作品タイトル不明
第541話 鑑競祭り 第一部
『……いち♪じゅう♪ひゃく♪……』
『……300Gですッ!』
『えーッ!そんなぁぁぁぁッ!』
祖父が若かりし頃、約五十年ほど前に旅の行商人から購入したという『ドラゴタイラントの爪』なるお宝を出品した人が膝から崩れ落ちる。どうやらそのお宝は『価値なし』と判断されたようだ。
会場の観客席からは「ああー、残念ー」「あんま気を落とすなよー!」などの掛け声が上がる。
『では、審査委員長のマスターパレンさん、解説をお願いします!』
『残念ながらこれは『ドラゴタイラントの爪』ではありませんな。私も何度かドラゴタイラントと戦って討伐したことがありますが、爪の形や色が全く違う。でもまぁ本物ではなくとも、このくらいの重さがあれば漬物石くらいには使えましょう』
『分かりました……明日から漬物石として活用することにします……』
『ありがとうございました!では次の方、どうぞ!』
こんな感じで、様々なお宝が披露されていく。
中には高額鑑定もあり、評価額が五桁を超える度に観客席から大きな歓声が沸く。
後方で見ているライト達も、舞台で繰り広げられる鑑定祭りを楽しそうに観ていた。
「パレンさん、 あの(・・) ドラゴタイラントを討伐したことがあるなんて、さすがだね!」
「おう、マスターパレンもああ見えてかつては超一流の冒険者だったからな。マスターパレンなら、ドラゴタイラント相手にだって引けは取らん」
「ドラゴタイラントって、シュマルリ山脈に住むドラゴンの一種だよな? ぉぃぉぃ、あれを倒せるって……本当に人族か?」
「冒険者ギルドのマスターともなれば、ものすごい実力をお持ちなんですねぇ……」
舞台上でお宝の解説をするパレンに、ライト達は様々な反応を示す。
ライトは純粋にパレンの討伐実績を称え、レオニスもそれを肯定する。ラウルは信じられないといった顔つきで、マキシはただただ感嘆する。
この中で最も失敬なのは、間違いなくラウルである。
だが、ラウルが俄には信じ難い気持ちになるのもある意味当然ではある。
人の身でありながら、ドラゴタイラントに挑み勝利する。そのことが如何に無謀かつ偉業であるか。
ドラゴタイラントを知っている者ならば、誰もが驚愕するであろう。
ドラゴタイラントとは、ラウルが言った通りシュマルリ山脈に住むドラゴンの一種だ。
見た目は典型的なティラノサウルスで、明るい茶色の鱗に全身覆われている。もちろん爪も牙もとても鋭く、噛まれたり引っ掻かれたりしたら常人ではひとたまりもない威力だ。
ドラゴンという種族の中では比較的小柄な方だが、凶暴性が高く出会い頭に問答無用で襲いかかってくることで知られている。
そして方向音痴で道に迷うのか、たまに住処のシュマルリ山脈から麓まで出てきてしまうことがある。そうした時には、発見され次第冒険者ギルドで緊急討伐事案となり、近隣の街にいる冒険者達が総出で討伐に向かう。
そんな凶暴なドラゴンが人里にまで入ってきたら、間違いなくとんでもない事態になるからだ。
かつてパレンがこのドラゴタイラントを討伐したというのは、そうした事例に対応してきたが故の実体験である。
『次のお宝は……これは何でしょう? 何かの角、ですか?』
『はい!これは、ガンヅェラの角です!』
『ガンヅェラって、あのガンヅェラですか!?』
『そうです!あのガンヅェラです!!』
舞台上で、何やら謎の会話が繰り広げられる。
披露されたお宝は、とても大きな角のようなものだ。その長さは3メートルか4メートルはあるだろうか。
まるで電柱のようなその巨大な角の前で、進行役が出場者にお宝の由来などを尋ねている。
「おおー、今度はガンヅェラの角か。ぱっと見た感じでは本物っぽいが……もし本物なら、すげーお宝だなぁ」
「ご主人様よ、ガンヅェラってのは何だ? あの巨大なのが角だとすると、ものすげー馬鹿デカい魔物か何かか?」
「おう、ガンヅェラってのは別名『禍龍』とも呼ばれる巨大な魔物だ。亀に似たような姿が特徴の、すんげー硬ぇヤツでな―――」
ラウルの質問にレオニスが答える中、ライトは呆気にとられながら舞台の方を見ていた。
『えー、ガンヅェラって……レイドボス御三家のアレ!?』
『ドラゴタイラントに続いて、ガンヅェラの名までここで聞くとは……』
『つーか、竜に亀か……懐かしいなぁ』
そう、ライトはガンヅェラとドラゴタイラントを知っていた。
それらはBCO初期からいるレイドボスの名だったからだ。
ユーザー達は、それらに港湾都市のディープシーサーペントを加えて『レイドボス御三家』と呼んでいた。
ランクで言えば、低い方から順に『ドラゴタイラント<ディープシーサーペント<ガンヅェラ』となる。
ちなみにドラゴタイラントは『竜』、ディープシーサーペントは『蛇』、ガンヅェラは『亀』とも称されていた。
三種とも全てドラゴンであり、『暴竜』、『蛇龍』、『禍龍』という和名のような別名もある。
『では、鑑定の方よろしくお願いいたします!』
進行役がお宝の載ったワゴンを、助手数人とともに押して審査員席前に運んでいく。
その見た目に違わず、数人がかりでワゴンを押さなければ運べない重さのようだ。
特級鑑定士のクレアだけでなく、審査委員長のパレンや副審査委員長のピースまでもが興味津々といった様子でお宝を囲む。
皆で牙の表面を撫でたり、持ち上げようとしている。ピースは持ち上げられなかったが、クレアは半分くらい持ち上げて、パレンに至ってはヒョイ、と軽々持ち上げている。
一頻りお宝を見た審査員達が席に戻り、審査員だけで何やらゴニョゴニョと相談している。評価額の論議中であろうか。
しばらくの議論の後、パレンからメモを渡された進行役が己の立ち位置にある司会者台に戻り何かを入力する。
『只今の『ガンヅェラの角』は、このような評価となりました!』
スクリーンの長方形の中に、一の位から数字が出てくる。
その数字に合わせて、位のカウントの声が流れる。
『……いち♪じゅう♪ひゃく♪せん♪まん♪じゅうまん♪……』
『何と!50万Gが出ましたーーーッ!!』
かなりの高額評価額に、進行役だけでなく観客席も興奮の 坩堝(るつぼ) と化す。
50万Gといえば、日本円に換算して500万円。間違いなく本物のお宝である。
『では、解説をお願いいたします!』
『あー、これは小生が説明しようね。この色艶、手触り、重さ、間違いなくガンヅェラの角だね!しかもこれだけ大きくてとても状態が良いのは滅多にお目にかかれない、これなら魔導具の材料としても最適かつ最高級の品質だよ!』
『やったー!ありがとうございます!』
『おおー、魔術師ギルドマスターのピース氏のお墨付きとは!これはすごいお宝ですね!これからも大事になさってくださいね!』
『はい、家宝にします!』
ピースがお宝の解説をし、その品質を大絶賛する。
お宝を出した出場者は、そりゃもう飛び上がらんばかりの大喜びである。
あの大きな角を一体どこに仕舞っておくのか謎だが、今までもどこかに保管してたんだから大丈夫だろう。
事前に決定していた出場者分が全て鑑定完了し、今度は飛び入り参加を募るコーナーに以降する。
進行役が観客席に向かって、明るい声で語りかける。
『これより飛び入り参加の受付を開始します!さぁ、どなたかご自慢のお宝を披露してみませんかー!……はい、そこのお父さん!お宝を持ってステージにお越しください!』
進行役が飛び入り参加の募集をした途端、何人もの人が身を乗り出して手を上げる。
ライトは内心で「飛び入り参加なんて、そんなにたくさんいるもんなの?」と思っていたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
「へー、飛び入り参加する人も結構いるんだねー」
「せっかくの祭りだからなー。参加した方が楽しいと思う人は多いし、ここで見てもらえれば鑑定料もかからんからな。鑑定してほしい物がある人にとっては、お得で絶好の機会なんだよ」
「そうなんだねー。ぼくもいつか何か良い物拾ったら、この鑑定祭りで飛び入り参加で出てみようかな!」
「「「え"」」」
いつか鑑定の飛び入り参加したい!と言ったライトに、他の三人が一斉にライトをジト目で見つつ謎の声を上げた。
三人が三人ともライトに視線を向ける中、ライトは不思議そうな顔つきで尋ねる。
「え、ナニ? 何か問題でもあんの?」
「そりゃお前、問題しかないだろう……お前の拾ってくるもんって、大概普通の代物じゃねぇし」
「何それしどい」
「俺もご主人様の意見に賛成だぞ。悪いことは言わん、飛び入り参加だけはやめとけ」
「ラウルまでしどい」
「ライト君、僕もそう思います……ライト君の身の安全のためにも、飛び入り参加しない方がいいかと」
「マキシ君までしどい」
レオニス達に、全力で飛び入り参加を止められるライト。
本人としては実に不本意かつ納得できないが、これまでのライトの行いを思えばレオニス達の言い分は至極真っ当である。
「とりあえずだな。もし万が一鑑定祭りで飛び入り参加したければ、出したいお宝を事前に俺達に見せろよ?」
「そうだぞ。こんな公衆の門前でいきなり【神の恩寵】なんぞ出してみろ、それこそ大パニックもんだからな?」
「そうですよ。まず先にレオニスさんに見てもらって、OKが出てからにしましょう、ね?」
「ぐぬぬぬぬ……」
三人のド正論に、ライトはぐうの音も出ない。
悔しがるライトを宥めるように、三人が声をかける。
「ま、人前に出しても大丈夫そうなもんなら飛び入り参加してもいいさ!」
「そうそう、そん時ゃ俺やマキシも何か持ち込んで、ライトといっしょに飛び入り参加してやるからな!」
「ええ、僕もライト君といっしょに飛び入り参加したいです!何か普通のお宝を見つけましょうね!」
普通のお宝って何なんだよ、普通じゃないからお宝って言うんじゃん!とライトはふくれっ面になる。
しかし、よくよく考えたらお宝持参の飛び入り参加であまり目立ち過ぎても困るか、と思い直すライト。
基本平和なスローライフを送りたいライトにとって、目立つことは極力控えねばならないのだ。
「じゃあ、いつか皆で普通のお宝を持ち込んで飛び入り参加しようね!」
「おう、そうしようそうしよう」
機嫌が直ったライトを見て、レオニス達も安堵する。
その後はまた飛び入り参加のお宝鑑定の様子を皆で楽しみ、初めての鑑定祭りを存分に楽しんだ四人だった。