軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第446話 『天翔るビコルヌ』の信念

ラグナロッツァ唯一の孤児院にて、冒険者としての初仕事を無事終えたラウル。

バッカニア達『天翔るビコルヌ』のメンバーとともに、冒険者ギルド総本部で依頼完了の手続きに窓口に向かう。

夕方でそこそこ混雑している窓口を見回すと、クレナの窓口の列が若干少なめに見えるのでそこに並ぶことにした一同。

しばらく待って、ようやくラウル達の番になった。

まずは四人の代表として、バッカニアが一歩前に出る。

孤児院を出た直後は、各種ダメージにより壮絶にヘロヘロだったバッカニア。ギルド総本部に向かう道中で完全回復したようだ。何とも頼もしいタフガイである。

「よッ、クレナさん。今日もお仕事ご苦労さん」

「あらまぁ、バッカニアさんじゃないですか。お久しぶりですぅ、いつラグナロッツァにお戻りになられたんですか?」

「昨日の晩戻ってきたばかりなんだ」

「そうでしたかぁ。スパイキーさんにヨーキャさんも、皆さんお元気そうで何よりですぅ」

「おう、俺達もまたクレナさんに会えて嬉しいぜ!」

「クレナさんは、本当にラグナロッツァの癒やしの天使ですヨねェ……クフフ」

バッカニア達の顔を見たクレナ、パァッ!と明るい笑顔になる。

三人のパーティー『天翔るビコルヌ』はラグナロッツァを拠点としているので、クレナとは顔馴染みで付き合いも長いのだ。

クレナの温かい出迎えに、三人とも嬉しそうに笑う。

「皆さん、一ヶ月ほど前に『一日も早く黄金級と白銀級に上がるために、全国津々浦々武者修行の旅に出る!』と言ってお出かけになられたんでしたっけ。皆さん武者修行の成果は出ておられますか?」

「ン……ま、まぁな……またすぐに修行の旅に出るかもしれんが……」

「そうなんですか? 昨日帰ってきたばかりなのに、もう修行再開だなんて……皆さん、階級を上げるために本当に頑張っておられるんですねぇ」

バッカニアの言葉は若干歯切れが悪いが、クレナは気づくことなく額面通りに受け取って感心することしきりだ。

だがその『全国津々浦々武者修行の旅』とは、実はバッカニアがレオニスと顔を合わせないためにラグナロッツァを飛び出るための言い訳だったりする。

もちろん本当に武者修行もそれなりにしてはいただろうが、それでも旅の目的の内訳としては五分五分といったところか。

今目の前で感服しているクレナには、間違っても聞かせられない話である。

「ま、まぁそれは置いといてだな。今日は一件依頼を受けてきたんだ。依頼主からのサインももらってあるから、依頼達成の認定を頼む」

「分かりました。では依頼書の確認をさせていただきますね。……おや? 今日は珍しく外部の人を入れて四人で受けられたんですね。……って、ラウルさん?」

バッカニアは依頼達成の承認を得るために、クレナに依頼書や四人全員の冒険者カードを渡した。

順次それらに目を通していくクレナ、『天翔るビコルヌ』の三人以外にも依頼を受けた者がいることに気づく。

しかもその者の名がラウルであることに、さらに驚いている。

「え、ラウルさんも皆さんといっしょに行ったんですか?」

「ああ、ラウルの兄ちゃんもいるぞ。……って、どこだ?」

「ン? 呼んだか?」

自分の名が聞こえてきたことで、スパイキーの後ろからヒョイ、と顔を出すラウル。

スパイキーの巨体に完全に隠れてて、窓口側からは見えなかったようだ。

「ラウルさんは、冒険者登録してこれが初めてのお仕事ですよねぇ。実際に依頼を受けてみて、どうでしたか?」

「バッカニア達のおかげで、とても良い経験ができたと思う」

「そうですか、それは良かったですぅ」

ラウルとの会話を交わしながら、依頼主のサインの確認や書類に判子を押すなどテキパキと仕事をこなしていくクレナ。

さすがは才媛と名高いクレア十二姉妹の一人である。

「こちらは少額依頼ですので、この場で報酬をお支払いいたします。少々お待ちくださいね」

クレナは一旦離席し、依頼書とともに奥の事務室へと向かう。

さほど間を置かずして戻ってきたクレナ。今回の四人のリーダーであるバッカニアに向かって、大銅貨四枚と中銅貨八枚、小銅貨二十枚が乗せられたトレイを差し出した。

「こちらが今回の依頼報酬です。四人で平等に分けられるように細かくしておきました。どうぞお受け取りください」

「ありがとう、確かに受け取った」

「こちらこそ、いつも『天翔るビコルヌ』の皆さんには助けていただいてます。本当にありがとうございますぅ」

バッカニアは一人75Gになるよう、大銅貨一枚と中銅貨二枚、小銅貨五枚を他の三人に分配していく。

一人一人に報酬を分けていくバッカニアに向けて、クレナが深々と頭を下げる。

「いやいや、ああいった依頼を受けるのも冒険者の務めだ。俺達は当然のことをしているだけさ」

「いいえ、『天翔るビコルヌ』の皆さんはその当然のことをいつも率先して受けてくださいます。これはなかなかできないことだと私も思いますし、職員一同本当に感謝しておりますぅ」

クレナがここまで畏まって頭を下げるのには、訳がある。

今回の孤児院のような依頼、低報酬で手間ばかりかかりそうなものはどうしても忌避されてしまうのだ。

例えば今日の依頼だって、バッカニア達だけでやっても一人あたりの日当100G。そこにラウルも加わったから一人75Gという、とんでもない激安価格だ。

75Gなんて、このサイサクス世界でも晩飯一回分に満たないだろう。

そんな中で、バッカニア率いる『天翔るビコルヌ』はそうした不人気な依頼でも積極的に引き受けてくれる、数少ない貴重なパーティーだった。

「俺達の住む街だからな。俺達が良くしていかないで、誰が良くしてくれるんだ?」

「バッカニアの兄貴の、そういう 侠気(おとこぎ) 溢れるところが良いんだよなぁ。本当に尊敬するぜ!」

「うん、ボクも本当にバッカ兄を心から尊敬してますヨ……ウフフ」

「お前らさぁ……いっつもそう言って俺を持ち上げる割には、肝心なところで見放したりするよね……」

情に篤いバッカニアを、スパイキーもヨーキャも挙って褒め称える。

だがバッカニアの方は、その言をいまいち信用しきれないようだ。その原因は、言うまでもなく先程の氷蟹を巡る例の件である。

「……さ、報酬も無事受け取ったことだし。ここで解散するか」

「皆お疲れーぃ!」

「今日一日、しっかり働きましたぁ……グフッ」

「じゃ、クレナさん、またな!」

「『天翔るビコルヌ』の皆さん、ラウルさん、お疲れさまでしたぁー」

バッカニアの言葉を機に、受付窓口を離れていく四人。

クレナもまた、入口に向かって歩き出すバッカニア達に小さく手を振りながら見送っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「じゃ、ラウルの兄ちゃんともここでお別れだ。今日一日ご苦労さん!」

「今日は兄ちゃんといっしょに仕事できて楽しかったぜ!」

「ホントホント、お昼ご飯もおやつも超美味しかったですしねェ……キヒヒ」

冒険者ギルド総本部の建物の外に出たラウル達。

入口すぐ横で、バッカニア達がラウルに労いの言葉をかける。

「いや、こちらこそ今日は依頼に誘ってもらえて良かった。いろいろと勉強になった、本当にありがとう」

「よせやい、新人冒険者の面倒を見るのも先輩冒険者の務めってもんだ」

「そうそう、俺達だって新人の頃は先輩からそうしてもらってここまできたしな!」

「特にレオニス君にはね、ボク達もホントにお世話になったヨ……ウン」

ラウルの真面目なお礼の言葉に、バッカニア達は照れ臭そうにする。

自分達がかつて先輩から受けた恩は、自分達の後輩に返す。冒険者の後進育成こそが、冒険者稼業という業界全体への恩返しに繋がる。

それこそが、バッカニア率いる『天翔るビコルヌ』の方針であり、彼らの信念であった。

「しっかしまさか、ラウルの兄ちゃんがあの人の身内だとは夢にも思わなかったがなー」

「ホントにねー……依頼掲示板のところで声をかけた新人冒険者が、レオニス君のお屋敷に務める執事サンだとは誰も思わないよねェ……ハハッ」

「お前ら、言うな、言わんでくれ……これ以上俺に精神的ダメージを与えるんじゃない……」

スパイキーやヨーキャの言葉に、途端に項垂れ萎れるバッカニア。

このままだと再び膝から崩れ落ちてしまいそうだ。

そんなバッカニアの様子に、ラウルが心底心配そうにバッカニアの顔を覗き込む。

「バッカニア、大丈夫か?」

「あまり大丈夫くない、かも、しれん……」

「何ならご主人様には俺から一言言っておこうか?」

「……ホントかッ!?」

数秒後には再び五体投地に至りそうなバッカニアに、ラウルから救いの手が差し伸べられる。その救いの手は、まさしく闇の中に差し込んだ一条の光明のようだ。

ジョブを持たないものすごーく不憫な 人(ラウル) が、今のバッカニアの目には神々しい後光をまとった神使に見える。

ああ、これでレオニスの旦那の氷蟹催促から解放される!と大喜びしかけたバッカニア。

だが次の瞬間、ラウルから信じられない言葉が放たれた。

「ああ、任せとけ。ご主人様には『氷蟹を狩りに行くなら夏にしとけ』としっかり進言しておく」

「……ン? 氷蟹を、狩る?」

「氷の洞窟に行くにしても、夏ならまだ入りやすいからな」

「え、何ナニ、一体何の話?」

「だから、氷蟹のフルコース料理を奢ってもらえん代わりに、ご主人様が皆を引き連れて現地入りして直接氷蟹を狩るって話だろう? うちのご主人様がそう言ってたぞ?」

「!!!!!」

ラウルの言ってることがようやく飲み込めてきたバッカニア。

瞬時に顔面蒼白&目が点になり、思わず横にいるスパイキーやヨーキャの方にガバッ!と顔を向けて彼らの顔を見た。

二人は一瞬『ン?』という顔をした後、ニッコリと笑顔を浮かべる。

巨体モヒカンに顔面蒼白黒ローブのニヨニヨとしたぎこちない笑顔、実に胡散臭さMAXである。

「……あー、うん。もういっそのことさ、現地で氷蟹を狩る方が早ぇんじゃねぇかな?」

「ボクもそう思うヨ……そしたらバッカ兄の借金、一気にチャラになるでしょ……フヒヒ」

「お、お前らってヤツは……」

スパイキー達のつれない言葉に、バッカニアは絶句する。

バッカニアの身体がワナワナと小刻みに震えていたかと思うと、突如天に向かって絶叫しだした。

「うおおおおッ、俺は明日から一人旅に出るぞ!」

「バッカニアの兄貴、今度はどこに行くんだ?」

「うッせー!一人旅だっつってんだろ!裏切り者のお前らはついてくるんじゃねぇ!」

「えー、そんなこと言わずにィー、ボク達いつもいっしょでしょ?……ニヒヒ」

「今度こそ!今度こそ俺は!お前らを置いて!一人旅に出るんだーーーッ!」

そう叫んだバッカニア、全力で大通りを駆け出した。

今度こそ、と言っているあたり、これが『天翔るビコルヌ』のいつものお約束の流れなのだろう。

「おーい、バッカニアの兄貴ー、待ってくれーぃ」

「バッカ兄、今日の晩飯どこで食べるー?……あ、ラウル君、またねぇー、レオニス君にもヨロシク伝えといてねぇー……シュタッ」

「おう、皆も元気でな。また会おう」

涙ながらに全力疾走で走り去るバッカニア。

その後を追うスパイキーに、同じく後を追いかけようとして一旦足を止め、ラウルに向かって律儀に別れの挨拶をするヨーキャ。

別れの時まで何とも騒がしく賑やかな連中である。

ドタバタと走り去る『天翔るビコルヌ』の三人の背を、小さく手を振りながら見送るラウル。

冒険者ギルド総本部の入口に、ラウルは一人ぽつんと取り残された格好になる。

だが、見知った孤児院で冒険者として初めての依頼をこなし、充実した一日を過ごせたことにラウルは満足していた。

「……さ、俺も帰るとするか」

先程バッカニアから手渡された今日の報酬、75G。手のひらに握りしめたままだったその数枚の硬貨を、手のひらを開いてじっと眺めるラウル。

レオニスからもらう給金もラウルが働いて稼ぐお金だが、それとはまた違った感慨深さがある。何せこの75Gは、ラウルが冒険者として初めて稼いだお金だからだ。

100Gにも満たない金額だが、その重みはラウルの心を満たしてくれる。

フッ、と小さな笑みを浮かべた後、今日の日当75Gをズボンのポケットに仕舞う。

両腕を真上に伸ばして背伸びしながら、ラグナロッツァの屋敷に向かって歩いていくラウルだった。