軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第447話 全てを識る者

ライトとレオニスが目覚めの湖に出かけ、ラウルが冒険者として初仕事をこなした日の翌日。

この日は日曜日。ライトとレオニスは午前中にディーノ村、午後にラグナロッツァ孤児院に行く予定だ。

まずは朝のルーティンワークを終え、朝食を食べてから冒険者ギルドディーノ村出張所に移動したライトとレオニス。

二週間ぶりにクレナに会う喜びか、ライトがクレアに元気よく朝の挨拶をする。

「クレアさん、おはようございます!」

「ライト君、おはようございます。……おや、今日はレオニスさんもごいっしょですか?」

「よう、クレア。おはようさん」

冒険者ギルドディーノ村出張所は、相変わらず今日も閑古鳥の聖地である。

人気のないギルドにあって、なおも凛とした佇まいで受付窓口を務めるクレアは本当に受付嬢の鑑だ。

何ならもう【閑古鳥の守護者兼聖女】に認定してもいいかもしれない。

「ライト君はともかく、レオニスさんは本日はどのようなご用件で?」

「今日は鑑定してもらいたい品がいくつかあってな」

「あら、そうなんですか。いくつかってことは、結構な数がおありで?」

「ああ、全部で四つかな」

「分かりました。では奥の部屋でお聞きしましょう。ライト君も気をつけてお出かけしてくださいね」

「ありがとうございます!じゃ、レオ兄ちゃん、また後でねー」

「おう、ライトも気をつけてな」

レオニスの今日の訪問目的がアイテムの持ち込み及びその鑑定と聞き、クレアは奥の部屋に向かうべく席を立ち上がる。

離席中を示す立札を窓口に置きながら、ライトにも優しく声をかけるクレア。

クレアの細やかな心配りに、ライトも元気よく返事をしながら建物の外に出ていく。

ライトを見送ったレオニスとクレアは、徐に奥の部屋に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「して、本日はどのような品をお持ちで?」

応接ソファに対面で座ったクレア、早速レオニスに問うた。

レオニスは空間魔法陣を開き、複数の品々を取り出テーブルの上に置いていく。

まずはライトから預かった謎の回復剤っぽい品三種を出した。

「んーーー……この色はエクスポーションにイノセントポーション、セラフィックエーテル、ですか。それにしては、どれもこれも妙に色が濃いですが……はて、何でこんなに濃い色してるんですかね?」

クレアは眼鏡をクイッ、と上げてさらにそれらの瓶をじっと見つめる。

「ん……どうやらこれらは通常のものよりも濃度がかなり濃いようですね。私の【全てを識る眼】ではそう出ています」

「濃度が濃い? そんなもんがあるのか……ちなみにどのくらい濃いんだ?」

「通常のものと比較して、五倍は濃いようです。というか、こんな珍しいものをどこで入手なさったんです?」

「あー、それはだな……ちといろいろとあってな……」

クレアの出した鑑定結果に、レオニスは驚きつつさらにその詳細を尋ねる。

そしてその詳細も見事言い当てるクレア。

実はクレアのジョブは【全てを識る者】という鑑定士系ジョブで、その中でも最上位に位置する超稀少なジョブなのだ。

その眼識はまさに神の眼の如くで、彼女に見抜けぬアイテムはこの世に存在しない!とまで言わしめるほどだ。

一方、それらのアイテムの出処を聞かれて誤魔化すレオニス。

ライトから聞いたのは『フォルがカタポレンの森で遊んでて拾ってくる品々』という話だった。だがクレアにはまだフォルの存在を明かしていないのだ。

幻獣カーバンクルという幻の生物だけに、その存在を広く知られる訳にはいかない。

もちろんクレアならフォルを紹介してもいいんだが、今日は連れてきてないしな……また今度折を見て紹介するとして、今日のところは誤魔化しとくか。

フォルのことを一から説明するのも手間だし、何より実物のフォルを見せた方が早いからな……

そんなことをレオニスが考えていると、クレアはふぅ、と小さなため息をつきながら徐に口を開いた。

「出処の件はまぁいいでしょう。毒やら爆発物の類いではありませんし、冒険者たるもの飯の種は軽々に明かせないのも分かります」

「すまんな、後日また改めて説明するから今日のところは勘弁してくれ」

「で、こちらの品はどうなさいますか? この品質ですと、特に薬師ギルドが研究用に欲しがって高値で買い取ると思いますが」

自身の鑑定で危険物の類いではないことが分かっているので、クレアも濃縮回復剤の出処を深くは追及しなかった。

そして、これらのアイテムの扱いをどうするか問うクレア。

確かにクレアの言う通り、既存のものより高性能かつ未知の回復剤となれば、回復剤のスペシャリスト集団である薬師ギルドが熱烈に欲しがるだろう。

「そうだな……これは俺が得た物じゃなくて預かり物だから、今すぐには決められんな。できればクレアの方で鑑定書を出してくれるか? それといっしょに後日薬師ギルドに持ち込んでみる」

「分かりました、ではここで一筆書きましょう。書類を持ってきますので、少々お待ちくださいね」

クレアは一旦席を立ち、部屋の隅にある事務机の引き出しから所定の書類と封筒を取り出してその場で何やらスラスラと書き込んでいる。

一通り書き終えた後、書類を折り畳んで封筒に入れて封蝋を施し、席に戻ってきた。

「こちらに私の署名入りの鑑定書を入れてあります。先程の回復剤とともにこれを薬師ギルドに提出すれば、間違いなく高値での買い取りに繋がるでしょう」

「ありがとう、恩に着る。……で、他にも鑑定してもらいたいものがもう一つあるんだが」

濃縮回復剤の鑑定が完了したところで、レオニスにとっての本題を切り出した。

レオニスは空間魔法陣を開き、鑑定書を仕舞いがてら【水の乙女の雫】を取り出してクレアに直接手渡す。

「これなんだがな。先日ひょんなことから手に入れた品だ」

「……ッ!!レオニスさん、こ、これは……」

クレアの手のひらの上に乗せられた【水の乙女の雫】。

宝石すらも霞んでしまうその美しさに、クレアは思わず息を呑む。

「何と……本物の【水の乙女の雫】ですか」

「さすがクレア、皆まで言わずとも分かるか」

「そりゃ分かりますとも」

クレアはその品が何であるか、レオニスが明かす前から看破する。それはクレアのジョブ【全てを識る者】の能力が、如何に高いかを物語っている。

楕円形の眼鏡をクイッ、と上げて位置直しするクレアの、何と理知的なことよ。今日もクレアは『ものすごく出来る女子オーラ』に満ち溢れている。

「これまたとんでもない品を出してきましたね。こんな貴重なもの、どこで入手なさったんですか?」

「目覚めの湖に住む水の女王から直接もらったんだ」

「水の女王から直接もらったって……一体何をどうしたらそういうことになるんです?」

レオニスの話を聞き、訳が分からない、といった表情のクレア。

まぁクレアの気持ちも分からないでもない。各属性の女王と呼ばれるのは世界で一体づつ、各精霊の頂点に立つ者を指すのだから。

会いたいなー、と思ってもそう簡単に会えるような存在ではないし、そう思って本当に会うまでに至れる者など極一部なのだ。

「あー、そういやクレアにはまだ話してなかったな。実はプロステスでな―――」

レオニスは 斯斯然然(かくかくしかじか) これこれこうで、とプロステスの炎の洞窟からの顛末をクレアに話して聞かせた。

水の女王に会いに行ったのも、もとはと言えば炎の女王からの頼まれ事だからである。

「はぁー、プロステスでそんなことが起きていたんですか……」

「ああ。炎の女王を無事助け出すことができて、本当に良かったよ。でもまぁそのおかげで、俺達は引き続き他の女王の安否も確認しなきゃならんことになったがな」

「ですが、廃都の魔城の四帝が他の女王達を侵している可能性は十分に考えられますからね」

「だな。炎の女王の頼みがなくても、結局は誰かが調べなくちゃならん。だったら炎の女王から直接頼まれた俺達がやるさ」

レオニスの話を聞いたクレアは驚きを隠せない。

プロステスといえば、首都ラグナロッツァに比肩する大規模な商業都市だ。アクシーディアにとっても重要な大都市が、その賑わいの裏で密かに存亡の危機を迎えつつあったというのだから、クレアが驚愕するのも無理はなかった。

するとここでクレアがレオニスに問うた。

「ところでレオニスさん。私、気になることが一つあるのですが」

「ン? 何だ?」

「先程から『 俺達(・・) 』と仰ってますが。どなたかとパーティーを組んでの調査なんですか?」

「……ぁ」

クレアの質問に、レオニスの動きがピタリ、と止まる。

「基本単独行動のレオニスさんが誰かと組むなんて、珍しいこともあるもんですねぇ。これはアレですか、夏に雪を降らせる予定なんですね?」

「ぉぃ、ちょっと待て、俺にそんな力はないぞ。つーか、ライトといっしょに洞窟調査してただけだし……ぁ」

クレアからの言われように、思わずレオニスが本当のことをポロリと吐いてしまう。

そしてその事実を知ったクレアが般若顔に変わるまでの時間、約0.1秒。

今にも 射殺(いころ) されそうな鋭い視線と『ドギャガガガズゴゴゴ……』という地の底から沸き上がるようなドス黒いオーラが陽炎のように揺らめき立ち上る。

クレアから発せられるそのあまりにも凄まじい圧に、レオニスは震え上がる。

あー、こりゃいつもの寝言吐き呼ばわりじゃ済まんか? これでもクレアもライトのことを可愛がってくれてるからなぁ、『あんな小さな子を連れて何してんですか!』とか特大の雷が落ちそうだ。

クレアの特大の雷、か……あ、これ、俺終わった?

レオニスがビクビクしながら脳内で走馬灯ラッシュしていると、どういう訳かクレアのドス黒オーラが次第に収まっていく。

スゥー……ハァー……と小さく深呼吸を繰り返すクレア。

ともすれば昂り怒鳴りたくなる気持ちを懸命に抑えようとしているようだ。

そうしてしばらくのクールダウンタイムを経て、ようやくクレアが口を開いた。

「レオニスさん。貴方には言いたいことは山ほどありますが、今日のところは抑えておきましょう」

「お、おう……」

「貴方だって、何の考えも無しにただライト君を伴っている訳ではないでしょうし。危険な場所に赴くにあたり、それを補って余りある対策を万全かつ過剰なまでに整えてるはずです」

「そりゃもちろんだ!俺がろくな準備もせずに、ただの物見遊山でライトを危険な場所に連れ回す訳ねぇだろ!」

クレアの言葉に、レオニスも懸命に言い募る。

そんなレオニスを、クレアは顔に穴が開かんばかりにじーーーっと見つめてくる。

「ライト君は、とっても優しくて思い遣りがあって賢い子ですが―――ああ見えて、レオニスさんに負けないくらい冒険者魂を持ってますからねぇ」

「まぁ、何と言ってもグランさんとレミさんのお子さんですし。根っからの冒険者、生まれつきの冒険者と言っても過言ではないでしょう」

「そこへ来て育ての親がレオニスさん、貴方ですからねぇ……ライト君の探検心を止めることなんて、レオニスさん、もはや貴方にもできませんでしょう」

時折小さなため息を挟みつつ、クレアがライトの性格を淡々と分析していく。

クレアが語るライト像は、どれもこれも正鵠を射ている。

どんなに普段おとなしくて賢い子であろうと、ライトの性質は冒険者そのもの。そもそも生みの親だけでなく、育ての親までもが世に名を馳せる一流の冒険者なのだ。

そう、クレアは芯から理解しているのだ。

レオニスでさえ止められないものが、クレアに止められるはずがない、ということを。

「さすがだな。ライトのことをそこまで理解してるとは」

「ええ、私こう見えて『サイサクス大陸全ギルド受付嬢コンテスト』の殿堂入りしてるんですよ? このくらい理解できて当然です」

「あー、前にその話をライトから聞いたが……それ、ホントか? 本当に実在するコンテストなのか?」

クレアの受付嬢コンテスト殿堂入りの話に、実は懐疑的だったレオニス。

思い切ってその存在の真偽をクレアに尋ねるも、逆にクレアに呆れ果てた顔をされてしまう。

「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです?寝言は寝て言うものですよ? 私の殿堂入りは冒険者ならば知ってて当然というか、知らなきゃモグリの偽冒険者と罵られても文句言えないくらいに有名な話なんですよ?」

「そ、そうなのか……」

「え、もしかして本当に知らないんですか?」

「す、すまん……」

いつもの寝言吐き呼ばわりとともに、偽冒険者の誹りまで受けても仕方ないとまで言われたレオニス。

クレアの受付嬢としての仕事ぶりは本当に有能なことは、レオニスも熟知している。それだけに、そのコンテストは本当に存在していることを知らなかったレオニス、途端に自信無さげにクレアに謝った。

そんなレオニスのしょぼくれ方を見たクレアが、大きくため息をつきながら首を横に振る。

「はぁー……レオニスさん、貴方って人は本当にしょうがない人ですねぇ。よろしい、今から一週間ほどミーティングして冒険者のイロハを私がレオニスさんに叩き込んで差し上げます」

「え、ちょ、待、いや、勘弁して? ていうか、今日は午後にラグナロッツァの孤児院に行く予定なんだ」

「あら、そうなんですか。それは日延べさせる訳にはいきませんね。では後日開催ということにしましょうか」

途中までは良かったものの、結局今日もクレアに寝言吐き呼ばわりされてしまったレオニス。

いつもならがっくりと項垂れるところだが、今日はそこまで落ち込んではいなかった。

それは、クレアが自分と同じくらいにライトのことを理解してくれていることが分かったからだ。

ライトもいろいろと規格外なところのある子だが、そういう子だからこそ理解者は一人でも多い方がいい。

特にライトは将来冒険者になる身だ。冒険者ギルドの看板娘であるクレアが味方でいてくれるなら、これほど心強いことはない。

レオニスはそう思いつつも、ぽつりと呟く。

「……ぃゃ、後日でも勘弁願いたい……」

「ん? 何か仰いましたか?」

「な、何でもない。……あ、そうだ、その【水の乙女の雫】は何に使えるかも全く分からんし貴重な品だから、学術的研究対象品としてギルド提出するわ。然るべき機関に預けて、効果や用途を研究してくれ」

「分かりました。貴重な品の提出、ありがとうございますぅ」

「じゃ、俺忙しいからまた来るわ!今日はありがとうな!」

「はい、また後日ー」

これ以上ここにいたら、本当に冒険者のイロハミーティングをさせられそうだ、と思ったレオニス。

慌てて席を立ち上がり、クレアに【水の乙女の雫】を預けて礼を言いつつそそくさと部屋を出ていく。

逃げるようにして退出していくレオニスの背を、クレアは半ば呆れつつも微笑みながら見送っていた。