたいです!」

『皆、本当に……本当にありがとう』

ライト達四人と大神樹ユグドラシアの絆がより深まった瞬間だった。