軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第444話 冒険者としての初仕事

バッカニアを先頭にして入っていった、かなり老朽化した建物。

中は薄暗く、歩を進めると入口の扉同様ギシギシと軋む音がする。特に巨体のスパイキーは普通に歩くだけで今にも床が抜けそうだ。

四人がそっと歩く中、奥から人が出てくる気配がする。

「あーッ!バッカの兄ちゃんだー!こんにちはー!」

「え? バッカ兄ちゃん? あ、ホントだー!」

「スパイキー君にヨーちゃんも、お久しぶりね!」

奥からドタバタと元気良く出てきたのは、多数の子供だった。

子供達は我先にと来客者達を出迎える。

ここはラグナロッツァ唯一の孤児院。アクシーディア公国生誕祭の折に、レオニス達とともにラウルも訪れたことのある場所だった。

その時に会った子供達が、バッカニア達を見て満面の笑みで取り囲んだ。

「皆元気にしてたかー?」

「「「うん!!」」」

「おーそうか、皆良い子だな!」

「皆お利口さんだねぇ、クフフ」

バッカニアにスパイキー、ヨーキャも子供達の頭をワシャワシャと撫でまくる。

「バッカの兄ちゃん、今日はどこを直しに来てくれたのー?」

「雨漏り修理の依頼書が出てたからな、屋根を直しに来たんだ」

「そうなの、ここ最近小雨でもすぐに漏れてくるの。シスターもとても困っていたわ」

「そうか、じゃあ早速仕事に取り掛からないとな」

「じゃあ俺がシスターを呼んでくる!」

「ヨロシクね……フフッ」

子供達に取り囲まれた三人組、なかなかの人気者である。

そして一番最後に建物に入ってきたラウルを見た子供達が、ふと動きを止めた。

「あの兄ちゃんは……」

「ん? ああ、今日は人手が要りそうだったから新人の冒険者を連れてきたんだ」

「お汁粉の兄ちゃんだー!」

「……ぇ?」

バッカニア達に群がっていた子供達、今度はラウルのところに押し寄せていく。

孤児院の子供達はラウルのことを『美味しいお汁粉を作ってくれたお兄ちゃん』として覚えていたようだ。

「お汁粉のお兄ちゃん、久しぶり!」

「おう、お前達も元気そうだな」

「ねぇねぇ、また美味しいお汁粉作ってよー!」

「作ってやってもいいが、仕事が終わってからな」

「ホントー? やったー!」

子供達がラウルの周りで飛び跳ねて喜ぶ中、全く訳が分からないといった表情のバッカニア達がラウルのもとにきて問うた。

「何、兄ちゃん、この孤児院の知り合いだったのか?」

「俺自身はここには一度しか来たことはないんだが、俺が仕えるご主人様が孤児院の出でな。ここのシスターがご主人様の育ての恩人だそうで、先月のアクシーディア公国生誕祭の時に俺のご主人様達とここに来たんだ」

「へぇー、シスターマイラの育て子か。そりゃ奇遇な縁だなぁ。……って、兄ちゃん、ご主人様がいるのか。兄ちゃんは奴隷、とかじゃねぇよな?」

ラウルの話を聞いたバッカニア、ラウルの『ご主人様』という言葉が気にかかるらしい。確かにラウルの発言だけ聞いていれば、何やら怪しい主従関係がありそうに聞こえなくもない。

そもそもラウルと『天翔るビコルヌ』の三人組は今日知り合ったばかりだ。

まだお互いのことを全く知らないに等しい間柄では、あれこれと勘違いやら意識の齟齬が生まれても致し方ない。

「俺はご主人様に雇われて屋敷で執事してるんだ。もちろん給金ももらってるし、奴隷じゃないぞ?」

「そうだよなぁ。兄ちゃんのその小綺麗な格好とか、どう見ても奴隷じゃねぇもんな。そもそもアクシーディアは奴隷売買禁止国家だし」

「屋敷持ちの雇い主と屋敷で働く執事という関係上、一応外ではご主人様と呼んでるんだがな」

今日のラウルの服装は、市場に出かける時のようなラフな格好だ。

執事服のようにカッチリとしたスタイルではないが、それでも上質なシャツにスッキリとしたパンツスタイルはまるでメンズファッションモデルのようである。

その姿はとても奴隷や貧困層のものとは思えない故に、ラウルが奴隷ではないことはバッカニアにも分かるようだ。

そんな風に四人で雑談をしていると、奥からシスターマイラが子供達とともに出てきた。

「バッカニア、スパイキー、ヨーキャ、いらっしゃい。いつも世話になるね、今日もよろしく頼むよ」

「おう、任せときな!」

「……おや? ラウルさんじゃないか、お久しぶりだね」

「ああ、ご無沙汰して申し訳ない。シスターも元気そうで何よりだ」

マイラはバッカニア達に挨拶した後に、ラウルもいることに気づき声をかけた。

その後キョロキョロと周囲を見回すマイラ。どうやらレオニスの姿を探しているようだ。

「ラウルさん、今日は一人で来たのかい?」

「ああ、実は俺も先日冒険者登録することになってな。今日は冒険者になって初めての仕事なんだ」

「まぁ、そうなのかい!? 初めての仕事にうちの依頼を受けてくれるなんて、嬉しいねぇ!ただ、その報酬が雀の涙ほどしか出せなくて申し訳ないけどねぇ」

「申し訳ないなんてことはないさ。それに、俺が依頼掲示板で悩んでいるところにバッカニア達が声をかけてくれたんだ」

マイラの問いに、ラウル自身も冒険者になったことを話すラウル。

そして、この孤児院の雨漏り修理依頼がラウルの記念すべき冒険者デビューの初仕事と知り、パァッ!と明るい顔になるマイラ。

だが、その報酬額の少なさに引け目を隠せないようだ。

それもそのはず、今回の雨漏り修理依頼の報酬額は300Gなのだ。

しかもこれは一人につき300Gではない。報酬総額が300Gである。これを人数分で頭割りして分配するのだ。

一人分の日当にもならないこの金額では、依頼の引き受け手がなかなかいないのも無理はなかった。

そんなマイラの曇りがちな顔を心配してか、バッカニアが努めて明るい声でマイラに話しかける。

「シスター、とりあえずどの辺りが雨漏りしてるのか教えてくれるか?」

「あ、ああ。雨漏りする場所は三ヶ所あるんだが、酷いところから順に案内するから、見ておくれ」

「承知した。スパイキー、お前は外で土魔法で屋根瓦と焼窯を作れ。瓦はとりあえず五十枚な。スパイキーが作った屋根瓦をヨーキャの風魔法で乾燥、焼成は俺がやる。ヨーキャはスパイキーが屋根瓦を作り上げるまでの間、俺と瓦の除去作業するぞ」

「「アイアイサー」」

「ラウルの兄ちゃんは、子供達があちこち動き回らないように相手してやってくれ。他に頼みたいことがあったらまた声をかける」

「了解」

「シスター、見本として予備の瓦を三枚ほどスパイキーに貸してやってくれ」

「分かったよ」

パーティーリーダーらしく、他の三人に的確な指示をテキパキと出していくバッカニア。

スパイキーは予備の屋根瓦をシスターから預かり、外で作業するために礼拝堂を一旦出る。

ラウルは子供達をまとめて、礼拝堂の奥の方に移動していく。

そしてバッカニアはヨーキャとともに、マイラに案内されて雨漏りしている箇所の状況を見て歩いた。

マイラが案内したのは、礼拝堂の入口側右隅と祭壇左側、シスターや子供達が寝る部屋のある別棟の食堂。この三ヶ所だった。

「この三つだと、緊急性が高いのは食堂か?」

「そうだねぇ。雨漏りの酷さで言うと、礼拝堂の入口付近が一番酷いんだが……食堂は皆が毎日使う場所で、三度の食事も全てそこで食べるからねぇ」

「じゃあまず食堂から直して、その次に礼拝堂入口側、最後に祭壇横、この順番でいこう」

「バッカニア達に任せるから、よろしく頼むね」

「おう、万事このバッカニア様達に任せとけ!」

バッカニアは己の胸を拳でドン!と叩きつつ、ヨーキャと屋根瓦の除去作業に取り掛かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「おーい、そろそろ昼飯の時間だぞー」

中庭で新しい屋根瓦を作っていた三人組に、ラウルが声をかけた。

今はヨーキャが風魔法で瓦の乾燥作業をしているところで、バッカニアとスパイキーは簡易的な焼窯を作成中のようだ。

「おう、もうちょいでこの焼窯が出来上がるから、これが終わったら行くわ」

「腹減ったー!」

「ボクも後でエーテル飲まなくちゃ……グフッ」

孤児院のために懸命に働く三人組。

見た目の胡散臭さに反し、全員とも実に真面目で誠実な性格である。

「今日の昼飯は、俺の指導で子供達がお前達のために作ったものだからな。今皆で食堂で先に食ってて、食い終わったらここに差し入れとして持ってくるって張り切ってたぞ」

「何ッ!? 子供達の手作りご飯だとッ!?」

「バッカニアの兄貴、早く仕上げようぜ!」

「ボクも乾燥頑張ろう、キシシッ」

ラウルの言葉を聞き、さらに張り切るバッカニア達。うおおおおぉぉぉぉッ!と雄叫びを上げながら、作業をガンガン進めていく。

外に差し入れするのは、体格が大きいスパイキーや筋肉質で見た目より体重が重いバッカニアをボロい建物の中で受け入れきれないせいだ。

特にスパイキーなど、礼拝堂に入るだけで床の軋みが酷くなってしまう。

焼窯も瓦の乾燥も一通り出来上がったところで、子供達が四人のために昼ご飯を持ってきた。

外で食べられるように、バスケットに入れられている。

「バッカ兄ちゃん、スパイキー君、ヨーちゃん、お疲れさま!」

「お外で食べられるように、おにぎりとホットドッグにしたよ!」

「飲み物はお茶しかなくてごめんね」

「皆の分のおしぼりあるよ、よく手を拭いてから食べてね!」

子供達は中庭の空いている場所を陣取り、そこに昼食入りのバスケットやお茶用のコップなどを並べて食事の支度をしていく。

おしぼりまで用意して甲斐甲斐しくバッカニア達の世話を焼いている子供達。意外なことに、バッカニア達は子供達にかなり慕われているようだ。

やはり子供達にはその人の本質を見抜く力があるのだろう。

「僕達は食後のお片付けがあるから、一度向こうに戻るね。食べ終わる頃にまた食器を受け取りに来るから、バッカ兄ちゃん達はここでゆっくり食べてね!」

「おう、皆ありがとうな!」

「おおー、俺の拳よりデカいおにぎり!」

「ホットドッグ、いいですねぇー、ボクの大好物ですー……キヒッ」

子供達はバッカニア達用に作ったお昼ご飯の支度を済ませた後、別棟に戻っていった。

彼らが用意してくれた場所に座り、おしぼりで手を丁寧に拭くバッカニア達。

胡座やベタ座りで地面に座った三人組、パシン!と両手を合わせて食事の挨拶をする。

「「「いっただっきまーす!」」」

挨拶をした後、ものすごい勢いで昼食を食べていく。

「うおおおおッ、何だこのおにぎり!とんでもなく美味ぇじゃねーかッ!」

「こんなに美味くて巨大なおにぎりなんて、俺今まで一度も食ったことねぇ……くーッ、幸せぇー!」

「このホットドッグのソーセージ、激ウマなんですけどッ……フゥー」

見た目は一見普通の、何の変哲もないおにぎりやホットドッグ。

だがそれは孤児院の子供達が、大好きなバッカニア達のために心を込めて作った品々だ。

しかもそこにラウル直々の料理指導まで加わっている。美味しくならない訳がないのである。

「……ン? ラウルの兄ちゃんは食わねぇのか?」

「俺は子供達といっしょに昼飯作っている間に軽く済ませたからな」

「そうか、俺達ばかりのんびり食って何だか悪いな」

「そんなことは気にしないでくれ。子供達がお前達のために一生懸命に作った昼飯だ、存分に味わってくれ」

「ありがたいことですヨねぇー……ウマウマ」

子供達の作った昼食がよほど美味しかったのか、あっという間に昼食を平らげたバッカニア達。

お腹を擦りながら実に満足げな顔をしている。

そこにマイラが食後の珈琲を運んできた。

「皆、ご苦労さん。食後の珈琲だよ」

「おお、そりゃありがたい」

「シスター、ご馳走になるぜ!」

「ポーションもいいけど、珈琲の香りもまた 精神(こころ) が癒やされますねぇ……フゥー」

人数分のカップを乗せたお盆を持ち、一人一人に珈琲を配るマイラ。

マイラから渡された温かい珈琲を飲み、一息つくバッカニア達。

木製の使い込まれたカップだが、野外での飲食にはちょうど良い。

野外で日差しを浴びながら飲む珈琲というのも、また乙なものである。

バッカニア達だけでなく、ラウルにも珈琲が振る舞われた。

マイラから受け取った珈琲を静かに飲むラウル。

その珈琲は決して上質なものではない。だがそれが今の孤児院、マイラにできる精一杯のもてなしであることはラウルにもよく分かる。

心の篭ったもてなしは素材の味の優劣をも軽々と超えて、ラウルの心にじんわりと染み入っていった。