軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第489話 掛け替えのない希望

ライトがその場で思いついた要望で、火の女王からたくさんの【火の乙女の雫】をもらうことができた。

火の女王から【火の乙女の雫】を受け取ったライトは、半分よりかなり多めをレオニスに渡す。

死霊兵団の骸を浄化させた呪符を仕入れてきたのは、他ならぬレオニスである。その功績はレオニスにあり、火の女王からもらった報酬も多めに受け取るべきだ、とライトは考えたからだ。

ただし『骸の浄化に呪符を使う』という、レオニスが全く思いついていなかったアイディアをこの場で出したのはライトである。

だから俺も【火の乙女の雫】をもらってもいいよね? それに、火の女王様に雫をおねだりしたのも俺だもんね!とライトは内心思いながら、レオニスに7、自分に3の割合で【火の乙女の雫】を分配した。

ライト達が【火の乙女の雫】をそれぞれ大事に仕舞っていると、火の女王が二人に向けて話しかける。

『では先程約束した通り、其方らに授ける勲章を出さねばな』

火の女王はそういうと、他の女王達と同じように手のひらの上で火の勲章を作り上げた。

形は炎の女王と同じ火を模っていて、青白い色をしている。

炎の女王の勲章は紅蓮色なので、ここでも火の温度の違いが見分ける目安となっていた。

『其方らは、火の女王たるこの妾が認めし者。その証を受け取るがよい』

「ありがとうございます!」

「ありがたく頂戴する」

ライト達は口々に礼を言いつつ、火の女王から火の勲章を受け取った。

こちらもまたすぐに空間魔法陣やアイテムリュックに各々仕舞い込む。

「火の女王の安否も確認できたことだし。俺達はそろそろ帰るか」

「うん!火の女王様がご無事で、本当に良かったです!」

『妾の方も、此度は其方らの世話になった。ありがとう。この先また他の女王達に会った際には、妾は元気であることを皆に伝えておくれ。他の女王達のことも、くれぐれもよろしく頼む』

「もちろんです!」

レオニスの帰宅宣言にライトも頷きつつ、火の女王の無事を我が事のように喜ぶ。

死霊兵団の残骸の後始末という思わぬ重労働も発生したが、火の女王の願いを叶えることができ、その結果こうして火の女王に礼を言われるくらい親睦を深められたのは良いことだ。

ここで火の女王がライト達に話しかける。

『時に人の子らよ。其方らの名を今一度教えてはくれぬか?』

「俺の名はレオニス」

「ぼくはライトです!」

『レオニスにライト。再び其方らと会える日を心待ちにしている』

「はい!」「おう」

ライト達に改めてその名を問うた火の女王。

その問いにライトとレオニスは快く応じ、改めてそれぞれ名乗る。

二人の名前をきちんと覚えておこう、と思われる程度には火の女王に気に入られたのだろう。非常に光栄なことである。

火の女王に見送られながら、ライトとレオニスはエリトナ山を後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

エリトナ山から立ち去り、シュマルリ山脈の山々をいくつも越えて下山し、ようやく平地にまで下りたライトとレオニス。

二人が平地に戻る頃には、既に昼の二時を回ろうとしていた。

「とりあえず昼飯食うか」

「そうだね、ぼくお腹空いちゃった」

険しい山中では休憩できるところなどないので、下山まで一気に移動したライト達。

ゲブラーの街に戻る前に空きっ腹を満たすため、遅めの昼食を摂ることにした。

「ここからゲブラーの街までは、走って三時間くらいかかるから……街につくのは夕方だねー」

「そうだな、それくらいの時間になるだろうな」

「はぁー、エリトナ山がもうちょっと近くにあるといいのにねぇ」

「まぁなぁ、こればっかりはどうしようもないがな」

手軽に食べられるサンドイッチやカスタードクリームパイを頬張りながら、ライトとレオニスはのんびりと会話する。

『火の女王の安否を確認する』という目的を達成し、険しいエリトナ山やシュマルリ山脈から離れたことで、ライトもレオニスもすっかり気が抜けてリラックスしているようだ。

するとここで、ライトがふと何かを思いついたようで、レオニスに質問した。

「あー、そうだ。水場があれば、ウィカを呼んでまた次にそこに来ることもできるよね。レオ兄ちゃん、ここら辺にウィカを呼べるような水場はない?」

「水場か?……うーーーん、シュマルリ山脈の中に小さな池だか湖はあったような気がするが……そこからエリトナ山が近いかどうかは分からん。家に帰ったら地図見てみるわ」

「そっかぁ。そしたらどの道今日はウィカは呼べなさそうだね」

レオニスに水場の在り処を聞いてみるも、レオニスにもすぐには思いつかないようだ。

レオニスの冒険者としての知識はかなり広く優秀ではあるが、ゲブラーの街やシュマルリ山脈は普段からよく来る場所ではないので、地理的にあまり知らないのも致し方ない。

昼食を摂り終えた二人は立ち上がり、最後の仕上げとしてレオニスはエクスポーションを、ライトはハイポーションをグイッと一気飲みする。

足を開き左手を腰に当てながら、右手に持つ瓶の中身を天を仰ぐようにグビグビと飲み干していく人外ブラザーズ。

飲み干した後、二人して同時にぷはーッ!と一息つくその様は、まるで風呂上がりの風景そのものである。

「さ、じゃあゲブラーの街までひとっ走りするか」

「うん!」

それぞれに空き瓶を収納したライトとレオニスは、ゲブラーの街を目指して勢いよく駆け出した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「レオニスさんにライト君!おかえりなさい!」

ゲブラーの街の冒険者ギルドに到着したライトとレオニス。

二人の顔を見たクレンが、それはもう大喜びで出迎える。

冒険者ギルドの窓口に欠かせない、お馴染みのラベンダー色を見たライトやレオニスもまたその顔に安堵の色が浮かぶ。

「エリトナ山での目的は達成できましたか?」

「ああ。おかげさまで俺達の目的は無事達成できた」

「それは良かったですぅ!それにしても、昨日出かけたばかりなのにもうお帰りになられるなんて。さすがレオニスさん、金剛級冒険者の実力はすごいですねぇ」

「ン、まぁな」

クレンがニコニコしながらレオニスを褒め称え、ちょっとだけ照れ臭そうにするレオニス。普段褒められ慣れてない故の照れ臭さか。

そしてこのクレン、実はクレア十二姉妹の中で唯一レオニスを寝言吐き呼ばわりしない受付嬢である。

その顔にはいつも穏やかな笑顔を浮かべていて、滅多なことでは不機嫌な顔や荒ぶる姿などを表に出さない。

他の十二姉妹も立派な淑女で優秀有能だが、クレンはそれらに加えて心の優しさ、気立ての良さが十二姉妹随一なのだ。

「あ、そうだ、エリトナ山での出来事を一応報告したいんだが」

「何か分かったことがあるんですか?」

「クレンが言っていた、時折見える大量の煙な。その原因が分かった」

「本当ですか!?」

レオニスの話に、クレンがびっくりした顔で聞き返す。

確かにレオニス達が出かける前に、できれば様子を見てきてくれ、とは頼んだクレンだったが。まさか本当にその原因を究明してくれるとまでは思っていなかったようだ。

「ああ。ついてはそれに関して報告しておきたいんだが、ここじゃ何だから奥で話したい」

「そうですね、窓口で聞いていい話ではありませんね。では奥の事務室の方でお伺いしましょう」

クレンが窓口の席を立ち上がり、レオニスはライトに向かって話しかける。

「ライト、俺はエリトナ山でのことを報告してくるから、お前はここで待っててくれるか?」

「うん。そしたらぼくは、売店や依頼掲示板を見ながらレオ兄ちゃんが戻ってくるのを待ってるね!」

「ああ、そうしてくれ。何かいい土産があったら、皆の分も買っといてやってくれ」

「はーい!」

レオニスはそう言うと、深紅のロングジャケットの内側から小銭入れを取り出してライトに金貨一枚を渡した。

思わぬところで土産用資金を得たライトは、元気な返事をした後ご機嫌な様子で早速売店の方に向かって駆け出していく。

微笑みながらその背を見送ったレオニスは、クレンとともに事務室に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

レオニスが事務室での報告を終え、クレンとともに広間に戻ってきた。

いつもならここで「レオ兄ちゃん!おかえりー!」とか言いながら、ライトがレオニスのもとに駆け寄ってくるところなのだが。どういう訳か、ライトの姿が見当たらない。

まだ土産選びで悩んでいるのか?と思いつつ売店を覗くが、そこにライトの姿はない。

ならば依頼掲示板を熱心に見ているのか?と依頼掲示板に移動するも、ここでもライトは見つからない。

はて、ライトのやつ、どこに行ったんだ? トイレか? ここで待っているように言ったのに……と、レオニスがぶつぶつと呟く。

あちこち探しているのに一向にライトを見つけられないことに、レオニスの顔にも心配の色が浮かび始めた。

ゲブラー支部内を方々歩き回り、広間に戻ってキョロキョロと周囲を見回した時。ようやくレオニスの目がライトを捉えた。

それは、ベンチの上でころん、と寝転んでいるライトの姿だった。広間側に背を向けていたので、レオニスもすぐには気づけなかったようだ。

レオニスがベンチに近づきライトの顔を覗き込むと、ライトはすっかり眠っていた。

ライトはまるでいつもの布団の中にいるかのようにすやすやと寝ており、口の端からは少しだけ涎が垂れている。

ふにゃふにゃとした寝顔は年相応の可愛らしさに満ち溢れていた。

生まれて初めての泊まりがけの遠征を無事終えて、すっかり気が緩んだのだろう。

それに、平地での片道三時間フルダッシュマラソンに、シュマルリ山脈の登り下りは体力的にもかなりキツかったはずだ。

普段はライトの年不相応な賢さと言動に、いつも驚かされてばかりのレオニス。

だがこうしてぐっすりと寝入るライトの寝顔は、どこにでもいる普通の少年少女と何ら変わらない。

年相応に愛らしいライトの寝顔を見ながら、レオニスの顔も自然と綻ぶ。

そんなレオニスの横から、クレンがひょい、と顔を覗かせた。

「あらぁ。ライト君、寝てしまったんですかぁ?」

「ああ。遠征を終えて気が抜けちまったんだろうな」

「こんなところで寝たら、風邪をひいてしまいますよぅ」

「大丈夫、俺がこのまま連れて帰る」

レオニスはそう言うと、ライトの身体を持ち上げて抱っこした。

完全に寝ているライトは力が抜けきっていて、全く起きる気配もなくレオニスに身体を預けている。

レオニスの肩に頬を埋め、むにゃむにゃ……と寝言とも寝息ともつかぬ小声を漏らすライト。レオニスの深紅のロングジャケットの肩の辺りがライトの涎まみれになりそうだが、レオニスがそれを気にする様子は一切ない。

ライトがラグーン学園に通うようになってから、レオニスがライトを抱っこする機会はすっかり減った。

久しぶりに抱っこしたライトの身体は、レオニスの感覚からすればまだまだ軽いものだ。それでも以前に比べたら、少し重たくなったかな、とも思う。

いずれにしても、我が子の成長を喜ぶ父親のような感覚である。

レオニスがライトの背中をポンポン、と優しく叩いてやる。

そんなレオニスの姿を見たクレンが、微笑みながらレオニスに語りかける。

「うふふ……こうして見ていると、レオニスさんとライト君って本当の親子のようですねぇー」

「そうか? 俺、こんな大きな子供がいる父親のように見えるか?」

「んー、もちろん年齢的に見れば兄弟という方が相応しいでしょうけど。兄弟であり、親子であり、家族である。そんな感じ、ですかねぇ?」

まるで親子のようだ、とクレンに言われたレオニス。

レオニスは言わずと知れた独身だが、ライトの父親のようだと言われても別に悪い気はしない。

兄弟であり、親子であり、家族。クレンが言った言葉はまさしく正解であり、レオニスが求めて止まないものだ。

幼少の頃から天涯孤独の身で、家族愛に飢えていたレオニス。

そんなレオニスが、図らずも若くして手に入れた家族―――それがライトだった。

本当なら、グランがレミとともに築いていくはずだった温かな家庭。

廃都の魔城の反乱により、あっけなくその未来は壊され潰えた。

これ以上失わないために、奴等に奪われないために。壊された欠片を自分は必死に拾い掻き集めただけに過ぎない、ということはレオニス自身も承知している。

兄姉と慕った者達が遺していった、一粒の希望。

掛け替えのない希望をその腕に大事に抱えつつ、レオニスはラグナロッツァに帰っていった。